こことは同じようで、違う世界。
 ひょんなことからそこを垣間見て以来、思うことがある。

 ……こんな時、ここにいるのが自分じゃなければどうするんだろう、と。





 「、大丈夫か?」
 「あ、うん。平気」

 メルギトス率いる悪魔達が、本格的に戦争の表舞台に出始めて数日。
 鍛錬のためにとメイメイさんに通してもらった無限回廊巡りも、すでにあたし達の日課となりつつあった。
 最初は始めのロレイラルがやっとだったけど、なんとか今日は4番目のサプレスまでは来られた。
 他の所でも思ったけど、本当に不思議な光景。サプレスってこんな風なんだ……

 「無理はするな。マグナ、誰か危険だと判断したらすぐ撤退するぞ」
 「わかってる」
 ネスティの言葉にうなずくマグナ。
 あたしがこの世界に召喚されて間もない頃は注意されてばかりの彼も、最近は色々あったせいか頼れる男の子の顔をよくするようになった。

 だからこそ、最近は不安になる。
 ……あたしは、マグナの役に立てているんだろうか?
 彼の背負っている事情を知ったあのとき、自分の無力さを思い知った。
 ことはあたしの想像以上に、大きくて根っこが深くて。そこへさらに様々なことが加わっていって。
 ただのいち女子高生でしかなかったあたしには、できることなんてほとんどない。

 召喚主の役に立つために呼び出される護衛獣。
 あたしもそうしてマグナに呼ばれた結果ここにいるのに、実際は戦ったことすらない役立たず。
 だけど、いつからだろう。
 あたしは護衛獣だからとかではなく、自分の意思でマグナの力になりたいと思うようになっていた。
 そんなあたしが、マグナのためにできることってなにかある?

 そんな風に、うっかり考え込んでしまったのがまずかったらしい。
 「! !!」
 「え?」
 マグナの声に彼の視線を追えば、いかにも不自然な雨雲があたしの真上にあった。
 それが光った瞬間、あたしは悟った。
 ――間に合わないっ!!

 「!」
 「待て、マグナ!!」
 二つの声が飛んできた瞬間、雷が落ちる。

 「さん!?」
 アメルらしい叫び声を最後に、意識は途切れた。





 風が穏やかに、顔をなでている。
 日差しもあたたかくて、なんだか気持ちよく……
 って、あれ?

 「!?」
 飛び起きると、辺りは一変していた。
 森の中。
 傍にマグナとネスティが倒れているが、他のみんなは見当たらない。

 「マグナ! ネスティ! 起きて!!」
 「う……」
 うめきながら、二人が身を起こす。
 よかった、二人とも大丈夫そうだ。

 「? 大丈夫か?」
 「平気。だけど、みんながいなくて……」
 「ここはメイトルパの階層のようだな。何らかの理由で飛ばされたか?」
 ネスティが首をひねる。
 だとしたら、早く戻ってアメル達と合流しないと。

 「だから、私が悪かったってば!!」
 突然、女の子の声が聞こえてきた。
 他にも何人かいるようだけど、よく聞こえない。
 あたし達の他に、メイメイさんに頼んでここに入っている人達がいるんだろうか?

 「不注意で魅了にかかっちゃったのも、広範囲の召喚術かましちゃったのも、みんな私のせいですよっ!!」
 どうやらヤケになっているらしい女の子の声は、どんどん近づいてくる。
 ちょうどいいから、アメル達を見なかったか訊いてみようかな。
 そう提案しようとマグナ達を振り返ると、二人は変な顔をしていた。
 「この声、どっかで聞いた気がするんだけど……」
 「僕もだ」

 そして、近くの茂みががさがさ動き。
 「反省文でも何でも……っ!?」
 出てきた女の子は、こちらを見るなり硬直した。
 ……何、その幽霊でも見たような反応は?

 「え!?」
 「……なぜ君がここにいるんだ?」
 マグナとネスティも驚いているけど、目の前の女の子ほどじゃない。
 知り合いなの、と聞こうとした時。
 女の子は、ぎこちなく後ろを振り返った。

 「……ネス?」
 「なんだ?」
 答えたのは、傍らにいる青年ではなく。
 でも、確かにネスティの声だった。

 「魅了って、幻覚の後遺症とかあったっけ?」
 「ないとはいえないな。どうした、幻でも見え……っ」
 続いて出てきた二人組みも、女の子同様凍りついた。
 そして、あたし達も。

 ……無理もない。
 突然目の前に、自分や連れそっくりの人間が出てきたら、誰だって驚く。
 つまり、後から来た二人連れはマグナとネスティに瓜二つだったわけで。

 『な、な、な、なんだこれぇっ!?』
 まったく同じ声で、同じ絶叫が響き渡った。





 「あの時のパラレルワールド? ここが?」
 「そういうことになるな」
 いち早く立ち直ったもうひとりのネスティが、苦い顔で言う。

 あたしは一回、ひょんなことから平行世界のリィンバウムに行った事がある。
 女の子はそれと入れ替わりであたし達の世界に飛ばされたそうで。
 名前を、と言った。

 彼女の話によれば、もうひとりのマグナとネスティは彼女の世界(つまり、あたしから見れば並行世界)の存在で。
 さっき無限回廊のサプレスで雷に打たれた話をしたら、おそらくそれで次元が歪んだんじゃないかということで。
 あたし達があの時飛ばされたパラレルワールドに、また来てしまったらしい。
 しかも今度は、マグナとネスティごと。

 「まさか、また会うなんて」
 困ったように、この世界のマグナ。
 ……ああややこしい。
 こうなったら頭で考える時は、パラレルワールドの頭を取ってPマグナとPネスティと呼ぶことにしよう。本人達には悪いけど。

 「あたしも思ってなかったわよ、正直……」
 疲れたような口調になってしまったのは許してほしい。

 「それで、どうやったら僕達は元の世界に戻れるんだ? 前と状況が違うから、同じ手は使えないだろうな」
 ネスティがいつもの調子を取り戻して言う。
 はうーん、と考えた。
 「それなんだよねぇ……今回は入れ替わりに飛ばされたわけじゃないし。またメイメイさんに聞きに行く?」
 「またあそこに戻るのか……」
 うんざりした顔のPネスティ。どうやら彼は、メイメイさんが苦手らしい。
 でも、確かに他に当てがないし……



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選択は締め切りました。。
選択によって出てくる人物も変わります。


2009.5.18