笑っていてくれれば ただそれだけで


『悪くはない』と 思えて来るんだ





†Smail for me・・・†






―――――喧嘩した。

「もう!知らないっ!!」

「勝手にしろ!」



・・・最悪。









「まったく・・・この世界の何処に、クリスマスに喧嘩する馬鹿がいるよ?」

「此処にいます、此処に」

キッパリ言ってやると、流石のフォルテも気まずそうに私から目をそらした。
ギブミモ邸の応接室。
クリスマス・イヴだっていうのに。世の中は楽しげな空気で満ちあふれているっていうのに。
この一帯にだけ、妙にアンニュイな空気が流れていた。

「で、喧嘩の原因は?」

フォルテが、うんざりした様子で尋ねてくる。今日、リューグと喧嘩してしまった私は、
ギブミモ邸の応接室で暇そうにしていたフォルテをとっつかまえて愚痴を聞いて貰おうと思っていたのだ。
私は、『よくぞ聞いてくれた!』と言わんばかりの勢いで身を乗り出した。

「喧嘩の原因?それはね・・・」

私のシリアスな表情に、ただごとじゃないと思ったのか、つられたようにフォルテも身を乗り出してきた。
ほんの一瞬だけ、部屋に重苦しい沈黙が流れる。
私は、話し始めるのに十分な雰囲気だなと察すると、ゆっくり、口を開いた。

「喧嘩の原因、それは・・・『サンタさんは居るか居ないか』って事」

ズゴッ。

思いっきり脱力したらしいフォルテが、机に頭突きをお見舞いして机をちょっと凹ませている。
やがて彼は額にちょっと血を滲ませながらゆっくり顔を上げ、私を睨んだ。

「んなしょーもない理由で喧嘩したのか、お前等・・・」

「しょーもないって何よ!?しょーもなくないわよ!大ありよ!
だって、リューグが『サンタは実在する』って言うのよ?!信じられない!!」

リューグが肯定派なのかよっ!」

「でも私は知ってるのよ!サンタは実在しないって事!だって、私見たんだもの、この眼で。
そう。アレは六歳の時の夜・・・サンタさんの存在を信じていた私は、サンタさんを一目見ようと
夜中まで起きていたわ。そして、プレゼントを持って現れた、その人は・・・!」

「何だよ」

「熊さんのパジャマを着ていたの。」

「・・・」

「翌日起きたら、熊さんのパジャマを着た父が、フツーに新聞読んでいたわ。
あの時知ったの。サンタは実在しないんだ、って」

「それはそれで同情しちまいそうな話ではあるが・・・」

「でもリューグったら、『俺がまだガキの頃に両親は死んじまったが、それでも毎年プレゼントが
枕元にあったんだから、サンタは居るんだ』って言って聞かないのよ?!」

「・・・想像できねぇ」

「そりゃ確かに、『愛おしげにリューグを見つめながら枕元にプレゼントを置くアグラ爺さんの図』を
信じたくない気持ちは分かるけど、だからといって現実から逃げちゃいけないと思うの!」

「お前、今さりげ失礼なこと言ってるぞ」

「サンタは居ないのよ!コレは永久不変の事実なの!!!」

・・・・・。











「フォルテも薄情よね〜。ちょっとぐらい愚痴聞いてくれたって良いじゃない。
女ってのは愚痴ってストレス発散する生き物なのよ?ったく・・・」

ギブミモ邸の廊下を、一人歩く。
さっきまで応接室でフォルテに愚痴を聞いて貰っていたのだけれど、いきなり、フォルテに

「あーなんかもう聞いてるだけでも馬鹿馬鹿しくなってくるからお前ちょっとどっか行って来い」

という台詞と共に応接室を追い出されてしまったのだ。
なーんか、気にくわない。

「あーあ・・・せっかくのクリスマス・イヴだっていうのに、やること無いなんて寂しいなぁ。
早くクリスマスパーティ始まらないかなぁ?」

今日の夜。ギブミモ邸では身内だけのパーティーが開かれる予定となっている。
アメル&レシィが作ったごちそうを囲んで、みんなでプレゼント交換をしたりする予定なのだ。
それは楽しみなんだけど、それまでの時間がどーにも持て余し気味だ。
―――――と、一人でぶつぶつ言っていた私を呼び止める声があった。



振り返る。と、そこにはやけに楽しそうなアメルの姿が。

「アメル?どうかした?」

尋ねると、彼女は何か紙切れを手にこちらに近づいてきた。

「コレ」

「コレ・・・って?ツリー?コレがどうかしたの?」

アメルが持っていた紙切れは、雑誌の切り抜きっぽい感じの写真だった。
それには、綺麗に飾り付けられた大きなツリーが映っている。
彼女の意図を察することが出来ず、困ったようにアメルを見ると、彼女はちょっと背伸びして私に耳打ちした。

「コレ、毎年導きの庭園にあるそうですよ」

「このツリーが?」

「そうなんです。で、このツリーを一緒に見た二人は、永遠に結ばれる・・・ってジンクスがあるとか」

「はぁ・・・」

生返事を返す。
と、アメルは私から身体を離すと、天使の微笑みを浮かべ、言い切った。

「リューグと行って来たらどうですか?」

―――――なっ///!!」

急に、顔に熱が上がるのが自覚できた。
きっと今の私は、ゆでタコみたいに真っ赤になっているに違いない。
ったく、いきなり何を言い出すのよ、アメルは・・・。
一方アメルは、私のリアクションに満足しているようだった。
「じゃ、健闘を祈ってます」とだけ言い残し、応接室の方へと歩き出す。
私はその背中を見送りながら、呆然としていた。

『リューグと行って来たらどうですか?』

―――――何で、彼女は知って居るんだろう。私がリューグのことが好きだって事を。
そりゃ確かに、私たちは顔を合わせれば喧嘩ばかり。でも、決して仲が悪いわけではなくて。
むしろ良い方だと自負している。
他愛のない言い合いは、お互いがお互いを本音をぶつけられる相手だと思っているから。
だから―――――・・・

「・・・・・誘って、みようかな・・・・」

私の呟きを聞いている人は居なかった。
―――――私の胸には、一つの決意があったのだけれど。











「リューグ!入るよ〜?」

ノックをしてからドアを開けると、暇そうにベッドに横になっていたリューグが、

「何か用か、?」

と聞いてきた。
私はそんな彼に近づいて、彼の腕を引っ張る。

「何すんだよ」

「ツリー見に行こう、ツリー!」

―――――は?」

私の、唐突すぎると言えば唐突すぎる申し出に、リューグは眼を丸くした。
そんな彼に、さっきアメルに手渡された紙切れを見せる。

「何だコレ?」

「ツリー」

「見りゃ分かる」

「ね、コレさ、毎年導きの庭園に飾られてるんだって。一緒に見に行こうよっ!」

そう言いながら再度彼の腕を引っ張ると、彼はそれを鬱陶しそうに振り払って、

「嫌だ」

と一言言った。

「何でよ〜」

「行きてぇなら一人で行きゃいいじゃねーか」

ダメなんだ。それじゃあ意味がないんだ。まったく、リューグは分かってない。
―――――決めていることがあるんだ。
クリスマスだからこそ。聖夜だからこそ。
さっき聞いたジンクスがあるからこそ―――――言おうと決めたことが。

「え〜、良いじゃんっ。付き合ってよ。ちょっとだけだから、ね?」

「誰か他のヤツ誘えよ。俺は行かねぇ」

「ヤダ!リューグと行きたいの!てかアンタに言いたいことがあるの!だから付き合ってよ・・・」

「言いたいこと?」

「・・・」

どうして、こううまくいかないんだろう?
言えば、一緒に来てくれるかも知れない。何故私が、リューグとこのツリーを見たがっているのか。
そして―――――言いたいこととは、何なのか。
でも今それを此処で言ってしまったら、それこそ意味がない。
意味が、ない―――――・・・

「・・・ね、行こう。ちょっとだけだから。すぐ戻るから・・・だから・・・ダメ?」

精一杯の『お願い』だった。子供が、父親にすがりつくような、そんな懇願。
でも、リューグは聞き入れてくれなかった。

「俺は行かねぇ。勝手に行けよ。何で俺がお前とツリーなんか見に行かなくちゃならねぇんだよ・・・」

それどころか―――――

「・・・めんどくせぇ」

―――――こう、言ったのだ。
この瞬間、なんかもー、どうでも良いやと思えてきた。
めんどくさいんだ。

―――――何よ、それ・・・」

呟く。リューグに聞こえるか聞こえないか、ぎりぎりの声で。
リューグの視線が、私をとらえた。

「めんどくさいって、何よ・・・」

「・・・?」

リューグの声音が、私を気遣うようなモノに変わる。私の態度が急変したことに、多少なりとも驚いて居るんだろう。
でも、もうそんなことはどうでも良かった。

「めんどくさいって何よ・・・。私はただ、リューグと一緒に行きたかっただけなのに・・・
そんな言い方する事無いじゃないっ!!」

最初は呟くように。そして最後は思い切り怒鳴って。
私の剣幕に、少しなりとも驚いた様子のリューグは、しどろもどろになりながら言った。

「な・・・何キレてんだよ」

「キレるよっ!何よ『めんどくさい』って!いくらアンタでも酷いよっ!!」

「・・・何って・・・めんどくせぇからめんどくせぇって言ったまでだろうが!」

思い切りキレた私につられてしまったのか、リューグの声音もだんだんキツくなる。
元々短気な彼は、人にいきなりキレられると自分もキレてしまう習性がある。

「だからその言い方が酷いって言ってるの!どーしてアンタはそうやって
人の神経逆なでするような事しか言えないの?!ばっかじゃないの?!」

「『人の神経逆なで』って、テメェが勝手にキレてるだけだろーが!意味わかんねぇよ!」

泥沼。
普段の他愛ない言い合いとは、訳が違う。こうなっちゃうと、二人ともどんどんムキになって行くだけだ。
分かってる。分かってるけど・・・・

「アンタが悪いんでしょ?!サイテー!!」

「テメェに最低呼ばわりされる覚えなんてねぇな!」

「何よっ!」

「んだよっ!!」

そうだ。もうコレはいつもの『言い合い』のレベルじゃない。言い合いなんて可愛らしくて簡単なモノじゃない。
本当に―――――・・・


―――――喧嘩した。

「もう!知らない!」

「勝手にしろ!」


・・・最悪。









「ダメだよ、リューグ」

「五月蠅ぇな」

怒鳴り声と、遠ざかっていく足音と。
気になってきてみれば、案の定というか・・・とにかく予想していた結果に
ため息を付いて、アメルは眼前の少年を睨んだ。

「いくら自分から誘おうと思ってたところを先越されちゃったからって・・・泣かしちゃだめだよ」

「・・・」

沈黙。どうやら図星らしい。
ゆっくり、アメルは窓際に近づいた。小さな窓から見えるのは、十二月の曇り空。
雪になりそうだ。

「リューグと同じ気持ちなんだよ、も。リューグの事が大事だから、リューグを誘ったんだよ。
・・・リューグがを誘おうと思ったのと同じように、ね」

「テメェに何が分かるんだよ」

「分かるよ・・・少しはね」

「・・・」

「ムキになっちゃうのも、照れ隠しも。大概にしないとに嫌われちゃうよ?」

「・・・」

しばらく、沈黙。
静かな部屋で、アメルはリューグをじっと見つめた。そして・・・

「・・・行ってらっしゃい。ツリーの所に居ると思うよ」

上着を持って立ち上がったリューグを見て、アメルは優しく微笑んだ。










・・・馬鹿は私だ。
ツリーを見上げながら、私はため息を付いた。
急に降り始めた雪が、私の頭に、肩に、膝に。舞い降りては溶けていく。

「はぁ・・・」

大きなため息一つ。白くなって空に舞い上がる。
導きの庭園にあるベンチに座って、ツリーを見上げながら、私はボーっとしていた。
ついリューグの部屋を飛び出して、此処まで来てしまった。寒いし虚しいし、屋敷に戻ろうとも
思ったのだが、どうにも歩く気力さえ沸いてこないため、此処で時間をつぶすことにしたんだ。
庭園には、手をつないで、幸せそうに歩いているカップルが何組か。
こんな風に一人でベンチに座ってボーっとしている輩なんて、私以外に、居ない。

「ばっかみたい・・・」

クリスマスだっていうのに、何やってんだか。
哀しくなって、私は目を閉じた。
―――――めんどくさい・・・か。
ふられちゃったと考えて良いのかな、アレは?ていうか、そうとしか聞こえないよね。
告白する前に、ふられちゃったなんて、笑うにも笑えない。

(本当は、此処で告白しちゃおうかなとか考えてたのに・・・)

アメルからジンクスを聞いて、それなら此処で思い切って言ってしまおうと考えた。
それで、リューグを誘った。
それなのに・・・

(めんどくさいって一蹴されちゃうとはね・・・なかなか面白いじゃない)

面白いけど・・・笑わない。笑えない。
周りにいる幸せそうなカップルは、一人でボーっとしている私など眼に入っていないようだ。
幸せな彼らには、沈んでる私の存在など見えてない。
ありがたい事じゃないの。コレなら一目を気にせず悲しむことが出来るってもんよ。
自分に対する戒めをそっと解いて。熱い滴が、私の頬を伝った。




このまま、雪と一緒に溶けてしまおう。それが、一番良いに違いない―――――・・・




―――――しかし。



声が、聞こえた。

「泣くな」

それと同時に、大きな手が、私の頭にそっと添えられる。

「泣くんじゃねぇ。凍るぞ」

「・・・水は0度にならないと凍らないもん」

「でも、泣くな」

「・・・」

伏せていた顔を、そっと上げた。涙で滲んだ視界に、リューグの顔が映る。
多分・・・今の私と同じくらい切なそうな表情の、リューグが。
私の頭を、優しく撫でてくれていた。

「泣くな」

「ヤダ」

「泣くなって」

「いーやーだっ」

「何でだよ?」

「・・・失恋の痛みをかみしめてるとこだから」

答えると、リューグが怪訝そうな声をあげた。

「失恋?」

「うん。失恋。言う前に玉砕。笑いたければ笑ってどーぞ」

「・・・」

リューグは、笑わなかった。何も言わなかった。何も言わずに、ただ・・・

「馬鹿か、テメェは」

私をギュッと抱きしめた。

「・・・何よ。嫌いなんじゃないの、私のこと?」

「めんどくせぇとは言ったが、嫌いだといった覚えはねぇよ」

「・・・何、それ」

―――――悪かったよ」

唐突に、耳元で囁かれた言葉。それは、謝罪の言葉だった。びっくりして、リューグの顔を見上げる。
彼は、決まり悪そうに私を見つめていた。

「その・・・あんな言い方しちまって。別に本当にめんどくさかったとかそーいう訳じゃねぇんだ。
その・・・」

「・・・何?」

「・・・」

困ったように目をそらす彼。私は黙って、彼の言葉を待った。
やがて、

「・・・俺から誘おうと思ってたのに、お前に先越されて・・・ムキになっちまったんだよ」

彼はしっかり私の目を見つめると、そう、小さい声で言った。

「・・・バーカ」

「テメェにだけは言われたくねぇな」

彼の背に手を回して抱きしめると、彼は息苦しいほどの力で抱きしめてくれて。

「・・・ね、リューグ」

「何だ?」

「じゃあ私さ、期待しちゃって良いのかな?その・・・リューグ、私の事・・・」

続きを言うことは出来なかった。
暖かい感触に唇をふさがれて、私は静かに目を閉じた。
―――――冷たい雪が、頬を撫でた。










「お前は、笑ってろ」

帰り道、リューグはそう言った。

「お前の泣き顔なんか見たくないからな。どんなに泣いても、最後には笑ってりゃ良いんだよ」

「何、それ」

「言葉の通りだ」

「・・・」

彼を見上げて、そっと、微笑んだ。
ぎこちなく、でも嬉しそうに、リューグが微笑み返してくれた。

嬉しかった。







どんなことがあっても どんなことになっても

笑っていればいい

泣きたいときには泣いてもいい

起こりたいときには起こってもいい

でも 最後には笑っていて欲しい



笑っていてくれれば ただそれだけで

『悪くはない』と 思えて来るんだ。





Merry Christmas!!





Fin・・・


名前変換が少ないような気がするのは、私だけでしょうか・・・?(殴)


はい!クリスマスフリードリーム第3段、リューグです。
『リューグって言ったら喧嘩よね!』とアホなノリで書き始めたのは良いんですが、
・・・どうよ、コレ(聞くな)。
どーしてもリューグって上手く書けないんです、澪。どうしてでしょう?
今回のリューグも、偽物度当社比20%UP!みたいな?
あ、だからって石ぶつけないで下さい痛い痛い。

―――――ところで、本当にリューグがサンタさん信じてたらどうしようとか悩む今日この頃。

此処までお付き合いいただき、有り難うございました!!
Merry Christmas!!


2002,12,18 水音 澪


強奪犯のコメント(笑)
水音さんの配布クリスマスドリーム、リューグ編です。
サンタ信じてるのか、リューグ…
ケンカしまくって、でも最後には収まるところがらしいです。
掲載許可ありがとうございました!



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