降りしきる雪も


暖かく変わる






†White snow†







朝起きた。
目が覚めた。
私は勢い良く着替えると、勢い良く部屋を出た。
そして、広間に勢い良く駆け込んで。
そこにいるみんなに、勢い良く挨拶する。
『お早う』って朝の挨拶じゃなくて―――――


「メリークリスマスっ!!!」











「メリークリスマス、

最初に挨拶を返してくれたのはアメルだった。続いて、

「メリークリスマスっ!!」

トリスが私に抱きつきながら、元気にそう言う。彼女の足下ではレシィが、にっこり微笑んで

さん、メリークリスマスです」

と言ってくれていた。
メリークリスマス。クリスマスの挨拶。
今日は、クリスマス・イヴ。
リィンバウムには神は居ない。私のもと居た世界では、キリストの生誕を祝うこのイベント。
リィンバウムにはどういう意味を持って存在して居るんだろう?
聞きたいような気もするけれど、私はコレを誰にも聞いていない。
だって、関係ないじゃない?
クリスマスはクリスマス。それだけで楽しいもの。

「おはようございます、さん」

―――――と。
そんなことを考えているとき、背後から声が掛かった。
このまじめな物言い。そしてこの声。
となれば、該当する人物は一人しか居ない。

「お早う、ロッカ」

私は振り向いて、彼に微笑みかけた。彼も、私を見て優しい笑みを浮かべていて。
私はそんな彼に、もう一つ、挨拶の言葉を投げかける。

「そして、メリクリっ」

すると、ロッカは怪訝そうに首を傾げた。

「・・・メリクリ?」

「あ、メリークリスマスの略よ、略。ほら、今日クリスマス・イヴでしょ?」

慌てて訂正した私を見て、「ああ・・・」と納得したような声を出すロッカ。
おいおい・・・まさか忘れてたとか言わないよね?

「もうそんな時期なんですね・・・ここのところ忙しくて、すっかり忘れてましたよ」

・・・来た。
呆れた私は、これ見よがしにため息を付いて見せた。そんな私を見て、取り繕うように苦笑いするロッカ。

「忘れてた、じゃないわよ・・・」

苦笑いのロッカを睨め付けて、私は言った。

「その分だと、今日のクリスマスパーティーのプレゼント、用意してないでしょ?」

「クリスマスパーティー・・・?」

今日、此処ギブミモ邸ではクリスマスパーティーが開かれることになっている。
まぁパーティーって言っても、私たち身内(?)だけでやるささやかなモノなんだけどね。
そこで、みんなでプレゼントを持ち合って、プレゼント交換をする予定なのだ。
その節を彼に説明すると、ロッカは「しまった」と言わんばかりに顔を顰めて。

「急いで用意しないといけないですね。・・・どこか良いお店知りませんか?」

そう、私に尋ねてきた。
―――――OK。分かった。このさんに任せなさい。
多分、プレゼントとか買うのに適した雑貨屋さんやら何やら、色々なお店なら、
このゼラム中で私が一番知っていると思うのよね。
だてに町中徘徊してませんよ?暇さえあれば、そこいらウロウロしてて、
屋台のお兄さんに顔と名前覚えられちゃうくらいだもんね。
私は胸を張って、ロッカに言い切った。

「知ってる。私、付き合ってあげよっか」

「本当ですか?有り難うございます!」

ロッカは、素直に喜んでくれた。














そんなこんなで、私たちは街に繰り出した。
本当はパーティーの準備手伝わなきゃいけなかったんだけどね。
アメルに、ロッカがまだプレゼント買ってないってこと言ったら、

「ロッカ、そういう事にはリューグ並に疎いですから。見ててあげて下さい」

そう、背中を押されてしまって。
それで、堂々と出かけることになったわけ。
私たちが着いたのは、ゼラムの商店街の、結構若者達でにぎわっている所にある雑貨屋さん。
此処は、ホントに色々なモノが揃ってるんだ。アクセサリーや、可愛い小物はもちろんのこと。
男の人へのプレゼントにも出来そうな実用性ある小物やインテリアなんかも置いてあって。
プレゼント選びには・・・特に、プレゼント交換とかして、男女どちらの手にプレゼントが渡るか
分からないような場合のプレゼント選びには最適なお店だ。

「わ・・・すごいですね」

お店にはいると、ロッカが感嘆の声を挙げる。
まるでそれが私自身を誉められたような気がして、私は誇らしげに言った。

「此処なら、アメルみたいな女の子に当たっても、マグナみたいな男の人に当たっても、
どっちでもOKなプレゼントが選べると思うんだけど」

「はい」

「それじゃ、ゆっくり選びなよ。私もテキトーにお店のなか見てるから」

「わかりました。終わったら呼びますね」

そうロッカと言葉を交わして。お店の中では別行動を取ることになった。
もうこのお店は何度も見てるんだけど、ちょくちょく新商品が入ったりしてるから、何度見ても飽きない。

(ロッカは一体、どんなプレゼントを選ぶんだろ・・・)

そんなことを考えながら、私はお店の中を見て回った。
日用品からインテリアの所を見て、そしてそのままステーショナリーの棚まで来て。
そして、アクセサリー売場の所まで来た。
ふと、指輪が展示してある棚の前で、足を止める。前に来たときには無かった指輪が、いくつか並べてあった。
その中の一つに、目が奪われる。
それは凄く繊細な造りをしていた。とても細くて、そして、
小さな、本当に小さな雪の結晶を象ったチャームが付いていて。

「可愛い・・・」

手にとって、思わず呟いた。
―――――その時だった。

さん」

「?!」

突然背後から声をかけられて、私は反射的に振り向いた。
そこには、いくつか商品を手に持った、ロッカの姿が。

「あ、すみません。驚かせてしまいましたか?」

「あ、ううん。大丈夫。それよりどうしたの、ロッカ?」

私は取り繕うように笑うと、彼にそう尋ねた。すると、何か困ったことでもあったのか、眉根を寄せる彼。
彼は手に持った商品を私に見せると、気まずそうに言った。

「あの・・・選ぶって言ったのは良いんですけど・・・受け取る人が誰だか分からないと、
何選んだらいいか分からなくて」

「あ、それなら一緒に選んであげようか?」

「助かります。すみません、ホント」

「いいのいいの。さ、行こう?」

私は手に持っていた指輪を、棚に戻した。すると、ロッカが不思議そうに私を見やって。

「それ・・・買わないんですか?」

「あ、コレ?ただ見てただけよ。可愛いなって思って」

「気に入ったんですか?」

「うん、まぁ。―――――さ、プレゼントさっさと選んじゃおう!」

私は彼の背をぐいぐい押して、店の奥まで連れていった。
















「じゃ、外で待ってるね」

プレゼントも選び終わって。ロッカが会計を済ませている間、私は外で待つことにした。
―――――プレゼントを選び終わったとき、ロッカは凄く私に感謝して居るみたいだった。
何度も何度もお礼を言って、

「流石さん。すごくセンスいいですね」

そう誉めてくれた。うん。女として、センスを誉めて貰うのは嬉しいことだわ。
そんなことを考えながら、ロッカを待つ。
12月の風は切るように寒くて。しっかり着込んでないと凍えてしまいそう。
でも厚着嫌いの私としては、あまり着込みたくないんだよね。着太りして、動きがロボットみたいになっちゃうんだもん。

「お待たせしました。戻りましょう、さん」

ロッカが、お店から出てきてそう言った。頷いて、彼と並んで歩き出す。
私たちは、帰り道、他愛のない話をしながら歩いた。
私がもとの世界に居たとき、クリスマスをどんな風に過ごしたのか、とか、レルムの村で雪が降ったとき、
屋根から雪を下ろそうとして、雪に埋もれてしまって大変だったこととか。
いっぱい話して、いっぱい笑って。
―――――そして、私たちは導きの庭園にたどり着いた。

「・・・あ」

そこでまず目に付いたのは、巨大なツリーだった。

「ツリーだ」

「本当だ・・・大きいですね」

「うん。ホント大きい・・・」

すっごい大きなツリー。色々飾り付けもしてあって。そう言えば、夜になるとライトアップするとか、
ネスティ辺りが言ってたっけ。そんなことを思い出して、私はロッカに言った。

「このツリー、夜になるとライトアップするらしいよ」

「そうなんですか?」

「見てみたいなぁ・・・」

「そうですね」

そして、しばらく二人黙って、ただツリーを見上げる。
―――――どれだけの時間、そうしていたのだろう。正確にはわからないけど、
きっと結構長い時間ツリーを見上げていたと思う。
やがて私たちは、どちらからともなく視線を戻すと、

「・・・戻ろうか」

そう言って、ギブミモ邸に戻った。














クリスマスパーティーはこれ以上ない、って程盛り上がった。
特に、プレゼント交換はみんなスゴイ張り切っちゃってて。
私の所に回ってきたのは、トリスのプレゼント。可愛らしいカップとソーサーのセットだった。
私のプレゼントはユエルに当たったみたい。彼女、スゴイ喜んでくれて。
一緒に選んだロッカのプレゼントも好評だった。当たった人は、ミニス。
彼女が、「すごい素敵っ!」と歓声を上げたとき、私とロッカは顔を見合わせて、小さくガッツポーズを作った。
楽しい、夜だった。




―――――そして。





さん」

パーティーの後かたづけもだいぶ済んで、みんなが自分の部屋へ戻りかけた頃。
ロッカに声をかけられた私は、

「ちょっと・・・良いですか?」

そう言った彼に連れられて、導きの庭園まで連れ出されていた。
私の目の前には、何だか緊張気味のロッカ。
私の真横には、大きなツリー。ライトアップされて、幻想的だ。

「何、ロッカ。どうしたの?」

私は、胸元に抱えた包みを抱きしめながら、言った。
この包みは、ロッカに呼び出されたとき、これはチャンスだ。と思って持ってきたモノだ。
渡そうと思っていたんだけど、なかなか機会が無くて渡せなかったモノ。
まぁ私の考えなどお構いなしに、ロッカはさっきから黙りこくっていたんだけど。
―――――やがて。
彼は何も言わず、私に小さな包みを差し出してきた。

「これ・・・?」

「受け取って、ください・・・」

「・・・」

それは、手のひらに乗るほどの小さな包み。可愛らしくラッピングが施されている。

「私、に?」

尋ねると、ロッカはぎこちなく頷いて。

「開けても良い?」

また尋ねると、またもぎこちなく頷く。私は首を傾げながら、丁寧に、包みを開けていった。
―――――そして。

「あ・・・っ」

手のひらに乗っているモノを見て、私は声をあげた。
それは、指輪だった。
それは凄く繊細な造りをしていた。
とても細くて、そして、小さな、本当に小さな雪の結晶を象ったチャームが付いていた。
―――――それは、あのお店で私が見ていた、あの指輪だった。

さんに・・・どうしても贈り物がしたくて。お店で、さんその指輪じっと見ていたから・・・」

言い訳のように、ロッカが呟く。そんな彼を見て、指輪を見て。
私は、微笑んだ。

「どうして・・・私たちって、考えること似てるんだろ?」

「え・・・?」

不思議そうな顔をした彼に、持っていた包みを押しつけた。
―――――渡そうと思っていたモノ。渡す機会が見つけられなくて、
で、呼び出されたのをチャンスと思って持ってきたモノ。
彼は不思議そうに私と包みを交互に見比べて。さっきの私と同じ言葉を口にする。

「僕に・・・ですか?」

「うん」

「開けても良いですか?」

「うん」

私が頷くと、彼は丁寧に包みを開けて。そして。

「あ・・・」

入っていたモノを見て、声を挙げる。
それは、マフラーだった。一見して手編みだと分かる、マフラー。
―――――彼に贈ろうと思って、編んでいたんだ。どうしても、プレゼント交換とは別に、
彼だけに贈り物がしたくて。彼のために編んでいたマフラー。
渡すのが照れくさくて、パーティーの時渡せないで居たけど。やっと渡せた。
ロッカはしばらく私を凝視していたんだけど、やがてフッと微笑むと、

「有り難うございます」

「ありがとう、ロッカ」

私と同時に、お礼を言った。

「つけても良いですか?」

「もちろん!して貰うために編んだんだから。私も、指輪、はめても良い?」

「ええ、もちろん。はめて貰うために贈ったんですから」

そう言って、お互いに笑って。
私たちはそれぞれ、相手から貰ったモノを身につけた。
ロッカがマフラーを嬉しそうにまくのを見ながら、私は指輪を右手の薬指につけようとする。
―――――と、その時だった。

「あ、さん」

突然ロッカが声を挙げると同時に、指輪を持った方の私の腕を掴んだ。

「?」

突然のことでびっくりして顔を上げると、何やらホッとしたような表情のロッカと目があって。
彼は私の手から指輪を取り上げると、言った。

「ダメですよ、この指じゃ」

「へ?」

ダメ・・・って、何がダメなんだろう。唖然としている私をよそに、彼は私の左手を取って、
その薬指に、何のためらいもなく指輪をはめて。

「これで、OKです」

―――――・・・ねぇ、ロッカ」

私は、呆れてしまって。まじまじと彼の顔を見据えた。
無邪気な表情の彼に、尋ねる。

「これ・・・意味、分かってる?」

するとロッカは、無邪気な表情を崩さずに

「ええ」

と頷いて。
―――――脱力。
項垂れた私を見て、ロッカは優しく微笑んだ。

「良いじゃないですか。右手じゃ、他の人に取られてしまいますから。
絶対に・・・誰にも、渡しませんよ」

「だからって・・・」

こう言うことをためらいもなくするかね。
私が彼を睨め付けるように見上げると、何処までも優しい微笑みが私を包んでくれた。
―――――まぁ、悪くはないけど。
暗いから、顔が赤いのはきっとばれなかったと思う。
きっと。











雪が、ふってきた。

「あ、雪・・・」

「ホワイトクリスマスだね」

ツリーのライトの光が、雪に反射して、夜だって言うのにキラキラまぶしい。
私は目を細めながら、じっとその光景に見入っていたんだけど。

「・・・寒い」

やがて寒さに負けて、自分の腕で自分の身体を抱きしめるようにしてうめいた。
そりゃ、コートは着てるけどさ。12月だし。夜中だし。寒いに決まってる。
もともと厚着はしない主義なんですよ。着太りするのが嫌いだから。

「寒いんですか、さん?」

ロッカが、私の隣でそう尋ねてきた。見ると、彼は全然寒さなど感じていないかのような、平然とした表情をしている。
若いわねぇ。そんなことを考えながら、私は震えを何とか抑えて頷いた。
―――――と、突然、大きくて暖かいモノが私を包む。

「え・・・」

ロッカに抱きしめられていると気付くのに、結構時間が掛かった。
唖然としている私を見下ろして、ロッカは楽しそうに微笑んで。
首に巻いていた、私が贈ったマフラーをほどき始める。

「そんな薄着だから寒いんですよ」

「だって・・・厚着嫌いだし」

「今は冬ですよ?せめてマフラーぐらい・・・」

「ロッカの分編んでたら、自分の編む時間無かったの」

そんな会話をしているウチに、ロッカはまいていたマフラーをすっかりほどき終えて。
そして、それを大きく広げると―――――・・・

「あ・・・」

「コレなら、寒くないでしょう?」

私とロッカ、二人の首に、ふわりと巻き付けた。
顔がカッと熱くなる。よもや、自分がこんなバカップルっぽい事をすることになろうとは、思いも寄らない。

「ちょっ・・・いくらなんでも公衆の面前で・・・恥ずかしくない?」

「公衆の面前って言っても、夜ですし人居ないですし」

「だからって・・・」

二人で一緒にマフラーまいてるなんて、端から見たらただのノロケたカップルにしか見えない。
恥ずかしいんだけど・・・

「メリークリスマス・・・

あったかい感触に唇をふさがれて。
―――――まぁ、いいか。なーんて思ってしまった。








降りしきる雪も

暖かく変わる

君の笑顔と

優しい 君のぬくもりで

一緒に居れたら それだけで


こんなにも暖かいんだ―――――・・・







Merry Christmas!!





Fin・・・



はい!クリスマス用配布夢第4段、ロッカ兄です!
もうニセモノ路線まっしぐら!おまけに、展示期間が二十五日までなのにまだ後2作品残ってます。
いい加減にしろ澪、みたいな感じです。

今回はプレゼントネタですね。
ありきたりですが、結構萌えかなーなんて思って書いてみました。
律儀なロッカの事、みんなが喜ぶようなプレゼントを選ぼうと、頭を悩ませるんでしょうね。
実際プレゼント交換、なんて事になったら。
しかし―――――左手薬指は如何なモノかと(←書いた張本人が何を言う)。

まぁこんな駄作ですが、此処までお付き合いいただき有り難うございました!
Merry Christmas!


2002,12,23 水音 澪


強奪犯のコメント(笑)
水音さんの配布クリスマスドリーム、ロッカ編です。
プレゼント交換ですよ奥さん!(誰だ)
そして赤面モノな行動をさらっとやってくれるロッカに乾杯。
掲載許可ありがとうございました!


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