共に在る幸せを。





――will come†






その日、ギブミモ邸は朝から賑やかだった。

っ!これ、向こうに運んで下さい!」

「あ、わ、分かった!」

「わっ、ちょっと・・・フォルテさん?!つまみ食いは・・・」

「おやめなさいって!ただでさえ忙しいのに!」

「グホッ?!」

「あーもうフォルテ、そんなとこに転がってないでよ!邪魔っ!」

・・・俺は、もう、ダメだ・・・あとは・・・任せた、ぞ」

「良いから起きてっ!裏拳の威力に伏したフリしてサボろうとしないでっ!」

「なーんだ、バレちまったか・・・」

「って二人とも!ふざけてないで手伝ってよっ!こっち、私とユエルだけじゃ飾り付け届かないんだもの」

「そーだよっ。手伝ってよっ!」

「あー・・・ちょっと静かにして、ちびっ子」

「な・・っ!ちびっ子って言わないでよねっ!もう子供じゃないのよっ?!」

「〜っ!お願いですからっ、こっち運ぶの手伝って下さいっ!あたしとレシィ君だけじゃ、
料理作るのとお皿運ぶの、両方出来ませんよぉ!」

「あ、アメルごめんっ!」

―――――と、まぁ。こんな具合に。戦争中。
今日は、クリスマス・イヴ。リィンバウムにもクリスマスって言うイベントはあるらしく、今朝からギブミモ邸では
今夜のクリスマスパーティーに向けての準備で大忙しだった。
―――――まぁ、そりゃね。クリスマスパーティーは楽しみだし、準備も楽しいって言ったら楽しいんだけど・・・
でも、此処まで忙しいってのも、ちょっと考え物かも知れない。

「ねぇねぇ、ルヴァイド知らない?」

そして私はと言うと、そんな戦争の中を、ルヴァイド探して駆け回っていた。
彼にちょっと手伝って欲しいことがあったんだ。ツリーの飾り付け。
ギブミモ邸のツリーは無駄に大きいから、てっぺんの星が私じゃ届かなくて。
で、長身の彼にお願いしようと思ったんだけど、肝心の彼の姿が何処にもない。
つーことで、私は彼を捜していた。
途中、オーナメントやらなにやら、装飾品が入った箱を抱えたイオスを見かけて。彼に尋ねる。
すると彼は、フツーに二階を指さして、こういった。

「ルヴァイド様なら、さっき自室にいらしたが?」

「自室ぅ!?なにアイツ、サボってるわけ?!」

「流石にそれは・・・ケーキ屋が一緒だったぞ」

「ケーキ屋って・・・パッフェル?二人してサボり?」

「さぁ。僕に聞くな」

―――――なんにしろ、こんな忙しい中自室でゆったりしているなんて、許せない。
私は憮然とした面もちで二階に上がると、彼の部屋の前まで来て、部屋を荒々しくノックした。

「ルヴァイド、居る?」

すると、中から低い声が聞こえてくる。

「誰だ?」

「私。 。ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど・・・入るよ」

まだ入室のOKもらってないんだけどね。忙しい空気にせかされた私は、勝手にそう言うと、ドアノブに手をかけた。
―――――と、中から焦燥した声が聞こえてくる。

「あ、 さんっ?まだ入っちゃダメです―――――

パッフェルの、声。
私は、パッフェルの制止も聞かず、勢い良くドアを開け放った。
そりゃ、もうドアが吹っ飛ぶんじゃないかってぐらいの勢いでね。
そして、部屋の真ん中に立っているルヴァイドを見つけた。

「・・・」

「・・・」

「あーあ、入っちゃいましたか。後で見せて驚かそうと思ったんですが・・・」

残念そうなんだか楽しそうなんだかよく分からないパッフェルの声を聞きながら。
私は、ルヴァイドを凝視していた。

サンタクロースの衣装に身を包んだ、彼を。










「あーっはっはっはっはっ!な、何そのカッコ・・・あはっ、あははははっ!!」

「笑いすぎだ・・・」

「だって、だって・・・あーだめ笑い止まんないっ!あはははははっ!」

失礼だとは思ったけど、私はルヴァイドを指さして笑い続けた。
もうこのまま笑い死ぬんじゃないかってぐらい、笑った。
私の目の前には、何故かサンタコスをしている苦々しい表情のルヴァイドと、そんな私たちを楽しげに見つめているパッフェルと。
とにかく、私は笑い続ける。

「ていうか!ハマり過ぎ!チョー似合ってる!これ最高だよ、写真に収めて引き延ばして額に入れて飾りたいくらいにっ!」

・・・」

「ちょっとさ、そのカッコで『メリークリスマス!』って言ってみてよっ。サンタ笑いしながら言ってくれるとなお良し!」

「おい・・・」

「ていうかさ、みんなに見せたい!ユエルとか、きっと本気で信じちゃうよ!ちょっと今呼んでくる―――――

「・・・少し黙ってろ」

「むぎゅっ?!」

―――――いい加減、私の大騒ぎっぷりにうんざりしたんだろうか。
ルヴァイドは、部屋を出ていこうとした私の首根っこを、
まるで猫でも扱うかのように引っ張ると、大きな手で私の口を塞いだ。
彼は何も言えなくなった私を見下ろして、それから開いた手でかぶっていたサンタ帽子を取り、パッフェルに言う。

「どうしても、俺がやらなくてはいけないのか?」

すると、すまなそうに頷くパッフェル。

「はい〜。バイトの男の子が休んでしまって、サンタ役をやってくれる人が居ないんですよぉ。
お願いします、ルヴァイドさん。このとおりですぅ」

「・・・」

何か考え込んでいる様子のルヴァイド。私は、彼とパッフェルを交互に見やってから、言った。

「もがもが。」

「・・・」

私の声(?)に気付いたらしいルヴァイドは、視線を私に移して。
怪訝な表情を見せる。

「・・・『もがもが』?」

―――――いやいやいや。アンタが口塞いでる所為で、まともに喋れないんだってば。
そんな怪訝な表情しないでよ。
私はそんな意味を込めてルヴァイドを睨むと、私の口を塞いでいる彼の手を指さした。

「もがもが。」

「・・・」

ようやく、自分が私の口を塞いでいることに気付いたのか(ていうか忘れてたんかい、アンタ)、
ルヴァイドがそっと私から手を離す。
解放された私は大きく深呼吸をしてから、ルヴァイドに向き直った。

「・・・ところで、どうしてルヴァイドはこんなカッコしてるわけ?」

私の質問に、ルヴァイドは顔を顰めてそっぽを向いた。まるで、その話題には触れるなと言いたげに。
彼の代わりに私の問いに答えてくれたのは、パッフェルだった。

「今日、うちのケーキ屋でクリスマスセールやるんですけどぉ・・・」

「あ、そっか。今日はケーキ屋大忙しな日だもんね」

「そーなんですけどねぇ・・・今日、サンタクロースの格好して客寄せするはずだったアルバイトの子が、
風邪でお休みしちゃったんですよぉ。ですから―――――・・・」

「ルヴァイドに代役頼んだってわけ?」

「そーなんですよぉ。お願いです、ルヴァイドさぁん・・・」

パッフェル、冗談抜きで困ってるみたいだ。
いつものほほんとした顔が、今回ばかりは困惑の表情を浮かべていた。
一方、ルヴァイドはと言えば神妙な表情で押し黙ったままで。

「ルヴァイド、手伝ってあげたら?」

「・・・ ・・・他人事だと思ってないか?」

「めっちゃ思ってるけど」

「・・・」

「あ、ゴメン。つい本音が。―――――ていうのは冗談で。パッフェルマジで困ってるしさ。
こっちのパーティーの準備の事だったら、私からアメルに事情説明してあげるからさ」

「だが・・・」

「手伝ってあげてよ、パッフェルの方だって大変なんだからさ。人助けだと思って」

さん・・・」

私がルヴァイドの説得にあたると、ルヴァイドは苦々しい表情で私を見て、パッフェルはそれとは対照的に
聖母様でも見るような表情で私を見て。
そして私はと言えば。
サンタさん姿が妙に似合うルヴァイドを見て笑ってしまわないよう微妙に視線をずらしながら、
いい人ぶった口調でルヴァイドを説き伏せようとした(誠意無し)。

「・・・ね、ルヴァイド?」

・・・」

「手伝ってあげて?私からもお願いする」

「・・・」

彼を見上げ、小首を傾げて。彼に言う。元々ルヴァイドは、優しいから、こういうお願いの仕方をすれば、
絶対にOKして貰える自信はあった。ルヴァイドは、しばし躊躇うような表情で私を見つめていたんだけど・・・
やがて、パッフェルを見て、こう言う。

「・・・わかった」

「ほ、本当ですかっ!?あ、ありがとうございますぅぅ!」

喜びのあまり飛び上がるパッフェル。ちょっと、その制服でジャンプするのは危ないと思うけど。
そんなことを考えながら、私は喜々として、げんなりしているルヴァイドを見た。
うん。案の定、私の策に見事乗せられたわね、ルヴァイド。

(これで、サンタさん姿のルヴァイドをもうちょっと拝んでられるわvv)(←最低。)

別に、パッフェルの手伝いを推したのはパッフェルに同情したとかそういう人間らしい理由からではなくて。
ただ単に、この、ギャグとしか思えない格好をしているルヴァイドをもっと拝んでいたかっただけっていう
腐女子的な理由からだ。もちろん、ルヴァイドもパッフェルもそのことに気付いていないけど。
―――――と、その時だった。

「大丈夫ですよぉ、ルヴァイドさん。そんなげんなりしなくたって。
一人じゃ流石に恥ずかしいでしょうから・・・」

パッフェルが、やけに楽しそうに持っていたバスケットを漁りだした。やがて彼女は、そこから、
もう一着サンタさんの衣装を取り出して。
信じられないことを、言った。

―――――ですから、 さんにも手伝っていただきますから。」

「・・・は?」

一瞬、彼女が何を言っているのか分からなかった。
でも、彼女が広げたサンタさんの衣装を見ると、それはちゃんと女性用のワンピースの形になっていて。
嫌な予感が、徐々に私を焦らせる。

「あのー。パッフェル?」

「はい?なんですかぁ?」

「それ・・・私も着るの?」

「はい、当然ですっ」

当然なのか。
絶句した私を見て、ルヴァイドが、小さく微笑んだ。
それは、優しげな微笑みなんてモノでは、決してなく―――――・・・

「『人助けだと思って』・・・当然手伝うんだろ、 ?」

―――――悪魔の、微笑みだった。











「ケーキはいかがですかぁ?クリスマスケーキを販売しておりまーす!是非お立ち寄りくださぁい」

やる気なく、客寄せの台詞を吐きながら。
私は、隣に立つ人物を見やって、ため息を付いた。

「なんだって、こんな事しなきゃならないのよ・・・これなら、ギブミモ邸でパーティーの準備の戦争に
巻き込まれてたほうがマシだったわ」

すると、その人物は睨むように私を見下ろして、言う。

「誰かが下手なことを言って、俺を陥れようとしなければ、こんな事せずにすんだかもしれんな」

「陥れるって、人聞きの悪い。私はただルヴァイドに、社会的貢献のチャンスをあげただけよ」

「なら、自分もしっかり貢献しろ」

「う・・・」

此処は、パッフェルのバイトしているケーキ屋の前。
私とルヴァイドは、サンタさんの格好をして、客寄せをさせられていた。
・・・まぁ、このサンタさんの衣装は、そんなに嫌じゃないのよ。
裾という裾に白いふわふわの付いた、赤いワンピース。可愛らしいから、別に良いんだけど。
でも―――――嫌なのは、周りの視線。
道行くおばちゃんやら子供やらが、微笑ましげな、暖かい視線をこちらに送ってくるわけよ。
『まぁ。サンタさんだわ。可愛らしいわね』
―――――その平和ボケしきった視線が、何だか癪に障る。
私は、道行く人に客寄せ用の穏やかな微笑みを見せながらも、憮然とした口調で、言った。

「あー・・・よもや、自分がクリスマスにケーキ販売する立場になろうとは、
元居た世界では想像もしてなかったわね」

「・・・俺もまさか、こんな格好をすることになろうとはな」

ルヴァイドも、相変わらずのサンタさんスタイルで、私と一緒に客寄せをしている。
ただ、私と違うところと言ったら、彼は、来店した子供に配るために風船を大量に持っていると言うこと。
―――――普段の彼を知っている私からしたら、これはもう、漫才としか思えない。

「そのカッコ、イオスが見たら泣くよ」

「恐らくな」

そんな会話を交わしつつも、私たちは、さりげ律儀に客寄せをしていた。
―――――根が、真面目なんですよ。









一体、どれくらいの時間、客寄せをしていたのか。
外に突っ立ってるから、時間の感覚なんか無かったんだけど。結構な時間、客寄せしていたと思う。
低い位置にあった太陽が、一度すごく高い位置まで昇って。そして、少しまた低い位置に姿を移した時。

「俺達は、一体いつまで客寄せをすればいいんだ?」

ルヴァイドにそう尋ねられて、私は力無くかぶりを振った。

「わかんない。パッフェルに聞いて?」

「聞けるのなら聞きたいのだがな。さっきから前方をあんなすごいスピードで駆け回られて、聞けると思うか?」

―――――・・・」

流石に、私も、聞けそうにないな、と思った。
クリスマスと言うことで、基本的にバイトに出ている人は少ないみたい。みんな休みを取っちゃって。
だから、必然的に、パッフェルさんは大忙しという状態になっていた。
さっきから、大きなバスケットを抱えて、私たちの前を猛スピードで駆け抜けている。
注文が殺到して居るんだろう。走る彼女の表情は、真剣そのもの。これじゃあ、呼び止めるなんて出来やしない。

「まぁ、でもクリスマスパーティーには間に合うと思うよ?流石に・・・」

「だといいがな」

「・・・」

私は、ぼやくルヴァイドに苦笑して見せてから、声を張り上げた。

「ケーキいかがですかぁ?クリスマスケーキ販売中でーす!!是非―――――

お立ち寄り下さい。
そう、言おうとした。しかし。
突然、何か重たい衝撃が私の足・・・てか腰を直撃し、

「わっ!?」

その衝撃に耐えきれなかった私は、思わず後方によろけていた。
倒れる!―――――そう、思ったんだけど。

「・・・っ、あれ?」

「大丈夫か?」

「あ、ルヴァイド・・・・・」

私は倒れなかった。
ルヴァイドが受け止めてくれたため、倒れずにすんだんだ。流石軍人さん、素晴らしい反射神経。
持っている風船も離さずに受け止めてくれたからね。
私はルヴァイドにお礼を言ってから立ち上がって、そして、首を傾げた。

「ありがと、ルヴァイド。・・・でも、今の、なんだったの?」

すると、私を見ていたルヴァイドが、「下・・・」と良いながら、私の足下を指さしてきて。
つられて、私の視線も、足下に向く。
・・・そこには、

「いたいぃぃ・・・」

地面に座り込んで、半泣き状態になっている、小さな女の子が居た。

「この子・・・」

「勢い良く走ってきて、お前にぶつかったんだ」

「そっかぁ・・・」

女の子は、すごい幼かった。多分、見た感じはハサハより幼い。
彼女はしりもちを付いた際にすりむいたらしい手のひらを押さえて、目にいっぱい涙を溜めていた。
痛くて泣き出したいのを我慢しているのだろう。
私は彼女の側にしゃがみ込むと、優しく声をかけた。

「大丈夫?」

「う・・・」

本人、頷いているつもりなのだろうか。少女はぎこちなく首を動かして。
必死に涙をこらえている姿が痛々しい。私はポケットから紫のサモナイト石を取り出すと、女の子の頭を撫でた。

「ちょっと待っててね?今、お姉ちゃんが治してあげるから」

そう言ってから、呪文を詠唱する。
私の手の中のサモナイト石が、淡く光って。そして、その光の中から、小さなリプシーが姿を表す。
リプシーは、女の子の周りをふわふわ飛ぶと、やがて、彼女の手のひらの擦り傷の上で、クルクル回転した。
リプシーから漏れる光の粉が、彼女の傷口に降りかかり、少しずつ傷を消していく。

―――――はい、完了っ。もう大丈夫だよ?」

私がそう言ってサモナイト石をしまったときには、少女の手のひらの傷は既に完治していた。
私は立ち上がって、それから少女を立たせようと、彼女に手をさしのべる。

「ほら、立って?」

「・・・」

しかし、女の子は立とうとはしなかった。ただ呆然と、涙を溜めた目で、私を見つめるだけで。
・・・どうしたんだろう。転んだショックから、まだ抜け出せないんだろうか。
首を傾げた私が、再度しゃがみ込んで、彼女の頭を撫でようとした―――――その時だった。

「・・・え?」

大きな、赤い何かが、私より早く女の子の前にしゃがみ込むと―――――風船を一個、彼女に差し出したのだった。

「大丈夫か?」

「・・・ふう、せん・・・?」

それは、ルヴァイドだった。
ルヴァイドは、いつになく優しい表情で女の子を見やって、そして、その手に、そっと風船の紐を握らせた。

「くれるの・・・?」

小さく、女の子が呟く。ルヴァイドはそれにゆっくりと頷いて、

「ああ。―――――ほら、立て」

女の子を抱っこするようにして立たせると、彼女の頭を、その大きな手でくしゃくしゃっと撫でた。
そして、言う。

「走るときは、前に人が居ないかしっかり気をつけろ。さもないと、またこうやって転ぶことになるぞ。分かったな?」

女の子は、しばらくルヴァイドを惚けたように見上げていたんだけれど、やがて―――――

「・・・うんっ!ありがとう、サンタさんっ!」

可愛らしい、花が咲いたような笑顔を見せると、踵を返して、人混みの中に消えていった。
彼女の持った風船が、人混みの隙間からチラリと見えて、しかしやがてそれも完全に見えなくなって。
私はと言えば、しばらくルヴァイドを凝視していたんだけれど。

「・・・なんだ?」

私の視線に気付いたルヴァイドにそう聞かれて、

「流石だね・・・『サンタさん』?」

そう、微笑んだ。
ルヴァイドは相変わらず表情らしい表情は見せなかったけれど、でも・・・
何だか、微笑んでいるような気がした。
私には。









私たちが解放されたのは、それから2時間後。すっかり夕方になった頃だった。
こりゃ、急いで戻らないと、向こうのパーティーの準備も大詰めだろう。そう思った私たちは、
すごいスピードで着替えて、そしてすごいスピードで屋敷に戻ろうとして。
―――――そこで、パッフェルに呼び止められた。

「これ、ささやかですけど今日のお礼ですぅ。みなさんで召し上がって下さい」

そう言って、何やら馬鹿みたいに大きい袋を手渡してくれた。
中身は―――――スゴイ量の、お菓子。
こりゃ、お菓子の買い出しに行く必要、無いんじゃないかな。私はそんなことを考えながら、ルヴァイドに言った。

「これ持って帰ったら、みんなきっと喜ぶね。みんなへのプレゼントになるかな?」

「ああ。」

ルヴァイドも、そう言ってくれた。
袋は、結構な大きさがあるのでルヴァイドが持ってくれることになって。
私たちは足早に屋敷に向かう。
―――――そして。導きの庭園を突っ切っていた、その時。

「あ!」

「なんだ?」

あることに気付いて、私は足を止めた。
導きの庭園の、噴水前。大きなツリーの下で。

「そーいえば・・・」

呟くと、私につられて足を止めたルヴァイドは、怪訝そうに私を見つめてきて。
私は、彼をしっかり見返して、告げる。

「みんなへのプレゼントはそれで良いとしてさぁ・・・」

「?」

「ルヴァイドへのプレゼント、どうしようっ」

この言葉に、流石のルヴァイドも驚いたようだった。唖然とした表情で私を見つめてから、
やがて、緩慢に口を開く。

「・・・俺、か?」

「うん。ホントは今日、みんなのプレゼント買いに行く予定だったんだよね。でも、ほら、手伝い頼まれちゃって
行けなくなっちゃったし・・・どうしよ〜」

私は、結構真剣に考えていた。本当なら、みんなの分のプレゼントを買って、それぞれに手渡しするつもりだったのに。
それに―――――特にルヴァイドには、
ちゃんと、プレゼントを渡しながら、伝えたいことを伝えるつもりでいたのに―――――・・・
しかし。

「別に気にするな。さぁ、急いで戻るぞ」

ルヴァイドは、あまりそう言うことを気にする人じゃ無いみたいだった。
呆れたように呟いて、そして、先を急ごうとする。
でも、気にしないわけ無いじゃない。大切な人に、クリスマスに贈り物したいって思うのは、普通のことでしょ?
だから、私は食い下がった。

「でも・・・っ、だって、ルヴァイドにプレゼント渡したいし・・・」

最初は大きな声で。でも、語尾に近づくにつれ、呟くように。
そんなことを言った私を、ルヴァイドはまじまじと凝視していたんだけれど、やがて―――――

「・・・それなら・・・」

そう言って、私の目の前に立った。

「・・・ルヴァイド?」

彼は背が高いから、思い切り見上げないと、彼の表情は伺えない。私は首をそらせて、彼を仰いだ。
ルヴァイドは、相変わらず何を考えているのか読めない表情をしていたんだけれど・・・
―――――突然、何を考えているのか読めない台詞を、口にしたんだ。

「そこまで言うなら・・・ 、お前を貰うとするか」

―――――は?」

聞き返したときには、時既に遅し。
私の身体は、私より一回り以上大きな彼の身体に包み込まれていて。

「あのー・・・ルヴァイドさぁん?(汗)」

驚いて彼を押しのけようとするが、当然、私が彼に力で敵うはずもない。
私の抵抗はあっさり無視され、ルヴァイドは、当惑する私などお構いなしに、私を抱きしめる腕に力を込める。

「俺は、お前さえ居れば十分だ」

「いや、さらりとそんな殺し文句言われても・・・」

「どうした?何か問題でも?」

「ていうか問題とかそーいう問題じゃ無いような気が・・・」

「嫌か?なら止めるが」

「う゛・・・その質問、反則」

嫌なわけ、無い。私は、ルヴァイドのこと嫌いじゃ無いし・・・ていうかむしろ、好きだし。
でも、いきなりこれは、心臓に悪いでしょ。
お願いだから耳元で囁かないで下さい。ショック死しそうです。
そんなことを考えながら、それでも口に出すことは当然出来ずに、私はこっそりため息を付いた。

―――――ねぇ、ルヴァイド?」

「なんだ?」

最後の抵抗。
苦し紛れに、私はこんな事を言ってみた。

「私への、プレゼントは?」

少しでも、考え込むだろう・・・そんなリアクションを私は期待していたのだけれど。
期待は、思いっきりはずれて。
彼はためらいもなく私に顔を近づけると―――――・・・
私の苦し紛れの抵抗を、看破した。

―――――っ////!?」

ほんの一瞬、唇が触れ合った。
そのことを認識したときには既に、ルヴァイドは私から顔を離していて。
赤くなった私を見て、静かに、優しく微笑んでいた。
滅多に見られない、彼の微笑み。
・・・負けた。私の完敗だ。
彼の方が、やっぱり私より一枚も二枚も上手。
観念したように、私はルヴァイドの背に手を回した。彼は、心地よい強さで、ギュッと抱きしめてくれた。












「聖夜、か・・・」

突然、ルヴァイドが耳元で囁いた。
私は顔を上げて、意外そうに彼を見やる。

「意外。ルヴァイドにも、そういう感傷的な気分になる事って、あるの?」

しかし、彼は「そういうわけじゃない」と、あっさりかぶりを振った。
そして、私を見て、静かに微笑む。

「聖夜だろうとなんだろうと、関係ないな」

「何が?」

聞き返すと、彼は私の髪を一房とって、それに口づけてきて。

「お前が一緒なら、なんだって良いんだ。関係ない」

そう、言った。

―――――か、帰ろうっ!みんな心配してるよ、きっと。早くしないとパーティー始まっちゃうし!」

どーして、この騎士様は殺し文句をこんな簡単に口にするかなぁ?
私は照れ隠しにぶっきらぼうな口調でそう言うと、ルヴァイドから身体を離して、先に歩き出した。

「あんまり急ぐと転ぶぞ」

「大丈夫ですっ!」

ルヴァイドの声に楽しげな響きが混じっているのを聞き取って、私のなかに、あったかい気持ちが芽生えた。


―――――私も、一緒だよ。』


後ろを歩く彼の存在が、嬉しくて仕方ない。


『私も、ルヴァイドと一緒なら、なんだって良いんだ』


この言葉は、まだ言ってあげないことにする。
照れてる私をからかって楽しんでる罰だ。そう自分に言い聞かせて。
―――――浮かんでくる笑みをこらえるのに、私は必死だった。


空からは、雪が舞い降り始めた。










抱きしめよう

君の存在を

護り抜こう


君と在る幸せを。







Merry christmas!!






Fin・・・



ついに書き上がりました!クリスマス配布用ドリーム第六段、ルヴァさんです!
―――――難しい。何だか燃え尽きて灰になってます。


クリスマスって事で、どれか一つサンタさんネタを入れようと思ったとき。
真っ先に思い浮かんだのはルヴァさんでした。この時点で澪は重傷です。ていうか重体です。むしろ渋滞です。
だって・・・何だか、一番サンタさんスタイルが似合いそうな気がしたんですもん。
案の定、というかなんというか。このネタを知り合いに話したところ、すごいプッシュされまして。
執筆に至ったわけです・・・が。
書くの遅くてごめんなさい。完成がすごい遅れてしまいました。
まぁこんな駄作ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

それでは!最後までお付き合いいただき、有り難うございました!
Merry christmas!!


2002,12,26 水音 澪


強奪犯のコメント(笑)
水音さんの配布クリスマスドリーム、ルヴァイド編です。
ルヴァイドのサンタルック…!しかも風船配ってます!
でもラストは、うーん…大人の貫禄。
掲載許可ありがとうございました!



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