よく晴れた日。
じっとしているのなんて勿体ない。
そんな日は。
―――そんな日は…大好きな人と出かけませんか?
「きゃーーーー!!!トリス!!!」
「え?どうしたの??」
「ひ・火っっっ」
「あーーーー!!!!」
お母さん。
は…初めて見ました。
食べ物って、本当に炭みたいになるんですね。
「あぅ……ー……」
「うーん―――…」
これでたしか。三度目の失敗だったと思う。
泣き濡れた子猫のような瞳で私をみるトリスを、私は唸りながらよしよしと頭を撫ぜた。
私は今、トリスに頼まれてお弁当をいっしょに作っているのだ。
―――…が、少し…いや大分。
トリスは見事な腕前をしていた。
私が困ってしまうくらいに……。
「頑張ろうっ!トリス。もう一回もう一回」
「……」
彼女が取り組んでいるのは、卵焼き。
お弁当における、基本中の基本ともいえるだろう。
上手く巻けないくらいは覚悟していた。
だが―――…ことごとく、消し炭になってしまうのは何故なのだろうか…。
「今度は、私が隣で見てるから!」
そう言って、落ちこんでいるトリスの肩をぽんっと叩いた。
何故今まで隣にいなかったかと言うと、分担して料理を作っていたからだ。
難しげな料理は私が、簡単なものはトリスというぐわいに。
揚げ物をしていたせいで、隣についてあげれなかったが、一段落がついた今では側にいて
あげることができる。
「う・うんっ。もう一回やってみる!」
「その調子その調子!」
私の言葉にやる気を取り戻したらしいトリスは、そう言って宿敵であるフライパンに再度
向い合った。
そしてボールに卵を割りかき解すと、すでに作ってあるとダシの入れ物を取り出す。
「あ!ちょっと待ったっ」
「へ?」
「今までこのダシ。どれくらい入れてた?」
そう言うと、トリスは一瞬考えた後
「え…?どばっと」
その方が美味しくなると思ったから。
とトリスは、私の表情を疑いながらそう言った。
「あー…きっとそれだわ」
卵焼きは、ダシを入れれば入れるほど成功は難しくなる。
なぜなら、コゲやすくなるからだ。
それを説明すると、トリスはなるほど…と頷いた。
「じゃあ…ダシ入れないでいく?」
「うーんと、それだったら美味しくないと思うよ」
ちょうどいい。
そう適量入れればいいのだ。
「どれぐらい??」
「えー……このぐらいかな?」
といって、トリスが持っていたボウルの中にダシを入れた。
トリスは私にお礼を言った後、再度ボウルの中身をかき混ぜる。
それが終わったら、今度はそれを温めてあったフライパンの中に注ぎこんだ。
途端に、ぷわっと卵の焼ける良い匂いが鼻腔をくすぐる。
「………」
「………」
四角いフライパンの中で、端の方から着々と卵が焼けていく。
「…………」
「…………」
始めは真ん中が半熟で美味しそうだなっと思っていたが、それも完全に焼けてしまった。
「―――トリス…?なんで、ひっくり返さないの…?」
「―――なんでひっくり返すの?!」
「…だって……ひっくり返さないと出来ないと思うよ…?」
「へ…?!だってに作って貰った『卵焼き』って、ミルフィーユみたいだったじゃない!」
『ミルフィーユの作り方』
生地焼いて、クリーム。
その上に生地のせてクリーム。
また、その上に生地のせてクリーム。
「―――…トーリースー…??」
「きゃー!ごめんなさいごめんなさいっ!」
トリスさん。
私、一回説明しながら実際に作ったよ?
そんな私の表情を伺うように、またも子猫の瞳をしてくるトリスの頭を、私もまた
同じようにくしゃくしゃと彼女の頭を撫ぜた。
「ほぉらっ、頑張ろっ!リューグに食べさせてあげたいんでしょ?」
「…」
そう、トリスはリューグといっしょに出かけるために。
腕組んでいっしょに出かけたい…と、私に言った。
「さぁ!頑張って美味しいもの作って、リューグを唸らせてやりましょっ」
「―――…うんっ!!」
「行ってきまーすっ!」
そう言った彼女の瞳はキラキラと輝いていた。
隣にいるリューグ。
照れながら。
でも、ちゃんと腕を組んで。
「いってらっしゃい〜」
私は、扉の向こうに消えていく二人を横目にそう言った。
嫌いだった、苦手だった料理を。
ただ彼のために。
側にいて、いっしよに「美味しいね」と笑いたいと。
屈託のない笑顔でいったトリス。
さて、トリスが持っていたバスケット。
中には、もちろんさっき作ったものが沢山詰めて。
―――同じものがもう一つ。
「―――さぁ…私も出かけますか…っ!」
大好きな人と出かけましょう。
私も、その人と腕を組んで。
恥ずかしかったっていい。
照れながらでもいい。
側にいるだけで。
いっしょに『美味しい』って言えればいいの。
|