前途多難な私達劇場if――もしも姉妹だったら
「とりあえず、私が妹ってことで」
「その方が無難かもね……(いろいろな意味で)」
「そゆわけで、よろしく。お姉ちゃん」
「…………」
「…………ごめん。やっぱり姉さんにする。だからそんな寒そうな顔で固まらないでお願い」
そんな訳で。
姉:
妹:
でこの先進行いたします。
そのいち:義妹と呼ばないで
「さて、まずはどこから行くんだ?」
「んー、八百屋さんからかな」
会話を交わす青年と少女という図は、ありきたりだが平和な光景だった。
……そこだけ見れば、だが。
「……納得いきませんね」
彼らから離れた建物の陰では、三つの人影が睨みあっていた。
「なぜ、僕がさんの買い物について行ってはいけないんですか?」
「ロッカはともかく、あたしがついて行くのもダメというのもおかしいですよ」
ロッカとアメル、二対の目に凄まれても、しかしは怯まなかった。
「あのね、姉さんの恋人ってことは、結婚する可能性もあるわけよね?」
「はい」
「姉さんと結婚するってことは、私の義理の兄さんになるってことよ」
「それもわかります」
それから数秒の間をおいて、
「つまりっ、私は!! 変態や腹黒を『義兄さん』なんて呼びたくないのよっっ!!」
天を仰ぐ勢いで、は絶叫した。
「あ、でしたらあたしは義姉だから大丈夫ですね」
「そういう問題じゃない!!」
ぽんと手を叩いたアメルに、すかさずのツッコミが入る。
というか、変態や腹黒のくだりは否定しないのかアメル。
「それならご心配なく」
どこからともなく声がする。
「さんもさん同様、私の妻として迎えれば問題なしです! さあ、さんに遠慮することなく『あ・な・たv』と呼んでください!!」
「って、何ヒトの足元から生えてきて、スカートに顔突っ込んでるのよっ!!」
その発生源に、のローキックが決まった。
「ロッカ、アメル」
穴に足を突っ込んだ状態のまま倒れているレイムを指さして、は淡々と言う。
「……前言撤回。これを今すぐ退治してくれたら、ちょっとは姉さんとのこと考えてもいい」
「わかりました」
「では容赦……いえ、遠慮なく」
「……なんか、あっちが騒がしいよなー」
「そうねー。なにがあったのかなー」
なんとなく事態を把握しつつも、止められないとわかっているマグナとにはなすすべはなく。
いかにも棒読みなセリフが、二人の口から滑り落ちたのであった。
そのに:戦闘風景
「ていやっ」
の一撃がとどめとなり、黒の旅団兵が一人倒れた。
「、大丈夫か?」
別の一人を攻撃しながら、マグナが尋ねる。
「平気へーき。最近はリューグの動きにもどうにかついてこれるし。早速稽古の成果が出たかな?」
「そ、そうかも……」
(それよりレイムさんに追い回されてるせいで身体能力上がってる気がするんだけど、言わない方がいいよなきっと……)
マグナがそんなことを考えているとも知らず、は少しご機嫌だ。
「きゃっ」
後方から、の悲鳴が上がった。
本来なら、ここで「どうした」とか「大丈夫か」とか問うべき場面なのだが、二人はそれをしなかった。
否、できなかった。
「うふふふふふ」
「はははははは」
どこか空恐ろしさを感じる笑い声が二重奏で響き渡った。
続いて、絶叫。
「……命知らずがまだいたわね」
「いや、多分新入りかなにかだろ。よりにもよってに攻撃するとはな……」
戦闘中、うかつなことすりゃ数倍返し。
これはマグナ達一行のみならず、黒の旅団ですら暗黙の了解だった。
なにせ、かすり傷ひとつつけただけで、再起不能にまで追い込まれた兵が何人かいたのだから。
そして、戦闘終了後。
「さて、あたしのお姉さま兼未来の義妹に傷をつけてくれたお礼を存分に――」
「いや姉にも義妹にもならないから、って言うかお願いだからやめて――っ!!」
いつどうやって捕まえたのか、簀巻きで転がっている黒の旅団兵数名とモーニングスターを構えたアメル、そして彼女を止めようとしているを遠巻きに眺め。
「……これで諦めてくれないんだからたいした根性だよなぁ」
「……違うと思う」
仲間達は盛大なため息をついた。
そのさん:人の恋路は蜜の味
「では、本日の会合を始めるわよっ!」
毎度おなじみ、ギブソン・ミモザ邸のとある一室。
昼間だというのになぜかカーテンを閉め切り、わざわざロウソクをともした中で高らかに宣言するミモザがいた。
それを囲むようにして座っている人影数名。
「ミニスちゃん、今回の調査結果は?」
「うん、イオスとは相変わらず仲がいいみたい。ネスティはなんだかんだで面倒見ている分、得点は稼いでいるかな」
「なるほどねー……それにしても、二人ともあんなにあからさまなのに、どうしてちゃんは気付いてないのかしらね? やっぱりあれかしら、さっさと告白しないのが原因とか」
「そうですねー、お二人とも肝心なところで押しが弱い部分がありますし」
「それよりも、アメルのことが大きいんじゃない? とは別の意味で大事にしているから、下手なことしたら攻撃されるし」
「確かに、一番の問題はそこよねー」
「……なあ」
「なに、マグナ」
「なんで俺達ここにいるんだろうな……」
「わかんないわよ、毎回無理やり引っ張ってこられるし」
「『ちゃんをあたたかく見守る会』とか言ってる割に、ここ最近の内容はが誰とくっつきそうか、に変わってるし」
「……まあ、ミモザさん達の心配もわかるけど」
「え?」
「アプローチを積極的にかけてくるのがあの人だし……」
「……ああ」
同時刻。
「さて、この燃えない粗大ゴミをどこに捨ててきましょうか」
「……とりあえず、迷惑にならないとこならどこでもいい」
「いや、ここで止めをさしておいた方が……(くそ、さっきまでといい雰囲気だったのに……)」
「落ち着け。君の気持ちもわかるが、槍でどうにかなるものでもないぞ……(そうでなければ、誰がこんな変態を召喚術一発で許すかっ!)」
変態退治の後始末をする、話題の主達がいた。
結論。変態が襲ってくるのでそれどころではない。以上。
おまけ。
「ねえちゃん」
「ミモザ……なんか用?」
「そんなに逃げ腰にならなくてもいいじゃない。あのね、マグナのことなんだけど」
「え、マグナ?」
「そう、ちゃんから見てマグナをどう思う?」
「どうって……まあ、いざって時はしっかりしてるし、姉さんの相手としてはいいんじゃないの?」
「なるほどね……じゃ、もしちゃんがマグナを好きになっちゃったらどうする?」
「は? なんでいきなりそうなるの?」
「うん、ちょっと気になってね。姉妹そろって同じ人を好きになったらどうするのかな、って」
「相手にもよるかもしれないけど、マグナは姉さん好きなんだから入り込む隙間ないよ。それに……」
「それに?」
「んなことになったら、マグナの死期が確実に早まると思う……主にアメルとかアメルとかアメルとか」
「……それもそうね……」
……やはり、聖女様の存在も無視できるものではないらしい。
ifネタ、「もし前途世界で長編夢主が妹として存在いたら」でございます。
……さらに破壊率がアップするという結果に(汗)
長編夢主がレイムに対して容赦なしになってしまうから、仕方ないかも……
これはこれでまだまだネタが作れそうですが、今回はここまで。
2008.5.4