異説・かぐや姫
異説・かぐや姫


むかしむかしある所に、竹取の翁と呼ばれるお爺さんとその妻のお婆さんが住んでいました。
「なんかこの役、納得できねえ……」
「仕方ないでしょ、これしかなかったんだから」
お爺さんとお婆さんというにはかなり年若い、体格のいい男と黒髪の美しい女でしたが気にしてはいけません。

ある日お爺さんは……
「そのお爺さんってのはやめてくれ……」
……仕方ないですね。では、以下フォルテとケイナと呼ぶことにしましょう。

フォルテは、いつものように竹を取りに行きました。
すると……
「ん? なんか向こうで光ってるような……?」
なんだろうと思いつつ行ってみると、そこには光る竹が一本だけありました。
「うーん……?」
1 切ってみる
2 無視する
「とりあえず2で……」
コラ待ちなさい。

「何だ?」
何だ、じゃない。それじゃ話が進まないでしょうが。
とにかく切りなさい。
「わかったよ……えい」
すぱっ! と音を立てて、竹は見事に切れました。

そして、その中にはなんと小さな赤ん坊がいたのです。
もちろん、フォルテはそれを放っておけるような人間ではありませんでした。
連れ帰り、ケイナと一緒に育てる決心をしたのです。







そして3ヶ月後。
と名付けられた赤ん坊は美しい娘に成長しました。
その噂を聞きつけた男達は、一目見てみたいとあの手この手をつくしました。
しかし誰もの姿を見られないまま一人、また一人と減っていき……
とうとう5人だけが残りました。

彼らは手紙を書きまくりますが、返事は一切ありません。
贈り物などをしてみても同じです。
それでも求婚者達は諦めきれず、フォルテに頼み込む毎日が続きました。



略。



「おい、ちょっと待て」
おや、求婚者その一ことリューグくん、何か?
「何か、じゃないだろう」
「なぜ、肝心の求婚のところを飛ばす?」
「そうです、納得いきませんよ」
「理由を説明願えますか?」

ネスティにイオス、ロッカとシャムロックまで……求婚者の皆さん勢揃いですねー……
まあ、いいじゃないですか。どうせ失敗するんだし。
この後、ちゃんと出番作ってるから。

「よくない!」
「せっかく求婚者役なのに……」
「告白くらいさせてくださいよ」
ほー……いいんだね?

「……何がだ?」
じゃあ君達は、火鼠の皮衣探しに行って偽物つかまされる役やりたい? 蓬莱の玉の枝偽造してばれる役やりたい? 竜の首の玉探しに行ってあちこち腫れ上がった上、引きこもりになる役やりたい? 燕の子安貝取りに行って燕のフン片手に墜落死する役やりたい?
「「「「「…………」」」」」

こっちは別にかまわないよ?
それじゃ、竜の首の玉は……
「「「「「省略していい(結構です)……」」」」」
わかればよろしい。さ、続けるよ。





の噂は、やがてマグナ……もとい、帝の耳にも届きました。
なんとか一目見てみたいと女官を遣わせたり宮仕えを命じたりしましたが、はいっこうに応じません。
そこで帝は一計を案じました。
フォルテに話を持ちかけると、の家までやって来ます。
フォルテの案内のもと家の中に入ると、忍び足での部屋へと近づいていきました。

部屋の中には、それは美しい娘が座っていました。
帝がさらに近づくと、気づいたは奥に逃げ込もうとしました。帝はその袖をつかんで止めます。
「怖がらなくてもいい」
帝はそう言って、をその腕に抱きしめました。
そして、もう一度宮仕えの話を持ちかけます。帝は一目見てなおさら、を手に入れたいと思ったのです。

「……私はこの国の者ではありません。宮仕えはできません」
「いや、だめだ。一緒に来てくれ」
帝がそう言った途端、の姿は突然消えてしまいました。

帝は驚きました。そして、それきり会えなくなるのが悔しくてたまらず、
「……わかった。姿を見せてくれ。そうしたら帰るから」
その言葉では安心したのか、再び姿を現しました。
本音はもう少しいたかったのですが、約束は約束。帝は仕方なく、部屋を後にしました。


それからというもの、帝はが気になって仕方がありませんでした。
帝はちょくちょく手紙を書くようになり、さすがにもこれを無下にはできず返事を書くようになりました。
しかし、が帝のもとに上がることはありませんでした。







そして、3年の月日が流れた頃、の様子がおかしくなってきました。
毎晩月を見ては、じっと物思いにふけっているのです。
そのうち、悲しそうに泣くようになってきました。

どうしたのかとフォルテとケイナが尋ねると、は泣きながらこう答えました。
「実は、私は月の都の人間で……次の十五夜に月から使者が来るの。そうしたら、帰らないといけなくて……」

この話は瞬く間に求婚者達や帝に伝わりました。
彼らは兵をかき集め、警護隊を編成しました。
計画なども立て、これなら大丈夫と十五夜を迎えます。





「帝様……」
「マグナでいいって、文に書いただろ?大丈夫、これだけいれば負けないから」
心配そうに話しかけるに、帝は笑顔で応じました。
「いえ、そうではなくて……」
「はーっはっはっはっは!!」
の言葉を遮って、男の笑い声が聞こえてきました。
誰もがぎょっとして身構える中、塀の上に一つの影が降り立ちます。

さーん!!  あなたの怪盗メルギトスが、予告通り参上いたしましたよ―――!! さあ、この手を取って共にバージンロードをば―――――!!」
なにやら叫んでいる男目がけてどしゅどしゅ、と矢が飛んでいきました。

ぼとりと落ちた男をさらに、
「ギヤ・メタル」
「ていっ!」
「はっ!」
「おりゃあっ!」
求婚者達+帝の攻撃が襲い、

「ロックラッシュ――――!!」
の召喚した岩が降り注ぎました。

岩に押しつぶされていたのは、妙な格好をした銀髪の男でした。
どこからか黒子の格好をした三人組が現れると、男を引きずり出していずこかへと去っていきます。

「何だったんだ今のは……」
「あ、そういえば怪盗メルギトスの予告状が来てたな」
「フォルテ……あんたは何でそんな肝心なこと言わないのよ……」
「どうせ今日だしな。それに、怪盗メルギトスより月の使者の方が厄介だろ?」
「なるほど」
「確かに……」
全員納得しました。

「まあ、どうやら違ったみたいですし。もう一度体勢を……」
シャムロックがそう言いかけたとき、空が昼のように明るくなってきました。
ちなみに、時間はまだ真夜中です。
今度こそ来たか、と全員身構えました。
そして、空のかなたからゆっくりと天を飛ぶ車と人が舞い降り……

「こんばんは。月の使者その一のアメルです」
「その二のファミィです」
……ある意味最強タッグでした。

彼らは一瞬血の気が引きましたが、それでもなんとか持ち直すと、
「くっ……負けるか!」
は絶対守る!!」
月の使者へと立ち向かっていきました。

「仕方ないですね……レヴァティーンさん、お願いします」
「ガルマちゃん、頼みますね」


ちゅど―――ん!!どごごごごごっ!!


……勝てるわけありませんでした。
愛も無敵ではありません。

「さあ、。行きましょう」
「早く、この羽衣を……」
月の使者二人が羽衣をサキに着せようとします。
「……待って。お別れぐらいは言わせて」
「早くしてくださいね」

はまず、フォルテとケイナの前に立ちました。
「……今までありがとう」
「どうしても、行かないとダメか?」
「せめて、一緒に行くことは……」
「できないの。ごめんね……」
深々と頭を下げると、今度は帝の方へと歩いていきました。

帝は立っているのがやっとでした。
「帝様……」
は泣き出しそうな表情で言いました。
「私をここにとどめさせようとなさったお気持ち、大変嬉しく思います。私……いつの間にか、帝をお慕い申し上げるようになっていました。ですが、私はこのような身の上。お許しください……」
以前自分がされたように、しっかりと帝をその腕に抱きしめて。
「……さようなら、マグナ……」
そして、振り切るように帝の側を去ってしまいました。

それからは、もうあっという間でした。
月の使者がに天の羽衣を着せると、たちまち車へと飛んでいってしまいました。
人々が見守る中、車は空の向こうへと消えていきました。





残された人々は、途方に暮れました。
「なんでだよっ……がいないと……」
帝は泣き崩れました。の気持ちが自分にあると知り、さらに想いは募っていました。
苦しいのはフォルテやケイナ、そして他の求婚者達も同じです。

「……ん?」
ふと、イオスが何かを見とがめました。





「ふふふ……さん、今度こそお迎えに行きますよ……」
先程怪盗メルギトスと名乗った怪しい男、今度は妙な物体を前に笑っていました。
やたらに大きいそれは、人10人くらい乗れそうです。
「この特製の飛行装置があれば、月へ行くくらいたやすいこと!」
……どうやら宇宙船のようです。時代無視してますこの人。

「そしてさんを連れ帰り、二人だけの結婚式を……新婚旅行は南の……いや、案外北とかもよさそうですね」
すでに今後の予定まで立てています。
だから、背後に忍び寄る集団に気づきませんでした。

「ほーう、飛行装置ねえ」
「ただの変人怪盗かと思ったら、油断も隙もない……」
突然の声に振り返ると、フォルテとケイナを始め帝や求婚者の皆さんまでいました。

「そうだよな……」
「追ってくるなとは言ってませんでしたよね……」
「僕も手伝おう」
帝&求婚者、目が怖くなっています。
それは怪盗メルギトスをして戦慄せしめるような何かがありました。

「いくぞ―――っ!」
「この変人怪盗、には指一本触れさせねえからな!!」
「ネスティさん、わかりますか?」
「ああ、これなら操作できる」
「あっ、待ちなさい! それは私とさんの愛の箱船……」
「まだ言うか変態!!」


ごすっ、ばきっ、どかっ!!


宇宙船を巡っての乱闘は、一時間の長きに渡って続けられたのでした。







その後、無事月までたどり着いた帝はと幸せに暮らしました。
求婚者や月の人々の妨害はありましたが。







「待っててくださいさん!私は諦めませんよ!!」
「だったら自分で宇宙船作ってください……」
「というか、いいかげん諦めて欲しいぞワシは……」
「それにしても、扱いが月の使者以下とは……インパクトが足りなかったのですか? ビーニャ、カメラとバラを持ってきなさい! 今度は予告状に私のサイン入りブロマイドを……」
『付けなくていいです(滝涙)』

……懲りない人もいますがめでたしめでたし。



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「Dream Festival」に出展させていただいたものに少し加筆です。
思い切り悲劇なはずの話も、管理人にかかればこんなもん(汗)
ある意味「前途〜」の原型でもあります。なので、デフォルトも「ハルカ」に変えてます。
怪盗メルギトスは書いてて楽しかったです。機会があればまた。