お星様にお願い?
お星様にお願い?
『さんとラブラブ熱望』
『恋敵は星に散れ』
『美少女ゲット!』
「……なに、これ」
いきなり玄関先に立てかけられた笹だけでも変なのに、所々にぶら下がっている紙切れに書かれた、いかにも「野望」な文句はなんなんだろう。
「今日、あたしの世界で七夕って日で……笹に願い事書いた短冊吊るしたりするの。ポロッて話したらやろうってことになっちゃって……」
げんなりと。心底話したことを後悔しているようだ。
確かに、こんな願い事ばっかりじゃなあ。誰がどれを書いたかわかるのがさらに嫌だ。
っていうか、誰だよ。『世界征服!』とか書いたの。
ルウの『ケーキをお腹いっぱい食べられますように』がすごいまともに見えるよ……
「ん?」
ふと、変な紙……短冊だっけ? それが目に付いた。
どう変かって、まず色がけばけばしいほどの銀色。まだ日が沈んでいないので、夕日を反射して時々まぶしい。
そして、他のものよりも二回りくらいでかい。
そこにやたらに太い字で……えーと、『さんの愛らしい花嫁衣裳姿を我が手に』……って、
ばりっ!!
俺が「なんだこれ」とか叫ぶ前に、アメルがものすごい勢いでそれをちぎり取った。
例のうふふ笑いを浮かべつつ、ぐしゃりとそれを握りつぶす。
「あの変態……お仕置きフルコースでも懲りる気ないようですね……」
フルコースってなんだよ!?
殺る気満々のアメルにそう聞くこともできず、俺達はただただその背中を見送った。
それから1時間くらい、街の外から爆発音とどこかで聞いたような悲鳴が途切れることなく聞こえてきた。
……俺はそれを聞きながら、短冊に『平穏をください』と書いたのだった。
「よっ、と……」
なんとか空いてるところを見つけ、と俺の短冊をくくりつける。
葉っぱと一緒になって風に揺れる色とりどりの紙。
「ありがと、マグナ」
にっこり微笑む。彼女もさっき書いてきたらしい。
でもこの字、見たことないな……の故郷の字ってシルターン文字に似てるって聞いたんだけど。
「はなんて書いたんだ?」
「えへへー、内緒。でなきゃレナードさんに頼まないよ」
「え、レナードさん? なんで?」
「だって、日本語じゃケイナやシオンさんにばれちゃうもん。英語だったらレナードさんしかわからないし」
つまり、の短冊はレナードさんの国の字で書いてあるらしい。
でも、そこまでわからないようにされると余計気になる……
後でレナードさんに聞いてみようかな。ダメで元々で。
「七夕って、星の伝説が元になっているんだよ」
「伝説?」
の話を簡単にまとめると、引き裂かれた恋人同士が一年に一度だけ川を渡って会うことができる日が今日、ということらしい。
「星がいっぱい集まって、川のように見えるところがあるの。あたしは見たことないんだけど」
「へえ」
なんて何気ない会話をしていると、どどどど……と音が聞こえてきた。
というより……近づいてきてないか?
そして道の角から、それは姿を現した。
「お待たせしましたさん! あなたの彦星が会いに来ましフグッ!?」
……現すなり、いつの間にか飛んできたアメルにモーニングスターの一撃で吹っ飛ばされた。
ごろごろと地面を転がる金と銀の二色。
と言うか、
「その服とリヤカーはなんなんですかレイムさん……」
むくりと起き上がったレイムさんは、星の模様の服を着ていた。しかも金のラメ入りなので無駄に派手だ。
その後ろには……城みたいな屋根がくっついてるけど、そこから下は明らかにリヤカーだ。
あ、ガレアノとキュラーが泣きながら引いてる。
「もちろん、彦星の衣装です!」
「そんな彦星いません……」
げんなりと肩を落とす。
まあ今の話を聞いていたにしても、オリヒメとヒコボシの格好については全然出てこなかったから仕方ないかもしれないけど。
こんな格好の男と愛し合う女の人っていないと思うぞ、いくらなんでも……
「あなたなんかニボシで充分です。とっとと帰ってください」
「また邪魔をする気ですか天の川!!」
「誰が天の川ですか、あなたはあたしとさんがハッピーエンドを迎えるためのカササギ(になればいいんです」
呆れる俺達をよそに、アメルとレイムさんが火花を散らし始める。
しかも人の世界の伝説、都合よく解釈してるな……いつものことだけど。
「なあ……ワシ、最近色々と自信がなくなってきたんだが……」
「ワタクシもです……あの方も、昔は立派だったのですがねぇ……」
「ああ……今やそれが……」
「どんどん変に磨きがかかってますからね……」
はあー、とため息をつくガレアノとキュラー。
……なんでだろう、気持ちがよくわかるような。
ちゅどーんっ!!
どがががっ!!
「今日こそはあなたを倒し、さんとスイートな七夕ライフを!!」
「何言ってるんですか、さんはあたしと幸せな暮らしを築きあげるんです!!」
あー、とうとう始まったか。
こうなっちゃったら、もうアメルもレイムさんも止まらない。
「ごはんまでには終わらしてねー。……さ、行こうかマグナ」
「……そうだな」
……俺の願い事が叶う日は遠そうだ。
"May Magna be happy !"
"May Magna and I be together !"
そう書かれた二枚の短冊が、風に吹かれて揺れていた。
天使と大悪魔の戦いに動じていないかのように、揺れていた。
日記で書いた七夕ネタに、昨日思いついた続きを追加してみました。
折角なので織姫彦星ネタです。でもやってることはいつもと同じ。
ちなみに途中のふりがなは、「障害物」と「踏み台」です。ある意味一部はあってますが(汗)
夢主の願い事も辞書を引き引き。あってるかなー…?
2004.7.29