人間の背丈ほどもある大きな箱。
やや派手な包み紙にリボン。
極めつけは「愛しのさんへv」と書かれて貼り付けてあるカード。
「なんかデジャ・ビュが……」
は呆然と箱を見つめた。隣のマグナも似たような表情で立ちつくす。
呼び鈴が鳴ったので玄関先まで来てみれば、この巨大箱があるだけで。
しかも、どうも不吉な予感がしてならない。
「下がっててください、さん」
「危ないですからね」
やはり玄関先に来たアメルとロッカ。
二人はサモナイト石を構えると…
『消えろ害虫――――っ!!』
がががっ、ちゅど――ん!!
きれいにユニゾンとなった叫びと共に、箱を跡形もなく破壊したのだった。
「ふう、これでよし」
アメルは出てもいない汗をぬぐう。
達や、騒ぎを聞きつけて来たばかりのリューグは汗を一筋たらした。
「ええと……いくらなんでもここまでしなくても……」
「この程度、まだぬるいくらいですよ」
おずおずと言ったに、アメルはふんと鼻を鳴らした。
だが。
「そう! 私の愛は、そんなものに負けはしません!!」
「きゃあっ!!」
無傷のレイムが、満面の笑みを浮かべてを抱えあげた。
他の面々は、驚きをあらわにレイムを見た。
「なっ……どうして……!?」
「ふっ、簡単なことです! こんなこともあろうかと、箱の中にはガレアノを入れておいたのです!! そして、あなた方がそちらに気を取られている隙にさんのもとへと回りこんだのです!」
自慢げに言うレイム。
もちろんその腕は、しっかりとを抱きしめている。
「くっ……」
「ふふふ、私には忠実な部下がいますからね!!」
「れ、レイム様……治癒を……」
箱の残骸…の上で、黒焦げの傷だらけになったガレアノがうめく。
リューグはそれを一瞥すると、ガレアノを指さしてぽつりと一言。
「おい、忠実な部下が助けを求めてるぞ」
しかしレイムは明後日の方を向いて、
「ガレアノ……あなたの死は無駄にはしません!」
……勝手な方向に陶酔していた。
「……死んでねえぞ。多分……」
「レイム様〜〜〜……」
当然のことながら、リューグの突っ込みとガレアノの嘆きはレイムに届くわけなかった。
哀れな部下はさておいて。
「さんを放しなさい!」
アメルやロッカが武器を構えるが、やはりレイムは聞いていない。
「さあまいりましょうさん、結婚式の準備は整ってます! そしてこの世界を手に入れた後私達の王国を作るのです!! 国民に毎朝歌わせるための『レイム・愛の賛歌』も作詞作曲済みです!!」
作らんでいい、んな王国。
あと歌も。
「…………」
当のは、思い切り遠い目で脱力している。
「勝手に決めるなよ!!」
マグナも怒って剣を抜く。
アメルはメイスを持つ手にさらに力を込めた。
「そうです! それはあたしが実行するべき計画です!!」
「……違うだろ、それも……」
リューグが再び突っ込むが、案の定アメルにも届かない。
「ふふふふふ、私が何も用意してこないと思いましたか? この『対アルミネ用究極必殺薬』の威力、とくと味わいなさい!!」
不敵に笑いながらレイムが懐から取り出したのは…いかにも怪しげなビン。
ご丁寧にドクロマークまでついている。
レイムがその蓋を開けようとしているのを見て、は慌ててその手にしがみついた。
「やめてよ、マグナ達まで巻き込む気!?」
「なっ、暴れないでくださいさ……」
抵抗するレイムの手から、ビンが滑り落ちる。
『あ』
誰もが唖然と見守る中、それは衝撃で粉々に砕け。
そこから発生した煙は、もろに風下にいたを包み込んだ。
「!?」
「大丈夫です……か……?」
その場にいた全員、ぱっかりと口を開けた。
薄れていく煙の中から現れたのは、やはり呆然と佇むレイムと、
縮んでいて、服に埋もれている(推定年齢7,8歳)。
「あああああっ、かわいらしいですさん! 十年後とはまた違った愛らしさが……っ!!」
いち早く我に返ったレイムが、小さくなったを抱き上げて頬擦りなど始める。
本人が嫌そうにしているのもお構いなしだ。
「ああ、ホントにかわいい……じゃなくて、あたしのさんになんてことするんですか!」
やはりうっとりしていたアメルだったが、さすがにレイムの頬擦りには腹が立ったらしくメイスをバットのように構える。
「予定とは大きく変わってしまいましたが、こんなシチュエーションもいいですねぇ……幼いさんを慈しみ、育て……やがては光源氏のように……!!」
レイムはレイムで、なにやら妄想で壮大な物語ができあがっているようである。
「レイムさん……なんであたしの世界の古典文学知ってるんですか……?」
マグナが怒りの形相で剣を構えなおす。
「だから、勝手に決めるなよ! を元に戻せ!!」
「元に戻してください、レイムさん……」
うんざりした表情で。
「おや、もう少しこの愛らしさを堪能したかったのですが……仕方ないですね。では」
口調の割に全然仕方なくなさそうな顔で言うと、レイムは顔をに近づけていった。
ついでに唇など突き出して。
「〜〜〜〜〜っ!?」
突然のことにもがくだが、子どもの力では抜け出すこともかなわない。
『何やってるんですか』
ロッカの槍とアメルのメイスがレイムを襲った。
二人の攻撃をくらい、レイムが仰向けに倒れる。
その隙に、マグナがを持ち上げてレイムから引き離した。
「元に戻せと言うからそうしようとしただけですが?」
起き上がりながら心外な、と言いたげにレイムが答える。
「それがなんで……って、まさか……」
何かに気づいたらしく、質問の途中で顔面蒼白になる。
対してレイムは、拳を握り締めて力説する。
「気づいてくれたようですね。そう! 古来より、呪いを解くのは愛する者とのキスと相場が決まっているのです!!」
「どういう相場だ……」
誰も聞かないとわかっていても、つい突っ込んでしまうリューグである。
「と、いうわけでさん! 私と熱いベーゼを!!」
再び目がけて飛び込んできたレイムだったが、
がす、どす!
ちゅど――ん!!
アメルとロッカの連携攻撃に地面へと沈む。
こんな時だけは息ぴったりの二人だ。
「まったく、何言ってるんですか。それはあたしの役目に決まってるじゃないですか」
「違うよ、僕だよ」
「うふふふふふ、何を血迷っているのかしらロッカ?」
「はははははは、女の子同士でキスしたがるわけないだろうアメル?」
……しかし、すぐにこういう方向に行くのもこの二人だ。
魔王出現に等しい暗黒オーラが、玄関先に渦巻いてゆく。
「ねえ、マグナ……」
「ああ……」
「俺もそう言おうとしたとこだ……」
、マグナ、そしてリューグはうなずきあい。
を抱えたまま、マグナとリューグは逃げ出した。
「あっ、さん!!」
誰かの叫び声の後、ものすごい殺気が追いかけてくるのがわかったが。
しかし、放置してもろくなことにならないのも、彼らは経験上よくわかっていた。
2003.11.15