始まり。
始まりの呪文
「いやー、しかしあれは笑えたなー。連中はこけるし」
「……笑わないでよ。だからヤだったんだってば」
一難二難去った後の夕食。
の乾電池召喚は、早くもネタにされていた。
「そんな面白いんなら、ぜひ見てみたかったわね」
「ミモザ……」
けらけら笑うミモザの横で、汗を一筋流すギブソン。
「ホント面白いよな、お前さんは。初めて会ったときも……」
「その話はもういいってば―――!!」
「あの……マグナさん?」
「ん、何?」
「さんって、どういった経緯でここにいるんですか?」
アメルの質問に、マグナは不思議そうな表情をした。
「あれ?話してなかったっけ?」
「聞こうかなと思ってたんですけど、それどころじゃなかったから……」
そういえばそうだな、とマグナは思った。
召喚師でも冒険者でもないが、このメンツの中に混ざっていたこと自体(端からは)不自然に見えたかもしれない。
「そうだなー……確か、まだゼラムにいたとき、野盗の話を聞いたんだよ。で、トリスが自分だけでも戦う、って行っちまって……」
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「いい加減にしろ! トリス!」
「ついて来なくていい、って言ったでしょ!!」
やっとトリスに追いついたマグナとネスティ(+護衛獣)だったが、やはり始まったのはおなじみの口ゲンカだった。
「君が犬死にするのをほっておけるか!」
「あたしだって召喚師よ、ちゃんと戦える!!」
「バカを言うな、戦いってものは君が思ってるほど甘いものじゃないぞ!!」
「バカバカ言わないでよ!!」
「バカにバカといって何が悪い!」
……最初からにせよ途中からにせよ、ケンカの内容というものは低レベル化していくのが世の常である。
この時も例外ではなかった。
完璧に第三者状態になったマグナ達の思いは二つだった。
一つは「いい加減にして欲しい」。そして、もう一つは……
「あのさあ、二人とも……」
「だいたい真正面からなんて……」
「おい、ニンゲン、メガネ……」
「じゃあ不意打ちしろって言うの!?」
二人とも、相手の言葉以外まるで聞いていない。
マグナとバルレルは同時にため息を付くと、大きく息を吸い込んだ。
「「おいっ!!」」
二人分の大音量はさすがに効いたか、トリスもネスティもケンカを中断する。
「……テメエらなぁ、状況わかってるのか?」
「二人が騒ぐから、とっくに気づかれてるんだけど」
マグナが指さす先には。
「ガキが騒がしいと思ってりゃ……召喚師様とはねぇ」
ひゃははと下品な笑い声をあげる集団が、ぐるりと彼らを囲んでいたのだった。
「まずいな……頭上から完全に囲まれてる」
「わかってるじゃねえか、そこのメガネ。ワシが合図すりゃ、ここから矢を射かけるだけでお前らはなぶり殺しよ?」
「では、どうしてそうしなかったんだ?姿を見せるからには、それなりの目的があるんじゃないのか?」
ネスティの質問に、首領らしき男は待ってましたと言いたげな顔になった。
「なあに、簡単なこった。お前らがワシらの言うことを聞いて、その召喚術を役立てるなら……命だけは助けてやろうって話よ」
部下になれ。さもなくば殺す。
早い話がそういうことだと察し、マグナ達は奥歯をかみしめた。
「どうだ? 選択の余地は……」
ない。そう続くはずだったが、男は最後まで言うことができなかった。
がきぃん!
ぐぎゃあぁぁっ!!
金属音と男の悲鳴に、その場にいた誰もが動きを止めた。
発生源とおぼしき場所には、剣を持った大柄な男。
「大のオトナがまぁ、子ども相手に大げさなことだねー」
飄々と言って、また一人を切り伏せる。
野盗達もそれでようやく我に返り、男に攻撃しようとしたが、
ひゅっ……
「なっ……!?」
風を切って、一本の矢が首領の足下に刺さった。
「どうやら、頭目はあなたみたいね。覚悟なさい!」
声と共に、岩陰から女性が現れる。
ちっ、と首領は舌打ちをすると、一番確実であろう手段を取った。
「半分はここを押さえろ! 残りはあいつらの始末だ!!」
突然の邪魔に浮き足立っていた野盗が、その命令で再び統率を取り戻し始めた。
だが、このチャンスをマグナ達が逃すはずがなかった。
「ギヤ・ブルース!」
混乱に乗じて、こっそり呪文を唱えていたネスティの召喚術が発動する。
「プチメテオ!」
続いて、こちらもこっそり唱えていたトリス。
半ば気を逸らしていた野盗達は、気づくのが遅れてまともにそれらを食らった。
首領は再び舌打ちすると、マグナ達の方に向かって走り出した。
「ちょっ……どうしよう! こっち来るよ!?」
「どうやら、こちらを潰した方が早いと判断したみたいだな」
「冷静に分析してる場合じゃないだろ!?」
言っている間に距離はどんどん縮まっている。
まず一番弱いと判断したのか、トリス目がけて。
「わっ……ちょっ、来ないでよ!」
あわてて呪文を唱えようとしたが、間に合わない。
「覚悟しやがれぇ!!」
ガッ……!
鈍い音がした。
しかし、続くべき悲鳴は聞こえてこない。
「なっ……?」
首領の攻撃は、バルレルによって防がれていた。
「勝手なことするんじゃねぇ……こいつが死んだら、オレが帰れねぇんだよ!」
思い切りはじくと、首領に向かって槍を繰り出す。
そこにレオルドも加わり、首領は足止めされた状態となった。
「今のうちに……!」
マグナとトリスは、ほぼ同時に呪文を唱え始めた。
そして、やはりほぼ同時に詠唱が終わる。
「「異界のものよ、その力を示せっっ!!」」
まばゆい光が走り、異界の門が開かれる……はずだった。
が、光は不規則に点滅を始める。
その上、ぎしぎしと軋むような音までしてきた。
「まずい、暴発するぞっ!!」
ネスティの警告は間に合わなかった。
爆発するように光は広がってゆく。
ぱりぃぃん……と音が響き渡った。
しーん……
「…………?」
全員、おそるおそる目を開けた。
何も起こっていない。
爆発はおろか、何かが呼び出された形跡もなかった。
「なんだ、おどかしやがっ……」
首領はそう言いかけて……気づいた。
空には雲一つないのに、自分の頭上に影ができていることに。
上を見てそれに気づいたときには、もう遅かった。
「てぇぇぇっっ!?」
どさっっ!
次の瞬間、首領は落ちてきたものに押しつぶされていた。
「へ?」
「女の子……?」
呆然と、マグナ達はつぶやく。
落ちてきたもの。
変わった服装をしてはいたが、どう見ても人間の少女だった。
気を失っているのか、ぐったりして動かない。
下敷きにされた首領は、やっとの事で少女の下から這い出る。
「なんだ、この小むす」
ひゅるるるるる……
ごすっ!!
「め゛っ!?」
再び降ってきたものが頭を直撃し、首領はばったりと倒れた。
よく見ると、それは鞄だった。おそらく少女のものであろう。
冗談のような光景に、しばし時は止まる。が、
「……さあ、お前らのボスは倒れちまったぞ! あとはお前らだ!!」
真っ先に立ち直ったのは、大柄な男だった。
リーダーを失い、今度こそ統率を失った野盗達にもはや勝ち目はなかった。
さほどかからないうちに、全員お縄となったのである。
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「ふーん、そうだったんだ」
「うわっ!」
突然割って入った声に、マグナは驚いて席を立ちかけた。
いつの間に来たのか、マグナの後ろにがいた。
「さん……いつから聞いていたんですか?」
「ネスとトリスの口ゲンカあたりから。……にしてもフォルテ、ずいぶんはしょってたわねぇ……」
「え?フォルテ、ちゃんと話したって言ってたけど……?」
「私が落ちてきたたとこだけね。鞄が直撃したなんて、一言も言ってなかったわよ」
「まあ、フォルテさんも途中から来たから、マグナさんほど詳しくは……」
「いや、わかんないわよ。フォルテのことだから、とんでもないことチェックしてたり……」
アメルのフォローを遮っただが、答えは意外なところから来た。
「ソウイエバ殿ガ落下シテキタ際、ふぉるて殿ガ『オッ、白ニ猫ノわんぽいんと』トオッシャッテマシタガ……」
ぴし。
レオルドの一言に凍りつく者数名。
主にそれが誰かは、もはや言うまでもない。
「フォールーテー?」
「詳しくお話聞きたいんだけど?」
とケイナににじり寄られるフォルテ。顔には大きく「マズイ!!」と書いてある。
「それじゃ、俺はこれで……」
当然逃げようとするが、二人がそれを許すはずもなく。
がしっとフォルテの腕を掴むと、仲良く応接室の外へと引きずっていった。
数秒の間の後。
「あんたは――――っ!!」
「本日二度目のちゃんラリアート――――っ!!」
続いてフォルテの叫び声。
「……あの時は、もう少しおとなしい子かと思ってたんだけどね」
「でも、元気になりますよ。さん見てると」
「……そうだな」
レルムの村が襲撃されてから、もうすぐ三日。
今日もギブソン・ミモザ邸はおおむね平和だった。
話としては8話の後くらいですが、どちらかといえばおまけ話なので閑話。
主人公はいかにして呼ばれたか?ということで書いてみました。
最後のフォルテのアレは…オチにちょうどよかったので追加。
んで、聞いてるとしたらレオルドかなー、と…この後絶対困惑してる(笑)
またこういう話を書くかどうかは…未定(オイ)