前途多難な私達・第30話
第30話
あれから、どうにかレルムの村跡に無事にたどり着くことができた。
そこで再会したアグラ爺さんの話をまとめると以下の通り。
・爺さんは元デグレアの将軍。しかも、獅子将軍とまで呼ばれた有名人。
・昔、任務でアルミネスの森に行った。内容は森のどこかにある遺跡探し。
・が、爺さん以外の全員が悪魔に殺されて失敗。
・逃げている最中に、森の中で拾った赤ん坊がアメル。
つまり、爺さんとアメルには血の繋がりはない。お婆さんも小さいアメルに他の家族のことを聞かれて、爺さんがつい言ってしまった嘘だったのだ。
それを聞いたアメルは、笑顔で爺さんに感謝の言葉を告げた。
……よかった、アメルが許せるような内容で。
アメルが爺さんに暴行始めなくて、本当によかった……!
そんなこんなで、やっと戻ってきました聖王都。
本部に手紙を届けた後は、またアルミネスの森に行くための準備をしないと。
そう思いつつ、ギブソン先輩達の屋敷に入ると。
「お姉ちゃん、久しぶり!」
小柄な男の子がに飛びついて……って、エルジン?
「離れてくださいこのクソガキ」
言いながら、からエルジンをべりっと引き剥がすアメル。
うわ、思い切り素になってるよ。
「邪魔しないでくれる、おばさん?」
やっぱりそっちも装う気はないらしく、不満げな表情を浮かべるエルジン。
うわ、火花が散ってるよ……
が「あの、一応私よりアメルの方が年下なんだけど……」とつぶやいてるけど、二人とも気づいてない。……いや、気づいていて流してるよな、これは。
「とりあえず、知ってる顔もいるけど新顔さんも多いし。お茶でも飲みながら自己紹介をしましょっか?」
ミモザ先輩が中へと促す。
お邪魔します、と言いつつそそくさと玄関を抜ける俺達。
もちろん、アメルとエルジンの争いのとばっちりを受けたくないから、だ。
その後、先輩から話を聞くと。
どうやらエルジン達の調査が先輩達の任務との共通点が出たので、協力体制をとることにしたらしい。
一刻も早く解決することを祈ろう……屋敷や聖王都の平和のためにも。
それから、買い足しのため街に出た。
そういや大将どうしてるかな、と屋台のあった場所に寄ってみる。
……あ、いた。屋台もあった。
「やあ、こんにちは、マグナさん」
「こんにちは、大将。いつ、ファナンから戻ったんですか?」
「祭りが終わってすぐに引き上げたんですよ。もともと、そのために移動したんですし。なにやら、西の方で戦争が始まるという噂も聞きましたからね」
噂?
そんなのは初耳だ。
「領主からの発表とは違うんですか?」
「ええ、噂そのものは祭りが始まる前からぽつぽつと……やはり、噂を裏づけるようなことが実際に起きているんですか?」
俺は当たり障りのない範囲で、大将にトライドラが落とされたことを話した。
そのうち公表されることだし、大将みたいに移動して商売する人なら知っておいた方がいいだろうし。
それに、うかつに言いふらす人でもなさそうだ。
「『聖王国の楯』がすでにデグレアに陥落させられたとは……」
「近いうちに正式な発表があるとは思うけど。それまでは、今のことは秘密にしておいてくれませんか?」
「それは勿論ですよ。しかし……驚きましたね……」
「なにが?」
「いえね、私が聞いた噂というのが、貴女のおっしゃった事実とほぼ、完全に符合するものなんですよ」
「ええっ!?」
俺達は居合わせたから詳しく知ってるけど、噂とほぼ同じ?
いくらなんでもおかしくないか?
「偶然なのか、あるいは事実を知る者が流したせいなのか……いずれにしろ、民衆に余計な動揺が起きないことを願いますね」
大将の言葉は、俺の心に不安を落とした。
何かが知らないところで動いてるような、そんな気がしたのだ。
夕飯後、一緒にお茶してたアメルととで昼間の大将の話になり。
その最中に、二人してお腹が鳴った。
夕飯もあまり食べてなかったし、なんだかんだで二人とも不安だったんだろう。
食欲のあるうちに、それに俺も腹減ったと適当に理由を付けて、三人であかなべに向かうことになった。
「おや、いらっしゃい。こんな遅い時間にいらっしゃったのは初めてですよねえ」
「こんばんわー、小腹すいちゃったから護衛付けて来ましたー」
大将の挨拶に、が明るく答えた。
護衛か……なんか、に信頼してもらってるみたいでいいな。
本人には、そこまで深い意味はないんだろうけど。
「ですが、女性が夜道を歩くのは危険じゃありませんか? お二人とも、とても魅力的ですし」
「やだなー大将、お世辞言っても何も出ませんよ?」
「いえいえ、お世辞など言ってませんよ。私は、正直者ですから」
「またまたー」
いつもの俺だったら、この会話に口を挟んでいたかもしれない。
でも、わかってしまっていた。
無理して明るく振舞っている、の様子を。
だから、
「ご注文は何になさいますか? 今日はおいしい小エビが手に入ったので、かきあげソバがお勧めですが」
「じゃあ、私はそれで!」
「俺はいつもの天ぷらソバで」
俺にできるのは、気づかないふりをしてこの食事を一緒に楽しむことだった。
「マグナさんのおソバに乗ってる、えびてんっていうのがおいしそうでしたね」
「そういえば、マグナはよく天ぷらソバ頼んでるね。好きなの?」
帰り道、二人とも少しは元気が出たのかソバの話で盛り上がっていた。
「そうだな……俺、揚げ物の中ではあれが一番好きかも」
かりっとした衣もいいけど、ソバのスープがしみた味もまたいいんだよな。
かきあげとかも試したけど、やっぱりえびてんが一番美味いと思う。
「今度、大将に作り方聞いてこようか?」
「あ、あたしも知りたいです」
「えっ、ホント?」
あれがもっと食べられるようになる……しかもの手作り。
楽しみだな……
「アメル? どうしたの?」
幸せ色の妄想が、の声に打ち切られる。
当のアメルは、こわばった表情で立ち止まっていて……
「危ないっ!」
俺が殺気に気づくと同時に、アメルがの腕を引っ張るようにして飛び退く。
一拍遅れて、俺達がいた辺りに刺さるナイフ――違う、この形状は。
飛んできた方向を見ると、月明かりに照らされて屋根の上にたたずむ黒装束。
「囲まれてる……しかもこの人達……」
の言葉通りの状況に、心の中で舌打ちする。
さっきまで、まったく気配を感じなかった。
なのに今は、似たような黒装束が不気味なほどの威圧感をまとってこちらを包囲しつつある。
ある程度近づくと、その理由がわかった。
その全員が、人間らしからぬ強面に角を生やしていたのだ。
「我が主君、キュラー様の命は『聖女』の捕獲……」
ひたり、と近づいてきたそいつらは、
「邪魔者は消すっ!!」
その一言を合図に、一斉に襲い掛かってきた。
とっさにと、アメルを挟むような陣形を取る。
が、数が多すぎる。
流石に剣で一人ずつ相手にできる余裕がない。
無駄を承知で召喚石に手を伸ばした、その時だった。
「ぐウっ!!」
突然、そのうちの一人が崩れ落ちる。
絶命したらしく、そのまま消えた。
突然のことに、俺達はおろか黒装束達まで動きを止める。
「なるほど……なかなかうまい尾行をすると思いましたが」
そこへ、浮かび上がるように姿を現したのは。
「悪鬼へと成り果てたシノビでしたか」
似たような黒装束に身を包んだ、シオンの大将だった。
え? どういうことだ?
大将が敵を倒して、でもその大将は似たような格好で……あれ?
「大事なお得意様にこのような狼藉を働かれては……私としても、見過ごすわけにはいきません」
近づいてくる大将を改めて見て、悟った。
この人は――強い。
「ぐヌぬぬぬ……っ、死ねエェッ!!」
邪魔をするなというように、一人が大将に飛び掛かる。
俺から見てもそいつは速く、逃げろという言葉が喉まで出かかったが、
「……甘い!」
大将が消えたかと思ったら、次の瞬間にはそいつの背を斬りつけていた。
断末魔をあげながら倒れ、消えていく。
「大将……シオンさん。あなた、一体……」
「申し訳ありませんが、説明は後で」
の問いをやんわりと遮る大将。
その目に怒りが見えたのは、多分俺の目の錯覚じゃない。
その証拠に。
「それに……あなた方、先程『邪魔者は消す』とおっしゃいましたよね……?」
一段と、低い声での問いかけ。
……あ、嫌な予感が……
「あたし以外ってことは、そこにさんも含まれるってことですよね……?」
そこに、最凶聖女様が乗っかり。
「その喧嘩、遠慮なく買わせてもらいます」
「もちろん、あなた方の命つきで」
二人揃って、壮絶な笑みを敵に向ける。
ロッカとは別の意味で、やばそうな人がアメルと手を組んだ瞬間だった。
……デグレア逃げて。超逃げて。
お待たせしましたの大将編。
どちらも利害が一致すれば、たとえ恋敵でも手は組みます。
次回、歩く災害ズ爆走。
2014.8.31