前途多難な私達・第29話
第29話


 ユエルのことも一段落し。
 俺達は再び、聖王都へ戻るための準備を始めたのだけれど。

 「ああ、いいところに来てくれて助かりましたよ」
 そう言って買出し中の俺とを呼び止めたのは、シオンの大将だった。
 ああ、そういえばこっちに来てたんだっけ。

 「いいところってどうしたんですか?」
 いや、実はですねと大将が切り出す。
 「店の支度をしようとここにやって来たら、怪我をして倒れてる人を見つけてしまって。介抱しながら事情を聞いてみると、これがあなた達の知り合いらしいんですよ」
 「えっ!?」

 「こちらの方なんですが、どうでしょう?」
 大将の示す先には、見覚えのある赤い髪。
 「リューグっ!?」
 アルミネスの森で、いつの間にかいなくなっていたリューグがそこにいた。

 「よお……」
 リューグにしては珍しく、弱々しい口調だ。
 よく見ると、あちこちに包帯などの手当ての跡がある。
 「しっかりするんだ、リューグっ!」
 「うるせぇぞ……」
 本当に辛そうだ。いったい何が……

 「テメエらがあっちこっちフラフラしやがるから……探すのに手間どってこの有様だぜ。ったく、せっかく人が迎えに来てやったっていうのによ……」
 「迎えに?」
 迎えって……何のことだ?
 それを聞く前に、リューグが続けた。
 「ジジイがな……お前らを連れて、村に来いってよ……」
 「えっ!?」
 「なんだって!?」
 ジジイって……まさかアグラ爺さん!?

 「生きてやがったのさ、あのジジイ……俺は、別に嬉しくもねえがな……アメルにゃ……いい知らせだろ……」
 そうか、無事だったんだ。
 よかった……

 「な、あ……?」
 不意に、リューグの体が崩れ落ちる。
 「リューグ!?」
 「大丈夫ですよ。さっき私が飲ませた痛み止めの薬が効いてきたんでしょう。事情はよく解りませんが、かなり無茶をしてここまで旅をしてきたようでしたからね」
 そうか……そうだよな。
 黒の旅団の追っ手だっていただろうし。

 がぺこりと頭を下げた。
 「大将、ありがとうございます」
 「いえいえ、困った時はお互い様です」
 大将はにこやかに笑って……
 ……ん?

 「ぐ……し、しびっ……」
 「あの、大将? リューグが……」
 なんか、痛み止めが効いた割には苦しんでないか?
 大将は不思議そうに薬を取り出して、あ、と小さくつぶやいた。

 「すみません間違えました。これは賊撃退用の痺れ薬でした」
 「か、カーッツの葉どこ――っ!?」
 「えっと、ルニアの召喚石ルニアの召喚石――っ!!」





 そういう訳で、予定変更。
 聖王都に行く前に、レルムの村に寄ってアグラ爺さんに会っていこうという話になった。
 聞きたいこともあったしな。

 その、道中で。

 「独断で動いて正解だちゅどおぉぉん!!ぐあっ!?」
 すべて言い切る前に、アメルのレヴァティーンにぶっ飛ばされる人影。
 「何か聞こえた気がするけど気のせいですよね、さあ先を急ぎましょうか」
 そして清々しいまでの笑顔でのたまう、ぶっ飛ばした本人。
 ただ、優しいは無視できないようで、
 「えーと、でも今の……」
 「気のせいですよ、先を急ぎましょう」
 「けど今……」
 「先を急ぎましょう」

 「待て貴様らっっ!!」
 息を切らせながら走ってくる男。どうやら、なんとか軽症で済んだらしい。
 「いくら敵とはいえ、話の途中で吹き飛ばす奴がいるか!!」
 槍を振り回しながら怒鳴る……
 ………………………………………………
 ………………………………
 ………………えーと。

 「……ごめん、誰だっけ?」
 「なんだとぉっ!?」

 いや、黒の旅団だってことはわかる。
 ルヴァイドの部下に、こういう男がいたこともうっすら覚えてる。
 だけど……名前がいくらがんばっても出てこない。

 「え、兵士その一じゃないんですか?」
 「違うよアメル、ルヴァイドの部下Aだろう?」
 「アメル、ロッカ……そんなお芝居の端役みたいな扱いしなくても……」
 「そうだぞ、こいつだってれっきとした名前が……」

 『………………………………………………』
 沈黙。
 あ、俺だけじゃなかったみたいだ。

 「おい、目をそらすな空を仰ぐな! イオスだ忘れるな!!」
 ああ、なんかちょっとかわいそうな気分に……って、原因は俺か。

 「そうだぞマグナ、いくら君が馬鹿だからって敵の名前まで忘れるんじゃない」
 ため息をつきながらネスが言う。
 いや、他のみんなだって忘れてたぞ。

 「けどさ、最近キュラーやビーニャの印象強すぎてさあ……」
 「あー、そういやルヴァイド達、このところ相手にしてなかったからなあ」
 「っていうか、イオスと最後に戦ったのいつだっけ? あんま覚えてないんだけど」
 まあ確かに、イオスと戦った記憶って印象薄いんだよな。
 ガレアノ達の時が強烈過ぎたっていうのもあるけど。

 「……なあ、暢気すぎるお前らを殴りたいと思う俺は間違ってるか?」
 「今回ばかりは同意するぞ……」
 リューグとイオスだけが、頭痛そうに手を当てていた。

 そんなイオスに、なぜかアメルは堂々と、
 「別にいいじゃないですか。他の連載せかいで優遇されまくってるんですから、ここでくらい弄られても」
 「何の話!?」
 (そこの聖女、別の連載の話はするな)

 「……とにかく、その男はやはり貴様らと合流するのが目的だったようだな。行き先はゼラムだな?」
 咳払いをしながら、イオスが話を戻す。
 「あ、無理矢理話題を戻しましたね。大変ですよね、出番の少ない影薄さんは」
 「だからその話はもういい!!」
 ロッカの嫌味に、キレ気味にイオスが叫んだ。

 イオスは深呼吸した後、再び咳払いし。
 「だからあいつらは嫌いなんだ……これ以上、あの召喚師達に好き勝手をさせるわけにいかない」
 あ、前半思い切り私情入った。
 まあ、あんなのが仲間にいたんじゃ無理もないか……
 「そのためにも『鍵』となる聖女、渡してもらうぞ。絶対に!!」

 …………………は? 鍵?
 ってことは……

 「そんな、まさか……アメルで戦力強化する計画じゃなかったのか!?」
 俺の言葉に、イオスや旅団兵だけでなくみんなまでこけた。
 「ちょ、マグナ!? 本気でそう思ってたの!?」
 「いや、だって……他にアメルの使い道思いつかないし」
 「うふふふふふ、あたしを何だと思ってたんですかマグナさん?」
 「リィンバウム最強の魔王」
 「……そうですか、後でしっかり教育的指導しないと」
 あっ、しまった! 思わず本音がっ!!

 「貴様ら、いい加減にしろ―――――っっ!!」
 うわ、イオスがとうとうキレた。
 「どうやら、貴様らにまともに話す気はないようだな! 総員、いけぇっ!!」
 合図と同時に、襲い掛かってくる旅団兵達。

 「どうしても、このまま通してはくれないんですね……?」
 「……アメル、怒らせたのはあたし達だよ……」
 っていうか、ある意味俺だよな。ごめん、





 「何故だ、何故勝てない!?」
 戦い済んで。
 悔しそうに歯噛みするイオスに、俺達は顔を見合わせた。

 「だって……」
 「そりゃ……」
 「ねえ?」
 『リィンバウム最強の聖女が相手だし』

 「くそぉぉぉぉぉっっっ!!」

 ……うん、相手が悪すぎたよ。
 ガレアノ達ですら嫌がるくらいだからなあ。





 まわりのアクが強すぎて、忠臣もはや影薄状態。
 やっと再登場した双子弟共々、苦労のオーラが漂っております。
 最凶どもの独走はもう止まらないのか。
 調律者一行と黒の旅団の明日はどっちだ!?



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ネタが思いついて、ふと気づきました。
……イオス、ホントにほとんど出番も活躍もないじゃんこの話!
まあ、こっちのメインはマグナなので諦めてください(おい)
ぶっ飛ばされるシーンわざわざ書くのもかわいそうだし。

2013.3.17