新春独占
 一年の計は元旦にあり、といいますか。
 心機一転を図るには、まさにちょうどいい一区切り。

 とはいえ。
 例えそんな日だろうが、何事もなく終わるわけはなかったわけで。







新春独占


 「新年争奪、年越しビンゴ大会――――――!!」
 「……はいいんだけど」

 高らかに叫ぶミモザに、ぼそりとつっこむ。
 いや、だってだよ?

 「……なんで私だけ不参加なわけ? それに何、コレ」
 首にチョーカーのようにかかってるリボンをつまむ。
 みんなにビンゴカード(いかにも手作り)が回ってる間に、ミモザにつけられたのだ。
 そしてついでのように「あ、ちゃんはカードないから」と言われた。

 「そりゃ、賞品が参加しちゃ意味ないでしょ?」
 「……はい?」
 賞品、って……まさか……

 「なお、一番の人にはちゃん一日自由権が贈られまーす!」
 「やっぱりか!!」
 ってか、何勝手に決めてるの!

 「ちょっと、私はそんなの許可したおぼえは……」
 「みんな楽しみにしてるのよ、ねーユエル?」
 私の抗議を無視して、ミモザがユエルに声をかける。
 「一番になれば、明日一日ちゃんと好きなだけ遊んでもいいのよ?」
 「えっ、本当!?」
 嬉しそうな笑顔を浮かべ、こっちに期待のまなざしを向けるユエル。
 うっ……そ、そんな目で見られても……

 「ハサハちゃんだって、ちゃんと一緒に遊びたいわよねぇ?」
 ミモザに言われて、ハサハまでじーっとこっちを見る。
 うくっ……ひ、人の弱みをっ……

 「……わかってくれたみたいね。それじゃ、全員ちゅうもーく!」
 自分の勝利を確信したか、ミモザは何事もなかったようにルール説明を始めた。
 ……こうなったら、私にできることはただ一つ。
 無茶な要求してこない人が一番になるよう、祈るのみだ。
 幸か不幸か、ビンゴゲームは完全に運任せだ。

 「……絶対負けないからな」
 「上等だ。テメエこそ、吠え面かかせてやる」
 えーと、イオスさん、リューグ君?
 なにゆえ不穏な空気を撒き散らしてるのデスカ?
 そりゃ、あんまり仲いいほうじゃないけど。





 そんなこんなでビンゴが始まり、十分くらい経っただろうか。
 「……暇」
 はっきり言って、ビンゴを眺めてるだけなんて、退屈以外の何物でもない。
 考えてみたら、ビンゴは参加して楽しむもので、観戦するわけじゃないし。

 あー、なんか眠くなってきたかも……

 その後の事は、よく覚えていない。





 「お持ち帰り〜♪」
 「は?」
 やたら能天気な声が聞こえる。
 誰かがこっちを覗き込んで……って、待てぃっ!

 「な、何コレ!?」
 気がついたら、私はなぜかフリルやりボンがやたらついたピンクのワンピースを着ていた。
 その上、どうやら誰かに……その、お姫様抱っこをされてるみたいで。

 「ちょっ、やだ、下ろして―――っ!!」
 「ダメだよ、もう俺のものだから♪」
 やっぱり、能天気な声で断る『誰か』。
 どこのどいつだと思って睨んだが、どういうわけか顔がぜんぜんわからない。
 まるで、そこだけもやがかかってるみたいだ。

 「と言うわけで」
 そいつは突然、真剣な声色を出した。
 そして、顔がだんだん近づいていく。
 近づいてるくせに、顔はわかんないままなのか……って!
 まさかこのまま、き、き……!?

 首を動かして逃れようとするけど、相手も諦めない。
 抱きかかえられている身に自由がきくわけもなく、ついに視界が肌色で埋め尽くされて――――





 「ビンゴ!!」
 誰かの声で、目が覚めた。
 辺りは、見慣れた屋敷の部屋。
 もちろん、私が着ているのはフリルもリボンもないいつもの服だ。

 夢か……我ながらなんて夢だ。
 それとも、ミモザあたりが変な召喚術使ったりは……
 ……ありそうだ……

 などと考えていると、みんながにわかに騒ぎ出す。
 あー、とか、ちくしょー、とか。
 ……あれ? ちょっと待て。
 ビンゴってことは、私の一日自由権とやらが決まっちゃったってこと!?

 あわてて声の主らしい人物を探すと、それはあっさり見つかった。
 満面の笑みを浮かべて、一列潰れたカードを高く掲げていたのは――


イオス

ネスティ

アメル



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2008.1.1