第0話
第0話 放り出されて別世界
きーんこーんかーんこーん…
「きりーつ、礼」
『さようならー』
あー、やっと終わった……
今日も一日、長かったなあ……
「、また徹ゲー? ずっと眠そうだったよ」
「んー……」
気の抜けた返事だっていうのは、自分でも分かる。
だって、やっと買えたサモンナイト2なんだもん。思いっきり堪能したいよ。
カルマと番外編ようやく終わったから、そろそろ本編に戻りたいし。
「ホント、ゲーム好きだよねー……」
「だって好きなんだもん」
「まあいいけど。……ところで、進路決めた? 明日提出でしょ?」
「あ、そっか。……一応、専門学校か短大を考えてるけど」
「ふーん、いいなあ……ウチなんか、親が『大学行け』の一点張りだよ? しかも、就職を考えたら経済とか法律とかだって……娘のアタマ考えてるのかなぁ? あーあ、夢も希望もないったらありゃしない……」
(夢も希望もないったらありゃしない)
クラスメートと別れた後も、この言葉は頭から離れなかった。
夢を持って将来を決められるのはほんの一握り。私だって将来に夢があるわけではない。
だけど。
(ひとときの夢に浸るくらいは、許されるよね……?)
思い浮かんだのは、ファンタジー小説や今までやったゲーム。
こんな状況だからこそ、ああいう物語の主人公達に憧れるのかもしれない。
逆境に苦しみつつも、自分の手で未来を切り開いてゆく彼らに。
(……なーんてね。さて、早く帰ってサモナイ2やろーっと)
気を取り直したその時。
カメラのフラッシュのように、あたりが光った。それも数回。
「へっ?」
思わず間抜けな声を出し、うわしまったと思いつつまわりを見たが。
誰もいない。
さっきまで通行人とか、同じ学校の生徒とかがちらほら見えたのに。
「なんで……?」
つぶやいた瞬間、今度は耳鳴りがしてきた。
それは収まるどころかだんだん強くなり、とうとう頭にまで響いてきて、私は地面に座り込んだ。
(何、なのよぉ……いったい……)
視界がだんだんぼやけてくる。
そして宙に浮くような感覚を最後に、私の意識はとぎれた。
「ダメ……全然目を覚まさないよぉ……」
「ど、どうしよう……」
「知らん、僕に聞くな」
「気絶してるみたいだから、ほっときゃ目を覚ますと思うがなあ……」
「でも、この状況でこのままにしておくわけにもいかないし……」
話し声が聞こえる……
っていうか、何人かは聞き覚えがあるよーな……?
やけに重たい瞼をなんとか開けると、真っ青な空が見えた。それこそ電線一本も見えない……
……………………
……って、ええっ!!
思わずがばっ、と身を起こすと……驚いた顔でこちらを見つめる面々。
……しかも、全員知った顔。
で、その背後には谷や崖。流砂が滝のように流れている。
むろん、学校の近くにはこんな所はない。
「あ、えーと……君、大丈夫?」
そうとまどいがちに問いかけた男の子は、どう見てもマグナで。
……それは置いておくとして、ネスティやフォルテ達はともかく、なぜトリスや護衛獣全員までいるのでしょーか……?
1.これは夢である。
2.単なるそっくりさん。
……我ながら発想力ないなぁ……
まず、2はないだろう。単なるそっくりさんがわざわざコスプレして、こんなトコまで人を連れてくる必要ないだろうし。
夢……でもないだろう。吹きすさぶ風や舞い散る砂埃とかが、「これは現実だ!」と物語っている。それこそ、頬をつねる必要ないくらい。
……一応確認した方がよさそうだ。
「あのー……つかぬ事をお伺いしますが……」
「ん、何?」
「……東京や京都って知ってます?」
とりあえず、無難な地名を出してみる。
が、彼らは少し考えた後、横に首を振った。
「……日本は?」
こちらも反応は同じ。
「地球は……知らないよね、その様子じゃ」
今度は全員、ほぼ同時にうなずいた。
そして、最後の砦。
「……ここ、どこ?」
「ここは、リィンバウムの……」
「流砂の谷だ」
…………
どうやら本当にサモナイの世界らしい……って、ちょっと待て。
つまり……
この世界では私たちの世界のことは解明されていない
↓
帰り方が分からない
↓
帰れない
ちーん……という音が聞こえた気がした。
「ちょ、ちょっと待ってよーっ! 明日も学校があるのに―――っっ!!」
数学の先生、むちゃくちゃ出席にうるさいのに――――っっ!!
いや、それ以前に新聞やテレビで「女子高生失踪!?」とかなったり……
そんなんで名前が出るなんて嫌だ―――――――っっ!!
「あ……ご、ごめん……」
「謝ってすむ話じゃないと思うけど……必ず、帰す方法見つけるから……」
マグナとトリス……でいいんだよね、やっぱり……に謝られ、とりあえず私の興奮は収まる。
……そんな顔いっぱいに「私達が悪かったです」って書かれちゃ、怒るに怒れないです、はい……
「そういうことだ。その時まで、こいつらが責任持って君の面倒を見るから」
「って、ネス!それじゃまるで俺達が……」
「……違うのか?」
「うっ……」
「……違わないです……」
この光景を生で見られるなんて…
……とりあえずラッキーと思っておこう……
「あー、それはともかく……俺ら、自己紹介まだだったよな?」
『……あ』
フォルテの一言に、ほぼ全員のつぶやきがハモったのであった。
私はともかく……まだ名乗りあってなかったのね、この人達……
で、自己紹介をすませた後。
ゼラムに戻るマグナ組を見送って、私は見張り役のフォルテ組と一緒にいた。
ネスティ曰く、「土地勘がないのに動く方が危険だ」ということで。
ヒマだったこともあって、召喚されたいきさつをフォルテから聞いたんだけど……
「……つまり、マグナとトリスが召喚事故を起こして私が出てきて、下にいた野盗の首領を押しつぶした、と……」
「ま、そーいうこと。……もしかしたらどっちか一方かもしれねーけど、な」
そう言って、フォルテは豪快に笑った。
……こっちは笑い事じゃないってば。
しかも、あのおっさんを下敷きに……嫌すぎ。
「ちょっとフォルテ、無神経なこと言わないの! ほら、が落ち込んじゃったじゃないの!!」
「あ、いえ……ちょっと想像しただけです。気にしないで下さい」
「まー確かに、おっさんの上ってのは嫌だよなあ。どーせならべっぴんのおねーさまの方が……」
あんたじゃないんだから、と思うと同時にケイナの裏拳が炸裂した。
「ぐふぅっ!」
「……だからやめなさい」
うーむ、見事な夫婦漫才……本人達の前で言ったら怒られそうだけど。
「……コホン、何にせよお前さんのおかげで連中が捕まえやすくなったのは事実だからな。一応、礼を言っとく。ありがとな」
「はあ、どーも……」
確かに役に立ったんだろうけど、なんか複雑……
……でも、無事にすんだだけラッキーなんだよね……ヘタすりゃ気絶している間にやられてただろうから。
そう考えたら、なんだかうすら寒くなった。帰れる以前に無事でいられるのかなぁ……?
どーか、すべて終わるまで生きていられますよーに。
この世界に神様はいないと知っていても、私は祈らずにいられなかった。
こうして、唐突に始まったリィンバウムでの一日目は過ぎていった。
人のを見ているだけじゃ飽きたらず、ついに自分で作ってしまいました……
しかも、野盗の上に落ちるわパニック起こすわという難儀な主人公に……
次回からは(嬉)モード入ります。多分(オイ)
さー、次はレルムの村だー。