第1話
第1話 始まりはここから


 きーんこーん……と、休み時間終了のチャイムが鳴る。
 やばい、次数学だ……早く準備しないと。
 やっとの事で教科書とノートを見つけたところで、がらっと音がして誰かが入ってくる。
 「カーッカッカッカ! さあ授業を始めるぞ!」
 …………は?
 私はふっと顔を上げ……そして再び固まった。
 ちょっと待てーっ、なんでガレアノがウチの学校にいるのさ!?
 「では今日は、作った屍人の保存方法を……」
 しかも内容が、数学とは関係ない上ホラーチックだし!!
 だぁ―――っ、夢なら覚めてお願いっっ!!



 「……ねえ、ってば!」
 身体を揺すられて、不意に私は目を開けた。
 視界に広がるのは、木の天井と心配そうなケイナの顔。
 「あ……?」
 「大丈夫? すごくうなされてたけど……」

 ……思い出した。サモナイの世界に来ちゃったんだっけ。
 さすがに派閥の中にまでは行けないから、お昼に合流ってことでフォルテ達と宿屋に泊まって……
 ヘタにお金を使わせるのは悪いから、ケイナと相部屋にしてもらったんだ。
 ……心配させちゃったかな。

 「……大丈夫です。ちょっと夢見が悪くて……」
 言って深くため息をつく。あああ、ガレアノの方だけでも夢でよかったぁぁ……
 本気で安心する私を、ケイナは不思議そうに見つめていた。



 「レルムの村、ですか?」
 「ああ、同行してもらえると助かるんだが……」
 マグナ達と合流後、ご飯を食べながらほぼゲーム通りの会話が続いた。

 私はさっきからほとんど会話に参加していない。
 というより、始まってしまうんだなあという気持ちが強かった。
 そう思うと、せっかくのお昼ご飯もただ事務的に噛むような感じになってしまって。

 「俺はかまわないですよ」
 「あたしも。奇跡ってどんなものか見てみたいし」
 あっさりと、マグナとトリスは同意する。
 この先に待つのが過酷な運命だなんて、誰が想像できるだろうか。
 でも、避けては通れない。彼らのためにも、この世界のためにも。

 「ねえ、? いいよね?」
 「えっ?」
 気づけば目の前にトリスのどアップ。
 うっ、目が「行きたい――っ!」って訴えてる……よく見ると隣のマグナまで。
 かわいすぎるよ。反則。
 「……うん、いいけど……」
 それだけ言うのがやっとだった。
 あー、もー……撃沈。マグナが犬にたとえられる理由、すっごく思い知ったわ……



 うー、歩きにくい……
 「、大丈夫か?」
 「……今のところなんとか……」

 自慢じゃないけど山なんて、林間学校とかくらいだぞ……
 もちろん、こんな獣道なんて歩いたことない。
 ハサハやレシイですら慣れた様子なのに……我ながら情けない……

 「村に続く道はみんなこんなものよ」
 ……知ってます、ケイナさん。でも何のフォローにもなりません。ぐすん……
 「街から村に行こうと思うやつなんてほとんどいねーし」
 まあ、それは私の世界でも一緒だからねー。
 なんて考えてたところで、ガサガサ、と音がした。
 おっ、これは……

 「なっ、なんだっ!?」
 「まさか……化け物!?」
 やっぱりゲーム通りの反応をするマグナとトリス。

 「二人とも、落ち着いてよく見ろ」
 ネスティがそう言う頃には、もう音の発生源は完全に姿を現していた。
 うーん…こうして実物を見ると、ホントすごい筋肉。
 シルエットだけだと熊とかと間違えそうです……アグラ爺さん。

 「人をいきなり化け物呼ばわりとは、失礼な……」
 「ごめんなさい、ついびっくりして」

 二人同時に頭を下げる。これまた練習でもしたかのように、きれいにそろってて……
 そういえば二人の関係ってどうなんだろう? 血が繋がっているのは確かだろうけど……
 後で聞いてみよーっと。

 「なあ爺さん、レルムの村の人かい?」
 「ああそうじゃよ、わしはレルムの村の木こりじゃが……」
 「村まではまだ遠いのかい?」
 「村ならこの先を行った向こうにあるが……そう言うあんたらは何者じゃ?」
 フォルテからの質問責めから、逆に聞き返すアグラ爺さん。
 護衛獣ズと私を主に見て言ったみたいだけど……
 ……確かに召喚獣や、(こっちでは)変な格好した女の子連れた行商人はいないわな……しかも村に。

 「私達、この村の聖女の噂を聞いて来たんですけど」
 「なんじゃ、お前さん達も他の連中と同じか……」
 うわー、顔に思いっきり「またか」って書いてありますよー。
 そーとー嫌なんだなぁ……今の状況。

 「……覚悟はしとくんじゃな。それと、騒ぎは起こさんようにな」
 そう言って、アグラ爺さんは去っていく。

 「とりあえず、この先だな」
 「でも、覚悟って……?」
 「それに、今の爺さん、なんかうんざりした顔してたけど……」
 順にフォルテ、ケイナ、マグナ。
 ……まあ、じきにわかるって。



 そして、森を抜けたその先には。
 超大作ソフト発売直前並の行列が、目の前に広がっていたのであった。
 いや、実際もっといるんだろうけど。見える範囲ではそのぐらいいる。

 「ひょっとして、ここにいる人達って……」
 「み〜〜〜んな、聖女の奇跡を頼ろうとしている人達なの!?」
 言葉もないらしい男性陣に代わり、ケイナとトリスが漏らす。
 ……これだけの人がたった一晩で……いや、暗くなるからやめよう。

 「これじゃ、日が暮れたって私達に順番は回ってきそうにないわね……」
 「その前に、一番後ろってどこらへん……?」
 ぽつりとつぶやく私。
 一応断っておくが、ネスティのセリフを取ったわけじゃない。
 列がどうなってるかわからないぐらいだったから、つい言ってしまったのだ。

 「なーに、そんなの適当に割りこんじまえば……」
 そう言いつつとっくに割り込んでるじゃないですか、フォルテさん……
 んなことしてると……

 「そこの野郎!なに勝手に列に割り込んでるんだ!!」
 ほーら、やっぱり来た。
 こっちが目をやるまでもなかった。彼……リューグはずかずかと、こちらの目の前までやってきたのだから。

 そして案の定、口論が始まる。
 ちなみに参加してない面々は……バルレルは面白そうに見物し、レオルドは平静そうに見えるがどうしたらいいかわからないだけだろう。レシイはおろおろし、ハサハは私の制服の裾をぎゅっと掴んで、
 「ケンカしちゃ……だめぇ……」
 涙を浮かべ、小さい声ながら懸命に訴える。
 かっ、かわいい……じゃなくて!!
 「ちょっと、みんなストーップ! ハサハがおびえてるっ!」
 さすがにこの一言は効いたのか、全員気まずいながらも言い争いを中止する。
 ハサハもそれで少し落ち着いたのか、裾を握る手をわずかにゆるめる。……ほっ……

 「リューグ!」
 そこに突然割り込む声。……これも確認するまでもない。
 「えっ……」
 「お、同じ顔……?」
 「ほー、双子とは珍しいなあ」
 驚いたり感心したりするマグナ達をよそに、やってきた人物……ロッカはリューグと向かい合う。
 ……それはいいんだけど、兄弟だというのに不穏なオーラが……うぅ。

 「お客様に迷惑をかけるなとあれほど言い聞かせただろう!? こんな小さい子まで怖がらせて!」
 言ってロッカが示したのは……ハサハだった。
 なんか、一方的にリューグが悪者っぽくなってますけど……ひょっとして、私のせい?

 そのリューグは、ちょっと気まずそうにハサハを見ると、すぐにロッカに向き直って、
 「……はっ、やめだやめ!バカ兄貴につきあってられるか!!」
 すぐに方向転換して行ってしまった。
 悪いことしちゃったかなぁ……ごめん。

 「すみません、弟が失礼なことをしてしまって」
 「いいえ、元々怒られるようなことをしてしまったこっちも悪いんだし」
 「売り言葉に買い言葉で返してしまったことも事実ですから」
 謝りあうロッカとマグナ達の横では、
 「こいつは〜〜〜っ!」
 「おぷすっ!」
 ケイナの一撃がフォルテに決まってたりする。いつもながら見事だ。

 「ところで、えっと?」
 「ロッカです」
 「ロッカさん、列の最後ってどこなんですか?」
 「それなんですけど……この後ろにも、何人か順番待ちのお客様が……」

 だろうねぇ……って言うか、何人かってレベルじゃなさそうなんだけど……
 順調にいってたら、何日くらいかかったんだろう……
 そんなことを考えてたら他のメンツでは話がまとまったらしく、フォルテとケイナ、ネスティとロッカはそれぞれの方向に行ってしまった。

 「……私はどうしよう?」
 「うーん……特にネス、何も言ってなかったから……」
 「あたし達と行かない?」
 あ、それならオッケー!
 「うん、いいよ。……そういえばあれからゆっくり話してなかったし」

 そうして、私達は話をしながらゆっくり歩き出した。
 私のことももちろん話したし、マグナ達のことも聞いた。
 知りたかった二人の関係については…物心ついたときには二人きりでなんとか暮らしていたので、血の繋がりがあるのかどうかすらわからないらしい。
 兄妹みたいなものだ、と本人達は言ってたけど。
 血は繋がってる、って……言っちゃダメだよね、私は。



 いつしか、私達は村はずれの森の中にいた。
 「うーん、いい気持ち」
 「……ふぁぁぁ、眠くなってきた……」
 「……そうだね。寝ちゃおう」
 言うなり、マグナとトリスはごろんと横になった。
 「ご主人様ぁ、宿は……」
 「ソウデス。ソチラガ最優先カト思イマスガ……」
 それぞれの護衛獣の言葉にも、うーん大丈夫とか言って寝てしまう。
 ……苦労人だね、この子達も…

 まあ、私も慣れない山道で疲れたし。休憩くらいならいいか。
 私は座り込むと、鞄を探り始めた。
 確か、こないだ買った小説が入っていたはずだけど……

 しばらくして、ようやく目的のものを見つけたとき。
 がさがさがさ……と上から音がしてきた。


 そして、運命の出会いが始まる。



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冒頭の夢は、単なる思いつきで意味はないです。
そしてリューグがあんな扱いに……ごめん。
マグナとトリスの関係については、双子の兄妹なんだけど本人達は知らないことになってます。
次回はアメル登場&黒の旅団襲撃開始編!