前途多難な私達・第11話
第11話


 アメルとが弁当を作り。
 何する気かと思いきや。

 「本気なんですか、ミモザ先輩!? この状況でピクニックに行こうだなんて……」
 「本気も本気、大真面目だけど?」
 呆れたようなネスに対し、あっさり答えるミモザ先輩。

 「わざわざアメルちゃんとちゃんに頼んでお弁当だって作ってもらってるのよ、ねえ?」
 「うん、っていってもほとんどアメルのだけど……」
 「あら、さんのおかずだっておいしそうですよ」
 そしてアメルはくるりとこちらを向いて……
 「せっかく作ったんですから、無駄になんてしませんよね?」
 ううう、笑顔が怖い……

 「ミニスちゃんだって誘ってるんだもの、今さら中止になんてできるもんですか」
 ミモザ先輩、いつの間に……
 「どうしてもイヤならいいわよお。私たちだけで楽しんでくるから」
 なにげに脅迫まで……
 「ねー、マグナ?」
 ……げっ、俺はめられた!?
 確信犯だ……とんでもなく知能犯で確信犯だ……





 で、結局。
 誰も反対なんてできるはずなかった。

 「裏切り者め……」
 ああ、ネスが睨んでる…
 俺も巻き込まれただけだって言っても信じてくれないだろうな。

 「こーら、お前ら。いつまで深刻ぶった顔してんだ?」
 フォルテが後ろから割り込んできた。
 「ほっといてください」
 うっとおしそうに答えるネス。
 でもフォルテは気を悪くした様子はなく。
 「おいおい、そうしかめっ面すんなって。ほれ、見ろよ」

 フォルテの視線を追うと、楽しそうに話している達女性陣。
 「女連中がああまではしゃいでるのって久しぶりだぜ?」
 そういえばそうかも。
 も、色々悩んでたみたいだしな。
 それにしても、何話して……

 「で、ちゃんはどうなの?」
 「え?」
 「とぼけんじゃないわよ? 好きな人の一人もいるんじゃないの?」
 ミモザ先輩の一言で、俺の意識はそちらに集中した。

 「あ、それ私も聞きたい。元の世界とかで好きな人っていたの?」
 「え? あ、その……」
 しどろもどろになる
 そうだよなぁ、ってかわいいから。
 元の世界でも好かれてそうだよな……


 どすどすどすっ!!
 どばしゃっ!!



 いきなり目の前に大量の槍と水が降ってきた。
 「女の子の話を勝手に聞いちゃダメよぉ、ボク?」
 「そうですよ?」
 「……ごめんなさい俺が悪かったです」
 でも、召喚術使うのはやめてくれよ……ミモザ先輩もアメルも。







 そしてたどり着いたのは、フロト湿原というところだった。
 俺が見たことのない動物がいるって言ったら、ミモザ先輩は観察するってさっさと行っちゃったけど。
 だけど、弁当を食べ(の作ったおかずはうまかった……)、それぞれが思い思いに羽を伸ばしていた。

 さて、俺は……ちょっと寝るかな。
 おやすみなさーい……

 …………
 「マグナー?」
 …………………
 「すぐ起きないとレポート2本」
 えっ!?

 驚いて飛び起きると。
 「あははっ、ホントに起きた!」
 がおかしそうにくすくす笑ってる。
 「ー……」
 その起こし方はないだろ……?

 「だって、ここまで来て寝てるなんてもったいないよ!」
 それもそうか。
 「そうだな……じゃ、散歩でもしようか?」
 「さんせーいっ!」
 は嬉しそうに手を挙げると、俺の手を引いて歩き出した。

 「楽しそうだな、
 「うん。ピクニックなんて久しぶりだから」
 「ふーん……あれ?」

 ふと目をやった先には、ぽつんと座っているネスがいた。
 ここまで来ても相変わらずか……

 「おーい! ネス、どうしたんだよ?」
 声をかけながら、俺達はネスに近づいた。
 対して、ネスはおっくうそうに振り向いただけ。

 「やっぱり、ネスはこうやってみんなと遊びに来るのって好きじゃないのか?」
 「いや、そういうわけじゃないが。ただ、どうしてもこれから先のことを気にしてしまってな」
 まあ、ネスらしいって言えばネスらしいけど。

 「そのことなんだけどさ。無理に旅を急ぐ必要なんてないんじゃないか?」
 「え?」
 「俺達が旅に出た目的って、いろいろな経験をして、俺が一人前の召喚師になる勉強をすることなんだろ?」
 「ああ、そのとおりだ」

 「だったら、今こうしてここにいることだって、貴重な経験になる。いろいろな人たちと出会って、知らなかったことを知ることができた。そう考えることって、できないか?」
 そう言ったら、ネスは驚いたように俺を見た。
 「確かに、ネスの考えてるほどに成長はできてないかもしれないけど。昔の俺と比べたら、俺、今の方が好きだよ」

 でも。
 俺を一番変えてくれたのは、だよ。
 心の中でこっそりと、に告げる。

 「ふふっ……ははははっ」
 突然、ネスが笑い出した。
 なんだよ、それ……

 「笑うことないだろ?」
 「いや……笑うしかないだろう。そう言われたら……僕の心配してたことを、君はとっくに、自分で解決してたんだな」
 「わかんないよ?」
 「いや、いいんだ。気にしないでくれ」
 んなこと言ったって……よけい気になる。

 「教えろよ」
 「あはははは……っ」
 「あはははっ」
 「まで笑うことないだろ!?」

 まあ、何にせよ。
 ようやく和やかな空気が流れ出したその時。


 バキュンっ! バキュンっ! バキュンっ!


 続いてアメルのものらしき悲鳴。
 「今のは!?」
 「やはり、連中も黙って見過ごしてはくれなかったか……急ぐぞ!」
 「ああ!」
 「うん!」
 俺達はみんなと合流すべく、走り出した。

 走って……
 「きゃあぁぁぁっ!!」
 ちゅどーん!
 「うぎゃあっ!?」

 走って……
 「いやぁぁぁぁっ!!」
 ばちばちばちっ!!
 「がぁぁぁぁっ!!」

 …………
 「ちょっと待てバカ兄貴、俺まで巻き込む気……」
 ぎょりぎょりぎょりっ!!
 『ぎゃあぁぁっ!?』

 「……マグナ……」
 「言わないでくれ……俺だって聞かなかったことにしたい……」
 特に最後の方……
 ちらりとネスの方を見ると、困惑顔で汗ひとすじ流していた。
 無理もないよな……

 そして、ようやくみんなのところにたどり着くと。
 「あっ、さん! この人達がいきなり!!」
 アメルがひしっ、とに抱きついた。
 いやアメル、その兵士達のほとんどがズタボロじゃ説得力ないんだけど……

 「……我々にここまでした奴が言う言葉か……?」
 疲れたようにつぶやく金髪の男。
 こいつがイオスか。ネス達が言っていたのと特徴が合ってるし。
 敵だけど……今だけ同情したいような。

 「あ……!?」
 震える声で
 視線の先には、ゼルフィルドがいる。
 「嘘でしょ……なんで……」
 全身まで震え、ゆっくりとゼルフィルドを指さして……

 「なんで、そんなきっちりと直ってるのよ!?」
 『…………は?』
 敵味方関係なしに、声が唱和した。
 はそれに構わず叫ぶ。

 「前回、どう見てもスクラップ寸前にされたのに! どうすればそんな何事もなかったかのようになるのよ!? 自己修復機能ったって限度ってものがあるでしょ!? 実はそっちにも奇跡使える人いるんじゃないの!?」
 ええと……
 確かに、アメル達が思い切り壊してたけど……

 「チッ……やっぱり跡形もなく消し飛ばしておいた方がよかったわね」
 「いや、どうせならバラバラにしてから3,4ヶ所のクズ鉄屋に売った方が100バーム程度の足しには……」
 物騒な相談しないでくれ暗黒兄妹。
 しかも売るのかよ、ロッカ……

 「お前ら、一体何があった……?」
 フォルテ……知らない方が幸せなこともあるんだよ。

 イオスは引きつった顔をどうにか無表情にし。
 「……このまま王都の中に立てこもられたら面倒だったんだがね。わざわざ捕まりに出てきてくれたとは……正直、助かったよ」
 あ、無理矢理流そうとしてる。
 「都合のいいごたくを並べてんじゃねぇ!!」
 怒鳴り返すリューグ。
 右そでとかが不自然に切れてるのは……気のせいだ、絶対。

 「所詮ハ素人ノ集団カ。コウナルコトハ予測デキタロウニ……」
 「そうね。まさにそのとおりよね」
 「ああ、こうでなくちゃ遠出してきた意味がねえ」
 やけに余裕で、ケイナとフォルテが答えた。
 ……どういうことだ?

 「手詰まりだったのはね、お互い様ってことよ」
 「エサをちらつかせれば、飢えきった獣は確実に食いついてくる。あのねーちゃん、多分そこまで計算してたんだろうな」
 「そういうことか!?」
 なるほど、それであんな強引に……

 「策にはめたつもりか? こざかしい! 我々と貴様らの戦力差を考えれば、自殺行為にしか過ぎないぞ!」
 ……さっき、たった二人にボコボコにやられたのはなんなんだよ。
 言えないけどさ。相手が悪すぎだし。

 「総員、全力でかかれ!」
 イオスの号令を合図に、戦いの火蓋は切って落とされた。







 「馬鹿な……この連中、この前より確実に強くなっている」
 傷だらけのイオスが、とうとうその場に膝をついた。
 そりゃ、いつもあんな体験すれば度胸とかもつくぞ。

 「おかしな動きをすれば、仲間の命の保証はせん。しゃべってもらうぞ。お前たちの正体とその目的を!」
 ネスがゼルフィルドに向き直りながら告げる。
 フォルテ達はイオスを押さえている。武器を向けておくことも忘れていない。
 これで何かしゃべってくれれば……

 「構うな、ゼルフィルド。このまま撃てっ!」
 「なっ……!?」
 「任務の遂行こそ絶対だ。お前さえ生き残ればあの方に対象を届けることはできる。さあ、僕ごとこいつらを撃ち殺せ!」
 イオスの言葉に、ゼルフィルドはしばらく沈黙し。
 なめらかな動きで銃口を向けた。

 「ダメよ、そんなこと!!」
 その間に割り込む
 「さん!!」
 さらにをかばうようにアメルが飛び込む。
 ……まずい!!


 どごすっ!!


 ……「どごす」?
 想像と全然違う音にそちらを見れば、ゼルフィルドが倒れていた。
 しかも、その足下にあるのは。

 「……サツマイモ……?」
 紫色の固まりを地面から出し、不自然にゆらゆら動く蔓はどう見てもサツマイモだった。
 なんで、こんな所にサツマイモが……?

 「これはもしかして」
 アメルがつぶやく。
 「お芋さんへの愛が通じたんでしょうか」
 『違う、それ絶対違う』
 俺達(なぜかイオスも)のツッコミはきれいにそろった。

 「……まあ、それはさておき。命を粗末にするんじゃないわよ」
 がイオスの方を向いて言った。
 「おのれ……余計な邪魔を……」
 「震えてるくせに、何言ってるのよ?」
 「黙れ……っ!」
 なんか既視感が……
 ……とりあえず、それはおいといて。

 「俺達は殺しあいを望んでない」
 俺はイオスを、そしてゼルフィルドを見据えながら言った。
 「ただ、お前達がアメルをつけ狙うことをあきらめてくれればいいんだ」
 敵だからってむやみに殺していいものじゃない。
 そんなのは絶対間違ってる。

 「……だとすれば、貴様らの望みは永遠にかなうまいな」
 落ち着いた声が、横から割り込んできた。
 振り向くと、そこには忘れもしない黒騎士の姿。
 こいつもここに来ていたのか……!

 「なぜなら我らの任務は、そこの聖女を確保してはじめて達成されるものだからだ」
 黒騎士ははっきりと宣言すると、イオスとゼルフィルドの方を見た。
 「イオス、そしてゼルフィルド。俺は貴様らに、監視を継続することのみを命じたはずだが?」
 「ですが……」
 「命令違反の挙げ句に、これ以上の醜態を俺に見せるつもりか!?」
 「もっ、申し訳ございませんっ!!」
 「我々ノ先走リデシタ」
 頭を下げるイオスとゼルフィルド。

 「なあ、黒騎士の旦那。部下への説教もいいが、状況を考えろよ。後から出ばってきても、この場の主導権はオレたちにあるんだぜ?」
 フォルテが皮肉っぽく言う。
 だけど、黒騎士は悠然とこちらを向いた。
 「それは、さっきまでの話だろう……出ろっ!!」
 黒騎士の声が響いた次の瞬間、黒い兵士達がずらりと出てきた。
 囲まれてる……いつの間に!?

 「わざわざ姿を見せなくても、その気であれば貴様らをまとめて始末することはできた。そうしなかったのは、借りを返すためだ」
 ……借り?
 黒騎士はを指さした。
 「そこの娘には、結果として部下の愚行を止めてもらったわけだからな」
 「……それはどうも」
 面白くなさそうな顔でが返す。

 「そして、もう一つ。貴様らに宣戦勧告をするためだ。崖城都市デグレア特務部隊『黒の旅団』の総司令官としてな」
 「デグレアだと!?」
 みんなが息をのんだ。
 「理解したようだな。自分たちが敵に回そうとしているものの大きさを。それを知ってなお、貴様たちは我が軍勢と敵対するつもりか?」

 誰もが黙り込む。
 確かに俺達は、とんでもない奴らを相手にしているかもしれない。
 だけど!

 「ふざけるな! 俺は忘れない、お前達がレルムの村でしたことを……人の命を軽んじる連中なんかに、思い通りにさせるか!!」
 アメル一人のためだけに、これ以上誰も殺させはしない!
 も、ネスも、ここにいる人……誰も!

 黒騎士は俺達をじっと見……ため息をついたようだった。
 「……行くがいい、今は追わん。だが、今だけだ。次に貴様らとまみえたその時には、このルヴァイド、もはや容赦せん。それを忘れるな……」
 ルヴァイド……それが、黒騎士の名前。
 今なら、俺でもわかる。こいつは、本当に強い。
 でも……勝たなくちゃいけない。
 勝って、あんな事はやめさせる!

 決意を新たに、俺達は帰……
 「あれ?」
 ミニスが素っ頓狂な声を上げた。
 「……そういえば、ミモザさんは?」
 『……あ』



 「うーん、出るタイミング完全に逃しちゃったわね……それにしても、フロト湿原にサツマイモが生えてるなんて……」
 ……黒の旅団からだいぶ離れたところで、悩んでいた。







 ホントに芋まで味方に付けて、パワーアップだ聖女様!
 なんか守る必要なさそうだが、いいのかマグナ達!?
 調律者一行の明日はどっちだ!?

 「本日ノ戦況……味方ニ40%ノ被害、内90%ガ重傷……」
 「ルヴァイド様……本当にあれを捕獲するのですか……?」
 「…………」
 ルヴァイド達の明日もどっちだ!?



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やっちまったよ……なピクニック編。
芋まで操りましたよ聖女様。天使の力の使い方間違ってる(笑)
なにげにロッカのセリフもお気に入り。敵を換金する気かあんたは。
黒の旅団の三人も、これから大変です。……合掌。