前途多難な私達・第12話
第12話


 ピクニックから一夜明けた。
 朝食後、昨日のこともあって対策会議が始まった……んだけど。

 「崖城都市デグレアか。まさか、そんな名前が出てくるとはな」
 ギブソン先輩が難しい顔で唸った。
 他のみんなも似たような感じだ。
 でも……

 「なんなんですか。その、デグレアって?」
 俺が訊くと、ネスがうんざりした顔をした。
 「おい、ちゃんと授業で習ったはずだぞ」
 「あのー……あたしも説明、欲しいんだけど……」
 困ったように

 それじゃ仕方ないというわけで、先輩達が簡単に説明してくれた。
 崖城都市デグレア。北部の台絶壁に位置する。
 ここ聖王国と対立を続ける、旧王国最大の軍事都市。
 簡単に言えば、そういう所らしい。

 だから、普通に考えれば聖王国への軍事侵攻の一環なのだろうけど。
 なんでアメルがそれに関係するんだ?
 そりゃ、結構強いけど……
 ……………………
 ……よそう。考えるのも怖い。

 はっきりしているのは、連中が領土侵犯や強硬手段をしてまでアメルを手に入れようとしていることだ。
 ここにいる限りは安全だろうけど……これからもそうだって保証はない。

 「だが今は敵の動向より、先に考えるべきことがあるんじゃないのか?」
 え?
 ギブソン先輩の言葉に、俺は固まってしまった。
 えーと……何かあったか?

 「これから先、君たちがどうしたいのかということだよ。敵が国家に属する軍隊だとわかった今なら、とるべき方法はいくつだってある。騎士団や派閥に保護を求めることもできる」
 確かにそうだ。でも……

 「でも、それって最悪の事態に……」
 「ああ、連中はためらいもせず彼女を差し出すだろう。たかが少女一人の身柄で戦争が避けられるというのなら安いものだ」
 「胸クソ悪い話だがな。それが政治的判断ってもんだ」
 フォルテが吐き捨てるように言った。

 そんなの……そんなのって!
 「ダメだ! 絶対に止めないと!」
 そんなことになったら、俺達はおろか聖王都やデグレアまで滅びる!
 アメルなら、それぐらいやりかねないぞっ!

 「落ち着くんだ、マグナ」
 「心配しなくても、ここにいるみんなはあなたと同じ気持ちよ。だから落ち着いて……最後まで話を聞きましょう」
 ネスとケイナに言われて、とりあえず俺は気持ちを落ち着かせた。
 そうだな。まだそうするって決まったわけじゃない。

 「……すいません」
 「気にすることはない。多分、君ならそう言うと思っていたからね。だが、その思いを貫くのは大変なことだよ」
 ……そうだ。まして、国の軍隊を相手にするんだからな。
 「よく考えてみるんだ。君たち一人一人が、本当に望んでいることを」
 ギブソン先輩がそうまとめた。
 そして、その場はお開きになった。







 考えもまとまらないまま、俺はその辺をぶらぶらしていた。
 すると。
 「あれ、マグナ?」
 庭先にがいた。

 「散歩にでも行くの?」
 「んー……まあ、そんなとこ」
 「あたしもついていっていい?」
 「……うん」
 いつもなら嬉しいんだけど、今はなんかそんな気になれない。
 ガラにもなく、悩んでいるからだろうか?
 でも、それはも同じのようだった。





 特にあてもないので、俺達は足の向くまま歩いていた。
 そのうち劇場通り商店街にさしかかり……

 「ちょっとぉ、そこの若人ぉ」
 ……?
 なんだろうと思って辺りを見回すと。
 「そぉそぉ、あなたよ、あ・な・た!」
 変わった格好の女の人が、こっちに向かって手招きをしていた。

 「あの、俺に何か用事ですか?」
 近づきながら尋ねると、女の人はじーと俺を見た。
 「うーん……見れば見るほど、面白い顔だわねぇ」
 「へっ!?」
 なんだよ、それ!?

 「にゃはははっ、怒んないでよぉ?」
 女の人がけらけら笑う。
 それはいいけど……酒臭いぞ!?
 この人、酔っ払いじゃないか……関わるんじゃなかった……

 「あっ、私のこと酔っぱらいだと思ってるなぁ?」
 げっ……
 こういう場合、絡んできたりするんだよなぁ……どうやって逃げよう……
 「ほほぉ、今度はどうやって逃げようか考えてるわけねぇ。面倒事は、恋敵や敵のことだけでたくさんってとこかしらぁ」
 へっ!?

 「なっ、なんでそんなことまで知ってるんだよっ!?」
 「にゃはははっ、答えは、そりゃ簡単。このメイメイさんは、凄腕の占い師さんだからねぇ」
 「占い師さん……ですか?」
 が女の人……メイメイさんに話しかける。
 そおよぉ、とメイメイさんは言った。

 「ねぇ、あなたの名前はなんていうのぉ?」
 「マグナ、ですけど……」
 ……なんで俺、こんな所で酔っ払い相手に話してるんだろう?
 「ふぅーん……名前からして、すこぉし変わってるわねぇ?よぉし、このメイメイさんがぁ、あなたを、ばっちり占ったげる!」
 「え、でも……」
 「いいから、いいから、お代はタダにしといたげるからぁ?」

 ……そして俺は、共々メイメイさんに強引に引っ張られていったのだった。
 酔っぱらってるのに、結構力あるぞこの人……



 で、連れて行かれた先は……変わった内装の店だった。
 「わお、中華風」
 がそんなことを言っていた。チュウカフウってなんだ?

 「でわ、まずはお手を拝見」
 メイメイさんは俺の手を取ると、真剣な目で見つめた。
 「手相だね。手のシワとかで運勢を見るんだよ」
 横からが説明してくれた。

 「……どうなんですか?」
 やっぱり気になって聞いてみたところ。
 「なんていうか……無茶苦茶ねぇ」
 「えっ!?」

 「あ、悪いってことじゃないのよぉ? 普通の人に比べると、あなたの運勢はすごく不安定なのよねぇ。いい方に転べば、すごく幸せになれるんだけどぉ……」
 「悪い方に転ぶと?」
 「最低最悪になっちゃう……にゃははははっ」
 笑い事じゃないぞ、それって!?
 ああ、見てもらうんじゃなかった……余計気分悪いぞ……

 「まあまあ、まだ不幸と決まったわけじゃあないんだしぃ……運勢ってのは、日頃の行い次第で、変えることもできるんだから。心配になったら、またたずねておいでよぉ。相談に乗ったげるから。にゃははははっ♪」
 『はぁ……』
 俺とは揃って返事をした。

 その後、メイメイさんのクジをと一緒にやって。
 俺が3等、が2等を当てた。
 まあ、この程度には運は悪くないんだよな?
 俺はそう思うことにした。

 「またおいでねぇ♪」
 「はーい、またそのうち」
 はメイメイさんに手を振った。
 ……ホントに行くかどうかはわからないけどな……



 マグナ達を見送っていたメイメイは、その姿が見えなくなると店に戻った。
 棚から酒瓶を出して、蓋に手をかけ……
 あ、と声を上げた。

 「恋愛は障害多し、って……やっぱり言っておいた方がよかったかしらぁ?」
 しばらくうーん、と考えて。
 「……まっ、いっかぁ」
 何事もなかったかのように蓋を抜いた。







 気を取り直して、散歩続行。
 ふと城が視界に入って、俺達は立ち止まった。

 「王様達って、デグレアの軍隊が街の中まで入ってきたことは知らないんだよね?」
 「だろうな……ミモザ先輩が強盗の仕業ってことにしちゃったし」
 聖王都は治安のいい街だって授業で習ったし、俺もそうだと思っていた。
 でも、この街は本当に安全だといえるのだろうか……

 「……お兄さん?」
 えっ?
 やけに近くで声がして、俺はそっちを振り返った。
 そこには10歳くらいの男の子がいた。

 「こんにちは、お兄さん、お姉さん」
 「あ、はい。こんにちは……」
 「こんにちは」
 思わず挨拶を返しちゃったけど……誰だろう?
 どっかで会ったっけ?

 「さっきから、ずーっとお城を見てますけど、どうかしたんですか?」
 男の子が不思議そうに問いかけた。
 「ずーっとって……そんなに長いこと見てた?」
 「ええ、なんだか真剣な顔で、ずーっと」
 そんなに長いこと考えてたのか、俺?

 「ところで、君は?」
 が笑顔で尋ねた。
 「はい、ボクはエクスっていいます。ここで人と会う約束をしてて、待っていたんですけど、退屈になってきちゃって」
 なるほど、それで俺達に声をかけてきたんだ。
 わかるなぁ……待ってる間っていい暇つぶしがないし。

 「そっか、それならその人が来るまで、あたし達がエクスの話し相手に……」
 「エクス様ーっ!」
 ……なるまでもなかったみたいだ。
 エクスがちょっと残念そうにため息をついた。

 「ごめんなさい……」
 「気にしないでよ。それより、早く行ってあげて?」
 「はい、それじゃお兄さん、お姉さん、さようなら!」
 エクスは手を振ると、小走りでやって来たおじさんに近づいていった。

 「あの子、いいとこのお坊っちゃんみたいだったわね」
 「ああいう子が一人で歩いているんだから、やっぱりここは治安がいい街なのかもしれないな」
 「そうだね」
 俺とは笑い合った。





 そして、去っていった方は。

 「エクス様。彼が例の……?」
 「ああ。彼女の報告通りだったね」
 エクスと名乗った少年に、先程までの子どもらしい雰囲気は微塵もなかった。
 その話し方は、年を重ねた大人と錯覚するほど落ち着いている。

 「しかし、総帥自らが……」
 「いや、ボク自身が見たかったからね。それに……」
 「それに?」

 「彼の護衛獣だっけ、一緒にいた彼女? なかなかかわいいし」
 突然がらりと変わる口調。
 少々固かったそれは、やけに嬉しそうなものへと転じていた。

 「……気に入られましたか?」
 「もちろん。この件が終わったら、総帥命令でボクの直属にしたいくらいだよ」
 ……それは職権濫用だぞ、おい。
 「このまま子どものふりして甘えるってのもいいかな」
 さらにタチ悪いわ。

 「まあ、今日のところは……」
 エクスはサモナイト石を一つ取り出すと…
 「いでよ」


 ちゅどごぉんっ!!


 ……召喚術による雷が、近くの茂みへと落ちた。
 お付きの男が汗ひとすじ流すのを後目に、エクスはにっこりと雷が落ちた先を見た。
 「これだけにしておくよ」
 そして、さっさと歩き出した。





 その茂みの陰では。
 「あ、あのガキ……今日の収穫を……! しかも、服までぼろぼろじゃないですか! せっかく今日の身だしなみは『悩みを聞いてさんの好感度一気にアップ!』作戦のために念入りにやってきたのに……!!」
 今日も変態が滅んでいた。
 愛用のカメラやビデオカメラとともに。



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メイメイ&エクス登場編。本当はもう少し前なんですが(汗)
アメルとは別の意味で最凶です、エクス。そしてまたしても作戦パーにされる変態(笑)
……マグナが(特に恋愛面で)幸せになる日はまだ遠いようです。
次回は聖女様達が暴れます。