前途多難な私達・第13話
第13話


 結局、みんな考えた末アメルを渡さない、ということで落ち着いた。
 ただ、正面から戦ったって勝てそうにない。
 ……いや、この際アメルとかは考えないで。
 とにかく、俺達には徹底的に逃げ回るしかない。

 そんなわけで俺達は今、夜の街道を歩いている。
 目的地はアメルのおばあさんが住んでいるらしいという村。
 ちなみに、先輩達には何も言っていない。こっそり出てきた。

 「問題は、どの道を通って行くか、だよな」
 アメルが教えてくれた山道か、街道か、草原か。
 追っ手を避けながら山を越えるのは厳しい。
 かといって街道は確実に見張られているだろうし、草原はすぐに見つかる。
 どこを通っても待ち伏せはあるだろうけど……

 「そうですね……草原でルヴァイドさんを叩きのめすのもいいですけど、さっさと抜けるならイオスさんのいる街道ですし」
 そうか、なら街道に……って。
 「アメル……叩きのめすって……」
 が呆然とつぶやく。
 ……それも気になるけど、そうじゃなくて。

 「そもそも、なんで草原にルヴァイドがいるとか知ってるんだよ?」
 俺が尋ねると、アメルは微笑みながら一冊の本を取り出した。
 表紙には『サモンナイト2完全攻略スペシャル』の文字。

 「この本のここに書いてありますよ。ちなみに全体的なレベルは……」
 「もういい……それ以上言わないで、お願いだから……」
 「どっから手に入れてきたんだ、んなもん……」
 とリューグがげんなりと言った。

 ……と、とにかく。
 「街道沿いに迂回しようか……」
 「そうだな……」
 俺達は街道を歩き始めたのだった。







 そして。
 「待ち伏せを考えもせず街道を来るとはね、呆れたものだよ。もっとも、おかげで汚名返上ができそうだ」
 「イオス!?」
 ……ホントにいたよ。

 「君に呼び捨てにされる筋合いはないが。まあ、許してやるよ。どうせ今宵限りで、君達の命運は尽きるんだからね」
 『それはあなた達でしょう?』
 ぴたりと重なるアメルとロッカの声。
 すぐ近くで「俺のセリフ……」とリューグがつぶやいたような気がする。

 だがイオスは、顔色ひとつ変えずに叫んだ。
 「伝令急げっ! ルヴァイド様に報告をするんだ! 『小鳥は、初手の網にかかった』と!」
 「まずい! ここで僕達を足止めして、別働隊で完全に包囲する気だぞ!」
 ネスが青ざめる。
 しまった、そういうことか!

 「みんな、逃げろっ!!」
 「どこへ逃げても同じことだよ。覚悟するがいい!」
 こうして、俺達とイオスの二回戦(あ、ネス達は三回か)が始まった。





 がきん、と金属音。
 俺は兵士の剣をどうにか止めた。
 そして、はじく。
 そこに召喚術が炸裂して、兵士はのびた。

 「ありがとう、
 俺が礼を言うと、が笑顔で「どういたしまして」と返した。
 も上達してきたな。ネスも教えがいがあるって言ってたし。

 「うぎゃあぁぁぁぁっ!!」
 「ぎえぇぇぇぇっ!!」


 ちゅごどぉぉん!!


 ……今、妙な悲鳴と爆発音が……
 嫌な予感がしてそちらを見れば。

 「うふふふふ、お芋さんの愛の力、見せてあげます!!」
 アメルの声に応えるように兵士達を宙へと吊るし上げる蔓と、

 月明かりに照らされてレーザーを打ちまくるディアブロ。

 怖い……怖すぎるぞこの光景……
 「どうしたの、マグナ?」
 「……あっちは見るな。見たら石になるぞ……」
 その意味を悟ったか、こくこくうなずく

 「な、何なんだあれは……」
 やっぱり運悪く見てしまったらしく、ネスが呆然とつぶやいた。
 ……もしかして……

 「ネス……最近ディアブロ誓約したか?」
 「あ、ああ」
 「……今、持ってるか?」
 「ああ、確かここに……ん? おかしいな、どこに……」
 ネスは不思議そうにポケットを調べ始めた。
 ……またスッたんだな、ロッカ……

 「プチメテオ!」
 声と共に、岩が俺の近くに落ちた。
 ぐえ、と兵士が一人倒れる。

 「ぼーっとしてる場合じゃないよ!」
 が叫ぶ。
 そ、そうだった。
 しかし、なかなか敵は減らない。

 ……ん? あれは……!
 「松明の明かり……!」
 いくつもの炎が、ぐるりと俺達を囲んでいる。
 これが全部、敵だっていうのか!?

 「おしまいの時間だよ。ルヴァイド様の来た今、君達に勝ち目はない」
 イオスが平然と告げた。
 そうしている間にも、敵はどんどん迫ってくる。
 くそっ、何か方法はないのか、何か……

 「何だ、この霧は!?」
 ネスが驚いたように声を上げた。
 え、霧?
 でも、そういえばさっきより暗くなってきたような……

 「なんなんだこれは!? くそっ、目が……」
 イオスが目を押さえる。他の兵士達も。
 俺達はなんともないのに……?

 「さあ、今のうちにお逃げなさい。目くらましの霧があなた達を守っているうちに……」
 どこからともなく声が聞こえた。
 この声、どこかで……?

 「みんな、こっちだ!」
 今度はすぐ近くから聞こえた。
 しかも、この声は……
 「先輩達! どうして!?」
 こっちに向かって歩いてくるのは、ギブソン先輩とミモザ先輩だったのだ。

 「あら、まさか本気でバレてなかったと思ってたわけ?」
 「君達の考えそうなことぐらいお見通しだ。まったく、みずくさい後輩どもめ!」
 あ……ばれてたのか。
 やっぱり、先輩達にはかなわない。

 「じゃあ、この霧はミモザさん達が?」
 「ちょっと知り合いに頼んで、ね」
 「あまり時間はない。とにかく急いで包囲網から抜け出さないと」
 そうだな、今のうちに早く……

 「そうはさせんぞ」
 「ルヴァイドっ!?」
 低い声が割り込み、ミニスが叫んだ。
 なっ、どうして黒騎士がっ!?

 「嘘でしょ!? ただの霧じゃないのよ、これって……」
 先輩達も驚いている。
 「他の者は惑わせても、この俺にまやかしなど通じぬわ。デグレアの勝利のため、絶対に聖女はこの手に捕らえてみせる!!」
 言って、ルヴァイドはアメルの手を掴んだ。
 アメルが悲鳴を上げる。

 「ルヴァイドおぉッ!!」
 リューグが斧を振り上げようとした…が。

 「アメルを離しなさいよっ!!」
 それより早く、がルヴァイドの腕にしがみついた。
 多分、思わず動いたんだろうけど。
 いくらなんでも危険すぎる!

 俺も剣を抜きかけた時。
 「邪魔だ」
 あっさり振り払われ、が地面に倒れる。
 「!」
 俺はに駆け寄って……

 「さんに何するんですかっ!」


 どばきゃっ!


 ……う、嘘だろ……?
 アメルのアッパーによって、ルヴァイドは吹っ飛ばされた。
 どさり、がらんがらんと音がした。

 「な、なんだと……!?」
 苦しそうに、ルヴァイドが身を起こした。
 その頭から、兜は取れていた。
 肩ぐらいの赤毛に、鋭い目。
 これが、ルヴァイドの素顔……

 「おのれえぇぇっ!!」
 ルヴァイドがいきり立って剣を抜いた。
 ……まあ、気持ちはわかるけど。
 捕獲対象、しかも女の子のアッパーにやられたんじゃなあ……

 「ここは私達に任せて、君達は逃げるんだ!」
 ギブソン先輩が言った。
 「でも、それじゃ……」
 「心配しなくったって、引き際は心得てるわよ。時間を稼ぐだけ!」
 ミモザ先輩もいつもの笑みを浮かべながら、杖を構える。

 「負けるんじゃないぞ。本当に大切なものなら譲らずに守るんだ」
 「お土産、期待して待ってるからね?」
 ギブソン先輩……ミモザ先輩……
 本当に、ありがとうございます。

 「さあ、行け!!」
 ギブソン先輩の言葉に背中を押されるように、俺達は走り出した。







 「そこをどけ」
 ルヴァイドはギブソンとミモザに剣を向けた。
 これだけ殺気を向けられれば、まともに戦うだけ無謀だとバカでもわかる。

 「あいにく、それはできないな」
 「お土産くらいは買いに行かせてあげないとね」
 だから、軽口をたたきながらもギブソン達の顔は真剣だった。
 倒す必要はない。時間を稼げればいい。
 いつでも呪文を唱えられるようにしながら、まずはルヴァイドとの間合いを……


 どす。


 「……?」
 謎の物音に、三人とも行動を中断してそちらを見た。
 ルヴァイドのすぐそば。そこにあるのは……どう見ても木の桶だった。
 ……火のついた導火線があることを除けば。

 「なっ……」
 離れようとしたルヴァイドだったが。


 ばしゅばしゅばしゅばしゅっ!!


 彼目がけて、何本もの火矢が飛んでくる。
 さらに。


 どんっ……ごとごとごとっ!!


 やはり木枠付きの爆弾が降ってきて、ルヴァイドの周りを転がりだす。
 彼は知る由もないが、「万人敵」と呼ばれる爆弾である。


 どご――ん!!


 「ぐあっ!?」
 どがんどかんと、爆弾の類が降ってきてはルヴァイドを襲う。
 さすがに騎士だけあって避けてはいるが、まったくの無事というわけでもない。



 ギブソンとミモザはとっくにそこから離れていた。
 遠い目で、その光景を眺める。

 「……そういえばさぁ」
 「何だい?」
 「ちゃんって、もろにシオンさんの守備範囲よね……」
 「……そうだな」
 「あいかわらず、美少女のためなら遠慮しないわね……」
 「……そうだな」
 爆弾の雨を降らせているであろう知人兼戦友に、彼らはただため息をつくばかりだった。







 ああ、とうとう霧の忍匠まで暴走したぞ。
 ルヴァイドよりも物騒で危険な恋敵ばかりで、どうするんだマグナ。
 それ以前に、生きていられるのかルヴァイド?
 ……まあとにかく、次回に続く!



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今回も最強です聖女様。禁断の攻略本ネタまで……(汗)
攻略本の名前は適当です。実在してません……多分。
シオンの使った武器はネットで調べました。万人敵については落乱を参照の上(笑)
次回、ファナンははたして無事か? ……いろいろな意味で……