前途多難な私達・第15話
第15話
海賊と戦った後、俺達はモーリンの家にもう少しお世話になることになった。
というのも、金の派閥の議長にしてミニスのお母さん、ファミイさんの招待を受けたからだ。
海賊をやっつけてくれたお礼、ということらしい。
で、次の日に嫌がるミニスをなだめ、金の派閥本部に向かった。
お礼は本当に嬉しかったけど……ミニスが怖がる理由も同時にわかった。
お仕置きでカミナリじゃ、確かに嫌だよなぁ……
ちなみに、今回はミニスはカミナリを食らってない。
……代わりに、かばった俺が食らったけど。
うぅ、まだびりびりする…
「でも、よかったじゃない。この辺の黒の旅団、追い払ってくれたんでしょう?」
「まあね……」
ファミィさんの「お礼」のおかげで、今俺達は何事もなくアメルのおばあさんの村へと向かっている。
どんよりして嫌な空だけど……やっぱり今のうちに行ったほうがいいと思うし。
「あら? あそこから来るのはもしかして……」
ふと、アメルが声を上げた。
その視線の先にいたのは……ある意味、忘れようがない人だった。
「あれ、レイムさん?」
ひゅんっ!!
「こんにちはさん。奇遇ですね。まさか、こんなところで会えるなんて」
の手を取りながら言うレイムさん。
……この人、さっきまで50mは先にいなかったか?
しかも、どうやって来たか見えなかったし……いつかのアメル並だ。
「さん、誰ですか?」
ロッカが問いかける。
……のはいいけど、槍の刃先をレイムさんに向けておくのはやめてくれ……
気持ちはわかるけど、怖いぞ。
「ほら、前に話した吟遊詩人のレイムさん。聖王都で知り合った」
汗一筋流しながら答える。
「レイムと申します。皆様どうぞお見知りおきを……」
そしてレイムさんは、刃を突きつけられたままにこやかに名乗る。
……大物だなあ……ロッカの行動に動じないとは。
「あ、お探しの歌は見つかりました?」
思いついたように問うに対し、レイムさんは首を横に振った。
「いえ、それはまだですが、ちょっと気になる話を聞いたので。三砦都市トライドラの名はご存知ですか?」
「トライドラ?」
えーっと……どこだっけ?
その疑問に答えたのは、ネスだった。
「3つの砦を保有する騎士たちの国家だな。聖王都を外敵から守る要であり……大絶壁を挟んだ隣国のデグレアを見張る役目を担ってもいる」
「そのデグレアが、とうとう本格的に戦争を始めるらしいんです」
「戦でござると!?」
レイムさんの言葉を聞いたカザミネさんが、驚いた顔をした。
対照的に、のんきな声を発したのはフォルテ。
「そう色めき立つなよ。カザミネの旦那。その手の噂は今まで何回もあったぜ?」
ええ、とレイムさんがうなずいた。
「ですが、なんだか私はそのことが気になってしまって……確かめてみようと、トライドラまで向かう途中なんですよ」
ふーん……
まあ、確かに気になる話だけど。
実際、デグレアの軍隊に会ってるもんな。俺達。
心配そうに、ミニスが口を開いた。
「けど、わざわざ危険かもしれない場所に行くなんて……」
「吟遊詩人というものは、そうした噂の真偽を知りたがってしまうものなんですよ」
「なんだい、ようするにヤジ馬根性がすごいってことじゃないか」
うわ……モーリン、それ身も蓋もないぞ。
でもレイムさんは気を悪くしたようでもなく、
「ははは……確かにお嬢さんのおっしゃるとおりかもしれませんね」
おかしそうに笑った。
「おい、いつまで世間話をしているつもりだ?」
痺れを切らしたのか、ネスがちょっといらつき気味に言った。
おっと、そうだった。
「じゃ、俺達はこれで」
「ええ、なにやら雲行きがおかしいようですから、お気をつけて」
レイムさんは微笑みながら、の手を取ったまま歩き……
……待て。
「レイムさん? さんの手を離してくれません?」
再び槍をレイムさんに突きつけながら、ロッカ。
「さんが困っているじゃないですか」
アメルもメイスを振りかぶっていたりする。
「ああ、ごめんなさい。つい」
「つい、じゃありませんよ。いくらさんがかわいいからといって、堂々と誘拐しないでくれますか」
「おや、心外ですね。そんなこと言うから、ほら、さんが怯えてますよ」
「何言ってるんですか。怯えているのはあなたにでしょう? 変態ストーカーさん」
「へえ……今のは聞き捨てならないね。本当かいアメル?」
あ……あぁ……あの三人の周りが吹雪いてる……
もあそこにいるのが怖いのか、引きつった顔をしながら小走りで俺達のところへ戻ってきた。
「おい、どーするんだ……あれ……」
と、言われても……どうしよう……
下手に割って入ったら命が危なさそうだし、置いていくのも後が怖いし……
まあ、アメルにあれだけやられても生きてたんだし……レイムさんは大丈夫かな……?
「……しばらく離れてようか……」
「そうだな……」
あれに近づけるのはよっぽどの勇者かただの命知らずだ。
そして、俺達の中にはどっちもいなかった。
ちゅどーん!
ぎょりぎょりっ!
びしゅびしゅびしゅっ!!
……聞こえない。何も聞いてないぞ、俺は……
「ところで、ネス。今の噂って本当のことなのかな?」
「デタラメだと言いたいが……」
ネスはいったん言葉を切った。
かなり真剣な顔で、後を続ける。
「黒の旅団が活動を開始した理由が、今の話で説明できてしまう」
確かにそうだ。
「じゃあ……」
「僕にもわからない。ただ、彼の話を聞いて余計な不安を感じてるのだけは事実だな」
「心配すんなって、お二人さん」
フォルテが明るく言った。
「トライドラの兵士は精鋭ぞろいだからな。そう簡単にデグレアに負けはしねーよ」
「そうそう、確かあんたはその街で剣を習ったのよね」
思い出したようにケイナ。
それを聞いたネスが、ん? と首を傾げた。
「とすると……フォルテ、君は騎士の家柄だったか」
「騎士ですって?」
フォルテがぎょっとした顔をしたのが見えた。
よく聞こえなかったけど、「やべっ!」とか言ったような気がする。
でも、騎士とかいうのはちょっと気になる。
なんていうか……フォルテからは想像できないし。
「どういうことだよ、それ?」
「あの街の剣術道場は王族の指南役を務めるほどの名門なんだ。普通の人間がそう簡単に習えるものでは……」
そこまで言いかけて、ネスは不思議そうに空を見上げた。
どうしたんだと思ったら、ぽつんと何かが顔に当たった。
始めは少しずつだったけど、次第に多くなっていく。
「うわっ、雨だぜっ! 本当に降ってきやがったぞ!?」
さすがのフォルテも顔をしかめた。
まいったな……ひどくなってる。
ミニスにいたってはがたがた震えていた。
「うう、このままじゃあカゼひいちゃうよぉ」
「ええ、ほんと……っ、くしゅんっ!」
アメルもくしゃみを……
え? アメル?
「アメル? レイムさんは……?」
不安そうにが尋ねた。
「あの人ならお仕置きが終わったので、今ロッカが遠くに捨てに行ってます」
……あっさりそういうこと言わないでくれよ……
「いくらなんでもやりすぎじゃ……」
「あんな人、レヴァティーンさんで焼いたって死にませんよ」
……だからやめてくれってば。ホントにしそうで怖いんだよ。
そりゃ、あの人ならそうなったって復活しそうだけど。
「ね、ねえ! あれ、向こうに見えるのって建物じゃないかしら?」
……ケイナ、ありがとう。見事な話題そらしだよ。
「うむ、確かに城のようなものが見えるでござるな!」
カザミネさんも、必死でそれに乗ってくるあたり、わかってきたらしい。
「そういえばトライドラの砦のひとつが、この辺りにあったな」
「なら、あそこで雨宿りしようか」
こうして話してる間にも、俺達はかなり濡れてしまった。
いいかげん雨をしのがないと、さすがにしんどい。
「あのな、そう簡単に砦の中に入れるわけがないだろう」
あのな、ネス……それはないだろ?
俺だって、そんなことぐらいわかるって。
「別に中に入れなくても、軒先を借りられりゃそれだけで充分さ」
そうそう。それが言いたかったんだよ、モーリン。
「とにかく急いであそこまで走ろう」
はあ、やっと着いた……
すっかりびしょ濡れだよ。
「これは、着替えたほうがよさそうですね」
アメルが困ったようにつぶやいた。
着替えか……そうだな。カゼひいちゃうし。
でも、違った反応した人が二人。
「きっ、着替え……でござるか……」
顔を真っ赤にしたカザミネさんと、
「そーそー、それがいい。ぜひ、そうしたまえ♪」
やけに嬉しそうなフォルテ。
おいおい……何考えてるんだ!?
「言っとくけど、こっち見たら容赦なくぶっとばすわよ?」
案の定、眉間にしわを寄せて言うケイナ。
続けてアメルがにこにこ笑顔で、
「もし、さんの着替えを見ようものならタケシーさんとプチデビルさんと(中略)レヴァティーンさんにお仕置きしてもらって、永遠に地面の中で反省してもらいますから♪」
……男全員の顔が青ざめたのは言うまでもない。
「そうそう、レイムさんのように海の藻屑になりたくなかったらやめておいたほうがいいですよ」
やはりさらりと恐ろしいことをロッカが…
「……って、ロッカ!? いつの間に戻ってきたんだ!?」
「ついさっきです」
というか、海の藻屑って……
ここ、結構海から離れてるぞ?
いったいどこまで捨てに行ってたんだ……?
多くの謎を残しつつ。
俺達はそれぞれ、着替えをすませたのだった。
……砦の中がどうなっているのかも知らずに。
思ったより長くなってしまったアメル&ロッカVSレイムです。
そしてまた増えるロッカの謎。この短時間でどうやって海に捨てたのやら…
レイムがどうなったかはご想像にお任せです。
次回、部下その一にして新たな犠牲者登場なるか!?