前途多難な私達・第17話
第17話
あの後砦を出た俺達は、逃げるようにファナンへと引き返した。
頭がごちゃごちゃだった。
砦を襲い、殺した人達を操っていたガレアノ。
その屍人達を消し去った、アメルの光。
わからないことが多すぎて、不安になる。
でも、本当はそれだけじゃない。
「すみませんさん……くしゅんっ!」
ベッドの上でアメルがくしゃみする。
雨に濡れた上、体力を消耗したせいで風邪をひいてしまったらしい。
さすがに病人を歩かせるわけにはいかないと、アメルの回復を待つことになった。
「いいのよ、それよりちゃんと休んでなって」
「はい……」
でも、あのアメルでも風邪ひくんだな……
うーん、鬼の霍乱……
「マグナさん? 今何か失礼なこと考えませんでした?」
「いや、考えてない考えてないっ!」
「そういうわけなので、しばらくあたしがご飯作ります!」
の宣言に、みんな「おー」と拍手をした。
ピクニックの時の料理はうまかったもんな……俺も嬉しい。
「アメルと違って、簡単なのしかできないけど……」
「かまわないよ。なんだったらあたいも手伝うからさ」
「そうね、大所帯だから作ったほうが安くすむし」
「作ってくれるだけでもありがたいさ。ここんとこ手料理なんてほとんど食ってなかったからな」
苦笑しながらレナードさん。
この人も結局、俺達と一緒に来てくれることになった。
「あ、やっぱりあれですか? ファーストフードがお友達、とか」
「だな、刑事なんかやってると余計にな」
「日本だってそういう人結構いますよ」
同じ世界から来たらしいということもあってか、今のようにとよくしゃべっている。
やっぱりもさびしかったんだろうな……知らない世界にいきなり呼び出されて。
「レナードさんは要注意、と……」
ぼそりと言いつつ、手帳になにやら書き込むロッカ。
…………何が!?
「まずは、材料買いに行かないと。マグナ、手伝ってくれる?」
「あ、だったら僕も……」
させるかとばかりにロッカが名乗りを上げるが、
「ロッカはアメル見ててよ。ね?」
のお願いは断れないようで、仕方なさそうにうなずいた。
その代わり、俺にはものすごい殺気を向けていたけど。
あ、後で殺されるかも……
「アメルにはお芋のおかゆ作って、他のみんなには……何がいいかな? マグナは何か食べたいのある?」
「うーん……特に思いつかないけど、温かいのがいいかな」
って言うか、が作ってくれるのなら何でも食べる!
でも、が一生懸命考えてるのも嬉しい。そんなところもかわいいし。
そう思いながら歩いていると……
「……あれ? あそこにいるの、レイムさんじゃない?」
あ、ホントだ。
しかも、元気そうだしケガしてる様子もない。
昨日、あれだけやられたばっかりだっていうのに…
アメルの言うとおり、ホントにレヴァティーンで焼かれても生きてるかもしれない。
「レイムさん!」
「おや、さんにマグナ君」
「トライドラに行ったんじゃなかったんですか?」
「いえ、一旦引き返してきたんですよ。そうしたら、スルゼン砦が兵士ごと何者かに破壊されたって噂が流れているものですから」
………………ぎく。
の顔は引きつっていた。多分俺も引きつっているだろう。
兵士を殺したのはガレアノだけど、その死体ごと砦を壊したのはアメルです。
……なんて、言えるわけないっ!!
「でも、その方角に向かったあなた達が無事なのなら、おそらくデマなのでしょうね。これで安心してトライドラへ行けますよ」
うーん……
さすがにすべては言えないけど……ガレアノのことくらいは話したほうがいいかもしれない。
砦が襲われた以上、トライドラだって安全とは言い切れない。
俺とで、砦でのことをかいつまんで話すと。
「そうですか、そんなことが……」
「信じられないかもしれません。でも、今はトライドラに行かない方がいいと思います」
が心配そうにそう言うと、レイムさんは「わかりました」とうなずいた。
「これから出発しようと思ったんですが、仕方ないですね。予定を変えます」
にっこり笑顔を浮かべると、の手を取る。
……って、まさか……
「何もしないのももったいないですし、ここでお会いできたのも何かの縁です。一緒に街を回りませんか?」
「え、でもあたし、これから買出しが……」
「少しくらいなら大丈夫ですよ、後で私も手伝いますから。さあ行きましょ……」
さく。
いきなり飛んできた何かが、レイムさんの頭に刺さった。
これは……シルターンのシノビが使う飛び道具だったっけ? シュリケンとか言う……
……って、思い出してる場合じゃなくて!!
「れ、れれ、レイムさんっ! あ、あたっ、頭に何かっ、血が―――っ!!」
は混乱している。
まあ、いきなり目の前の人に刃物が刺さって、血が噴き出してるから無理もないけど。
「おや、本当ですね。なんだか頭が痛いと思ったら……」
レイムさんはこともなさげに言うと、刃物を引き抜いた。
そこにぺたぺたとFエイドを貼っている。
いいのか、頭のケガをそんな簡単な手当てで……?
「あの、大丈夫なんですか……?」
「たいしたケガではありませんから。さあ、気を取り直して行き……」
シャッ
どすっ!!
後ろから何かが直撃して、レイムさんはうつぶせに倒れた。
今度はレイムさんの背中に槍が刺さっている。
い……今のって……
「これ、ロッカの槍に似てないか……?」
「っていうか、今一瞬だけレイムさんの背後にロッカっぽい人がいたような……」
ロッカって、アメルの看病のために留守番してたはずじゃ……ここ、モーリンの家からはだいぶ離れてるぞ?
通行人が驚いてこっち見てるけど、その中にはそれらしい人はいないし。
……いや、ロッカはアメルみたく人間離れはしてないから気のせいだ。多分。
そんなことを考えていると、レイムさんが槍が刺さった状態のまま立ち上がった。
背中の槍を抜くと、やはりFエイド……さっき使ってたのよりは大きいけど……で傷をふさぐ。
「物騒ですね、いきなり槍が刺さるなんて。ここは危険みたいですから、早く離れたほうがよさそうです」
……危険なのはここじゃなくてレイムさんじゃ……
でもそう言う暇もなく、レイムさんはの手を引っ張りだす。
「さあ、早く……」
がすどすべきぐしゃっ!!
突然横からすっ飛んできた人が、レイムさんを叩きのめす。
速くてよく見えなかったけど……十発くらいは当たっていた気がする。
その人はレイムさんが倒れたのを確認すると、くるりとこっちに向き直った。
「大丈夫でしたか? 危ないところでしたね」
青い、ゆったりめのローブ。
顔にはチョウチョの形の仮面。
いつもの格好と違うけど……
「……何やってんだ? アメル……」
「そこの人っ! アメルではありません、あたしは通りすがりの美少女戦士ラブリーエンジェルです!!」
「美少女戦士……らぶりーえんじぇる……?」
唖然としてつぶやく。
変な人に出会ってしまった、そんな顔だ。
「まあそれはともかく、レイムさんの手当てしたほうがいいと思うけど。いくらなんでも死ぬぞ、あれは」
アメル……もといラブリーエンジェルの攻撃で、レイムさんは倒れたまま痙攣していた。
しかもそのせいでFエイドがはがれたのか、頭や背中から再び血が出ている。
「うぅ……さん、手当てしてください……」
切実な……でもなんかわざとらしい声でレイムさんが頼む。
「できれば膝枕で……」
がすっ!
「あら本当ですね、早く手当てしてあげないと」
しれっと言うラブリーエンジェルだが、俺達は確かに見た。
彼女が思い切りレイムさんの顔を踏んづけていたのを。
「今、力いっぱい踏んでたよな?」
「あたし、『黙れ』って言ってたの聞こえた……」
「この人はあたしが手当てしますから、あなた達はどうぞ買出しを続けてください」
何事もなかったかのように微笑むラブリーエンジェル。
「え、でも……」
「任せてもらえますよね?」
微笑んでるんだけど、ファミィさん以上に迫力がある。
俺達はこくこくと、首を縦に振るしかなかった。
で、その場を離れてからしばらく絶叫が続いていたけど……
忘れよう。下手に関わると俺の命も危ない。
きっとレイムさんだって、明日には元気に歩いてるさ……
「どう、かな?」
「おいしいですよ、さん」
「うんうん、これならいくらでも入るぜ」
夕飯時。
の手料理は好評だった。
だってホントにうまいもんな、このシチュー。
アメルもいもがゆっていうのに喜んでいたし。
満腹感に浸っていると、がネスと話しているのが見えた。
ネスが何か考え込んでいるのに対し、は真剣に聞き入っている。
何話してるんだろう?
そう思っていたら、は食器を片付けだした。
さすがに大変そうなので、俺も片づけを手伝う。
「そこに置いておけばいいんだよね?」
「うん、ありがとうマグナ」
しばらく水の音と、食器が触れ合う硬い音だけが響く。
「あのさ、マグナ。……おいしかった?」
「もちろん。おいしかったよ」
「ホントにホント?」
「本当だよ。おいしいんだから、自信持っていいって」
が嬉しそうに笑う。
そして何かを決意したような表情になった。
「マグナ。あたし、がんばるから!」
「え? 何を?」
尋ねてみたけど、「その時までのお楽しみ♪」と返された。
その時っていつだよ?
でもは俺の疑問お構いなしで、
「よっし、やるぞー!」
なにやら燃えていた。
まあ、よくわからないけどやる気があるんならいいかな?
その頃。
「アルミネ……あくまで私とさんの恋路を邪魔する気ですね……」
銀砂の浜で、怒りに燃える生首があった。
もちろん首だけになったわけではなく、そこから下が砂の中に埋まっているのだが。
「しかし、この程度で屈する私ではありません! 残飯でもかまいません、さんの手料理を今度こそ……! ついでに寝顔写真なんかもゲットして、それから……!!」
何を想像したのやら、イっちゃってる顔で鼻血まで流している。
「……困るんだよね、僕のプライベートビーチにゴミなんか埋めちゃ」
ふいに、幼い声が割り込んだ。
だがその口調は、子どもとは思えぬくらいに凄みがある。
「しかも聞き捨てならないことを口走っているし……見過ごせない、かな」
声の主は数歩、砂の上の生首に近づき……
サモナイト石を頭上に掲げた。
翌朝、ファナンの海に巨大なゴミ袋が浮かんでいた。
真っ黒なそれには『粗大ゴミ 開けるな危険』とでかでかと書かれていた。
なにやら焦げ臭い上に、蠢いていたりするそれがどうなったのかは……誰も知らない。
思いついたので書いてしまった、閑話休題的レイムネタ。
バイト中に光臨したんですよ、ラブリーエンジェル様(笑)が……
ドリ主が何をがんばるのかはいつか明かします。想像つくかもしれませんが。
次は甘党召喚士2号、かな?
2003.10.26