前途多難な私達・第18話
第18話
アメルの風邪は思ったより早く全快した。
……まあ、風邪の方が逃げ出しそうな感じだったし。
俺の方もケルマに出くわして、ミニスとカザミネさんも巻き込んで一騒動あったんだけど……いや、多くは語るまい。
そういうわけで、今度こそアメルのおばあさんの村に行くことになったんだけど…
「ずいぶんと歩いてきたけど、それらしい村は見当たらないな」
「方向は間違ってないはずなんだが……」
「なら問題ないなーい。そのうちに見えてくるだろうって」
フォルテはそう言うけど、このままじゃ森の中に入ってしまう。
この先にあるとしても、森は鬱蒼としていて見つけるのは大変そうだ。
「その村には目印になるようなものはないの?」
「ごめんなさい。そこまでは……」
の問いに、アメルは力なく首を横に振った。
ネスがため息をつく。
「やれやれ、そうなるとこの付近をひととおり回ってみるしかないか」
「手分けして探そう」
探し始めてから、10分くらい経った頃。
俺は、空にたなびく煙を見つけた。
「みんな! あそこから昇ってるのって、煙じゃないか?」
「本当だ……ありゃあ、かまどか何かの煙だね」
かまどの煙、ってことは……
「それじゃ、あれを目印にしていけば」
「人のいる場所にたどり着けるでござるな」
「行ってみよう!」
自分でも、声が弾んでいたと思う。
やっと手がかりが見つかったこともあって、みんなの表情も明るかった。
ほどなくして、煙の発生源が見えてきた。
小さいけれど、しっかりした造りの家だ。
「やっぱり、家があった」
「ということは、ここがアメルのおばあさまの住んでる村なんだねっ」
「村ねえ……それにしちゃあ、一軒しか家がねえぞ?」
そう。俺達が見つけた家は一軒しかなかった。
これは……やっぱり村じゃないよなぁ。
「どっちにしても、人がいるなら道が聞けるよ。すいませーん!」
が明るく言うと、入り口に向かって声を張り上げた。
アメルが、みんなが緊張した顔でドアを見つめる。
やがてドアが開き、そこから出てきたのは…
「?」
丸っこい生き物が、ふわふわ宙に浮いていた。
きょとんとこっちを見つめ返している。
「へっ、召喚獣?」
「かわいいー♪」
はしゃぐようなの声。
それはぐるりと俺達を見回して……
「……!」
突然異様なくらい驚くと、家の中へと引っ込んでしまった。
気になって、それが見ていた方を見…
そのまま俺は固まった。
「うふふふふふふ。召喚獣の分際で、あたしのさんに気に入られようなんて100万年早いのよ……」
いつもの怖い笑顔で、アメルが立っている。
よく見ると、ロッカも似たような表情だ。
これじゃ、召喚獣じゃなくたって逃げるよな……
「今のはサプレスの召喚獣だ。おそらくこの家の主人の召喚獣かなにかだろう」
話題を変えようとしたのか、引きつり顔のまま解説するネス。
家の主人の召喚獣、ってことは……
「てことは、この家は召喚師のものってことになるわけか」
フォルテがつぶやいた。
……なんか、嫌な予感がするな……
「しっ! 扉が開くよ」
モーリンの言葉に、再び全員ドアに注目した。
ドアが開いた、と思ったら。
「アフラーンの一族が古き盟約によりて、今命じる……」
「呪文の詠唱だと!?」
……うわあ、嫌な予感大当たり。
「みんな、散って!!」
「来たれっ!!」
声に一拍ほど遅れて、召喚術が発動する。
それは走っていたレナードさんの、すれすれの所に落ちた。
「あ、あぶねぇっ」
「うそ、外れた……?」
呆然とつぶやいたのは、褐色の肌の女の子。
彼女が術者なのか?
「いきなり何するんだよ、君は!?」
そりゃ、召喚獣怯えさせたアメル達だって悪いと思うけど!
「お、お黙りなさいっ、悪魔の手先のくせに!」
………………はい?
悪魔の手先って……俺達のことか!?
「とぼけたってダメよ。ルウはちゃんと知ってるんですからね。キミ達が禁忌の森に封印された、仲間の悪魔を解放して……悪いことをしようと企んでるって事を!」
戸惑う俺達をよそに、一方的にしゃべる女の子。
封印? 悪魔?
一体、なんのことを言ってるんだ?
よくわからないけど、なんだかものすごい誤解をされているみたいだ。
「いや、俺達はちょっと道を……」
聞きたいだけだよ、と続けることはできなかった。
どがぁん!!
女の子がまた召喚術を使った。
俺は慌てて避けたけど、すぐそばの地面や草が黒焦げになって煙を上げてるのが見えた。
……まともに食らったら死ぬぞ、これは!!
「だまされるもんですか。そうやって油断させるのが、キミ達悪魔の得意技だもの……二度と悪さができないように、ルウが懲らしめてあげるわ!」
……頼むから話を聞いてくれって。
そんな俺の願いもむなしく、女の子と召喚獣達が襲い掛かってきた。
はーっ……疲れた。
結局、女の子を気絶させることで攻撃を止めることができた。
さすがにそのままにしておくことはできないので、家の中へと運び込む。
それからしばらくして。
「うーん……」
女の子がうめきながら目を開けた。
「あ、気がついた」
「……わあっ!?」
俺達を見るや、驚いて飛びのく女の子。
「ちょっと、落ち着いて」
「あたい達は別に、あんたに危害を加えるつもりなんてないよ」
「そ、そ、そんなこと言って……油断させてからルウにとりつく気でしょう。そうなんでしょう!?」
とりつくって……そんな器用なことできるわけないだろ……
「とりつくのなら、君が気絶していた間の方が簡単だったはずだ。君もサプレスの召喚師なら、それくらいは知っているだろう?」
ネスの言葉に、女の子は「それはそうだけど……」と少しうつむく。
さすがはネス。
とにかく、悪魔だって誤解は解かないと。
「事情を説明させてくれないかな? そうすれば、俺が悪魔の手先なんかじゃないってわかってもらえるから……」
「じゃあ、本当に旅の人だったのね!? なぁんだ……」
女の子……ルウは、気が抜けたようにため息をついた。
「なぁんだ……ってね、こっちはその勘違いでとんでもない目に遭わされたんだからっ!」
怒るミニス。気持ちはわかる。
「ごめんなさい。でも、こんなところに旅人がやって来ることなんてなかったから。てっきり、森を荒らしにきた悪魔の手先だと思って……」
「悪魔が森を荒らすとは、どういう意味でござるかな?」
「そうだよ。なんで悪魔や封印なんてものがこの森と関係あるんだ?」
鬱蒼とはしてるけど、そんな物騒な所に見えなかったけどな…?
俺達の質問に、ルウは不思議そうな表情を浮かべた。
「キミ達、あの森がなんて呼ばれてるのか知らないの?」
「うん……」
「アルミネスの森っていうんだよ、あそこは」
「アルミネスだって!?」
ネスが声を荒げて叫んだ。
「知ってるのか、ネス?」
「封印の森だよ……あの森は、その昔にリィンバウムに攻めてきたサプレスの悪魔の軍勢が封じこめられているという、禁忌の森だといわれているんだ」
「ええっ!?」
なんだよそれ!?
「おいおい、それってあれか? 天使が悪魔と戦ってできたっていう……」
「私も知ってる。でも、あれっておとぎ話なんじゃないの?」
「おとぎ話じゃないわ、本当の話よ。ルウ達アフラーンの一族は、あの森を中心に出るサプレスの力を研究するためにずっと昔から、ここで暮らしてるんですもの」
そんなとんでもないとこだったのかよ……
「すると君は、派閥に属さなかった召喚師の末裔なのか……」
納得したような口調で、ネスが言った。
「はばつ?」
「いや、こっちの話だ」
「……まあ、とにかく。この辺りのサプレスの魔力が強いのは本当よ。けど、ここのところ森の様子がおかしいの。なんだかざわついて、嫌な感じで。まるで誰かが出入りをしてるみたいだったから、それで……」
なるほど。
それで、俺達が荒らしてる奴らだと勘違いしたわけか。
「しかし、なんでまた悪魔だなんて勘違いをするかねえ?」
呆れたようにレナードさんが尋ねる。
「あの森の奥には結界があって、人間はその先に入れないのよ。だから……」
「ちょっと待ってくださいっ!」
説明したルウの言葉を、突然アメルがさえぎった。
「ねえ、ルウさん? それだと、森の奥には人が住んでいないってことですよね……」
「もちろんそうなるよ。悪魔の封印された森の側に、村なんか作れるわけがないもの」
あっ……
つまり、それって……
「それがもし本当なら、あたしの……あたしのおばあさんの暮らしてる村は、どこにあるの……?」
呆然とつぶやくと、アメルはふらりと出口に向かって……
……って、ちょっと待てっ!!
「アメル、どこに何しに行くつもりだっ!?」
リューグが慌ててアメルを抑える。
「おじいさんに確かめに行くのっ!!」
わめくアメルの手には、モーニングスター(最近、やっと武器屋で名前知った)。
爺さんに会って何する気なんだ!?
「だからって、それはまずいだろっ!! 早まるな、落ち着けっ!!」
「いやっ!! あたしの信じてたことって、一体なんだったの――っ!!」
……一つだけ、はっきりしてることは。
このままアメルを行かせたら、絶対爺さんは無事じゃすまないっ!!
「やめろ、いくらなんでも死ぬぞ!!」
「犯罪はダメよ、犯罪はっ!!」
「いや―――っ!!」
結局、俺達全員でどうにかアメルを止めたときにはとっぷり日が暮れていた。
短めですが、きりがいいのでここでストップ。長くなりそうなので。
ルウをもう少し暴走させようかと思いましたが、あえなく断念。
アメルのメイス、正式名称はモーニングスターです。今まではマグナが知らなかっただけです。
次回あたり、ドリ主をもうちょい絡ませようかと思います。ネスとかリューグとか。
2004.1.3