前途多難な私達・第2話
第2話
先輩達と別れ、城門の前にさしかかろうとしたら……やたらに人だかりができていた。
何だよ、これ?
「ああ、もう高札が立てられたようだな」
ぼそりとネスが言った。
「高札?」
「野盗たちの手配書だよ。昨日捕まえた連中が根城を白状したらしい。流砂の谷といってな、北にある、険しい谷間に隠れていたようだ」
「流砂の谷ねぇ」
なんか、名前からして行きにくそうな場所だな……
「でも、高札を立てる意味って?」
場所わかったんなら、さっさと行けばいいじゃないか。
「それはな……」
「よーし! これだぁっ!!」
ネスの声を遮って、やたらにでかい声が飛んできた。
「きゃっ!?」
が思わず耳をふさぐ。
「ふふふ、この賞金が手に入れば、どれだけ治療費が必要になろうと大丈夫だぜ」
そう不敵に笑っていたのは……やたらに体格のいい男だった。
「この野盗団の賞金はオレがもらったーっ!」
周りの視線も気にせず一人高らかに宣言すると、足取りも軽く去っていく。
俺と
はぽかんと、男の背を見送った。
「あれがいわゆる冒険者という連中だ。彼らはこういう荒事で旅の資金を稼ぐからな」
思い出したようにネスが説明してくれる。
へえ、あれがそうなんだ。
……今の俺とはまるで別世界の人達だよな……
そろそろ街を出る頃になって、ネスがぽつりと話し始めた。
「王城の役人から説明を聞いたんだがな。あの連中は、ずいぶん前から旅人を襲い続けていたらしい」
「前からって……知っていて、野放しにしてたのか!?」
「連中も馬鹿じゃない。遠征があることを事前に聞きつけて、その間は身を隠すようだ。騎士団が探索できないような険しい場所にな」
「いくら騎士が強くても見つけられなかったら退治できない?」
「そういうことだ」
なるほどー……と
がつぶやいた。
「だが、ゼラムの政治家たちも、そろそろ本気で野盗退治を考えてるようだぞ。これは噂だが……我々、蒼の派閥の協力を仰ごうという計画が進んでいるらしい」
「え? だって、おきてでは政治に関わるなって……」
「建て前と真実は別物さ。派閥とて、街に本部を置く以上、それなりに協力をする必要がある。それに、野盗退治は街道を利用する全ての人々のためだという、大義名分もあることだしな」
「理屈はわかるけど、なんだかなぁ」
「政治って、どこも一緒なのねぇ」
も呆れたように言った。
の世界も似たようなものなのだろうか。
でも、もし今の噂が本当なら……
「野盗をやっつけたら、派閥の召喚師としての手柄になるよな?」
「な……!?」
「えっ!?」
ネスと
が驚いた顔で俺を見る。
そしてすぐに、
「なにを考えてるんだっ! そんなことできるわけないだろう!? つきあわされる僕の身にもなってみろ!」
案の定、ネスの説教が始まった。
「なんだよ! やってみなくちゃわからないだろ!? ネスは来なくていい!」
「あのー、もしもし?」
「なに子供みたいなこと言ってるんだ? 僕は君の監視役として責任が……」
「『命令』で『仕方なく』だろ?」
「……!」
「野盗を倒しても野盗に倒されてもどのみちネスの任務は終わるんだ! 嬉しいだろ?」
「ちょっと、二人とも落ち着いて……」
「何を馬鹿なことを!」
「嬉しいよな!? バカな俺の世話役から解放されるんだし。行くぞ
!!」
言って、
の手を引き走り出す。
「待つんだマグナ!」
「って、人の話を聞いてよぉぉっ!!」
まあ、後で考えてみれば俺は相当頭に血が上っていたんだと思う。
勢いで
を引っ張り、走り続けて。
「ちょっと……いいかげん離してってば!」
「あ……」
に手を振り払われ、ようやく俺は足を止めた。
は怒った顔でこっちを見て。
「何考えてんの!? 相手は盗賊団でしょ、大勢でしょ!? 二人で行って、勝てるわけないじゃないの!」
これでもかと
がまくしたてた。
「
までネスと同じこと言うのかよ? やってみなくちゃ……」
「……あのね、あたしは戦えないってば。大体、盗賊団にあたしが捕まるとは考えなかったわけ?」
う、と俺はつまるしかなかった。
確かに昨日のような奴らじゃ、真っ先に
を狙って人質にしたりするだろう。
「少し落ち着きなさいよ。マグナ、さっきからなんか変よ?」
諭すような口調で、でも心配そうな顔で
が言った。
「……だって、悔しいんだ。旅に出てもネスに迷惑とかかけっぱなしだし、
も危ない目にあわせてばかりで……」
これじゃ、見習いの頃と何も変わっていない。
それが悔しかった。
「だから、一日も早く一人前だって認められれば……」
「なら、まずはその軽率な行動をどうにかしてくれ」
横から声が割り込んだ。
げ、ネス……もう追いついたのかよ……
せめて、心の準備くらいは欲しかった。
「君の気持ちはわかった。だがな、君の力じゃ野盗退治なんて無理だ」
「でも……」
「……そこまで言うなら、自分の目で確かめに行くか?」
「え、いいのか?」
てっきり頭ごなしにダメだって言うのかと思っていたけど。
「野盗というものを知ることも、見識を深める足しにはなるだろう。それでなお、勝てると思ったのなら、戦ってみればいいさ……何を笑っているんだ、
?」
「いーえ、別に」
そういう理由なわけか……ま、いいか。
もそれで納得したみたいだし。
見下ろせば、そこには大勢の男達。
いかにも「悪党です!」というような雰囲気。
「うわー……こんなにいるんだ」
「どうだ?まだ勝てると思うか?」
いや……これはいくら何でも一人じゃ無理だ。
あのまま行かなくてよかったな……
「正直、僕もこれほどに大規模な集団だとは思ってはいなかったよ。見つからないうちに引き上げよう」
「そうですね」
がうなずいてネスと一緒に離れようとした。
俺も後に続こうとしたけど……ふと見えたものに動きを止めた。
「ネス、
! ちょっと待った、様子が変だ!」
二人が怪訝そうにこっちを向く。
そして俺の視線を追って……
「っ!?」
が息をのんだ。
気づいたらしい。野盗達が誰かを取り囲んでいるのを。
……って、あの人街で見た冒険者じゃないか!?
連れらしい女の人と一緒に、縄でぐるぐる巻きにされている。
あ、女の人が怒ってる。
首領らしき男が何か言って……逆に気にさわることを言われたのか怒り出す。
それでも冒険者さんは余裕って感じで。
……自分が捕まっているっていうのに、何なんだあの人?
いや、それより!
「助けよう!」
「そんな必要がどこにあるというんだ? ましてや彼らと僕らは赤の他人なんだ。わざわざ危険を犯して助ける必要はない」
……むかっ。
「バカ言うなよ! 見殺しにできるわけないだろ!?」
「マグナ、待つんだ!!」
今度こそ俺はネスが止めるのも聞かずに、斜面を駆け下りていった。
嫌なんだよ。見えないふりするなんて。
目を背けられることがどれだけ辛いか、俺は知ってるから。
俺は坂道を降りきると、すぐ近くにいた野盗に斬りかかった。
完全に不意をついた格好になったので、野盗はあっけなく倒れる。
「さあ、今のうちに逃げて!」
俺は中心にいるであろう冒険者さん達に向かって叫んだ。
「このガキがっ」
野盗達が一斉に襲いかかる……前に、
ちゅいぃぃん……がががががががっ!!
召喚獣が野盗を倒していく。
ありがと、ネス。
「なっ……召喚師だと!? おめえの差し金か、冒険者!!」
「んーにゃ、違うね。だってさ……」
少し間をおいて、ぶちぶちっと音が聞こえてきた。
「なっ、縄が!?」
「このとおり頃合いを見て、カッコよく反撃するつもりだったのさ」
「頭目の貴方を確実に倒すためにね?」
なるほど……それで平然としてたわけか。
「ちょいと筋書きは変わっちまったけど、大逆転といかせてもらうぜ!」
そして、冒険者さん達の反撃が始まった。
はー……やっぱり強いよ、あの人達。
野盗のほとんどを倒しちゃうんだもんなあ……
「大丈夫だった?」
岩陰から、ぱたぱたと
がやって来る。
ネスに言われて隠れてたんだろうけど……無事でよかった。
「どうもありがとう。おかげで助かったわ」
女の人が軽く頭を下げた。
「いえ、単にこちらのバカ者が軽率な行動をしただけですから。むしろ、いらぬ手助けで邪魔をしてしまったことが心苦しいです」
ネス……そういう言い方ってないだろ?
確かに、余計なお世話だったかもしれないけど。
「そんなことはないわよ。こっちだって、そこのお調子者の立てた計画だけに、不安いっぱいだったんだから」
女の人がじろりと冒険者さんを睨んだ。
「あー、なんだ! それはともかく、自己紹介、まだだったよな?」
冒険者さんが汗一筋流しながら言った。
……もしかしてこの二人って、俺とネスみたいなことをやってるのかも。
「俺はフォルテ。見ての通りの剣士だ」
「私の名前はケイナよ」
フォルテさんに、ケイナさんか。
それから俺達も、一通り自己紹介をした。
その後は、……まあ、色々あった。
フォルテさん達に頼まれて騎士団を呼びに行く途中で、ネスときちんと話すことができたし。
戻ったときにはもう日が暮れてしまい、フォルテさん達と一緒に野宿したり。
それに何より、
と話して。
「結局、ファナンに向かうどころじゃなかったわねー……」
「ごめん、俺……」
「まあいいわよ。こんな日だってあるし、マグナやネスティさんがどういう人かもわかったから」
「え?」
「やり方はちょっとあれだけどね」
とりあえず……悪くない評価だったんだよな?
流砂の谷、終了編。
やっと…って感じです。
最後は夜会話っぽく。少しは距離が縮んだかな?
次回、聖女様光臨編。