前途多難な私達・第3話
第3話


 「レルムの村の『聖女』……ですか?」
 「あんた達なら、奇跡が本物かどうか確かめられるだろ? 同行してもらえれば助かるんだが……」

 野盗退治から一夜明けて。
 お礼ということで誘われた食事の席で、俺達はフォルテさん達に「用事につきあってほしい」と頼まれた。
 簡単に言うと、記憶喪失のケイナさんのためにレルムの村にいる『聖女』の奇跡を頼ろうということらしい。
 怪我や病気を一瞬で治す奇跡か……本当ならすごいよな。

 「わかりました」
 「お、そうか!」
 フォルテさんは嬉しそうだった。
 「無理しなくていいのよ。こっちの勝手なお願いなんだから」
 逆にケイナさんはすまなさそうな顔をしている。

 「気にしないで。それに奇跡ってのがどんなものか見てみたいし」
 「そうそう、ホントならすごいよ!」
  もかなり乗り気みたいだ。

 「構わないよな、ネス?」
 「まあ、よかろう。噂の真否をたしかめることは、派閥としても有益なことだしな」
 はあ……相変わらず固っ苦しい言い方だよな。
 素直に「いい」って言えばいいのに。

 「よーし!そうと決まればオレ達は今から旅の仲間だ。固っ苦しい敬語とかはやめにしようや」
 「そうですね……じゃなくて……そうだな」
 あ、つい言っちゃったよ。
 「ふふふ。変に意識しなくても、ごく自然な話し方でいいんだからね」
 「そうね。あたしもそっちの方が楽だし」
 ケイナさんと がおかしそうに笑った。

 それから は少し遠慮がちに、
 「えと……ネスティさんも、それでかまわないかな……?」
 「僕は別にかまわないが?」
 「そうそう。俺と一つしか違わないんだし」
 俺がそう補足した途端、 は目を丸くした。

 「は? 一つしか、って……?」
 「だから、一つ違い。俺が18で、ネスが19」
 しばしの沈黙の後。

 「え―――っ!? 同い年と一つ上!?」
  はいきなり叫んだ。
 び、びっくりした……
 「な、なんだよいきなり……」
 「あ、その……年下と20過ぎかと思ってた……」

 ……この際、どっちがどっちかは問わないことにしよう。
 どうりでネスに敬語使って、俺は年下扱いな訳だよ……
 けど、同い年だったのか……
 二つくらい年下だと思ってたことは黙っていよう。







 準備を済ませて、レルムの村に向かって。
 途中で木こりの爺さんに会って、道を教えてもらった。
 何かうんざりしていたのが気になったけど……

 そして。
 「ひゅー……」
 「…………」
 「すご……」
 順にフォルテ、ネス、

 「ひょっとして、ここにいる人たちって……」
 「み〜〜〜〜〜んな、聖女の奇跡を頼ろうとしてる人たちなのか?」
 そう。俺達の目の前には、信じられないほどの人達が長い列を作っていた。

 「うーん、これじゃ日が暮れたって、私達に順番は回ってきそうにないわね……」
 ケイナさんが途方に暮れたようにつぶやいた。
 日が暮れるどころか……何日かかるんだ、これ?
 「いや、それ以前にどこが列の最後部かもわからないぞ」
 ネスも唸っている。
 「なーに、そんなもの適当に列ん中に混じっちまえば……」
 と言いつつ、フォルテは列に割り込もうとしていた。
 おい、それはいくら何でもまずいって!

 「そこの野郎っ! なに勝手に列に割りこんでやがるんだ!!」
 ……遅かったか。
 振り返れば、声の主らしい少年がずかずかとやってくる。

 「なんのためにわざわざ列を作って並んでると思ってんだよ……」
 「あー、わりぃわりぃ。どこが列の最後尾だかわかんなくてさぁ」
 「はっ、どうだか……最初っからドサクサで列に入りこむつもりだったんだろうが? テメエらみたいな連中がいやがるから俺たちの苦労が絶えねえんだっ! さあ、とっととこの村から出てきやがれ!!」
 むかっ。
 ちょっと、今のは言いすぎじゃないか?

 だが、俺が文句を言う前に。
 「ちょっと待ってよ! そりゃこっちも悪いけど、出て行けはないんじゃない?」
 「そうよ! 大体なんの権利があって貴方にそんな命令ができるわけ!?」
  とケイナさんが一気にまくしたてた。
 す、すごい……

 「権利だぁ? はっ、権利ならあるさ。俺はこの村の自警団員なんだからな」
 「ほう? それにしてはずいぶん礼儀がなってないようだがな」
 「なにぃ……?」
 「喧嘩腰で物を言われずとも、物の道理ぐらい理解できるさ。むしろ君のその高圧的な態度は、かえって事態を悪化させているとしか思えないな」
 ね、ネスが俺以外に説教してるよ……
 相当頭にきたみたいだな。

 「……テメエっ!!」
 怒って実力行使しようとする少年。
 だが。
 「そこまでだ!! リューグ!」
 「ちッ……」
 突然横から割り込んだ声に、少年は舌打ちしながら構えを解いた。

 そっちを見れば……え?
 お、同じ顔が二人!?
 「ほー、双子とは珍しいなあ」
 フォルテがのほほんとつぶやいた。

 そんな俺達をよそに、二人の言い争いは続いていた。
 「どんなことがあってもお客さまに暴力をふるうなと、あれほど言い聞かせただろう?」
 「口で言ってもわからん奴らには、このほうが早えんだよッ」
 「リューグ!」
 「はっ、やめたやめた! テメエの説教なんてまっぴらだっ。そうやって、一人で偽善者ぶってろ……バカ兄貴がっ!!」
 やってられるか、と言わんばかりにリューグと呼ばれた方が去っていく。

 「どうもすいません。弟のリューグが、失礼なことをしてしまって」
 後から現れた方がすまなさそうに頭を下げた。
 「いえ、注意されるようなことをした俺達にも責任はあるし」
 「あんたのことよ、フォルテ?」
 ジト目でフォルテを見るケイナさんだけど、当のフォルテは……
 「ふんふふーん……♪」
 明後日の方を向いて、鼻歌を歌っていた。

 「……こいつはっ!?」
 「ぐほぉっ!?」
 ケイナさんの裏拳が、フォルテの顔面に決まった。

 「売り言葉に買い言葉で返してしまったことも事実ですから。ここは、お互いさまとしておきましょう」
 「そう言ってもらえると助かります」

 「ところで、えっと?」
 「ロッカです。レルムの村の自警団長をさせてもらってます」
 「ロッカさん、列の一番後ろってどこなんですか」
 まずはそれを聞いておいた方がいいだろう。
 でも、その答えは……

 「列、ですか? 大変申し訳ないんですけど……ここにいる人たちの後にも、順番待ちの人がまだ何十人も……」
 「あちゃあ……っ」
 まだいたのかよ……恐るべし、聖女の奇跡。

 「本当にすいません。なにしろ聖女は一人だけなので」
 ……ごもっとも。
 「しょーがないわな。ま、これだけ長い列ができるってことは効き目は確かってことだろうし、ちょっくら並ばせてもらうとすっか。行くぞ、ケイナ」
 「あ、待ってよ、フォルテってば!」
 さっさと歩き出すフォルテを、あわててケイナさんが追いかけた。
 まあ、確かにそう思えば少しは気が楽かも。

 「それじゃあ、俺達はどうする?」
 振り返ってネスと に尋ねると、
 「あの、もしよろしければさっきの騒ぎの経緯を聞かせてもらいたいんですが……」
 ロッカさんがそう言って……
 ……って、おい。

 「あのー、手を引かなくてもちゃんとついていきますけど……」
 困ったように
 そうだよ、当然のように の手を繋ぐなよ!

 「それなら、僕が行こう」
 とっさに名乗り出たネスが、今ばかりはありがたかった。
 「じゃ、俺も……」
 「君がついてくるとかえって話がややこしくなりかねん」
 ……前言撤回。
 やっぱ、鬼だ。

 「 と村の見学でもしてればいいだろう?ついでに宿でも探しておいてくれ」
  と一緒に?
 やった! ありがとうネス!!
 鬼だとかカタブツメガネだとか、説教魔王だとか思ってごめん!

 「……今何か言ったか、マグナ?」
 ぎく。
 「いや別に何も。さあ、行こう
 追求されないうちに、 の手を引いて歩き出す。
 ロッカさんが舌打ちしたような気がしたけど、聞かなかったことにした。








 「あのさあ……ここどこ?」
 「……なんか、知らないうちに森の中に入っちゃったみたいだな」

 数分後。
 俺達は見事に迷った。

 でも……すごく静かでいいところだよな。
 なんか眠くなってきちゃったし……
 ……決めた。

 「ちょっとだけ、昼寝していくか」
 「え?ちょっとマグナ、宿は……」
 「だーいじょうぶ、ちょっとだけ。じゃ、おやすみー」
 数秒後、俺は眠りに落ちた。
 寝付きがいいのが取り柄だしな……ネスには怒られてばっかだけど。


 がさがさ……がっさがっさ!


 ん?
 なんか、うるさい……

 「あわ、あわあわっ! きゃあああっ!!」
 「な、なんだぁ!?」
 俺は思わず目を開けた。

 間髪入れずに、
 「ど、ど、どいてくださぁ――いっ!!」
 「マグナっ、上!」
 女の子の悲鳴と の注意が飛び。
 つられて上を見ると、女の子が俺の真上目がけて落ちてくるところだった。

 「うわあっ!」
 あわてて受け止めたせいか、勢い余ってしりもちをついてしまった。
 うー……いてて……

 「いたた……」
 「大丈夫かい?」
 「あ、はい。大丈夫ですけど……あなたの方こそ大丈夫ですか?」
 俺が尋ねると、女の子は少ししゅんとして問い返した。
 「ああ、平気さ。さすがにびっくりしたけど」
 「ごめんなさい。うっかり足を滑らせちゃったんです」
 おしとやかそうだけど……木に登ってたんだよな、この子。

 ふと、にー……という声が聞こえてきた。
 「あれ、子猫?」
 「はい、あの子、あそこから降りられなくなっているみたいなんです」
  の言葉に、女の子はうなずいた。
 なるほど……でも、その格好じゃ無茶だよ。

 「じゃ、あたしが行ってくる!」
 え?  が登るのか!?
 「ちょっと待てよ、その格好じゃ……」
 「大丈夫、スパッツはいてるし! これでも木登りは得意だったのよ」
 言うが早いか、 はひょいひょいと木に登っていく。

 そして子猫の近くまで行くと、
 「ほら、大丈夫だから。おいで」
 最初警戒していた子猫も、敵じゃないと思ったのかそろそろと に近づいていく。
 そして は子猫を抱き寄せると、これまた上手に木から降りてきた。

 「ほら、もう大丈夫だから。……あ、こらくすぐったいってば」
 子猫にじゃれられて、 が嬉しそうに笑う。
 ああ、やっぱり って……

 「かわいい……」
 …………へ?
 まさに思っていたことを横から言われ、そちらを見れば。
 女の子がうっとりと、 を見つめていた。
 いや、見ているのはいいんだけど。
 なんで頬を赤く染めてるんだよ?
 しかも、周りにいつの間にか咲いてるユリの花は何だ!?

 「うふふ……理想だわ♪」
 ぞくっ。
 ……この時、俺の本能が告げた。


 ……この子は危険だぁっ!!





 ひしひしと、俺は嫌な予感を感じていた。



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ようやく聖女様&ブラック兄登場。
この後どうなるかは…まあ、大体予想つくかと。
マグナ& の運命やいかに!?
はたしてマトモに進むのか!?(無理だって)