前途多難な私達・第4話
第4話
「そうだな。おそらく、その少女がこの村の聖女だろう」
「やっぱり……」
あのあと。
例の女の子と(なんとか)別れた俺達は、やっと見つけたネスにそのことを話した。
ちょっと退いたけど、枝でひっかいてできたらしい
のケガを不思議な力で治したし。
「アメル様」なんて呼ばれてたから、間違いないと思う。
「ところで、宿の方は確保できているのか?」
「それが……」
が言いにくそうに話し出す。
あれから
に言われて二人で探したんだけど……どこも満室だったんだよな……
「やれやれ……最初からあてにしてなくて正解だったな。ロッカに頼んで、僕のほうで泊めてくれる家を紹介してもらってる」
さすがネス……って、ちょっと待った。ロッカに?
……まさか、自分の家紹介していたりしてないよな?
「いやぁ、まいったぜ。並んだはいいが、列が進まないのなんのって」
そんなことを考えていると、フォルテがうんざりした顔で戻ってきた。
後ろのケイナさんも似たような感じ。
「あれ、二人とも列を抜けて平気?」
「今日の面会はおしまい。この順番札を持ってまた明日並んでください、ですって」
「とはいえ、明日のうちに順番が回ってくるのかもあやしいがな」
確かに。あれだけの人数、一人で全部済ませようと思ったら数日はかかる。
「ごめんね。まさか、こんな面倒なことになってるなんて」
ケイナさんがすまなさそうに言った。
「気にしないでよ、ケイナさんのせいじゃないんだし」
「とりあえず、どこかで落ち着こうや。先のことはそれから考えりゃいい」
「ふーっ……」
俺はベッドの上で思いきり伸びをした。
紹介してもらった家。
なんと、途中で道を教えてくれた爺さんの家だった。
それだけでもびっくりだったのに、聖女の……いや、アメルの爺さんだって言うんだもんな。
あの自警団の双子もここで育ったそうだ。だからあんなに怒ってたのか?
ふと、夕食後のフォルテ達との会話を思い出した。
部外者だから横から口を出すことじゃないと、ネスは言った。
納得しているならとやかく言うのはお節介だと、フォルテは言った。
……正しいことだっていうのはわかる。
結局、あの子が自分の立場をどう思っているかだし。
でも……もし俺があんな立場だったら?
ああいう風に笑っていられるだろうか?
だったらどうだろう?
俺は…………
どごぉぉぉん!!
突然、轟音と共に家が揺れた。
なんだっ!?
あわてて窓に目をやると……そこに見えたのは赤く激しく揺らめく炎だった。
俺達全員が外に出た頃には、もっとすごいことになっていた。
森や建物……村のほとんどが燃えている。
「なんで村が燃えてるんだよ!?」
「ただの火事じゃないぜ、見ろ!」
フォルテの指さす方を見ると。
「た、助けてくれぇっ!」
泣きわめく中年の男に向かって、黒い鎧の兵士がゆっくりと近づいてゆく。
そして無言のまま、右手の剣を振り上げて……
その先は容易に想像できた。
「
、見るなっ!」
反射的に
を抱き寄せて、男が殺される光景を
の視界から隠す。
「ぎゃあぁぁっ!!」
びくん、と
の体が震えた。
そのままガタガタと震え続ける。
「何よ、あいつら。無抵抗の人になんてことしてるのよ!?」
「野盗か? いや、それにしては動きが整然としすぎている……」
「ネス、冷静に分析している場合じゃ……」
言いかけて、俺はふと気づいた。
「……アグラ爺さんは?」
肝心の、この家の主がいない。
「家ん中にはいねーぞ!」
俺より前に気づいたらしいフォルテが、家の中から出てきて言った。
ここにいないってことは……アメルのとこに行ったのか!?
「ケイナさん、
を頼む!」
「マグナ!?」
驚いたネスに対し、俺は首だけ振り返ると、
「放っておいたらみんな殺される!」
そして、アメルのいそうな所目指して走り出した。
たしか、それっぽいところがこの辺にあったような……
あ、あれかな?
「いやぁっ!」
悲鳴のした方を見ると、やはり黒い鎧の兵士がアメルの腕を引っ張って行こうとしていた。
させるかっ!
思い切り攻撃してやると、不意打ちのせいもあったか兵士はうめき声を上げて倒れた。
「あ……」
アメルは驚いたようだけど、俺がわかったのかすぐこっちに駆け寄ってきた。
「女の子を力ずくでどうこうしようって根性、気にいらねえな」
「どういうつもりか知らないけど、この子は渡さないんだから!」
フォルテやケイナさんも兵士達を睨む。
でも、連中は黙ったまま。顔を覆う形の兜なので、表情もわからない。
「大丈夫だから、あたし達から離れないで」
「は、はいっ!」
に言われてうなずくアメル。
俺達もアメルと
を守るため、武器を構えた。
ふう、とりあえず大体倒せたか?
しかし、何なんだこいつら?やけに数も多かったし。
「アメル、無事かっ!?」
「リューグ!」
にしがみついたままのアメルの姿を認めて、リューグはわずかに安堵の表情を浮かべた。
後ろにはロッカの姿もある。
「ねえ、村のみんなは? みんな、無事に逃げられたんだよね!?」
でも、アメルの質問の答えは沈黙で返された。
そして、それはどんな答えよりもはっきりとすべてを語っていた。
「嘘……」
「あいつら、一人残らず殺しやがった……!」
なんてことを……
アメル一人を手に入れるのに、ここまでするのか!?
「……ところで」
静かにロッカが言った。
「いいかげん彼女から離れたらどうだい、アメル?」
「何言ってるのよロッカ。
さんはあたしを助けに来てくれたのよ?」
なっ……なんなんだよ?
この底冷えするような真っ黒い空気は!?
く、口が挟めない……
「ほう、こんな所に隠れていたか」
「だからって、いつまでもしがみついていたら迷惑だろう?」
「ロッカに護衛させるよりは安全よ」
「えーと、あのー……」
「ずいぶん手間がかかると思ったが、まさか冒険者ごときに……」
「そうか……あくまで僕には譲らないって言うんだね、アメル」
「やっと見つけた運命の人、ロッカに渡すわけにはいかないわ」
「……あたしの意見は無視?」
「…………」
突然現れた黒い騎士……口ぶりからして連中の親玉みたいだけど、目的の聖女に無視されて無言で佇んでいる。
兜のせいで顔は見えないけど、きっと途方に暮れた表情をしてるだろう。
「なあ……俺達だけで話進めねえか?」
「そうだな……」
フォルテの提案に不承不承うなずく黒騎士。
「……無駄な抵抗はよせ。抵抗しなければ、苦痛を感じることなくすべてを終わらせてやろう」
気を取り直し、黒騎士が朗々とした声で告げる。
「ふ、ふざけんじゃねえっ!」
怒って斧で斬りかかるリューグ。
対する黒騎士は動じることなく剣を持ち……
がきぃん!
「ぐわぁっ!」
リューグが地面に倒れる。
何をしたのか、俺には全然見えなかった。
「なんて野郎だ……片手であの小僧の斧をはじきやがった!」
フォルテの言葉で納得はしたけど、それでも簡単じゃないことは俺でもわかる。
「くそぉ……っ」
呻きながらもなんとか立ち上がるリューグ。
「我々を邪魔するものには等しく死の制裁が与えられる。例外は……ない」
黒騎士が剣を構える。
その切っ先がリューグを向いて……
「うおぉぉ―――っ!」
いきなり大きな影が飛び込んできた。続いてがきん、と重い音。
「なにっ!?」
黒騎士の言葉に、初めて動揺が混ざった。
その剣を必死で押さえているのは……アグラ爺さん!
「無茶だ!」
ネスが叫ぶ。
それでも爺さんは、黒騎士をしっかり見据えて言った。
「わしの家族を殺されてなるものか……命の重みを知らぬ輩に好きにさせてたまるものかぁぁぁっ!」
叫ぶなり、思い切り黒騎士の剣を弾く。
す、すごい……
「あ、あぶないっ!!」
え?
?
声のした方を振り向こうとして、俺の視界に入ったもの。
それは、弾丸のように飛んでいくロッカとリューグの姿だった。
ごすっ!!
『うわあああぁぁぁぁ……』
ロッカとリューグとアグラ爺さん(ついでに黒騎士)は星になった。
「ああっ、ロッカ、リューグ! おじいさ――ん!!」
「いや、でもあの二人ぶん投げてお爺さんまで飛ばしたのアメル……」
泣き叫ぶアメルの横では、
が汗一筋たらしながらつぶやいていた。
確かに知らなければいい光景だよな……
何があったか知りたくない。
いきなり最強ぶりを披露した聖女様。
吹っ飛ばされた4人は無事再登場できるのか?
そして、
の運命は?
波瀾万丈のまま次回に続く!
最初マトモに進んでいただけに、後半とのギャップが…
黒騎士ほったらかして戦う兄と妹。いいのかあんたら(笑)
ロッカとリューグがどうやってぶん投げられたかは…ご想像にお任せします。
次回までには完治しててね(←無理言うな)