前途多難な私達・第5話
第5話
「マグナ、マグナってば!!」
ゆさゆさと揺すられる感覚。
「ん……」
あ、もう朝か。
やっぱりベッドだとぐっすり眠った気がするな。
「やーっと起きた。早くしてよ、みんな朝ご飯食べちゃったわよ」
ちょっと膨れて言う。
こういうのっていいよなぁ……俺を起こしに来るのって言えば、ほとんどネスだったし。
そのうち「しょうがないなあ」って顔して、おはようのキ……って、何考えてんだ俺っ!?
「? 何笑ってるの?」
「あ、いや何でもないっ!」
しまった……顔に出てた。
あれから。
俺達はやっとの事でゼラムに戻り……先輩達の屋敷に転がり込んだ。
本部に戻るわけにもいかなかったし、他に思いつくところがなかったからだ。
幸い、事情を聞いても先輩達は「ここにいてもいい」と言ってくれた。
だが、今俺の前には問題が一つある。
「……はあ……」
またのため息が聞こえてきた。
そう、朝は気づかなかったけど、の元気がない。
下手するとアメル以上にひどいもんな……
「ちゃん? 顔色悪いけど大丈夫?」
見かねたらしいミモザ先輩が問いかける。
はえ? と小さく漏らし……
「そんなことありませんよ、いつも通りですってば♪」
しばしの沈黙。
どう見たって、あれは空元気だな……
「あはは……あたし、ちょっと片づけ手伝ってきます」
乾いた笑いを上げながら、は足早に出ていった。
「気を使わなくたっていいのに……」
ミモザ先輩はため息をついた。
そうだよな。
すぐ話してみようかと思ったんだけど。
ネスに用事だとかで呼ばれてしまって、後で探しに行くことにした。
用事自体はすぐ済んだんだけど。
とはいえ、なかなか見つからなかった。
気になることはいくつかあったんだけど。
再開発区で会った女の子とか、繁華街で見かけた人とか。
そして、ハルシェ湖畔までさしかかったとき。
「あ、いた」
ぽつんと立っているがいた。
「何やってるんだい?」
俺が声をかけると、は呆然とした顔で振り向いた。
そして、また無理矢理笑顔を浮かべようとする。
「無理しなくていいよ。が不安だってことは、みんなわかっているから」
「……」
「爺さん達のこと……心配なんだろ?」
世話になった人達だし、あんな別れ方したんだもんな。
は少しうつむいた。
「それもあるけど……あたしが心配なのは別のこと」
「別のこと?」
俺が問い返す。
「あの黒い兵士は、アメルを連れ去るために来たんだよね? それだけのために村に火を放って、大勢の人を殺して……」
思い出したのか、の顔が青ざめた。
「そんなの相手にして、大丈夫なのかなって……あ、マグナ達が弱いって意味じゃないよ? あたしは武器を使えるわけじゃないし、召喚術を使えるわけじゃない。アメルみたいに力もないし……情けないよね。マグナの護衛として呼び出されたはずなのに、一番役に立ってないんだもん」
力無くが笑った。
その目には涙が浮かんでいる。
「無理に戦う必要はないよ、」
「でも……っ!?」
俺はを抱きしめると、できるだけ優しい声で続ける。
「元はといえば、俺が事故を起こしたんだから。が気にすることないよ」
「それとこれとは……」
「むしろ、旅にまで付き合わせてるんだ。君を守るくらいはさせてくれよ」
それに、と俺は付け加えた。
「役に立たないなんて言うなよ。のおかげで助かったことも色々あるんだから」
「……うん。ありがとう、マグナ」
お、やっと笑ってくれた。
やっぱり、は笑っている方がいいよ。
その頃。
「うふふ。さん、やっぱりかわいい……」
倉庫の陰から覗き込んでいる聖女様が一人。
「マグナさんは、後でお仕置き決定ですね……あたしのさんに抱きついて……」
どうでもいいが、真っ黒な笑み浮かべながらぶつぶつ独り言言うのやめろ。
通りすがりの船員とかが思い切りびびってるぞ。
屋敷に戻ると、ケイナがあわててこっちに近づいてきた。
「二人とも、急いでお屋敷に戻って!」
疑問符を浮かべる俺達に対して、ケイナは「とにかく早く」の一点張り。
とりあえず行ってみると……玄関で待っていたのは、ぼろぼろ姿の双子だった。
俺達が最後だったらしく、他のみんなもそこにいる。
「よぉ……」
リューグがしかめっ面のまま、軽く手を上げた。
続いて、ロッカが微笑む。
「心配をかけたようだね?」
「ロッカ、リューグ! よかった……二人とも無事だったのね?」
「本当だよ」
心底からの言葉だった。
どこまで飛ばされたかは知らないけど……相当遠くに行ったと思うぞ、あの飛び具合からして。
話を聞くと、どうにか黒騎士からは逃げられたものの爺さんとは途中ではぐれてしまったらしい。
手当てするからとミモザ先輩が二人を引っ張っていって、その場はお開きになったんだけど……
ネスは不自然じゃないか、と気にしていた。
邪魔が入らない状態で連中がみすみす二人を逃すはずないと。
考えすぎだと、その時は思っていたんだけど……
「どうやら、お客さんが団体でやって来たらしいぜ」
フォルテの言葉で、罠と認めざるを得なかった。
屋敷は囲まれていた。
どう見ても、やばそうな連中に。
黒い鎧を全員着ているわけではなく、バラバラだったけど……奴らじゃないとも言い切れない。
話し合った結果、玄関から行くギブソン先輩達と裏口からアメルを連れて逃げるミモザ先輩達に別れることになった。
「マグナ、君も行くんだ」
ギブソン先輩組のネスが言う。
それはいいんだけど……
「あたしは? 邪魔なようなら中に隠れてようか?」
が自分を指さした。
「……そうだな」
正直、あんな大人数じゃを守りきる自信がない。
かえって、その方が安心だ。
「それじゃ、気をつけて!」
「君こそな」
そして俺達は動き出した。
どごぉん、という音が後ろから聞こえてきた。
「どうやら、向こうでは始まったらしいわね」
「大丈夫でしょうか?」
「心配しないで、ああ見えて相棒は強いんだから」
心配そうなアメルに、ミモザ先輩は任せなさいとばかりに笑った。
「さあ、急いでここから離れ……!?」
ロッカの言葉が不自然に途切れた。
視線を追うと、真っ黒な人影がそこに佇んでいた。
「対象ヲ補足。コレヨリ確保ニ入ル」
そいつが無機的な声で言う。
くそっ、待ち伏せかよ!?
「どきなさいっ!」
ケイナが矢を放つが……あっさり跳ね返る。
「イイ腕ダガ、我ガ装甲ヲ貫クニハ至ラナイナ」
装甲……それにこの響くような声。
まさか、ロレイラルの機械兵士か!?
「我ガ名ハゼルフィルド……我ガ将ノ命ニヨリ、ソノ少女ヲ確保スル!」
言うなり、そいつは腕を前に差し出した。
手首がぱっくり折れて、そこから覗くのは銃口。
「逃げろっ!」
俺が叫ぶのと、ゼルフィルドが銃弾を放ったのはほぼ同時だった。
はーっ、はーっ……
ミモザ先輩の召喚術やアメルの力のおかげで兵士もだいぶ減ってきたけど、ゼルフィルドはまだほとんど無傷だ。
ましてあっちは遠くから攻撃できるし。
このままじゃきつい……なんとかしないと。
その時。
「動くな!」
知らない男の声が後ろから飛んできた。
振り返ると……兵士に捕まっているがいた。
まずい、見つかっちゃったのか!?
「こいつの命が惜しければおとなしく……」
ぶち(×2)
……ぶち?
「うふふふふふふふ」
「はははははははは」
低い笑い声が二重奏で響き渡る。
う、なんか嫌な予感が……
「あたしのさんを人質に取るなんて……」
「どうやら、命がいらないらしいですね……」
壮絶な笑みを浮かべるアメルとロッカ。
あああ、やっぱり……
「そういうわけで、お仕置きです」
にっこり微笑むアメルの背後で、ぐにゃりと空間が歪み……
……って、おいっ!
「ちょっとマグナ、なんであの子がレヴァティーン呼べるのよ!?」
ミモザ先輩の言うとおり。出てきたのはレヴァティーンだった。
なんで呼べるんだよ!? 魔力以前に、サモナイト石だってないぞ!?
(それ以前にまだ呼べないぞ)
「俺が訊きたいですよっ!!」
さらに。
「ギヤ・ブルース」
ぎょりぎょりぎょりっ!
……を捕まえていた兵士が、あっさり吹っ飛ばされる。
「ロッカ……なんでベズソウのサモナイト石持ってるんだよ?」
「こんなこともあろうかと、さっきネスティさんのポケットからくすねておきました」
俺の質問にこともなさげに答えるロッカ。
……何者だよお前ら。
それから。
高級住宅街に、この世のものとは思えない轟音と悲鳴と笑い声が響き渡った。
ゼルフィルド達はどうなったかって?
それはやたら爽やかな顔をしている聖女様と元自警団長のみぞ知る。
もはやアメルもロッカもキャラ違う…
というか、いつの間にスったんだロッカ。使い方知ってるし。
アメルは…もう深く考えないでください(汗)
はたして&マグナの運命は…ってなんとかしてくれよあんたら(無理)