前途多難な私達・第6話
第6話
「結局、わかったのはあいつらの名前だけか」
「槍使いのイオスと機械兵士のゼルフィルド……二人とも強かったな」
……一見、真面目そうな会話だが。
俺やケイナの頬に汗が一筋流れていたりする。
なんでかって? ……聞かないでくれ、頼む。
「あの黒騎士だけでもうんざりだってのにな」
フォルテが心底嫌そうにつぶやく。
……いいよなあ、フォルテ達はあれ見てなくて。
ネスなんか、見た日には卒倒するぞ。
そうこうしているうちに、ギブソン先輩とミモザ先輩が戻ってきた。
「騎士団の人達には……強盗に襲われたってことにしておいたからね。一応見回りを強化してくれるって」
ミモザ先輩の言葉が一瞬歯切れ悪くなったけど……苦労したんだろうな。
あんな状態で強盗はさすがに無理あるし。
しばらくはこの屋敷を拠点にすればいいって、先輩は言ってくれた。
それはいいけど……
「問題なのはあの三人だな」
「そうね」
フォルテの言葉にケイナもうなずく。
俺も同意見だ……多分この二人とは違った意味で。
リューグはともかく、あの二人だもんな……
「俺、ちょっと様子を見てくるよ」
「あたしも」
俺とはロッカ達がいる部屋へと向かった。
「僕達がどうしたいかですか?」
俺達の質問に、ロッカが答えるより早く。
「はっ、そんなもん聞くまでもねえだろ? 相手がなんだろうとかまやしねえ……全員まとめてぶっ殺してやるだけだ!」
「そんなことできるわけないだろ、リューグ!」
「なんだと……」
「あいつらは、僕らが今まで相手にしてきたならず者連中とは違う。現に村で一番強かったお前も、あの黒い騎士には歯が立たなかったじゃないか!?」
「言うなっ!!」
ばきっ、と音が響いた。
ロッカが殴られた頬を押さえながら顔をしかめている。
「二人とも、よすんだ!」
頼むから、先輩の屋敷の中でまで暴れないでくれっ!
だが、二人は聞いちゃいない。
「ああ、何度だって言ってやるさ。僕達じゃあいつらに勝てっこない! それがわからないのか!?」
「それじゃどうしろって言うんだよ!? 死ぬ目にあわされて、村を滅茶苦茶にされて、アンタはくやしくないのかよ、ええっ!? 泣き寝入りしろって言うのかよっ!?」
「それで争わずにすむのなら、そうすべきだ。これ以上、無駄な犠牲を出すこともない」
「そう言いつつ、何怪しげなもの身につけてんのよ……?」
がぼそりと言う。
今ロッカがはめようとしているやたらごつい手袋……あれ、確か仕込みナイフとかついてたよな。武器屋で見た覚えがある。
本当にそう思ってるのかよ、ロッカ……?
だが、リューグにとってはその辺はどうでもいいらしい。
「つくづく……テメエって野郎はぁ!」
拳を作ってロッカに殴りかかる。
「やめなさいよ!」
「そうよ、ロッカもリューグももうやめて!」
が、とアメルの叫びに、リューグは舌打ちしながら手を止めた。
「ねえ、どうしてケンカしなくちゃダメなの? どうして普通に話ができないの!?」
「アメル……」
アメルもロッカも、こうしていれば結構まともに見えるんだけどな……
「マグナとか言ったな?」
おもむろに、リューグはこっちを向いた。
「見ての通り、俺とこいつの意見は真っ二つだ。で、アンタはどっちにつくんだ?」
……って、俺に振るのかよっ!?
まあ、(行動はともかく)ロッカの言いたいこともわかる。
でも、リューグの気持ちもわかる。
俺だって、ネスや師範……そしてが殺されたとしたらそいつを許すことなんてできないだろう。
だけど……
「あのさ、ちょっといい?」
が軽く手を上げながら言った。
全員の視線がに集中する。
「まずロッカの意見だけどね……これは無理だと思う。あいつらの狙いはアメルなんでしょ? だったら、どっちにしたって向こうがほっといてはくれないよ」
う、とロッカがつまる。
「それと、リューグ。気持ちはわかるけど、闇雲に突っ込んで行ったって勝てるわけないでしょうが。まずは冷静になってから、どうすりゃ勝てるか考えなさい。以上」
「なんだと、てめ……」
「リューグ?」
に食ってかかろうとしたリューグだったが、アメルの声にぴたりと止まる。
「さんがせっかく気遣ってくれたっていうのに……聞けないって言うの?」
……口調こそ柔らかいが、俺には「さんの言うこと聞かないとただじゃすまさないわよ」と言ってるように見える。
だって、笑顔だけど目が笑ってないし。
リューグは「ぐ……」とうなり、それきり何も言わなくなった。
……あれで、リューグも結構苦労してるのかもしれない。
結局、その場はお互いもう少し考えてみる、ということでどうにか収まった。
夕方。
俺はミモザ先輩の部屋に向かっていた。
のことで話があるそうだけど……
「あ、来たわね」
部屋で待っていたのは、とミモザ先輩と…
「あれ? ネスも呼ばれたのか?」
「ああ、立ち会ってほしいって言われてな」
立ち会う? 何を?
「ギブソンと話し合ったんだけど、今日みたいなことがあったらちゃんも危ないでしょう?」
だからね、とミモザ先輩は引き出しから何かを取り出した。
それをに手渡して……
「先輩! それは誓約済みじゃ……!」
焦ったように叫ぶネス。
俺だって驚いた。だって、サモナイト石なんて普通素人にあっさり渡すものじゃないぞ!?
「大丈夫、危なくないやつ選んだから。……さ、さっき言ったとおりにやってみてくれる?」
「あ、はい……」
はためらいがちにうなずくと、サモナイト石を握りしめて目を閉じる。
やがて、ぼんやりと石が光り出して……
ばしゅぅっ!
光が収まると、何匹かの召喚獣がの回りにいた。
ポワソにミョージン、テテにライザー……って、全部違う属性じゃないか!?
「馬鹿な……四つの属性を、しかも一度に召喚だと!?」
ネスとミモザ先輩もぽかんと口を開けている。
「もしかしたらと思ったけど……ホントに全部呼べちゃったわね」
「自分でも信じられないです」
も自分の手を見つめていた。
こほん、とミモザ先輩は咳払いをした。
「誓約の儀式まではさすがに無理だから、何を持たせるかはあなた達に任せるわ。これなら訓練すれば、自分の身ぐらいは守れるようになるはずよ」
「つまり、僕達に彼女の監督役になれ、と?」
「そういうこと」
それは、要するに俺達がの先生になる、ってことか?
……いいかも。
も、自分だけ足手まといだって気にしてたし。これが何かのきっかけになれば……
「わかりました。俺、やってみます」
「……まあ、仕方ないですね」
ネスがため息をつく。
「言っておくが、マグナ。君に楽をさせるつもりはないからな」
……しっかり釘刺してるし。
「……よろしく、先生方」
微笑みながらが手を差し出した。
この笑顔が守れるなら、俺は……
「ああ、よろしく」
俺はの手を握り返した。
「で、二人とも残ることにしたんだ?」
「はい」
アメルがにこにこ顔でうなずいた。
みんな大広間に集まって、いつしか始まったお茶の時間。
そこで告げられた答えに、みんなは少しほっとしたようだった。
「さんのおかげですよ。ありがとうございます」
「え、そんな、大したことしてないって」
ロッカのお礼に照れる。
自覚ないんだもんな……こういうところに助けられてるのに。
「……ところで、リューグは?」
が辺りを見回す。
そういえば、いないな……?
「ああ、部屋で寝てますよ」
「疲れてるんでしょう、休ませてあげないと」
ロッカとアメルが交互に答え。
ああなるほどと誰もが納得して、そのままお茶会は続いた。
だが、マグナ達は知らなかった。
「こら、バカ兄貴、アメル! ほどけぇ―――っ!!」
その頃、リューグがベッドに縛り付けられて身動き取れなかったことを。
……そう、彼は行かなかったのではなく、行けなかったのだ。
「あいつら、何が『世のためさんの好感度アップのため』だ! こういう時だけ結託しやがって!!」
リューグの叫びは、しかし全員大広間にいるため誰にも届かない。
そして一時間後解放されてからも、「さんを悲しませる行動取ったら悪夢を見るぞ」と兄&聖女様にさんざん脅されたそうな。
……合掌。
どうしようか迷いましたが、当分二人とも一緒ってことで落ち着きました。
…これでリューグのポジション決まったようなものですが。
マグナ共々、今後の活躍で盛り返せるか!?(でも相手は黒聖女&兄だし…)
次回、ついにあの人登場です。