前途多難な私達・第7話
第7話
「ふーっ、満腹満腹……」
「いっぱい食べてたもんね……」
がおかしそうに笑う。
今、俺達は朝飯を終えたところだ。
アメルの好物だったらしく、ほとんど芋ばかりだった……
うまかったけどさ。
こんこんと、ノックの音がした。
「マグナ、ちょっといいか?」
ネス? また何かあったのか?
「どうかしたのか?」
「ちょっと出かける用ができたんでな、夕方まで留守にするよ」
「出かけるって、どこへ?」
「調べものとか、まあいろいろだ……」
ん? なんかネスにしては歯切れ悪いな。
「くれぐれも言っておくが、僕が留守にしているからといってだらけてるんじゃないぞ」
ネス……そこまで言わなくてもいいじゃないか……
「あの一件以来、連中はこちらに手を出してはきていないが……彼女が狙われてることに変わりはないんだ。くれぐれも、うかつなことはするなよ」
……放っておいてもアメルなら大丈夫そうな気がするけど……
って、ネスは見てないから知るわけないか。
けど、ネスがいないんじゃの訓練はお預けだな……
君一人に任せられるかとか言って、結局ネスと一緒に教えることになってるから。
……そうだ!
「……、せっかくだしたまにはのんびり街を散歩してみようか?」
「あ、それいい!」
も嬉しそうだ。
まあ、召喚されてから気の休まる暇なんてなさそうだったからな。
外に出ようとすると、玄関にアメルがいた。
うっ、一瞬刺すような視線が……
「あ、さんにマグナさん。お出かけですか?」
「うん。街を散歩しようかと思って」
笑顔で答える。かわいいんだけど……はぁ。
するとアメルが遠慮がちに、
「あの、あたしも一緒に行っていいですか?」
ほら来た。言うと思ったんだ。
「外に出るのが危ないってわかってるんですけれど、あたし村から出たことがなくって……」
「……そっか」
の様子を見て、アメルが小さくガッツポーズをしたのが見えた。
……騙されてる。騙されてるぞ、!
町を一周するコースで行こうと、まずは劇場通り商店街にさしかかったとき。
「これは……ハープの音?」
「きれいな音色ですね」
とアメルが足を止めた。
えーと……あ、聞こえた。
「あの人かな? 演奏しているの」
が示す先には、銀髪の男の人。
竪琴を持っているし、間違いないだろう。
二人は興味を持ったのか、とことこと男の人に向かって歩いていった。
「ん?」
達に気づいた男の人が顔を上げた。
「あ、ごめんなさい。お邪魔しちゃって」
が軽く頭を下げる。
「いえいえ、そんなことはありませんよ。人前でこうして楽器を奏でることが、私の仕事ですからね」
「ひょっとして、吟遊詩人さんですか?」
「ええ、そうですよ」
アメルの問いに男の人がうなずいた。
「私は吟遊詩人のレイム。といっても、まだまだ修行中なんですけどね」
「ええっ! そんなに上手なのに?」
「やっぱり、厳しいんだ……」
俺が驚く横で、がぽつりとつぶやく。
「ふふふ、お世辞でも嬉しいですよ。ええと……」
「あ、俺マグナです」
「アメルです」
「です」
「マグナ君にアメルさん、さんですか」
レイムさんは確かめるように名前を繰り返した。
「いくら演奏がうまくても、それだけではダメなんですよ。本当の吟遊詩人に必要な語るべき歌を、私はまだ持っていないのです」
「語るべき歌?」
「ええ、歌です。まだ誰も知らない真実の物語です。どこかのあるはずのそんな歌を、私はこの手で見つけたい」
どこか遠くを見つめるような表情で語った後、レイムさんははっと気づいたように、
「ああ、すいません。初対面の方に、こんなわけのわからないことを言ってしまって」
「ううん……とても素敵ですよ」
「見つかるといいですね」
アメルとが笑顔でうなずきあった。
やっぱり女の子って、こういうのが好きなのかな……?
「ありがとうございます。その時にはぜひあなたに聴かせてさしあげますよ」
……って、あっ! の手を掴んで……
どご。
「ナンパは他を当たってください」
「アメル、そのメイスどこから……」
しかもとげとげがたくさんあるやつ……
生きてるかな、レイムさん……でかいたんこぶから血が噴き出してるけど。
がおそるおそる声をかける。
「あの、大丈夫で」
「はい、あなたの優しさがあればこれぐらい!」
「きゃあっ!?」
うわ、起きあがったぞ! あのケガで!!
「光栄ですよ、あなたのようなかわいらしいお嬢さんに心配してもらえるなんて」
……とりあえず、たんこぶと血をどうにかしなよ。口説く前に。
「ぜひ、私と一緒に」
「だから、やめてくださいって言ってるんです」
どかばきめきょごりっ!!
「……ねえアメル、いくら何でもあれはまずいんじゃ……」
「正当防衛です」
どう見ても過剰防衛だぞ……あそこまでボコボコにしたら。
ああ、レイムさんが血の海の中で痙攣してる……
「さあ、早くここから離れましょう」
まあ、これに関しては俺もアメルと同意見だ。
騎士団とか飛んできたらまずいし。
俺達は急ぎ足で、商店街を後にした。
「おい、誰か医者呼んできた方がいいんじゃないか?」
「っていうか、生きてるのか?」
倒れたままのレイムを囲み、通行人達がぼそぼそ話し合う。
「ふふふふふ……はーっはっはっは!」
「うわあっ!!」
突然笑いながら起きあがったレイムに驚き、通行人達はクモの子を散らすように逃げ出した。
血だまりの中に倒れていた人間が、流血したまま高笑いを始めるのだから当然だが。
「気に入りましたよさん!」
言いながらびしりと空を指さし、
「ああ、まるで空や太陽も二人の出会いを祝福しているかのようです!」
……空や太陽には迷惑な思いこみである。
ふう……ここまでくれば大丈夫か?
繁華街まで来ちゃったよ……
「どいてどいてぇ――――!!」
「うちの肉を返せぇ、このかっぱらい!!」
…………ん?
振り向くと、肉や魚を抱えた女の子にそれを追いかけている(多分肉屋の)おじさんがいた。
女の子の方は、猫のような耳とふさふさの尻尾がついてる。メイトルパの召喚獣か?
「泥棒って、あの子でしょうか? 両手にいっぱい食べ物を抱えてますけど……」
アメルがつぶやいている間にも、女の子はこっちに駆けてくる。
「そこの人、そいつを捕まえてくれぇっ!!」
え、俺!?
でも、確かにこのままじゃ女の子がこっちにぶつかってしまう。
「どいてどいて、どかないとユエルがはねちゃう……」
がしっ!!
「あっ、離せぇ〜〜〜〜っ!!」
おっとっと……うわ、押さえておくのも大変だよ。
「ふうぅぅぅぅ……」
女の子が唸り声を上げる。
そして大きく口を開けて……
「ダメだよー」
が横から女の子の口をふさいだ。
女の子がじたばたしているうちに、ようやくおじさんがこっちにたどり着く。
「いやあ、ありがとうございます。……こいつめ!!」
おじさんは手加減なしで女の子を殴りつけた。
女の子が悲鳴を上げる。
「ちょ、ちょっと! 気持ちはわかりますが落ち着いて!」
「そうですよ!」
「そうは言いますがね、こっちは毎日毎日売り物をやられてるんですよ」
俺やアメルの言葉に、返ってきたのは渋い返事。
「ぷはっ! ……食べられない獲物はみんなで分けるものじゃないかっ! それを偉そうに見せびらかして、このケチっ!!」
「え?」
獲物、見せびらかす……ケチ?
まさか、この子……泥棒してたってこと、わかってないのか?
だが、頭に血が上ったおじさんはそこまで考えつかないらしかった。
「もう怒ったぞ……騎士団に突き出してやるっ!!」
「えっ……やだっ! もう、閉じこめられるのは嫌だよぉっ!!」
途端にびくびくし出す女の子。
「あっ、ちょっと待って下さい!」
あわててが、おじさんと女の子の間に割り込んだ。
そして女の子に向き直って、
「牢屋に入るのは嫌?」
「うん……」
「じゃ、この人に謝って?」
「どうして? ユエル、何も悪いことしてないのに……」
やっぱり。この子、この世界の常識を知らないんだ。
「あなたのいたところではそうかも知れないけど、ここではものをもらうのにお金っていうものがいるの」
「おかね? ……ユエル、そんなの知らなかった……」
「だから、ね? 知らないとはいえ悪いことしてたんだから、謝って」
に促されて、ユエルはしょぼんとしたまま、
「……ごめんなさい」
「お金は俺が払いますから、これで許してやってくれませんか?」
に代わって、俺はそう申し出た。
だけどおじさんは渋い顔のまま、
「しかし、また同じことをされたら……」
「俺、これでも蒼の派閥の召喚師です。きちんと言って聞かせますから……」
「まあ、召喚師さんがそう言うのなら今回は……」
ああ、よかった。納得してくれたよ。
でも、に何か買ってあげようかと思ってたんだけどなぁ……
おじさんが去っていくのを確認して。
「ほら、もう食べてもいいぞ」
「えっ!?」
「このお兄さんが、代わりにお金を払ってくれたのよ。だから、安心してお食べなさい」
ユエルは満面の笑みを浮かべると、すごい勢いで肉にかぶりついた。
うわ、すごい食べっぷり……
やがて、たくさんあった食べ物もきれいになくなってしまった。
「ありがとう! えっと……」
「あたしはアメル。それから、マグナさんにさん」
「アメル、マグナ、、ありがとう!」
すごい嬉しそうだ……
よっぽど腹減ってたんだな。
「ところで、ユエル? 君を召喚した人はどうしたんだよ?」
「そうだよ、帰ってこなくて心配しているかも……」
「心配なんかしてるもんかっ!!」
アメルの言葉を遮ってユエルが叫んだ。
「あんな奴……あんなうそつき、ユエルの主人なんかじゃないよっ!!」
言って、ばっと走り出す。
「あ、ちょっと!」
「食べ物分けてくれてありがと――――――!!」
ユエルの声と姿があっという間に小さくなっていく。
さすがメイトルパの亜人……
「帰りたくない事情があったみたいですね」
「そうだな……」
いったい、ユエルを召喚した人はどういうつもりだったんだ?
「今更だけど、さ」
がぽつりと言った。
「ん?」
「まだ運が良かったんだね、あたし。酷い人に呼ばれて、あの子のようになる可能性だってあったんだ」
「……」
も召喚された身だから、この中では一番ユエルの気持ちがわかるかもしれない。
「マグナは……約束、守ってくれる?」
「え?」
「帰る方法が見つかるまで……いなくなったり、しないよね?」
「……ああ」
君に誓うよ。
絶対、君をおいて行ったりしないって…
がすっ!!
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
「あ、マグナ? どうしたの?」
「気分が悪いんじゃないですか?」
アメル……自分でひじ鉄くらわせてそう言うか!?
しかも、ハンパじゃなく痛いぞ!
「さあ、気分の悪い人はお店の外で待たせておいて、さんの服でも見ましょうか」
「お、おい……ちょっと待っ」
ばぢ。
「相当無理してたんですねぇ……そこに寝かせておきましょう」
アメルは倒れたマグナを引きずって、店の前にあるベンチに横たえた。
「えーと、その……あたし、マグナについてた方が……」
やや引きつり顔で、ようやくそれだけ言う。
何か火花のようなものと白い仮面のようなものが複数見えたような気がしたが、さすがに怖くて聞けない。
「ダメですよ、さんの服を見るんですから。マグナさんは休めば大丈夫です」
にっこり笑顔で、アメルは有無を言わさずを店内へと引っ張っていく。
「う、うぐぅ〜〜〜」
後にはパラ・ダリオの一撃をくらって動けないマグナだけが残された。
「ククククク……見ていなさいアルミネ、調律者……」
建物の陰からその様子を見ながら、意味ありげに笑うレイム。
全身包帯まみれな上あちこちに血がにじんでいる姿は、はっきり言って怖い。
「必ずや、さんを振り向かせます!! あなた方には渡しませんよ!!」
……完全に目的が変わっていた。
「早速、さんの表情集を現像せねば! ああっ、あの笑顔、憂いを帯びた表情……どれも素敵です!!」
なぜか持っているカメラを掲げ、うっとりと叫ぶ姿は……違う意味で怖い。
「何だあれ……」
「春だしなあ……」
「ママー、ミイラのカッコした変なおじさんがいるー」
「こらっ、行っちゃダメ!」
遠巻きに見ている人々に気づくことなく、レイムはいつまでも陶酔し続けていた。
変態大悪魔まで参戦し、さらにピンチだマグナ&!!
マグナの邪魔している場合じゃないぞアメル!
マグナも、このままじゃ身が持たんぞ!
調律者一行の明日はどっちだ!?
ドリーム小説名物(?)変態レイム、ついに登場。
こんな話ですので、彼には遠慮なくはじけてもらいます。
アメルも手段選ばなくなってきたな……(汗)
がんばれマグナ!まだいい雰囲気になるチャンスはあるぞ!