前途多難な私達・第20話
第20話
エルゴの守護者とは、世界の意志たるエルゴによって選ばれその加護を受けた者の名。
加護を受けたそれぞれのエルゴの代理人となって、この世界が必要以上に異世界の力で混乱することのないよう見張る。
そして、いざことあれば災いの原因を取り除く役目を担っている。
……以上、森で出会ったエルジンの仲間、カイナさんの受け売り。
彼ら……エルジンとカイナさん、そして機械兵士のエスガルドによれば、あちこちの街で悪魔が関わったような事件が急に増えたらしい。
森を調べていたのは、その調査のためだったそうだ。
しかも、例の「無色の派閥の乱」が関係してるかもしれないなんて…
ギブソン先輩やミモザ先輩、そしてカザミネさんはその時召喚された大悪魔と戦った、ということも聞いた。
そんなとんでもない事件だったのか……どうりで先輩達があまり話したがらないわけだ。
「ところで、みなさんはこれからどうなされるおつもりなんですか?」
シルターン風の服を着た女の子……彼女がエルゴの守護者の一人、カイナさんだ……が尋ねた。
結局アメルのおばあさんの村探しどころじゃなくなってしまった。
だから、話し合った結果……
「とりあえずここを出てトライドラに向かうつもりだよ。向こうの部屋でみんなその準備をしてる」
「トライドラ?」
森の外を知らないルウが首をひねった。
「フォルテの知り合いがそこにいるんだって。なんでもすっごく偉い騎士って話だよ」
……半信半疑の人も結構いるけどな。
でも、スルゼン砦のことや黒の旅団の動向とかも考えれば無駄足じゃないはずだ。
……とはネスの弁。
「では、私達は一足先に出発させていただきましょう」
カイナさんはそう言いながらドアを開けた。
その向こうには、待機していた他のみんな。
ちょっと召喚師以外の人達は席を外してもらっていたのだ。
「おお、ミーティングは終ったのか?」
「うん、だけど彼女達はもう出発するって」
「なんだい、なんだい気ぜわしいねえ。ロクに話もしてないのにさあ」
「うーん、ゴメンね。でも、僕達には僕達でやることがあるから……」
すまなそうにエルジンが…
……って、なぜモーリンではなくの方を向いてるんだ……?
「ホントは、お姉さんを手伝ってあげたいんだけど……」
そう言いつつ、の手を取るエルジン。
「あ、いいよ。エルゴの守護者のお仕事あるんでしょ?」
「うん、そうだけど……」
アメルがそんな二人にずかずかと近づく。
そして、エルジンの手をから引っぺがした。
「そうですよ、大変なお仕事みたいだから早く行ったほうがいいですよ(このクソガキ、あたしのさんに何やってるのよ!)」
「でもお姉ちゃんの方も大変そうだもの、心配だよ(お姉ちゃんと結婚もできないおばさんは引っ込んでてよ)」
「大丈夫ですよ、これだけ人数もいるんですから(あたしはさんの一つ下よ、第一会ったばかりのくせにもう結婚する気なの生意気に)」
「相手は軍隊でしょ、悪魔だって出てきているし(僕だって三つ下だよ、それにエルゴの守護者だから僕って将来有望だと思うけど?)」
な、何だよこの近づけないほどものすごい重圧は……
アメルが二人に増えたような雰囲気だ……
(口と心で同時に言い合ってるしな)
まさか、エルジンが森でアメル見ても平然としていたのって同類だったからか!?
それを証明するかのように、カイナさんは苦笑しながら成り行きを見守っていた。
カザミネさんも「相変わらずのようでござるな……」とかつぶやいてるし。
エスガルドに至っては止めようとするそぶりもない。
うぅ……なんか頭痛くなってきた。
結局、悪魔の方を何とかしないといけないからということでエルジンは引き下がった。
ただ、カイナさんが俺達についてくることになったけど。
驚いたよ。彼女、ケイナの妹だっていうんだもんな。
そのケイナの方は、突然妹が現れたことで戸惑っていたみたいだ。
記憶が相変わらず戻らないこともあってか、どこかよそよそしく接している。
……まあ、無理もないかな。
「それで、フォルテさん。トライドラまではどうやって行くつもりですか?」
「正確な目的地ってのはトライドラじゃねーよ。街を囲んだ3つの砦のひとつ、ローウェン砦に行きゃあいいんだ。ダチはそこにいる」
フォルテの説明によれば、友達の名前はシャムロック。
フォルテとは同門で、今はローウェン砦の守備隊長をしているそうだ。
守備隊長って……つまり、砦で一番偉いってことだろ!?
「おお、そーだ! 聖女の噂もそいつから聞いて知ったんだぜ、アメル?」
「え、そうなんですか?」
「こんなに遠くにまで噂になってたのか……後でシメておかないと」
ロッカが何かぼそりと言った気もするけど……
聞こえない。俺は何も聞いてないぞ……
しばらく雑談しながら歩いていると、フォルテが口を開いた。
「さあ、もうすぐだ。この丘を越えりゃあローウェン砦が見えるはずだぜ」
やっとか……
フォルテの友達か……どんな人なんだろう……
ガキィン、キィン!!
……!?
これは……剣の音?
なんだか嫌な予感がして、俺は足を速めた。
丘を越えると、フォルテの言ったとおり砦が見えた。
でも、見えたのはそれだけじゃなかった。
「そんな……どうして、砦が……」
「攻撃されてるじゃないのさっ!?」
ここからでも、兵士達が戦っているのがわかった。
しかも敵側らしい兵士の姿は……
「ねえ! あいつらが着てる鎧もしかしてっ!?」
「間違いない……砦を攻めているのは黒の旅団だ!!」
「ちょっと、フォルテっ! どうする気よっ!?」
声に振り返ると、ケイナがフォルテの手を引いて止めていた。
フォルテのことだ、友達が心配で飛び込む気だったんだろう。
「敵将に告げる! 我はデグレア特務部隊黒の旅団が総指揮官ルヴァイドなり!!」
浪々とした声が辺りに響き渡ったのはその時だった。
声をたどると、橋の前にルヴァイドが立っている。
「貴殿に同じ騎士として提案したきことがある。聞く耳を持つならば姿を見せよ!」
やがて、白い鎧を着た人が砦の中から出てきた。
他の兵士と違って、どこか貫禄がある。
「貴殿がこの砦の長か?」
「いかにも! トライドラ騎士団所属ローウェン砦守備隊長シャムロックだ!」
「シャムロック殿よ、すでに我がデグレアとトライドラを結ぶ唯一の橋は占領した。大絶壁の向こうで待つ本隊も、我らの合図で一斉にこちらへ進軍を開始するだろう」
シャムロックさんが歯軋りした……ような気がした。
ここからじゃ、遠すぎて細かいことまではわからない。
「もはやその砦にこもることなど無意味だ! 三砦都市の守りは既に崩れ去ったのだ!! 降伏を認めよう。武器を捨てて、その砦を渡してはくれぬか?」
「提案の意は理解した。しかし、それはできぬ相談というものだ。トライドラは聖王国を守護する楯だ。それが死戦になろうと、戦いを放棄などできん!」
「そのために貴下の兵士をことごとく殺すか? シャムロック!?」
ルヴァイドは、そこでいったん言葉を切った。
少しの間の後、若干口調を変えて続ける。
「とはいえ、貴殿の決意、騎士として当然の道理。俺の本題はここからだ……貴殿と俺の一騎討ちによって、この戦いを決したい! 騎士の名において誓う。勝敗のいかんに関わることなく、砦の兵士に危害はくわえぬと。返答はいかにっ!?」
「あれは嘘だ……奴らのやり口を考えれば、約束を守るはずがあるものか……」
苦々しく、ネスがつぶやいた。
「でも、湿原で囲まれたあの時には、黒騎士は約束を守ったよ?」
確かに、ミニスの言うとおりだ。
けど、あの時とは状況が違う。これは戦争……
「さあレヴァティーンさん、あそこを思いっきり……」
「わーっ、やめろアメル!!」
「そんな術使ったら、シャムロックさんまで巻き込んじゃうでしょうがっっ!!」
「でもここで一気に黒の旅団の皆さんを片付けた方が、あたしとさんの安全のためですよ」
「だからって、橋や砦ごと吹っ飛ばそうとするんじゃねえっ!!」
「トライドラの兵士まで巻き添えにしてどうするのよ!?」
…………………
幻聴だ。絶対これは幻聴だ。
フォルテやがアメルを止めてるのだって、きっと目の錯覚だよ……
「ならば、お相手しよう。トライドラ騎士の剣技、しかとその目に刻みつけられよ!!」
「存分に楽しめることを願うぞ!」
って、ああ! もう始まってるよ!!
「見上げた人物だ。しかし、それだけに哀れすぎる」
「やりきれねえよな、確かに……」
ため息をつきながら、切なげにつぶやくカザミネさんとレナードさん。
……だけど視線はアメル達からそらすような感じだったりする。
さすがにフォルテも、そんなことしている場合じゃないと気づいたらしい。
アメルから離れると、剣に手をかけた。
「悪いが、オレは行くぜ。このままあいつを見殺しにはできねえ」
一人でも行く気か!?
気持ちはわかるけど、無茶だ!
「待てよ、フォルテが出たってどうにもならないだろ!?」
「やってみなけりゃわかんねーだろうが!」
「落ちつきなさいっ、フォルテ! あんたらしくないわよ!!」
今度はケイナが、フォルテを止める番だった。
「二人を囲む軍勢を見ろ。決闘に邪魔が入るのを見逃すほど甘くはない」
ネスも諭すように言う。
「だから……見捨てろってーのか! おいっ!?」
「あの人は絶対に殺させたりしないわ。相棒の友達なら、私にとっても友達だもの!」
「ケイナ、おまえ……」
あ、フォルテが止まった。
さすがは相棒。
「姉さま……」
カイナさんも、心なしか嬉しそうだ。
「それにこの立ちあいはまだ、尋常のものでござる。そこに割って入るのは、シャムロック殿に汚名を着せることになりはしないか?」
カザミネさんの言葉にぐっと詰まるフォルテ。
俺は騎士でもサムライでもないけど……でも、なんとなくわかる気がする。
真剣勝負を邪魔されたら、やっぱり悔しいもんな。
「俺達が動くのは、決着がつくその時だ。こらえてくれ、フォルテ……」
つらいだろうけど、きっとこれが一番いい方法なんだ。
俺達にとっても、シャムロックさんにとっても。
「……くそおっ!」
フォルテは悔しそうに歯噛みした。
「じゃ、決着がついたら一気にレヴァティーンさんで……」
『だからやめろ(やめて)(やめるでござる)』
ロッカを除く俺達の声は、ぴったり唱和したのだった…
ついに守護者までブラックに……(汗)
聖女様と渡り合える強力さ。恐るべしエルジン。
さらに砦ごと吹っ飛ばす気満々の聖女様。鬼だ(滝汗)
……ビーニャはまた次回に。
2004.2.13