前途多難な私達・第21話
第21話


 ぶつかり合う剣と剣。
 舞うようなお互いの動き。
 離れた所にいる俺達でさえも、圧倒されるような戦い。

 いよいよ決着がつきそうな頃、それは起こった。

 「ぎゃあああああ――――っ!?」

 なんだ、今の悲鳴は!?
 しかも今のだけじゃなく、次々と聞こえてくる。

 「う……ああ……っ」
 よたよたと傷だらけの兵士が…って、なんだよこれ!?
 どうやったらこんなひどいケガをさせられるんだ!?

 「なによ、この傷!? まるで獣にやられたみたいな……」
 ルウが驚いて兵士に駆け寄る。
 言われて見れば、確かに引っかいたり噛まれたりしたようなケガもあちこちにある。

 「シャ……ロックさ、ま……バケモノ……とりで……みな……死……!」
 かすれた声でそれだけ言って、兵士はそこに崩れる。
 手がぴくぴく動いていたけど、それもすぐに止まった。

 「あ……うっ……」
 が俺にしがみついた。顔色が悪い。
 身体は小刻みに震えている。
 ……無理もないかもしれない。こんなひどい殺され方した死体なんて、気分のいいものじゃない。
 「、落ち着いて……」
 俺はの震える手をできるだけ優しく取り、背中もそっとなでてやった。
 怯えた表情が、少しだけ和らいで……


 ……ぞくっ!


 なんだ……この嫌な感じは……
 その方角を恐る恐る振り向けば。

 「うふふふふふ」
 「はははははは」
 ……ものすごい笑みを浮かべているアメルとロッカがいた。
 二人とも、その目が「マグナさん、後で殺す♪」とはっきり告げている。
 うう、俺もリューグに続いて夜逃げか……?

 「ものすごい邪気を……なぜでしょう、砦よりもあのお二人の方から感じるのですが……」
 「それがあの二人なのよ、カイナちゃん……」
 「あの頃と同じように、気にしない方がよいでござるぞ……」
 どこか悟りの境地のシルターン出身者達。
 他の面々もいいかげん慣れたのか、特に反応はない。

 「キャハハハハハッ!」
 突然、甲高い笑い声が聞こえてきた。
 ……砦の上に誰かいる!?

 「ねェねェ、いつまで遊んでるつもりなのォ、ルヴァイドちゃーん?」
 この声は……女の子か?
 イオスがぎょっとした顔でそっちを見た。
 「……ビーニャ? 何をしている!? 貴様には、本隊と共に待機を命じたはず!!」
 「だーってェ……ルヴァイドちゃんがあんまり待たせるんだものォ……だからァ……ほォらっ♪」

 ビーニャと呼ばれた子が片手を軽く振ると、ルヴァイドとシャムロックさんの戦いを近くで見守っていた兵士達に何かが襲いかかった。
 「ひっ、ひぎゃあぁぁ!」
 倒れる兵士達に覆いかぶさったもの……それはメイトルパの魔獣だった。
 そうか、こいつらに砦の兵士達は……!

 「手伝ってあげたよっ、キャハハハハッ! ほめて、ほめてェ?」
 「馬鹿な……勝手なことをっ!?」

 呆然と成り行きを見守っていたシャムロックさん、次第に顔が怒りに歪んでいく。
 「約束が違うぞ……ルヴァイド……?」
 言われたルヴァイドは、ただ無言で立っている。

 「キャハハハッ! みィんな、アタシの魔獣が食べちゃうよォ、キャハハハハッ!!」
 そんな敵味方お構いなしで、ビーニャは魔獣が兵士達の死体を食い散らかしてるところを見ながら笑っている。
 許せない……なんてことするんだ、あの子は!

 「いずれにしろ、この勝負は無効ってこった。来い、シャムロック!」
 「え……?」
 ようやくフォルテに気づいて、シャムロックさんは再び呆けたような顔になった。
 「何にもならねーかもしれないけどよ……部下のカタキぐらいはとってやろうや」
 シャムロックさんが息をのんだ。
 そうだな、俺だって同じ気持ちだ。

 「俺も戦うよ。あいつのしたことは絶対に許せない!」
 「……わかりました。私に、みなさんの力を貸してください!」
 しっかりと俺を見るシャムロックさんは、さっきと同じ騎士の表情に戻っていた。
 ビーニャに向き直り、剣を構える。

 「キャハハハハッ! いいよォ、アンタ達も遊びにおいで……アタシのおもちゃにしてあげる。壊れるまで遊んであげるよォ、キャハハハッ!!」
 心底おかしそうに笑うビーニャ。
 ぞろぞろとその周りに集まってきた魔獣達が俺達の方を向き……飛びかかってきた。

 「くっ!」
 俺は剣を振るが、かすっただけらしく手ごたえがほとんどない。
 くそっ、すばやいぞこいつら……

 「きゃっ!」
 悲鳴にそちらを見ると、が地面にしりもちをついていた。
 それを好機と見たか、何匹かの魔獣が襲いかかる。
 くっ、間に合え!
 だが、俺がかばうより早く。


 どしゅどしゅどしゅっ!!


 いくつもの槍が魔獣達に突き刺さった。
 こ、これってもしかして……
 「うふふふふふふふふ」
 プチデビル数匹を従えて微笑んでいるのは……言うまでもなく。
 「よくもケダモノの分際で、あたしのさんを襲おうとしましたね?」
 「二度と人間を食べなくてもいいようになりたいようだね……」
 ああ、アメルだけでなくロッカまでキレてる……
 けど、今なら相手が何であっても勝てる!!

 「ネス、援護を頼む!! とルウはアメルの代わりに回復に回ってくれ!!」
 「オッケー、マグナ!」

 そして、魔獣達はものの数分で再起不能になった……







 「つまんないなァ、こんなに簡単に倒されちゃうなんてさァ」
 動けなくなった魔獣たちを見渡して、不服そうにビーニャが言う。
 そして、近くにいた一匹を踏みつけた。
 「アンタ達、弱すぎ! このっ! このォッ!」
 思いきり蹴られまくり、魔獣が悲鳴を上げる。

 「ちょっと、アナタっ! そのコたち、アナタが召喚したんでしょ!?」
 「そーだよォ? だから、アタシがなにしたって自由……キャハハハハッ!」
 ミニスの抗議にも涼しい顔。
 無茶苦茶だ……あの子、本当に召喚獣を道具としか思ってない。
 いや、召喚獣だけじゃない。
 自分以外のすべてのものが、あの子にとってはおもちゃでしかないんだ…!

 ぎり、とシャムロックさんから音がした。
 「そうやって……私の部下を殺した時もお前は笑っていたというのか!?」
 「当然でしょォ? だって楽しいんだもん」
 「おのれェェェェッ!!」

 シャムロックさんがビーニャに斬りかかる。
 でも、ビーニャはあっさりそれを片手で防いだ。

 「ふーん、そっかァ。アタシみたいな子供に本気で剣を振るうんだ、アンタは……? でもダァメ! アタシ壊すのは大好きだけど壊されるのはヤなの、だからァ……」
 ビーニャから笑みが消えた。
 ものすごい魔力が彼女を取り巻く。
 「いけない、そこから逃げて!!」
 カイナさんの警告は間に合わなかった。

 「アンタが壊れちゃいなァァァァッ!」
 ビーニャの叫びと共に召喚術が発動した。
 間近で食らって、シャムロックさんがこっちまで吹き飛ばされる。

 「キャハハハハハッ! アハハハッ! アーハッハッハ!!」
 あたり構わず召喚術を乱発するビーニャ。
 すでに俺達や作戦のことはどうでもよくなっている感じだ。
 さすがにイオスやルヴァイドも無視できなくなったらしく、総出でビーニャを止めにかかる。

 ちっ、とレナードさんが舌打ちした。
 「おい、とばっちりを受ける前に……」
 「ええ、急ぎませんとね」
 アメルが一つうなずいて、サモナイト石を…
 ……って、サモナイト石?

 「デグレアの皆さんが仲間割れしている今のうちに、一気に全員殲滅……」
 『するな―――っ!!』
 アメル、いいかげんそこから離れてくれっ!!

 「そ、それより! シャムロックさんの手当てしないと!!」
 必死になって訴える
 「ああ、その前に脱出しねえとな」
 レナードさんがうなずく。

 「わかりました、さんがそう言うなら。……ちっ、命拾いしたわね……
 アメルの後半の台詞は聞かなかったことにして。
 俺達は、崩れてゆくローウェン砦を急いで離れた。







 奴らが追ってこないのを確認して、シャムロックさんの手当ては始まった。
 その間することのない俺達は、今までのことを話し合う。

 ビーニャはガレアノの同類。これがネスやレナードさんの仮説だった。
 まさかとは思う。でも、それならガレアノがスルゼン砦を滅ぼした理由が説明できる。
 あの二人をつなぐ共通点は……多分、デグレアの一員であること。

 「…………」
 ふと、不安そうなと目が合った。
 そうだよな、あんな光景を見たんじゃ不安にもなるよな…

 「大丈夫だよ、
 俺は元気付けるように言った。
 「絶対にあんなことを許しちゃいけない。そのためにも黒の旅団にアメルを渡さないようにしないと」
 「……うん。そうだよね」
 に少しだけ笑顔が戻る。
 そう、絶対負けちゃダメだ。のためにも……

 ……殺気!
 「うわっ!?」
 慌てて横に飛ぶと、俺がいたところにモーニングスターがめり込んだ。
 少し遅れて槍も刺さる。

 「うふふふふふふ。横からあたしのさんを奪おうなんていい度胸ですね……」
 「一度、あなたとはゆっくり話し合おうと思っていたんですよ……」
 出た……魔王だっ!!
 俺は全速力で逃げ出す。

 そして、爆発音が俺を追いかけた。





 「……とりあえず、シャムロックをどこかで休ませねーとな」
 「……そうね……」
 目を泳がせつつ、何事もなかったかのようにシャムロックを運んでいくフォルテ達。

 彼らとマグナ達を交互に見ながら、カイナが困惑した声で尋ねた。
 「あの、マグナさん達は……」
 「無理よ、ああなったら落ち着くまで収まらないから……」
 「大体30分くらいで気がすんで止まるわよ、今までの経験だと……」
 ケイナとに肩を叩かれ、カイナは「はあ……」と気の抜けた返事をしながら。


 ちゅっど―――ん!!


 「うわあっ!?」
 逃げ回るマグナと、それを追いかけるアメルとロッカを眺めていた。



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なんだかビーニャよりもひどい気がしなくもない聖女様(苦笑)
がんばって慣れるしかないです、カイナも。
そして久々に被害に遭うマグナ。
がんばって次回も生きていてね(←おい)

2004.4.5