前途多難な私達・第22話
第22話


 シャムロックさんが目を覚ましたのは、ローウェン砦から逃げてきてから一晩経った頃だった。
 「う……」
 「おお、シャムロック。心配させやがって!!」
 嬉しそうに声をかけるフォルテだったけど、シャムロックさんは痛そうに顔を歪めた。

 「ちょっとフォルテ、いきなり大声出しちゃダメだってば!」
 「あ、わ、わりぃ……」
 ケイナに叱られて、さすがにばつが悪そうに謝るフォルテ。
 代わって、俺が問いかける。
 「大丈夫ですか、シャムロックさん?」
 「ああ、大丈夫。ちょっと頭に響いただけだから。それより、ここは?」
 シャムロックさんは頭を抑えながら、辺りをゆっくり見回した。

 「ルウの家のベッドよ。気絶したあなたをみんなでここに運んできたの」
 「勝手だとは思ったけど、あの場所じゃ安心して休んでもらえないと思ったから」
 「僕達の疲労も相当のものだったからな。戦場に留まることは無理だったろう」
 順にルウ、俺、ネス。

 俺達の説明になにやら考えていたようだけど、シャムロックさんは何かに気づいたように顔を上げた。
 「……そうだ!? 砦は、ローウェン砦はあれからいったい? 私の他に生き残った者はどこへ!?」
 「それは……」
 「…………」
 俺達の様子から答えを悟り、シャムロックさんは悲しそうにうつむいた。

 「ダメ、でしたか……やはり……」
 「私達もできる限りは生き残りを探そうとしたんだけど……」
 「全滅、と判断するしかない有様だった」
 ケイナとネスの言うとおりだった。
 逃げる中で俺達が見たのは、明らかに死んでいる人達だけ。
 本当にビーニャは、砦の人達みんなを手当たり次第に魔獣に食わせてしまったのだろう。

 「すまねえ……」
 フォルテが深々と頭を下げた。
 きっとシャムロックさんの次に、辛いのはフォルテなんだろう。
 フォルテはトライドラで剣を習ったって言っていた。もしかしたらシャムロックさんの他にも、あの砦に知り合いがいたかもしれない。

 「仕方のないことです。あなた方のせいではありません」
 そう言うシャムロックさんだけど、やっぱり沈んだ顔だ。
 「それに、あの状況から不甲斐ない私を救ってくれただけでも、感嘆すべきことですよ」
 その顔にわずかに笑みを浮かべると、シャムロックさんはぐるりと俺達を見回した。
 「さすがは、フォルテ様のお側に使える従者の方々ですね?」

 …………え?
 今、シャムロックさん、何て? フォルテ「様」って……?
 だが、俺が疑問を口にするより早く。


 がすっ!!


 「ぐふっ!?」
 ……アメルの飛び蹴りが決まり、シャムロックさんは再びベッドへと沈んだ。
 「アメル、シャムロックさん一応ケガ人……」
 が遠慮がちに言うが、アメルはふんっと鼻を鳴らした。

 「何言ってるんですかこの人は。フォルテさんの従者と間違えるなんて。あたしとさんとその下僕達なのに」
 つっこむ点はそこなのか!?
 って言うか、俺達下僕扱いか!?
 「違うよアメル。僕とさんと、愉快な障害物だろう?」
 黒い笑顔でロッカ。
 そういう問題じゃない……しかもそっちは物扱いかよ……それに愉快ってなんだよ。

 「うふふふふふふ」
 「ははははははは」
 例のごとく、火花を散らしあうアメルとロッカから離れて、
 「モーリン、ルウ。シャムロックさんの手当て手伝って」
 「あいよ」
 「うん」
 とモーリン、それにルウがシャムロックさんの手当てを始める。
 モーリンもルウも、すっかりあの二人に慣れちゃったよなあ……はあ。

 「すまねえシャムロック……何も言えねえ俺を許してくれ……」
 フォルテは明後日の方を向いてたそがれてるし。







 その後、俺達はシャムロックさんに着いてトライドラへ行くことになった。
 ローウェン砦のことを報せるには、騎士であるシャムロックさんが行かないと時間がかかってしまうらしい。
 俺達にしてもトライドラに負けてもらっては困るし、デグレアについての情報が欲しい。
 何よりも、シャムロックさんはケガ人だ。ほっておくわけにもいかない。

 「傷、痛みませんか? シャムロックさん」
 俺と一緒にシャムロックさんの隣を歩いているが、心配そうに問う。
 「痛むようなら早めに言ってください。俺も、簡単な治癒ならできますから」
 俺もシャムロックさんにそう言う。
 どうやら俺には霊属性の適性もあったらしく、最近はちょっとしたものならサプレスの召喚獣を呼べるようになった。
 まあ、覚えたばっかりだからアメルやルウに比べたら弱いけど。

 「はは、呼び捨てでかまいませんよ。堅苦しいことは抜きにしましょう」
 笑いながらシャムロックさん。
 この様子ならしばらくは大丈夫だろう。

 「お前はその堅苦しい言葉遣いをなんとかしろよな。疲れるったらないぜ」
 横から口を挟むフォルテ。
 「勝手なこと言ってんじゃないわよっ!!」
 そして、そのフォルテを裏拳つきで叱るケイナ。
 俺達には当たり前の光景だけど、初めて見るシャムロックさんはぽかんとしている。

 「気にしないで。あの二人、いつもああだから」
 「はあ……まあ、あの方らしいというか……」
 シャムロックさんが困惑顔を浮かべる。
 きっと修行時代からああだったんだろうな、フォルテって。

 「うふふふふ……あの天然ボケ騎士、新参者のくせにあたしのさんと親しげに……」
 「この件が終わったら、しっかり言って聞かせないとね……」
 ……しまった。アメルとロッカのことを忘れてた。
 ……うぅ、視線が、言葉が怖い……
 この様子が楽しそうに……見えてるんだろうな、あの二人には。
 セリフからして、俺の存在は無視されてるみたいだし。

 「あれもいつものことだから気にしないで……って言っても無理か……」
 諦めきった表情で、アメル達を視線で示す
 シャムロックさんも、さっき以上の困惑がありありと顔に表れている。
 「……苦労なさっているようですね」
 「わかってくれる?」
 しみじみとうなずきあうとシャムロックさん。
 あ、がシャムロックさんの肩を叩いてる。
 なんか、妙な方向で友情が芽生えてしまったようだ。







 三砦都市トライドラ。
 聖王家を守る騎士達の街。聖王国を護る騎士の育成を目的とし、それに携わることで人々は暮らしている。
 そして、街自体が、いわば巨大なひとつの砦。

 「それはわかったけど……なんか、妙に静かじゃない?」
 街の中を見回していたが、ぽつりと言う。
 「昼間なのに通りに人が少ないし、お店も閉まっている所ばっかりだし」
 そういえばそうだ。
 人気がほとんどない。歩いている人も……元気なさそうというか、やけに無口というか。

 「ひょっとすると、僕らより先に伝令が到着したのかもしれんな。戦争を前にした緊張が理由なら、この静けさも理解できる」
 なるほど。
 でもは、ネスの推測でもまだ納得がいかないらしい。
 「うーん、そうなのかなぁ? でもなんだか……」

 「お待たせしました。領主リゴール様との謁見が適いそうです」
 そこへ、城に行っていたシャムロックさんが戻ってきた。
 「皆さん、こちらへ。城までご案内します」
 シャムロックさんの案内で、俺達は城に向かう。
 でも、はまだ浮かない顔のままだった。



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連続更新その1。次が長くなりそうなのでここまで。
本当はアメル達、最初外にいるんですが、ネタのため中に入ってます。
そして苦労人同士の友情誕生。
このままVS不幸な部下その2戦へと進みます。

2004.11.1