前途多難な私達・第25話
第25話


 で、なんだかんだで結局。
 「つくづく、あの女にも困ったもんだなあ」
 「やってることはほとんど、子供のケンカじゃないですか」
 「私闘のために召喚術を使うなんて、あまりよくないことだと私は思いますけど」
 「まったく、バカらしい。こんなことをしている場合ではなかろうに」
 みんな決闘には参加してはくれたけど、思い切り不満たらたらだった。
 予想はしてたけどな……

 それはまあ、いいとして。
 問題は、集まってきちゃった野次馬だった。
 結構人がいるし……
 「ちょっとケルマ。あなた、本気でここで決闘するつもりなの? 見物してる人達まで巻きこんじゃったらどうするつもりよ」
 ミニスもそう思ったようで、悠然と立っているケルマに尋ねた。
 ケルマはおかしそうに笑いながら、
 「あーら、そんな加減くらい心得てますわよ、私は? まあ、お子さまには無理な芸当かもしれませんけどね……」
 くっくっくという笑いが、次第にいつもの高笑いに変わる。

 「で、できるわよっ。年増女なんかに、私が負けるはずないもん!」
 「年増って言うなーっ!」
 「やーい、年増、年増! おお年増ぁぁっ!!」
 「ぐぎぎぎ……絶対に、泣かすうぅぅ」
 ミニス……頼むから、余計話をややこしくしないでくれ……

 「いい加減にせぬか、ケルマ殿!」
 カザミネさんが前に歩み出る。
 と、ケルマが頬を赤らめた。

 「あの時、拙者はお主に申したであろう。いつまでも私怨をもつものではないと……それを忘れたのでござるか!?」
 「あなた様に救われたご恩、忘れてはおりません。こうしていても、私の心は張り裂けそう。愛する御方のご不況をかおうとしているのですもの……」
 「まあ!?」
 ケルマの言葉に、意外にもカイナが反応した。
 言われたカザミネさんは、ぎょっとして後ずさる。

 「なな、何を言ってるでござるかっ!?」
 「私を抱きとめてくれたたくましいその腕へと、今すぐ全てを投げ出してしまいたい」
 「わーっ、わーっ!?」
 うわあ……なんか美化されてるし。

 「カザミネさん……あなたという人は……」
 カイナがぶるぶる震えながら、カザミネさんを睨んだ。
 め……めちゃくちゃ怒ってる!
 「誤解でござるっ! 拙者、決してそんなことは……」
 「不潔ですっ! 私、もう知りません!」

 「ですが……私は恋する乙女である以前に、ウォーデンの当主なのです! マーン家にだけは負けられませんの! わかってくださいませ、カザミネさま……」
 ケルマはすっかり陶酔している。

 「カイナ殿っ! お願いだから、拙者を信じてくだされーっ!」
 「……知りません!」
 カザミネさんはカザミネさんで、ケルマを止めるどころじゃなくなってるし。

 「あのさ……」
 が何か言いたげにその光景を指さす。
 ……そういえば、話してなかったっけ。
 「この前、ケルマが一対一の決闘申し込んできて、俺とカザミネさんが立会いで行っただろ? あの時、ケルマが助けてくれたカザミネさんに一目惚れしちゃったんだよ」
 なにせ、その時の第一声が「私はあの方と出会う運命だったんですわ!」だ。
 あまりのベタ惚れぶりは、俺とミニスが呆れかえるほどだった。
 アメルとは別の意味で、忘れようがない。

 「ふふふ、チビジャリ。今日の私は今までとは違いますわよぉ」
 とりあえず、陶酔状態は終わったらしい。
 ふっ、とケルマは不敵な笑みを浮かべた。
 「この日のために、特別の助っ人を用意したんですからねえ」
 「助っ人!?」

 フォルテが舌打ちした。
 「まじーぞ、今回ばかりはあいつも本気の本気っぽいぜ」
 「ウォーデンの財力なら、どんなに手強い連中を揃えていてもおかしくはないからな」
 ネスも困ったように唸っている。
 いったい、どんな相手が出てくるんだ……!?

 「さあ、いらっしゃい。あなたの出番ですわよ!」
 ケルマが声高らかに助っ人を呼んだ。
 俺達が思わず身構える中、とてとてとやってきたのは……
 「はいはーい、みなさん、どうもどうもこんにちはーっ♪」
 ……俺達の時が止まった。
 あまりに場違いな、朗らかな挨拶。
 そしてそれ以上に、俺達の想像とはほど遠い彼女は。

 「ぱ……」
 「パッフェルさん?」
 そう、自称「かわいいアルバイター」のパッフェルさんだった。
 まさか……助っ人って、彼女……?

 「えと、パッフェルさん? 失礼ですけど、戦えるんですか?」
 戸惑いがちに尋ねたに、だけどケルマは余裕たっぷりに笑った。
 「パッフェルさん、見せておあげなさい?」
 「そーですねー。それじゃ、ちょっとだけ……」
 どこからか、パッフェルさんはシルドの実を取り出した。
 それをそのまま、上へと投げ。

 「はっ!!」
 パッフェルさんの手が、すばやく動いた。
 そして、シルドの実が落ちて……
 ……って、皮がむけてる!? しかも、食べやすい大きさに揃ってるし。
 今の一瞬で、これをやったっていうのか!?
 「すごーい……」
 なんて、拍手までしてる。

 「さん」
 「え?」
 「見ていてください」
 ロッカはそう言うと、懐から何かを取り出して上に投げた。
 そしてさっきと同じように、手がすごい勢いで動く。
 そのまま、落ちてきたものを左手で取った。
 「うわ、ロッカすごい! よくできてるねー!!」
 ロッカの手にあるのは、シルドの実……で、できたライザー。
 確かに、細かい所までしっかり彫ってある。

 「はっ!」
 それを見ていたアメルまで、同じ動きを始めた。
 さっきと違うのは、アメルの両手にそれが一つずつあること。
 「はいさん、ポワソとペコですよー」
 「かわいい! 食べるのもったいない……写真に取っときたい……」
 が目を輝かせてる。かっ……かわいい……

 と思っていたら、邪魔が入った。
 「そこっ! 大道芸の勝負じゃありませんわっ!!」
 無視された形になったケルマが怒鳴ってきた。
 あ、そんな場合じゃなかったっけ。

 「あいつらはほっとくとして……あんた、こんな特技を隠してたのかよ……」
 「別に隠してませんよー。ギブソンさん達から聞いてないんですか? 私の一番長い職歴って、暗殺者稼業なんですよ」
 フォルテの問いに、パッフェルさんはてへへと笑った。
 きっ……聞いてないよ―――!!

 「ほーっほほほほ! いきますわよおぉ!!」
 ケルマの周りに控えていた、兵士や召喚獣が身構える。
 仕方ない、なんとかして勝たないと!
 「いい、そこのチビジャリを狙いなさい! 他はほっといても構いませんわ!」
 ケルマがミニスを指さした。
 なるほど、短期決戦狙いか!?

 「特にそっちの小娘は絶対に相手にするんじゃありませんわよ!! 死にたくないなら!!」
 今度はを指さして、ケルマが叫ぶ。
 心なしか、顔色も青い。
 ……に術かけてアメルにやられたのは、さすがに覚えてるみたいだな……





 よし、兵士と召喚獣はこれで全員終わり、と。
 後は、パッフェルさんとケルマなんだけど……

 ……って、あれ?
 なぜか、パッフェルさんはロッカと話していた。戦ってもいない。
 なんで……

 「いえ、できればそれは……」
 「いいんですか? 僕、本当に喋りますよ?」
 「だから勘弁してくださいって――――!! ばれたら減棒どころかクビですよ――――!!」

 …………
 まさかと思うけど、脅してるのか……?

 「ちなみに、証拠写真がここにあったりするんですが」
 「証拠隠め……」
 パッフェルさんがナイフを振り上げ……

 「あ、ネガは別のところですよ?」
 「ごめんなさい降参しますからばらすのはやめてください」
 ぺこぺこと土下座するパッフェルさんを、俺はしらけた気分で見ていた。
 ……もはや、何も言うまい……

 「さあ、あとはあなただけですよ」
 アメルがケルマに向き直る。
 ケルマは悔しそうに歯軋りしていたが、
 「なら、これはどうですのっ!?」
 呪文を唱えだし……って、これは!

 「まずい、みんな逃げろっ!!」
 警告は、ケルマの近くにいたフォルテ達には間に合わなかった。
 召喚の門が開くと同時に、ピンク色のもやが彼らを包み込む。
 しまった……魅了の召喚術があったんだった!

 「…………」
 フォルテやシャムロックが、無言で剣をこっちに向ける。
 まずいな……どうやって正気に戻す?
 「さあ、やっておしま」


 がすっ、どすっ、ちゅど―――ん!!


 「さあ、あとはあなただけですよ」
 さっきと同じセリフを繰り返すアメル。
 その足元には、ぼろぼろのフォルテ達がいたりする。もちろん、やったのはアメルだ。
 「お、鬼……」
 ホントに、以外はどうでもいいんだな。

 「くっ……来るんじゃありませんわっ!!」
 ケルマが召喚術を撃ちまくる。
 さすがに焦ってきたようだ。

 「さて、さっさと終わらせますか。レヴァティー……」
 『ダメ――――――!!』
 とミニスが飛んできて、アメルを押さえた。
 「こんな街中で使っちゃ、関係ない人まで吹っ飛んじゃうでしょっ!?」
 「いくらなんでも、お母様が許してくれないわよっ……お、お仕置きされるぅ……っ!!」
 理由は違えど、二人とも必死だ。
 アメルは不満そうだったが、「それもそうですね」とサモナイト石をしまった。
 ……納得したというより、に止められたからっぽいけど。

 「何か、他に確実な手は……」
 呟いてから、アメルは何かに気付いたように顔を上げた。
 ゆっくりとその視線がすべり、カザミネさんで止まる。
 こっ……これは、獲物を見つけたって目だっ!!

 後ずさるカザミネさんだが、アメルが駆け寄る方が早かった。
 カザミネさんの胸倉を掴むと、アメルはケルマの方を向く。
 まさか、と俺が思うと同時に。

 「必殺、カザミネ・ストラ―――――イク!!」
 「のおぉぉぉぉぉぉっ!?」
 ……投げた。
 カザミネさんが飛んでいく。銃弾のようにまっすぐに、ケルマ目がけて。
 「か、カザミネさ……」
 ケルマがどうするべきか迷う間もなく、その距離は縮まり、


 どがしゃあぁぁぁぁん!!


 二人仲良く吹っ飛んで、近くの屋台を巻き込んでようやく止まった。
 もしかして……この屋台って、俺達が弁償するのか……?
 そりゃ、レヴァティーンでここら一帯吹き飛ぶよりはマシだけど。

 「ふっ、愛する人ならば避けられないという読みが当たりましたね!!」
 「アメル……それ思い切り悪役のセリフ……」
 っていうか、野次馬の皆さんの視線が痛いんだけど……
 ……俺、他人のふりして逃げてもいいか?







 がんばれマグナ、負けるなマグナ。次回はいよいよ豊漁祭だぞ。
 数多の障害乗り越えて、とデートできるかは君次第だ!!
 ハルカ争奪バトルロイヤルが勃発するか、それとも珍しくラブラブモードになるか。
 明日はどっちだ!?



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前回書けなかったVSケルマ戦。
ロッカ、実はスキルがかなりスパイ・盗賊寄りだったりします。この話では(笑)
アメルもさらに鬼っぷりアップ。ついに彼女まで味方を武器に(苦笑)
次回、どうなることかの豊漁祭です。

2004.1.15