前途多難な私達・第26話
第26話


 色々あったけど、結局ミニスとケルマはどうにか和解した。
 シルヴァーナのことも、ケルマが認めてくれたし。
 まあ、迷惑かけたお詫びとして、ケルマに残業を言いつけられたパッフェルさんが同行することになったんだけど。
 とにかく、これでミニス達の問題は無事(?)に解決したわけだ。

 で、とうとう豊漁祭の夜を迎えた。
 デグレアのことも心配だけど、祭りのために集まった人達を考えたらうかつに身動きが取れない。
 どうせ終わるまで出られないなら、いっそ祭りを楽しんでしまおうということになった。

 さて、どうしよう?
 俺としてはと行きたいんだけど……
 ……アメルとかロッカあたりが、絶対許してくれなさそうだ。

 「あ、マグナ?」
 なんて思っていたら、当のがこっちに向かって歩いてきた。
 「? 祭りには行かないのか?」
 「洗い物が多かったから、洗っていたんだけど……時間かかっちゃって」
 なるほど。
 それで、やっと終わったところなんだろう。

 「それじゃ、俺と行こうか?」
 「え? 私とでいいの?」
 「いいの! には色々大変な思いさせてるんだし、たまには息抜きしないと!」
 「んー……それじゃ、お言葉に甘えて」
 微笑む
 ああ、やっぱりかわいいよな。
 しかも一緒に祭りに行けるなんて……ツイてるな。


 「うふふふふふふ……あたしが誘おうとしていたのに……」
 「マグナさんごときに先を越されるなんて……」



 ……なんだろう、今アメルとロッカの声が聞こえてきたような。







 「うわあ、すごい……」
 俺の横で感嘆の声を漏らす
 俺もこんなに賑やかだとは思わなかった。
 聖王国でも建国祭があったけど、パレードなんてなかったし。

 色とりどりの山車、派手な衣装で踊る人達。
 俺達はおろか、他の見物客もじっと見入っていた。

 ……あれ?
 あの山車の上で、何か動いたような。
 次の瞬間、ものすごい殺気が俺を襲った。
 考えるより早く、俺はその場にしゃがみこむ。

 「マグナ? どうしたの、具合でも……」
 気づいたが問いかけると同時に、後ろでどさりと音がした。

 「おい、どうし……って、白目むいてるぞこいつ!」
 「医者だ! 早く運べ!!」
 にわかに、別の意味で騒がしくなる背後。
 それは周囲に広がって、俺達の周りはパレードどころじゃなくなっていた。

 「なんか苦しそうだけど……大丈夫かな、あの人……」
 が心配そうに呟く。
 確かに、ただ具合が悪いだけとは思えない。白目むいてるし。


 「……ちっ、よけられたか……」


 また一瞬だけ、嫌な寒気を感じた。
 ……まさかな。







 「これおいしー♪」
 「祭りの食べるものって、いつもよりずっとおいしいからね」
 「うん!」
 屋台で買ったパンを頬張るは、とても幸せそうだ。
 この笑顔を守りたい。この先も、ずっと。

 「おや、さ」


 どがっ!!


 「おのれアルミネまたしてもぉぉぉぉ……


 「あれ?」
 がきょとんとして後ろを向いた。
 「どうしたんだ、?」
 「気のせいかな? 今、呼ばれたような気がしたんだけど」
 「ふーん」
 まあ、どうやらそれらしい人はいないみたいだし。
 誰かが似たような名前でも呼んだんだろうな。







 「あ、クジの屋台があるよ」
 「ホントだ」
 の指さす先には、『クジ引き ハズレなし』の看板。
 景品も、駄菓子から高そうなものまで様々だ。

 そうだな、せっかくだし。
 俺はの方に振り向いた。
 「やってみる?」
 「あ……うん! やる!!」
 ん? なんか妙にやる気だな、
 欲しいものでもあったかな?

 クジはヒモを一本引くもの。
 うーん……よし、これにするか。
 「それじゃ、これで……」
 も決まったらしい。
 「えいっ」と勢いをつけて、がヒモを引いた。

 屋台のおじさんがそれを見るなり、
 「大当たり〜〜〜〜〜!!」
 からんからんと鐘を鳴らした。
 「え?」
 戸惑うをよそに、おじさんは『6等』と書かれた箱を開ける。

 「6等賞は、珍しい異世界の懐中時計だ! お姉ちゃん、これは価値もんだよぉ?」
 確かに、いかにも高そうな時計だ。
 「は、はあ……どうも」
 でも、は浮かない顔だった。
 これじゃないのが欲しかったのかな?

 「マグナは?」
 「あ、そうだった」
 言われて俺は、まだヒモを取ったままだったことに気づいた。
 勢いよくそれを引っ張る。
 その先についていた札には『15等』。

 「はいよ、にいちゃん! 15等賞は、かわいい召喚獣のぬいぐるみだよっ!」
 おじさんが、ポワソのぬいぐるみをよこす。
 ぬいぐるみかぁ……俺がもらってもなあ……
 ……そうだ!

 「これ、にあげるよ」
 「え、いいの?」
 「俺、ぬいぐるみなんて持っていたって意味がないし。、ポワソ好きだろ?」
 にぬいぐるみを渡すと、彼女は満面の笑みを浮かべた。
 「……ありがとう。実はこれ、欲しかったんだ」
 それから「あっ」と声を上げた。

 「それじゃ、代わりにこの時計あげる」
 差し出されたのは、さっきが当てた時計。
 「えっ、でもそれ、すごく高い物だよ?」
 「いいの、時計はもうあるし。かさばるだけだから、よかったらマグナが使ってよ」
 あ、そうか。
 って、腕に時計つけてたよな、そういえば。
 そういうことなら、ありがたくいただくことにしよう。

 がくすっと笑った。
 「なんか、プレゼント交換してるみたいだね」
 「そうかも」
 言ってから、はっと気づいた。
 つまり、これってからのプレゼント……

 ……ぞくっ!
 悪寒がした。
 俺はとっさに後ろに飛びのく。


 ちゅどんっ!!


 ……俺のいた所に雷が落ちた。
 も、たまたま見てしまった屋台のおじさんも呆然としている。


 「ちっ、やっぱり最近勘が鋭くなってきたわね……」


 「……何、今の……」
 「さ……さあー、なんだろうなー。俺もわかんないや、あはははは」
 ……いや、なんとなくわかってるけど。
 ほっといてくれないのは予想してた……でももう少し、この幸せに浸っていたいなあ……ははは。







 しばらく歩いていくと、人だかりができているところを見つけた。
 「あれ、なんだろう?」
 「大道芸でもやってるんじゃないかな?」
 人だかりから拍手が上がった。そんなに面白いものなのか?
 気になって、俺はと一緒に隙間から覗き込んだ。

 「では次は、こちらの帽子をご覧ください」
 銀髪の男の人が、優雅に帽子を取り出す。
 ……仮面をつけててよくわからないけど、どっかで見たような人だな。

 そう思っている間に、男の人は帽子に布をかぶせた。
 そしてすぐに、その布を持ち上げる。
 すると、帽子から花が出てきた。再び周りから上がる歓声。
 そうか、この人手品師なんだ。

 「では次は……」
 男の人はぐるりと周りを見回して、
 「そこのお嬢さんに手伝っていただきましょう」
 を手で示した。
 「え? あ、はい……」
 指名されたは、戸惑いがちに手品師さんに近づいていく。

 がそばに来たのを確認すると、手品師さんは大きな布を広げた。
 端に棒がついていて、ちょうど旗を持っているような格好になる。
 それですっぽりと、の全身を隠した。

 「ではご覧ください。1,2,さ」
 「ポワソさん、ファイヤー」


 ちゅどぉぉぉん!!


 ……手品師さんが吹っ飛んだ。下からの爆発で。
 後に残ったのは状況がわかってなさそうなだけ。

 「……へ?」
 彼が消えた空を唖然と見上げる俺達の前に、手品師さんの持っていた布が落ちてくる。
 やがて、ぱちぱちと拍手が起こり始めた。
 ひとしきりの喝采が起こると、これで終わりと判断したかみんな散り散りに去っていく。

 「ね、ねえマグナ……」
 さっきよりも困惑顔でが戻ってくる。
 「手品師さんが飛んでったのって、もしかして……」
 「ああ、あんまり考えたくないけど……」
 あれは、手品とかじゃない。召喚術による爆発だ。
 直前に、できれば聞きたくない声も聞こえたし。

 「それと、あの手品師さんって……レイムさんに似てなかった?」
 「ああ、言われてみれば」
 なるほど、それでどこかで見た気がしてたのか。
 だからアメルにやられたのかも……大丈夫かな、あの人……





 その頃。
 「あんの極悪天使、ことごとく『さんと二人きりで祭り見物』計画を邪魔するとは……!」
 吹っ飛ばされた手品師……もとい、変装したレイムがゴミ捨て場に落ちていた。
 しかも落下した先が生ゴミの真上だったものだから、不運としか言いようがない。

 「何が祭り見物ですか」
 ざっ、と足音を立ててやってくる影ふたつ。
 どちらも、凄まじいまでの殺気を放っている。

 「手品に見せかけて、グリムゥを呼び出していたのは見ていましたよ」
 「そんな手の込んだことして、どこへ移動させる気だったんですか?」
 ざん、と大きな音をたてて影達が止まる。
 二人は低く笑い声を上げた。

 「あれほど、さんを誘拐するなと警告したはずですよ」
 「言ってわからないなら、お仕置きするしかないですよね」
 ちゃきり、と金属音が響く。
 そして。

 「うふふふふふふ」
 「ははははははは」

 笑い声に混じって金属音とか爆発音とか色々な音。
 だが、祭りの喧騒にかき消されて、それらが街の人々の耳に届くことはなかった。







 「うわあ、きれい……」
 いよいよ祭りも最後。
 ほとんどの人が浜辺に移動して、海の上で儀式をしている船を見つめていた。
 これが元々のお祭りなんだって、モーリンが言っていたっけ。
 船の明かりが、まるでロウソクのようだ。

 どぉぉん……と音が響く。
 同時に、空に咲く大輪の花。
 「あ、花火……」
 が呟いた。

 「の世界にも花火はあるのか?」
 「うん。夏になるといろんな所で花火大会やってるの」
 「へえ」
 どぉん、どおん。
 聖王国だと建物が邪魔だったけど、ここは海の上だから見やすくていいや。

 「ねえ、マグナ」
 「なに?」
 「あたし……少しは変わったかな?」
 花火を見つめたまま、が呟く。
 その横顔は、真剣だけどどこか曇っているような……そんな雰囲気だった。

 「マグナに護衛獣として召喚されて、一緒に旅を始めて。戦ったことなんてなかったから、マグナ達に色々迷惑かけたし」
 「そんなこと……」
 ない、と言いかけてやめた。
 多分、が欲しいのはそんな言葉じゃない。そんな気がした。

 「でもね。あたし……マグナがいたから今までがんばってこれた」
 「え……」
 「軍隊を敵にまわしてまで戦うなんて、普通はできないよ。初めて会った時だって、マグナは一生懸命あたしを守ってくれた」
 そこでは俺の方を向いて、微笑んだ。
 花火に照らされた笑顔は、いつにも増してきれいだった。

 「怖いことも、嫌なこともあった。けど、それ以上にマグナがなんとかしようとしていたから、あたしもがんばらなくちゃって思ったの」
 「……」
 嬉しいけど、同時になんか恥ずかしい。
 俺、そんなに褒められるような奴じゃないよ……

 「あ、もう終わりみたい」
 が海を振り返る。
 そういえば、花火はもう上がっていない。
 他の人達も、既に帰り始めていた。

 「さて、帰りましょうか!」
 「ああ、そうだな」

 楽しかったな。
 でも、がそんなことを思っていたなんて。
 俺に打ち明けてくれたってことは……少しは、期待してもいいのかな?

 ……明日から、またがんばろう。
 デグレアを止めるために。
 そして何より、の笑顔を守れるように。







 ところで。
 『…………あ』
 レイムへのお仕置きを終えた聖女様達が見たものは、既に祭りの片づけを開始している街の人々の姿だったりする。

 「さん! さんはっ!?」
 見回すアメルとロッカだが、当然のことながら帰り道の人ごみの中から探すことは困難で。
 「……うふふふふふ」
 「……はははははは」
 ぎらーり、と。
 たった今手を下したばかりのぼろぼろの物体を睨みつけ、再び武器を構えた。



 翌朝、ファナンの街を徘徊する謎の全身包帯男が現れたとか現れなかったとか。



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お待ちかね(?)の豊漁祭。
まあ、お約束といえばお約束です。マグナもさすがに鋭くなっていますが。
そして、一番聖女様達にやられているレイム。あんたホントに大悪魔か?
さあ、いよいよ山場に入ります。どうなるどうなる!?

2004.5.15