前途多難な私達・第9話
第9話
ミニスと俺達の問題も解決(?)して。
改めて、俺達はミニスのペンダント探しに協力することになった。
……けど、問題がひとつ。
ばたんっ!!
「マグナっ、どういうつもりだっ!?」
……やっぱり来た、説教魔王状態のネスが……
「あれほど、金の派閥の連中には関わるなと釘をさしたのに。どうして君は、騒ぎを引き起こすようなことばかりするんだっ!?」
……俺のせいかよ。
言っとくけど、導きの庭園を壊したのはアメルだぞ。
……とは言えるわけなく。
「たまたま知り合った女の子が、金の派閥の一員だっただけだよ。俺は、ミニスが困っていたから……」
「君はバカか?どうして赤の他人の問題に首をつっこむんだ!?無視すればいいものを余計な世話を焼くから……」
「じゃあネスティは、大ケガで死にかけてようが重病で苦しんでようが、金の派閥の人間は助けるな、と?」
横からの声が割り込んだ。
相当頭にきたらしく、とげとげした口調になっている。
「誰も、そんなことは言って……」
「そうとしか聞こえない!」
すごい剣幕で言い返されて、ネスが口をつぐんだ。
あ、あのネスに口で勝った……
とはいえ、結果的に厄介事を持ち込んじゃったのは事実だからな。
「もういいよ、。ネスが困ってる」
「でも……」
言いかけたを手で制して、俺はネスに向き直った。
「本当にごめん、ネス。だけど俺……」
「……わかった」
……へ?
「好きにすればいいさ。ただし、言った以上はきちんと最後まで面倒をみることだ」
素っ気ない口調でそう言うと、ネスはため息をひとつついた。
……ありがとう、ネス。
とりあえずは、一件落着だな。
そう思って応接室を出ようとしたら、呼び鈴が鳴った。
……誰だろう?
出ようとしたついでだし、俺は玄関に出てみることにした。
ドアを開けると……そこにいたのは女の人だった。
茶色い髪を後ろで束ねて、オレンジ色の服を着ている。
その人は俺を見て微笑むと、
「あのぉ、ギブソンさんはご在宅ですか?」
……ギブソン先輩? 一体、何の用だ?
「待っててください、今呼んで……」
「いや、その必要はないよ」
うわっ!
ギブソン先輩、いつの間に……
女の人はにっこりと笑いながら、バスケットの蓋を開けた。
「ご注文のケーキは、こちらでよろしいですね?」
……って、この中身全部ケーキ!?
すごい量だな……ギブソン先輩が甘党なのは知ってたけど。
「ああ、いつもすまないね、パッフェル」
ギブソン先輩は嬉しそうにケーキを受け取り、代金を女の人……パッフェルさんに渡す。
ケーキ屋さんだったんだ、この人。
「うわぁ、すごい……」
「これがケーキね、初めて見たわ」
いつの間にかやケイナも、バスケットいっぱいのケーキを覗き込んでいる。
「呆れたでしょ? まったく、いい年こいて甘いもの大好きなんだから」
呆れたようにミモザ先輩。
「よかったら君達も食べるかい?」
「え、いいんですか!?」
は嬉しそうだ。
やっぱり女の子って、甘いものが好きなんだな……
ふと、パッフェルさんがこっちを見ていることに気づいた。
いや……を見ている?
……まさか、この人も……ってことはないよな?
「あのぉ……すいません、そこのあなた」
「え、あたし?」
呼ばれたがパッフェルさんの方を向く。
パッフェルさんはまたにっこり微笑みながらうなずいて、
「あなた、何かお仕事はやってます?」
「え、やってませんけど……」
その返事を聞くなり。
パッフェルさんはがしっ、との手を掴んだ。
「でしたら! うちのバイト、やってみません!?」
『……は?』
俺との声が重なった。
……おや? ところで聖女様は……
「うふふふふふ」
あ、いた。ドアの陰から玄関こっそり見てます。
「ギブソンさん、あたしのさんをケーキで懐柔するなんて……」
「別に懐柔じゃねえと思うぞ……」
ぼそりとリューグが(離れた所から)突っ込んでいたりもする。
「しかもあの女、バイトにかこつけてさんを狙ってますね……」
ぐぐっと握り拳を作り、ついでに炎も背負ってます。
ドアがちょっぴり焦げてるような気もしますが。
「そうはいきません!さんはあたしと愛を育むんです!!」
「いや、それもどうかと思うぞ……」
届くはずのないツッコミを吐きながら、また被害者が出るなとリューグは頭を抱えたのだった。
……で、次の日。
「けど、いいの? バイト頼まれたのはあたしなのに、マグナまで引き受けちゃって」
「いいんだよ。パッフェルさん忙しそうだったし、手伝うのが一人だけじゃ大変だろ?」
聞けば、パッフェルさんのケーキ屋はかなり評判がいいらしい。
なので注文がどんどん殺到し……人手が足りなくなってしまったんだそうだ。
そこで、手伝ってくれそうな人を捜していたということだった。
確かにパッフェルさんを手伝ってあげたいとも思ったんだけど。
なにより、を一人で行かせたくなかった。
大変そうな仕事だから、少しでも力になってあげたいし。
制服に着替えるため、いったんと別れ。
着慣れない服に手こずりながらも、どうにか着替えた。
そして、の待つ店内へ……
「えへへ……どう? かわいい?」
俺の前でくるりと一回転する。
水色の服、そして白いエプロンがふわりと舞う。
はにかむような笑顔。
「……似合ってる。かわいいよ」
「ホント? よかった……」
表情を輝かせるところが、またかわいい。
「はいはい、ほのぼのといちゃつくのはそこまでにして。仕事の説明しますよー」
ぱんぱんと手を叩きながらパッフェルさんがやってくる。
……ちぇっ……
パッフェルさんはケーキの入ったバスケットとメモを、俺達に手渡した。
「このメモに書いてあるとおりに、ケーキを配達してください。生ものですので、できるだけ迅速に、かつケーキを崩さないように。お願いしますね」
メモにはずらりと住所とそこに配るケーキが並んでいる。その数、軽く見積もっても20軒以上。
……これじゃ、人手が欲しいわけだよなあ……
「がんばろうね」
「……うん」
微笑みながら言うに、俺はうなずき返した。
「ありがとうございましたー!」
数件目でようやく慣れてきた。
笑顔で挨拶すると、足早に次の配達先へと向かう。
そんな彼女を見つめる影ひとつ。
「ふふふふふ……」
彼は構えていたカメラをゆっくりとおろし…
「ああっ、メイド服姿も愛らしいですさん!! その笑顔で『ご主人様』と呼んでいただいたり、『はい、あーんv』とケーキを食べさせてくれたり……」
……不気味に笑いながら身悶えし始めた。
何人かの通行人が一瞬ぎょっとして彼を見……すぐにそそくさと去っていく。
「そして夜には……ふふふふふふふふふ」
とうとう妄想は自主規制の域まで行ったらしく、一人で興奮し出す彼。
どがすっ!!
「ふぐっ!?」
……そんな彼の暴走は、突然の一撃で終わりを告げた。
「こんなところで、何やってるんですか? レイムさん」
にっこりと、メイスを片手に尋ねるアメル。
「そういうあなたこそ、何をしているのです?」
「害虫駆除です」
……服のあちこちに付いてる血はそのためか。
っていうか、一体何やったんだあんた。
「ナンパの次はストーカーですか……やっぱり一番に退治するべき害虫はあなたのようですね」
「ふっ……私の愛、誰にも止められはしませんよ!!」
異様なオーラを放ちながら、武器を構えるアメルとレイム。
そして、(ある意味)因縁の対決が始まろうと……
ちゅいんっ!!
背後から銃弾を受け、レイムはばったりと倒れた。
「当店では、従業員のストーカーさんはお断りです」
近くの木の陰から、銃を構えたパッフェルが出てくる。
「せっかく紹介手当てもらえるのに、逃げられてダメになったらどうしてくれるんですか」
金目当てか。
「そういうわけで、これは没収です」
レイムからカメラを取り上げると、パッフェルはすたすた歩き出す。
流血しながらも、レイムはどうにか身を起こす。
「待ちなさい、さんのメイド服写真はすべて私の物……」
ばきゅんっ!!
どごっ!!
「ふーっ、疲れた……」
「大変だったね」
ようやく終わって、給金をもらい。
俺達は帰路についた。
お金を稼ぐって大変なんだな……
でも、自分で稼いだと思うとお金も違ったように見える。
「あ……」
ふと、が声を上げた。
その目は、アクセサリーの露店に向いている。
「おっ、お嬢ちゃんひとつどうだい?」
露店のおじさんがにかっと笑う。
「なんだったら、そこの彼氏にプレゼントしてもらう、とか」
「えっ……やだ、そんなのじゃないですよ」
そんな、あっさり否定しなくても……
でも……プレゼント、か。
給金の使い道は特にないし、にはいろいろ大変な思いさせちゃってるからな。
はじっと並んでいるアクセサリーを見ていた。
やがて、銀色の飾りのついたペンダントを手に取る。
きれいだな……に似合いそうだ。
「買ってあげようか?」
「えっ、でも悪いよ」
「いいよ、俺がにあげたいんだから。……すみません、これください」
毎度、とおじさんがペンダントの値札を切って、袋に入れてくれる。
代金と引き替えに渡してくれる瞬間、おじさんは小声で「がんばりなよ、兄ちゃん」と言った。
「はい、」
「……ありがとう。つけてみても、いい?」
俺がうなずくと、はペンダントを袋から取り出して首に下げた。
赤いワンピースに、銀の飾りが映えている。
「……似合ってるよ」
「ありがとう、マグナ」
少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうにが笑った。
初めて自分で稼いだお金で、初めてにあげたプレゼント。
俺はこの日のことをきっと忘れないだろう。
……ちなみに、その頃の聖女様。
「あの女、一枚500バームなんて値を付けて……でも、かわいい……さんのメイド姿……」
パッフェルから買ったレイム撮影の写真を見て悦に入ってたり。
(どうでもいいが、どうやって現像した?)
さらに変態は……
「ふふふふふ……不覚をとりましたが、予備のカメラは無事! さあガレアノ、キュラー!! さんの等身大ポスター、必ず今日中に仕上げるのです!!」
……ズタボロの姿で部下に命令していたり。
「なぜワシらがこんなこと……」
「仕方ないでしょう……ワタクシだって命は惜しいです」
ケーキ屋の制服姿で笑っているの写真を引き伸ばしながら、悪魔二人は涙を流していた。
「ハックション!!」
「? 風邪ひいたのか?」
「ううん、なんか寒気が……」
パッフェル登場編。……いや、このままだと彼女出すタイミングなさそうなので…
久々にはじけました、聖女VS変態。守銭奴エージェントも加わってます。
マグナとちょっといい雰囲気…でもオチはやっぱりアレ。
次回、ピクニック前の出来事です。