第10話
第10話 今、望むことのために
ユエルと別れた後、私達はゼラムを一周するようなコースで見て回った。
再開発区の別々の場所で、ロッカとリューグが稽古してたのはちょっと笑えたけど……
そして、蒼の派閥前にさしかかろうとした時だった。
「だからっ、私は召喚師だって言ってるじゃない!!」
「嘘つけっ、なら名前を言ってみろ!!」
女の子とおじさんの言い争う声が、こっちまで聞こえてくる。
「どうしたんだろう?」
「ねえ、あれ」
私の指さす先には、青っぽい鎧を着た兵士と女の子……ミニス。
どっちも「ケンカ上等!」って感じで言い争いを続け、道行く人にじろじろ見られている。
「どうせ貴族っていうのも嘘っぱちなんだろう?」
「嘘じゃないわっ、ホントなんだもん!!」
「ええいっ、しつこいガキだっっ!!」
とうとう頭にきたか、兵士が手を振り上げる。
そして、それがミニスに当たる……前に、私はとっさに割り込んだ。
ぱちんと音が響き、頬に痛みが走る。
「え?」
「な、なんだお前!?」
なんだお前、じゃないでしょ。本気出してひっぱたくなボケッ!!
……とは言わず、私はミニスの手を繋いだ。
「あ、私この子の知り合いなんですよ。迷惑かけたみたいですみません」
「ちょ、ちょっと……」
「いーから、私に合わせて!」
小声でミニスに告げると、再びなんでもないように続ける。
「本当にごめんなさいねー。さ、行こうか」
ミニスの手を引きながら、私はそそくさとその場を離れた。
その後、マグナ達の提案で導きの庭園まで行って。
全員ベンチに座ったところで、私はミニスに質問してみた。
「……で、どうして兵士と言い争いしてたの?」
「赤の他人のあなたに教えることじゃありません!!」
ミニスの返事は案の定。
「そうですよ、さん。まずは自己紹介からです」
「「「え?」」」
ぽかんとする私、トリス、そしてミニス。
マグナも「そういう問題じゃ……」と言ったけど、
「あたしはアメル、この人達はマグナさん、トリスさん、さん。あなたのお名前は?」
あっさり無視されて、そのまま話は続いた。
「え、あ……ミニス……」
「ミニスちゃん、か。ミニスちゃんはあたし達とお友達になるのは嫌ですか?」
「え? ……嫌じゃないけど……」
「それじゃ、これから仲良くしましょうね。……さあ、これで赤の他人じゃありませんよね」
おお、あざやか。私は心の中で拍手していた。
「あ……そうよね!」
「それじゃ、よかったら何してたか話してくれる?手伝えることなら協力するから」
私の言葉に、ミニスは少しとまどいつつも話し始めた。
「……実は……」
「緑色の石の付いた、ペンダントねぇ……」
事情をミニスから聞いた私達は、ミニスの休憩も兼ねてギブソン・ミモザ邸に戻った。
ちょうどネス以外の全員がいたので、ついでに協力をお願いして。
……でもマグナ達も、まさかさっき会った子が拾ってるとは夢にも思ってないだろうなー……
「気づいたら鎖がちぎれてて……それからずっと探してるんだけど……」
説明するミニスの顔は、今にも泣きそうで。
本当に心配しているのがよくわかった。
「そういうわけだから、それらしいのを見たときはよろしく! ……じゃ、そろそろ行きましょ」
さっきのメンバーに、留守番していた護衛獣達を加え。
私達はペンダント探しへと繰り出したのだった。
…………で、約2時間経過。
「うー、ちょっと休憩しよう……さすがに疲れた……」
結局というかやっぱりというか、見つからないまま導きの庭園に戻ってきてしまった。
これがマンガなら、私達はさぞかし真っ白けに違いない。
「まいったなあ、これだけ探しても見つからないなんて……」
『マグナ!』「マグナさん!」
マグナのつぶやきを私達はあわてて遮るが、時すでに遅し。
ミニスの目には、また涙が浮かび始めていた。
「あー……ほら、今日がダメでも明日があるし」
マグナ、悪いけどフォローになってない……
「いいの……大事に持っていなかった私が悪いの。側にいるのが当たり前すぎて、忘れてて……だから、あの子はもう戻ってこないの! きっと怒ってどっか行っちゃったんだぁ!!」
ぐずっていたミニスは、とうとう大声で泣き始めてしまった。
マグナもトリスも、どうしたらいいかわからずおろおろしている。
「大丈夫だよ、ミニスちゃん。きっと見つかる! そのためにがんばってきたんじゃない?」
アメルが必死で励ます。
「ひっくっ……でもぉっ……」
「ミニスちゃんは、自分が悪かったって思ってるんでしょう?」
「……うん……」
「だったら、ちゃんとペンダントさんに謝ろう? そうすれば許してくれるよ」
「……許して……くれるかな……」
ようやくミニスも泣きやんで、少しずつ落ち着いてくる。
「……『失ったものを嘆いてばかりでは足は止まる。今その手にあるもので道を切り開け』」
「?」
私がぽつりとつぶやくと、みんな不思議そうにこっちを見た。
「私が好きな小説に出てきた言葉。過ぎたこと、なくしたものを嘆いてばかりいたら先には進めない。これからを考えるなら、今持っているもの、残されたものを生かしなさい。そう書いてあった」
一通り解説してから、私はミニスの顔を見て続けた。
「ミニスは、ペンダントを見つけたいんでしょ? 許してほしいんでしょ? それなら、そのためにどうすればいいのか、できることはまだまだあるはずだよ? 私達も力になる。あきらめるのはまだ早いよ」
あきらめたら、そこで全部終わり。
でも、可能性がゼロじゃないなら。
できるだけのことをすれば、もしかしたらうまくいくかもしれない。
この差は、小さいようで意外と大きい。
「さ、もうひとがんばりしようか」
そう言って、私が立ち上がった瞬間。
「ついに見つけましたわよっ、このチビジャリっっ!!」
……出た。
どうでもいいけど、「ジャリ」って貴族が使うような言葉じゃないと思うんだけど。
「げっ、ケルマ……っ」
ミニスの視線の先には、これでもかというくらい装飾品ごてごての女。
派手な上に、重そう……
「誰だっ!?」
「ほほほほ、平民風情に名乗る名など……ん?」
高笑いをあげていたケルマは、ふとマグナとトリスに目をやる。
「そこのアナタ達、ひょっとして召喚師なのかしら?」
『だったらどうだってんだよ(なのよ)?』
「ほーっほっほっほ、無知は罪ですわねぇ。召喚師でありながら私の名を知らないとは」
「何カッコつけてるのよ、この年増っ!」
「年増って言うな〜〜〜〜っっ!!」
割り込んだミニスの一言に、お約束すぎなケンカが始まった。
やれ体型がどうだ、歳がどうだという内容が続く。
「ねえ……おねえちゃん」
「ん、どうしたのハサハ?」
「……としま、ってなに? ぴかぴかのひと……としま、なの?」
ぴき――ん。
あああ、火に油を……
確かにこれ、ゲーム中にもあったけど。ここでまで言ってほしくなかった……
空気が寒いよ、氷点下だよ、ペンギンさんが歩いてるよー……
「ハサハ……年増っていうのは悪口だから、二度と言っちゃダメだよ……」
「……(こくん)」
……今更遅いだろうけど……
「きいぃぃっ、このケルマ・ウォーデンを侮辱するとはいい度胸ですわね―――っっ!!」
うあ、やっぱり怒った。
「ウォーデン? ……って、まさか……」
「ほほほほ、やっと気づきましたわねぇ」
マグナの反応に気をよくしたか、あっさり高笑いモードに戻るケルマ。
……あんた、わかりやすすぎ。
あの弟にしてこの姉あり、って感じだわ…
「金の派閥の名門中の名門、ウォーデン家のケルマとは私のこと。三流召喚師のマーン家の小娘とは格が違いますわよ」
「誰が三流よっっ! ……あっ……」
あわてて口をつぐんだミニスだけど、もうしっかりみんなの耳に入ってしまった。
みんなが、驚いたようにミニスを見る。
「じゃ、君も金の派閥の……」
「ち、違うの! 騙したんじゃない、言い出せなかっただけなの!! お願い、信じて……」
ミニスが涙目で訴える。
「信じるよ。友達でしょ、私達?」
「え……?」
「金の派閥だってだけで嫌いになるような冷たい人、この中にはいないよ。ね?」
「そうよ、あたし達は友達だよ」
「みんな……」
とりあえず、ミニスが落ち着いたところで。
「……で、おたく何の用? 口ゲンカしに来たわけじゃないでしょう?」
「そうでしたわ。……さあチビジャリっ、ペンダントをお渡しなさいっ!」
「待って下さい、今この子はペンダントを持ってないんです!」
「騙されるもんですか! 今日という今日は、力ずくで取り返させていただきますわよっっ!!」
その声を合図に、金ぴか鎧の兵士やテテが物陰から出てくる。
……あんたらずっと隠れてたんですかい……その姿で。
「は下がってて」
「は?」
いきなり後方に押しやられた。なぜに?
「武器も何もないだろ?それに、また召喚術使って魔力切れ起こしたら、またネスの雷飛ぶよ」
うっ……まったくその通り。
あーあ、見学かあ……つまんない。
「ラブミーウィンド!」
「させません!ルニア!!」
「てぇぇいっ!」
「プチメテオ!!」
……そんな戦いの喧噪の中。
(……何曲目で終わるかなー……)
とりあえず持っていたMDを聴きながら、私はそんなことを考えていた。
しかし、こういうシーンにダンスナンバー……似合わない……
ちなみに、二曲目の途中で決着はついた。
「覚えてらっしゃい!」
お約束な捨てゼリフを残し、ケルマは去って行く。
私は言った。
「遠慮しとく。いちいち覚えてたら大変そうだから」
「……言えてる」
「あの……ごめんね。金の派閥と青の派閥は仲が悪いって聞いたから、その……」
「それはもういいって。……改めてよろしく、ミニス」
私は明るく言って、手を差し出した。
ミニスはしばらく私の手を見て、おずおずと手を握った。
「一緒にペンダント、見つけようね?」
「うん!」
ミニスはこの時、ようやく笑ってくれた。
ちなみに、この後のネス騒動(勝手に命名)だけど。
私の勝利に終わった、とだけ言っておく。
やっとミニス出せた……
途中で主人公が言った言葉には、モデルがあります。かなり前の小説ですが。
ハサハの問題発言は、ホントにゲーム中にあります。バルレルよりひどい……(汗)
ネス騒動の時何が起こったかは……ご想像にお任せします(笑)