第11話
第11話 束の間の平穏
「これも違う……」
カリカリカリ……
「これでもない……」
カリカリカリカリカリカリ……
「えーと、これは……」
…………
「あのさあ、三人とも」
私は手を止めると、さっきから調べものをしているマグナ達に声をかけた。
「いい加減休んだら? 神経すり減るし、私も落ち着かないんだけど」
私も結構長くここにいるけど…時々は休憩してる。
でもこの三人は、ずーっと本とにらめっこしてる。マグナとトリスなんて、眠いのを我慢してるように見える。
「そういうわけにもいかないだろう!? あいつらのことを調べないと……だいたい、君までここにいる必要は……」
「ここが一番資料あるんだから仕方ないでしょ? それとも課題を白紙で出せと?」
「む……」
そう、なぜ私が書庫にいるのかというと。
ネスに出された課題を片づけるためだったりする。
でもねー……マグナとトリスはともかく、ネスがピリピリしてるものだから気が散って。
資料持って移動しようにも、まだどの本がいいのかよくわからないし。
「そうそう、ちゃんの言うとおり!!」
いつの間に来たのか、ミモザがばんばんとネスの背中を叩く。
ネスはちょっとよろけた。……もうちょい加減しよーねミモザ……
「一息入れたら? 私達もこれから休憩するところだから」
そして、返事も待たずにネスを引っ張って行く。
マグナ達もついて行こうとしたが、ふと思い出したように言った。
「は? 休憩しないのか?」
「あ、もうちょっとで終わるから。その後にするよ」
私はそう言ってマグナ達を見送ると、再び課題に取りかかった。
「……出来たー!!」
私は思いきり伸びをしながら、イスの背に寄りかかった。
「そうか」
「……って、あれ? もう休憩終わり?」
声に振り返れば、仏頂面のネスがいた。
いくら何でも短すぎると思うんだけど。
「今は少しでも時間が惜しいんだ」
「……だからって、無理しすぎだよ。私の勉強見て、調べ物して……ちゃんと寝てるの、あんた?」
そう、私は知ってる。
ネスが寝る時間も惜しんで、調べ物を続けていることを。
不安なのはわかる。でも、このままじゃ……
「あんた休みなさい」
「は?」
「休めって言ったの。相手を知ることも大事だけど、万一に備えて体力も温存しておかないと」
「だが……」
「つべこべ言わない。嫌だって言うのなら、ラリアートで強制的に寝てもらうわよ?」
ぶんぶんと腕を回しながら、私。
ちょっと強引だけど、こうでもしないと寝てくれそうにない。
「……わかった。休むからやめてくれ……」
「わかればよろしい。というわけで、部屋に戻りましょ」
「別に、部屋に戻るくらい一人で……」
「ダメ。一人にしたら、あんたまたここで調べ物続行しそうだもの」
うっ、とネスがうめく。
やっぱりそのつもりだったなー……やれやれ。
ネスはとりあえず、部屋に戻ってベッドに横になってくれたけど。
私はタヌキ寝入り防止のため、しばらく側で様子を見ていた。
2、3分くらいして寝息が聞こえてくる。
やっぱり無理してたんじゃないの……まったく。
「なるほどねえ……」
遅れて参加した休憩時間。
みんな神妙な顔して、お茶をすすっていた。
「とりあえず、今回は寝てくれたからよかったけど。あれじゃネスの神経持たないよ」
「真面目だからねー……あの子」
「不本意なんだろうな、今の状況が」
言ってお茶菓子をつまむ先輩コンビ。
反対に、マグナとトリスは黙ったまま。
「……こら二人とも、暗くならない!」
「だって……」
「は気づいたのに……あたし達、全然考えてもいなかった……」
どんよりと、二人の周囲に暗雲が立ちこめる。
「……よーし、こうなったらおねーさんが一肌脱ごうじゃないの!」
ぐっ、と拳を握りしめるミモザ。
心なしか、メガネもキラーンと光ったような気がする。
「……先輩?」
マグナの頬には一筋の汗。
「なーに心配そうな顔してんのよ? 任せなさいって!!」
……でも、明るい顔しているのはミモザだけ。
マグナとトリスは不安そうで、ギブソンは苦笑を浮かべていた。
「……で、なんで君達はピクニックの準備なんかしてるんだ?」
「ネスが寝てる間に決まったから」
「あのな、僕達は狙われているんだぞ!それなのに……」
「文句は発案者のミモザに言ってちょーだい。もっとも、連中が出ようが槍が降ろうが行く気満々みたいだけど」
「だからって……」
「行きたくないんなら、私達だけで行ってくるけど?」
ネスの背後で、ミモザが言った。
また、いつの間に……しかも、きっちり「だけ」を強調してるし…
ぐっと、ネスはつまるしかない。
お見事です、ミモザさん……
結局、ミニスにまだ不満そうなネスやリューグも加えて。
私達はピクニックに行くことになった。
「ふーん、それでケイナさんはあの人と旅してたんだ」
「素敵ですよね、そういう巡り合わせ」
「素敵なもんですか! おかげで苦労しっぱなしで」
道中、女の子のお約束・恋愛話が花開く。
どこの世界でも、こういうのは一緒だねー……
「ま、そういうことにしておきますか。……で、ちゃんは?」
「は?」
「好きな男の子とかいないの?」
「あ、それ私も知りたい!」
……って、思い切り興味持たれても困る……
こういう場合、いないって言っても納得してくれないんだよねー……
「そういえば、イオス……だっけ? なんか親しそうだったけど……」
「もう、トリスまで……あれはMDを取り返すの手伝ってくれただけだってば」
「でも、案外敵同士のロマンスっていうのも……」
「なんだか、物語みたいですよね……」
あああ、勝手に話が進んでるし……
人をロミオとジュリエットにする気ですか、あんた達?
「だから、違うって。別に私は好きな人なんて……」
言いかけて、私は気づいた。
「……何やってるの?あんた達……」
「あ、あははは……」
マグナをはじめとする男性陣一同が、聞き耳を立てたまま乾いた笑いを浮かべていた……
その後、彼らがどうなったかは推して知るべし。
「うわー……」
そこには、初めて見るような草花が生い茂っていた。
こんなトコ、小学校以来だよー……
「このフロト湿原はね、見習いの時からのお気に入りなのよ。ここでしか見られない植物とかも多かったしね」
「ホントだ。あそこにいる動物、俺初めて見た」
「えっ!? ……あっあれね、ちょっと見てくる!!」
言うが早いか、ミモザはさっさとそれを追って行ってしまった。
「やれやれ……あの人にも困ったものだ」
うん、これに関してはネスと同意見。
どうせなら手伝ってほしかったなー……
「まあいいじゃない、ここからは自由行動にすれば」
ケイナの意見に異を唱える人もなく。
お弁当を食べた後、思い思いに羽を伸ばすことになった。
さて、私はどうしようかなー……
考えてみれば、こういう所に行く機会は今までほとんどなかったし。
……ちょっとぶらついてみようかな?
私は鼻歌を歌いながら歩き始めた。
女性陣、元気です。
そして、今回一番割を食ったのがネス……ご愁傷様。
一応断っておきますが、まだ主人公の相手は決まってません。
さて、仮面の女の名前決めんと……(まだかい)