第13話
第13話 決意の行き着く先は
誰もいないテラス。
月と星が、輝いている。
まるで今日も、何事もなかったかのように。
静かな空間に、歌が響く。
子守歌のような、静かなバラード。
月明かりの下、それは私の心を落ち着ける呪文になってくれる。
ぱちぱちぱち。
不意に拍手が聞こえてきて、私は歌を止めた。
「お上手ですね」
「ロッカ……」
うわー、聞かれちゃったよ……恥ずかし。
「……不安なんですか?」
「え?」
「なんだか、ずっと考え込んでいるようでしたから……」
あー、そう見えたのか……
みんなルヴァイド達の正体知ったわけだし。
あんなこと言っちゃったけど、私がこの中では一番弱い。
自信があるわけじゃない。
「……それもあるけど、違うこと」
「? ……なら、何ですか?」
「わかんない。だから、まだ言えない」
「?」
――あのひと……すごくくるしんでる。
――だれもたすけてあげられない……おねえちゃんじゃないと、だめなの。
ハサハの言葉が、頭に残ったまま離れない。
アイシャが苦しんでるのはいいとして、どうして私じゃないとダメなんだろう?
考えているうちに、ルヴァイド達のことを思い出していた。
彼らも苦しんでいる人達。
自分の気持ちを抑えて、村を滅ぼさざるを得なかった。
そして、これからも苦しみ続ける。
納得できない命令に従い続け、最後には利用されていたと知って。
とても切なくて、哀しい。
アイシャも、そうなのかな?
「ところで、ロッカはどうしてここに?」
「あ、そうでした。アメルが夕飯できたから、さんを呼んできてほしいって」
「……そういうことは早く言って……」
盛大に鳴ったお腹を抱えながら、私はつぶやいた。
「デグレアの特務部隊か……厄介だな」
そんなこんなの夕飯タイム。
やっぱり話題は黒の旅団のことになりました。
「ルヴァイドに、イオスに、ゼルフィルド。この三人は要注意、ってとこかな?」
「あのアイシャって女もだ。あの身のこなしといい、隙のなさといい……ただものじゃねえぞ」
「召喚術も使ってたからな」
「それだけじゃない。彼女の連れていた狼……おそらく召喚獣だ」
「実質四人と一匹ってことね」
みんなが対策を練っている間、私はまだ考え込んでいた。
うー、どうしよう……
イオス達もなんとか助けてあげたいけど、アイシャのことも気になる……
どうして彼女が存在する?
ハサハはどうして助けてあげてって言ったの?
あ―――――っ、私の脳みそじゃわかんない――――――っっ!!
「そういえば、捕まってる間に何か……?」
「え?」
我に返ると、不思議そうにこっちを見てるみんなの顔。
しまった、また……
「、本当に大丈夫?」
「自信ないなら、あんなタンカ切るんじゃねえよ」
「違うわよ。ああ言うしかないし……ホントにそうしなくちゃいけないでしょ」
そう。本当にそうしないといけない。
問題なのは、私にそれだけの力がないこと。
ネスから召喚術を習ってはいるけど、それだけじゃダメな気がする。
「だから……ロッカ、リューグ」
戦いに…戦争に身を置くのは、本当は怖いけど。
いつまでも、甘えていられない。
いつかは、自分で自分の身を守れるようにならないと。彼らを止める前に死んでしまう。
それは嫌だから。
「私に、戦い方を教えて」
崖城都市デグレアの、とある一角。
会議室にあたる部屋に、一人の男が佇んでいた。
そこに、すぅっ……と三つの影が現れる。
「レイム様。ガレアノ、ビーニャ、キュラー……ただいま参上いたしました」
男は悠然と、影の方を振り返る。
「ご苦労様です。……早速ですが、これを見てもらえますか」
レイムは一枚の書類を差し出した。
そこには一人の少女の特徴が、似顔絵付きで記されていた。
「? ……この娘が何か?」
「今後、接触することがあると思います。その時は適当に相手してあげてください。……殺さない程度に」
「なぜです? 理由を聞いてもよろしいですか?」
「そうそう。ただのニンゲンじゃない。なんで殺しちゃダメなの?」
影達が、疑問をあらわに問いかける。
「興味深いからですよ。その魂、感情、そして……内に眠るものが」
レイムの口には冷たい笑み。
その声は新しいオモチャを見つけた子どものように嬉々としていて。
「でしたら、連れて来た方がよいのでは?」
もっともだ、というようにうなずく他の影。
レイムはおかしそうに笑う。
「それには及びません。私が頼みたいのは、彼女の魔力を引き出すことだけです。そうすれば、放っておいても私のもとに来ます。時が来れば……」
クククク……と低い笑い声が響き渡る。
いつしか、影達は消えていた。
同時刻、黒の旅団の駐屯地。
テントからやや離れた草原に、一人の女が座っていた。
それに寄り添うようにして、狼が一匹。
「……とうとう始まっちゃった……」
女が、ぽつりとつぶやく。
仮面のため表情はよくわからないが、どこか自嘲的な言葉。
「そうだな」
低い声が、一言返す。
「……ごめんね」
「なぜ謝る? 俺は自分の意志で手伝っている。お前が望むならそのとおりにするだけだ」
「うん。……ありがとう、セイヤ」
言って、女は狼の頭をなでた。
しばらくなでた後、軽く狼の首を抱きしめる。
「つらいか?」
狼が言う。
「覚悟はしてた。……でも……」
絞り出すような、女の声。
抱きしめる腕に、少し力がこもる。
「言ったであろう、俺はお前の望むとおりにすると。たとえ誰もお前に気づかずとも、俺はお前の側にいる。忘れるな……」
狼の言葉は、まるで子どもか恋人に言うかのように優しく。
「ありがと」
返す女の声は、先程に比べると少し力がなかった。
「あの子……断ち切ってくれるかな?」
「そのためにああ言ったのであろう?少しは信じてみたらどうだ?」
「……うん」
「もしできぬようであれば、俺が直接行って鍛えてやる。だから安心しろ」
「あはは、それはきついって!」
「……やっと笑ったな」
狼は、嬉しそうに言うと女の頬をなめた。
女もようやく口元に笑みを浮かべ、短く礼を言った。
「ありがと。あんたがいてくれて、よかった」
「彼女には、強くなっていただかないと……」
ある場所で、男は言う。
「あの子には、強くなってもらわないと……」
別の場所で、女は言う。
「強くならないと……」
少女は思う。
願いは同じ。
一つの決意はどこに向かい、その先に何を生み出すだろう?
その結果は、光か闇か。
未来は、まだ見えない。
ある意味実験作。レイムサイドとアイシャサイド混ぜました。
アイシャの連れている狼、セイヤが名前です。セイは呼び名。
しかし、なんかラブラブちっくな会話に……