第19話
第19話 ホウキとカミナリ
「なあ、ミニス。いい加減あきらめて一緒に行こう?」
「ぜぇ―――ったいにイヤっっ!!」
「お母さんはあなたを連れてきて欲しいって言ってるんだから、ミニスが一緒に来てくれないと困るのよ」
「だって、ペンダントをなくしたことがばれたら……いや―――っ、考えたくもないわよぉ!!」
マグナ&トリスとミニスの押し問答……これがもう30分ほど続いている。
まあ、気持ちはわかるんだけど……
昨日のモーリン&カザミネVS海賊の戦いの後……
「あなた達ですね、海賊達をやっつけてくれたのは?」
やって来たファミィさんは、のんびりした口調で問いかけた。
そして、マグナ達に視線を止めて考え込む。
「あら? あらあらあら、あららら?」
「ど、どうかしましたか?」
当のマグナとトリスは困惑気味。
「変ですわねえ、派閥にいる子の顔はきちんと覚えておいたつもりなのに……やだわ物忘れなんて、歳なのかしら?」
……いや、その顔で歳って言われても……
何をどうしたら、そんなに若く見えるのか知りたいです。マジで。
「物忘れではないですよ。僕たちは蒼の派閥の人間なのですから。金の派閥の議長、ファミィ・マーン様」
言いながら、ネスは深々と頭を下げた。
「まあ、そうでしたの」
ファミィさんが、にこにこ笑顔で返す。
「それにしても、私が至らぬせいでご迷惑をかけて。あなた達が助けてくれなければ、もっと大変なことになっていましたね」
「ああ、そのとおりだよっ! 今までぼけっと何してたんだい!? ファナンを守るのもあんたらの仕事だろ!?」
まだ怒りが収まっていないのか、モーリンが一気にまくし立てた。
それでもファミィさんは、やんわりとした物腰を崩さない。
ちらりと兵士に捕まったジャキーニに目をやって、
「本当にすいません。そこの人にはきつく言い聞かせますから」
……多分、言い聞かせるだけじゃないだろうなあ。カミナリでも付いてるかも。
私は今だけ、ジャキーニに同情した。
「議長殿、ご指示どおり下町の火災は最小限に食い止めました」
兵士が一人やって来て、ファミィさんに告げた。
モーリンが、「えっ?」と小さく漏らす。
そのままファミィさんは兵士に二言三言指示を出した。
短く敬礼して去って行く兵士達。
はー……かっこいい。
ファミィさんは再び私達に向き直ると、微笑みを浮かべて言った。
「さて、がんばったあなた達にはご褒美をあげないと……明日にでもあらためて、派閥の本部にご招待しますわね」
そしてちらりとマグナを見て、
「その時はぜひ、あなたの後ろで隠れている私の娘も連れてきてくださいね」
びくーっ! とミニスが目に見えて震える。
ついでにマグナの服の裾まで握りしめていた。シワができそうなくらい。
「ではまた明日。ごきげんよう」
そしてファミィさんが去った後も、ミニスはガタガタと震えていた。
で、話は元に戻る。
モーリンやカザミネの同行が決まった後、出発前に招待を受けようということになったわけだけど。
ミニスが嫌がったため、未だ出発どころかファミィさんへの挨拶すらできていないわけで。
(ちなみにモーリンやカザミネも行くべきではとの話もあったけど、ガラではないからと辞退された)
「でも、いつまでもそのことを隠しているのはよくないと思うよ?」
「そうね。それに、事情を知ればあなたのお母さんも探すのを手伝ってくれるかも」
「うぅ……」
アメルとケイナの説得にも、ミニスは渋っている。
……こうなったらあれしかないか…
「私も一緒に謝ってあげるから。ね?」
「……ホントに?」
ミニスが確認するように私を見る。
「うん、ホントに!」
「あたし達も一緒だよ! ね、マグナ?」
「え? ……ああ、約束するよ。だから……」
トリスとマグナのだめ押しもあって、ようやくミニスが言った。
「じゃ、行く……」
というわけで、金の派閥本部へ。
議長室に通された私達は、ファミィさんが仕事の途中のためしばらく待たされた。
マンガにでも出てきそうなくらい山積みの書類があったので、時間かかるかなと思ったんだけど……
鼻歌混じりであっという間だったから、待ったのは実質数分くらい。
……すごすぎ。
「……じゃあ改めまして、よく来てくれたわね。マグナ君、トリスちゃん、ちゃん」
「えっ、どうして俺達の名前を?」
「もちろん、調べたのよ」
マグナの質問にあっさりと答えるファミィさん。
「お母様っ!」
「ミニスちゃん、そう怖い顔しないで。仕方がなかったのよ。うっかり聞きそびれた私も悪かったけど、あなた達ったら名乗ってくれないんだもの。失礼だとは思ったけど、名前がわからなかったらご招待できないもの。そうでしょう?」
「う……」
ミニスが黙り込む。
「ファミィ様、どこまであたし達のことを?」
トリスがとまどいがちに問いかけた。
「だめだめ、『様』だなんて他人行儀ですよ。ファミィさんって呼んでくださいな」
「は、はい……」
「そうね……私が知っているのはあなた達のお名前と、うちの子が聖王都で困っているのを助けてくれたらしいこと、それから黒い鎧の兵士さん達に追われているってことかしらね」
「ほとんど全部じゃないのっ!?」
再び割り込むミニス。
本当に、どうやって調べたんだろう……
エクスみたく、極秘エージェントでもいるとか……うわ、大いにあり得そうで怖い。
「あ、私ったら、肝心のご褒美を渡さないといけないのに……」
「ごまかさないでっ、お母様!」
「はい、これは領主様からのご褒美。それからこれは私から」
怒るミニスを完全に無視して、ファミィさんはご褒美をマグナに手渡す。
「ありがとうございます、えっと……ファミィ、さん」
つい「ファミィ様」と出そうになったのか、不自然にとぎれたお礼をマグナは言った。
「さっ、用事がすんだなら行きましょうっ!!」
そう言うなり、ミニスは逃げるようにドアへと向かう。
……いや、実際逃げてるか……
「待ちなさい、ミニスちゃん。お母さん、まだあなたに用事があるのよ?」
「……!?」
息をのみ、ミニスが硬直する。
「どうしてあなたのお友達のワイバーンさんは一緒に戦ってくれなかったのかしら? 調べたんだけど、それだけがどうしてもわからなかったのよ」
ミニスはびくぅっ、と震えた。
マグナとトリスもフォローしようとして……いたのだろうが、ファミィさんの笑顔のあまりの怖さに石化している。
目が笑っていない、なんて次元じゃない。
うまく表現できないけど……天使のような笑顔に、迫力とか怒気とか……そういったものを全部まとわせるとこうなるかな……?
まあとにかく、完璧な笑顔だけどめちゃくちゃ怖かった。
ミニスがなんとか訳を説明した後。
ファミィさんの笑顔が、さらに怖くなった……気がした。
「困った子ね、召喚獣のペンダントをなくすなんて……」
「ごっ、ごめんなさい! ごめんなさいっ、お母様っ!!」
「泣いて謝ったってダメですよ。悪いことをしたならおしおきです」
「いや――っ! カミナリどかーんはいやあぁぁっ!!」
突如発生した修羅場に、マグナもトリスもぽかんとしていた。
ミニスの態度から何かあるとは気づいていたものの、さすがにカミナリで打たれるとは普通思わないだろう。
そうこうしているうちに、ファミィさんが呪文を唱えだした。
その手に、バリバリとスパークが集まる。
「さあ、ミニスちゃん。動いてはダメですよ」
無茶を言うな―――っ! 普通逃げるっ!!
マグナとトリスも顔面蒼白になる。
「あ、あのちょっと、ファミィさん! 待ってください!!」
あわてて私はミニスとファミィさんの間に割り込んだ。
ファミィさんは「あら?」というような顔をして、振り下ろそうとした手を止める。
「ペンダントは、私達も一緒に探しますから! だから、カミナリは……いえ、お仕置きは勘弁してあげてください!!お願いしますっ!!」
もう、とにかく必死に頼んだ。
お仕置きが何であれ、この人の場合はシャレにならない気がする。
そんな光景をただ見ているなんて、絶対ごめんだった。
「……」
「…………」
ふっと、ファミィさんの手からスパークが消えた。
「……わかりました。そのかわり、ミニスちゃん。なくしたペンダントは絶対に見つけること」
「はい……」
はー……と、私達は息を吐いた。
よかったぁ……
それから少し話した後、私達は帰ることにした。
ファミィさんも出口まで見送ってくれた。
「すみませんね。もう少し、娘の面倒をお願いします。お礼といってはなんですが、このあたりにいる黒の旅団の人達は追い払っておきますから」
「……ありがとうございます」
驚いているみんなに代わって、私がお礼を言った。
ファミィさんは微笑みを浮かべると、ミニスに向かって、
「行ってらっしゃい、みなさんに迷惑をかけないようにね?」
「う、うん! 行ってきます!!」
ミニスが大きく手を振る。
私達もそれぞれ会釈をして、金の派閥を後にした。
「……いい人に巡り会えたのね。ミニスちゃんも、あの子も……」
ファミィはそうひとりごちると、踵を返して議長室へと戻っていった。
ファミィさん、謎の人です……いろいろな意味で。
ホントに極秘エージェント持ってそうですし……(汗)
お尻ぺんぺんも、絶対何かありそうな気が……考えるのも怖そうですけど。
次回は、シリアスも意味深もお休み。……閑話になるかもしれませんが。