第22話
第22話 知らない知人、繋がらない記憶
赤く燃える森。
それを背にして立つ男の子が一人。
その顔は、ぞっとするような笑みを浮かべていた。
『いやっ、放してっっ!!』
『ダメだ、近づくなっっ!!』
叫ぶような女の子と男の子の声。
多分男の子の方が女の子を押さえているのだろうが、それらしい姿は見えない。
『早く逃げてください!彼はもう……』
今度は女の人の声。
あれ? ……でも、この声どっかで……
そういえば、女の子の声も聞いたことがあるような……?
『……やめてぇぇっ!!』
どんどん男の子の姿が遠ざかっていく。
そして、その前に女の人の後ろ姿が舞い降りた。その背には白い翼。
彼女の身体が光りだし……
全てを白く染める閃光の中、男の子の姿が消えていくのが見えた。
『いやあぁぁぁぁっっ!!』
「……び、びっくりしたぁ……」
「え?」
気がつくと、私はベッドの上で上半身だけ起こしていた。
側には驚いたマグナとトリスの姿。
どうしたんだろうと思ったが、答えはすぐトリスの言葉で判明した。
「三日も目を覚まさないからどうしようかと思ってたら、いきなり叫びながら跳ね起きるんだもの」
三日? そんなに寝てたの私?
「? ……どこも、何ともないか?」
「へ? あ、うん……別に」
そう言ったとき、不意に涙があふれた。
「!?」
「どうしたんだ!? やっぱりどこか痛いとか!?」
あわてふためくマグナ達。
私は首を横に振った。
「違うの。そういうのじゃないから」
なぜか涙は止まらなかった。
さっきの夢が頭から離れない。
ただの夢なのに……どうして、こんなに悲しいの?
「あたし、水持ってくる。ついでにみんなに知らせてくるから」
そう言うと、トリスは部屋から出ていった。
後にはマグナと、泣いている私だけが残される。
マグナは少し考えた後、ベッドの縁に座って私を抱きすくめた。
「……俺でよければ、胸、貸すよ」
「……ごめんね」
それだけの会話の後、私はひとしきり泣いた。
なんとか泣きやんだ後、トリスが水を持って戻ってきた。
他のみんなも来たみたいだけど、落ち着くまで待ってくれたのかしばらくドアの辺りから動かなかった。
「……もういいよ。入ってきても」
私がそう言うと、みんながどっと入ってきた。
アメルの姿だけ見えない。やっぱり風邪で寝てるのだろうか。
「君に聞きたいことが……」
そう言いかけたネスだったけど、あっさり他のみんなに遮られた。
「よかったぁっ! このまま起きないかと思ったよぉっ!!」
「まったく、人騒がせな奴だぜ……」
「リューグ! ……すみません、これでもすごく心配してたんですよ」
「なっ……何言ってやがる、バカ兄貴!!」
「ま、いいじゃねーか。ちゃんと気がついたんだし」
「そうだよ。この様子だったら、少し休めば大丈夫だと思うよ」
「あー……うん。ホントにもう、大丈夫だから。ごめんね」
心配かけたことは確かみたいなので、謝った。
「……ところでネス、聞きたい事って?」
私が聞くと、タイミングを失って呆然と佇む形になっていたネスがはっと気を取り直した。
「その、砦でのことなんだが……」
「そうそう! どーしちまったんだよ……すごかったじゃねーか!!」
「ちょっとフォルテ、話の腰を折らないの!」
再び話を遮られるネス。
張本人のフォルテはケイナに注意されている。
「……すごかったって、何かあったの?」
ぴた。と私以外の全員が固まった。
みんな「嘘だろ!?」と言いたげな顔をしている。
「……覚えてないのか?」
「え? ……確か死体が襲ってきて、ガレアノが来て……あれ? それからどーなったんだっけ?」
どうしても、その後が思い出せない。
「おいおい、まさかあいつ吹っ飛ばしたこと覚えてねーのかよ?」
…………………………はい?
フォルテの一言に、今度は私が固まった。
吹っ飛ばした? 誰が、誰を?
「……その様子じゃ、本当に覚えていないようだな」
ネスがため息をつきながら言った。
「……じゃあ言うけど、アメルの身体が光ったと思ったら屍人達が消えていったんだよ。そしたらが光の矢を飛ばして……」
「はあぁ!?」
マグナの説明を聞いても、まだ信じられなかった。
光の矢を飛ばした、って……私、そんなことできないよ!?
「一応聞くけど……ほんっっとーに、私がそんなことやったの?」
「状況からして、そうとしか思えないのよ……がガレアノを指さした瞬間に、光が矢のように飛んでいったんだから」
トリスはそう言うけど……ダメだ。思い出すどころか想像できない。
「ま、いいじゃねーか。二人ともわからないって言うんだから、それで」
「……それもそうか」
「そうよね、みんな無事だったんだし」
フォルテの意見にうなずくみんな。
ただ、ネスだけは納得いかないみたいだった。
「しかし……」
「ほら、ネスも考えるのはそれぐらいにしなよ? 今はを休ませてあげないと」
マグナの言葉に仕方なさそうに引き下がるネス。
みんなも同意見なのか、次々に出ていった。
「それじゃ、ご飯の時にまた来るから」
「何か栄養のあるもの作りますね!」
「しっかり休んでおけよ!!」
そんなことを口々に言って。
でも、一人だけ出ていかない人がいた。
「……あれ?」
「おう、嬢ちゃんにはまだ自己紹介してなかったな。俺様はレナードだ」
「あの、レナード……さん、何か?」
うう、つい呼び捨てにしそうになった……
慣れって怖い。
「ちょいと聞きたいことがあってな……マグナ達に聞いたんだが、お前さんもどこから呼ばれたのかわからなくて帰れないんだって?」
「あ、はい……」
そういえば私の世界とレナードの世界って……違うんだろうな、やっぱり。
まさか「私の世界じゃあなた達はTVゲームの中の存在です」なんて言えないし。
「お前さんはどこから来たんだ?」
「……日本です」
……まあ、これは嘘じゃない。
「……そうか! なら、ステイツのロスってわかるよな?」
「……はい」
……これも本当のことだし。
でもレナードはその答えがよほど嬉しかったらしく、私の手を取ってぶんぶんと振った。
「そうか! いやー、国は違うがこんな所に同郷人がいるなんてな……」
「まあ、似たような地名があることは確かみたいですけど……」
さすがに「違うかもしれない」とは言えず、お茶を濁したような言い方になる。
だって、こんなに喜ばれちゃうと……ねえ……
「ま、同じだろうが違ってようがかまわんさ。同じ境遇同士、仲良くやろうぜ」
「……そうですね」
私達はがっちりと握手をした。
何にせよ、元の世界の話が通じる相手っていうのは嬉しいし。
一通りの会話をドアの外から聞いていたネスティは、そっとその場を離れた。
どうも引っかかる。彼女は確かにこの世界の人間ではないのだ。
だが、あの時かすかに感じた。あれは…
「……まさかな」
ぽつりとつぶやく。まるで、そう思いこもうとしているかのように。
少し時はさかのぼる。
龍のような生物が、上空を飛んでいた。
召喚師が見れば、それが高位召喚獣・レヴァティーンであることがわかるだろう。
その背には、少年と少女が4人ずつ乗っていた。
「本当にこっちから感じたのかい?」
「はい、キールさん」
長い黒髪の少女がうなずいた。
「けど、東っていったって広いぞ?」
「それに、なんだかんだで出発が遅れちゃったからね。違う所に行っちゃってるかも」
栗色の髪の少年と少女が言った。
「せめて発生源が誰かわかればなあ……」
活発そうな少年がぼやいた。
「……!? ちょっと、あれ!!」
ショートヘアの少女が驚いた様子で地上の一点を指さした。
そこは要塞のような場所だった。
その壁の一ヶ所が壊れている。空からでもはっきり見えるほど。
「なんだ、あれ……」
「召喚術を使ったとしても、かなりの力だぞ……」
誰もが呆然とする。
「あそこが発生源なのか?」
「さあ……まだ断定はできないと思う」
栗色の髪の少年の問いに、落ち着いた雰囲気の少年が考えながら答えた。
「……あそこで何かあったことだけは確かみたいですね」
「とりあえず、ゼラムに行ってみよう。あそこには蒼の派閥がある。ギブソンさんやミモザさんなら何か知っているかもしれない」
髪の長い召喚師風の少女とキールと呼ばれた少年が言った。
他の面々もうなずく。
そしてレヴァティーンは進路を変えた。
聖王都・ゼラムに向かって。
……意味深のオンパレード。
そろそろネスももうちょっと絡ませないと…
彼らの方も、当分織り交ぜて書く予定ですが……あー、名前伏せたままだときつい……
次回は閑話書きます。マグナメインで。