第3話
第3話 黒き襲撃者


 村は燃えていた。

 やけにあっさりとした表現だと自分でも思うが、実際それしか思いつかなかった。
 あまりにも、その光景が壮絶すぎて。
 他のみんなも、まだ信じられないようで呆然と佇む。
 「なんで、村が燃えてるんだ……?」
 つぶやいたマグナの声も、どこか遠くて。

 「た、助けてくれぇっっ!!」
 聞こえてきた悲鳴の方を思わず振り返り……そして見てしまった。
 黒い鎧の兵士が、村人らしいおじさんを斬り殺すのを。
 血しぶきをあげて、おじさんは倒れる。風に乗って漂ってくる、鉄っぽい臭い。

 「うっ……!」
 吐き気がこみ上げてきた。視界がぐるぐると回る。
 ヒトガコロサレタ。
 知っていたとはいえ、実際に見るとあんなに気分の悪いものだったなんて。

 「、しっかりしろ!大丈夫か!?」
 …………!?
 どうやら、一瞬気を失っていたようだった。
 私を支えた状態で、マグナが心配そうに私を見ている。
 「……大丈夫。立てる」
 それだけ言って、私は体勢を直した。
 そうだ、動かないと。ここで止まってる場合じゃないんだ。

 「……? アグラおじいさんは!?」
 「家ん中にはいねーぞ!!」
 マグナとトリスがはっとする。次の瞬間、二人は駆けだしていた。
 「おいっ、マグナ、トリス!?」
 「私達も行きましょう!」
 「ああ。、俺達から離れるなよ」
 私はうなずいた。万一のため、鞄から使えそうなものを探しながら。



 宿探しの途中で見たときは、小さいながらもきれいだなと思った聖堂。
 それは今、まるであの姿が幻だったかのように燃え上がり、崩れ始めていた。

 私達が辿り着いたとき、マグナはアメルを背後にかばって剣を構えているところだった。
 他のみんなも、それぞれに武器を構える。
 「レオルド、トリス! アメルとを頼む!! 俺もなるべく離れないようにするから!!」
 「了解シマシタ」
 「わかった! マグナも気をつけて!」
 「アメル、こっち!」
 私が呼ぶと、アメルはまだ泣きそうな顔のままこちらにやってきた。

 剣の音や、召喚術の余波でおこる風。気を抜くと斬られそうな空気。
 ああ、これが戦いなんだ。
 怖くて足がすくむ。
 でも、生き残らないと。そのために私ができること。

 「マグナ、後ろ!」
 警告を送りつつ、私は周囲を注意して見回す。
 死んだらおしまいだ。だから、攻撃を避けられるようにしておかないと。

 「きゃあっ!」
 いつの間に来たのか、一人の兵士がアメルの腕を掴んでいた。
 とっさに私は手に握っていたスプレー缶を構えると、
 「こんの誘拐魔っ!」
 思いっきり、兵士の顔目がけて吹き付けた。(※スプレーは人の顔に向けてはいけません)
 「ぐっ!?」
 狙い通り目に入ったらしく、兵士が目を押さえる。
 そこにレオルドの一撃が決まり、兵士はばったりと倒れた。
 フローラルの香りを残して。
 自分でやっといてなんだけど……なんか嫌だな、これ。

 フォルテ達とマグナが、それぞれ最後の一人を片づけたのはその少し後だった。

 「アメル! 無事か!?」
 ロッカとリューグが駆け寄ってくる。多少怪我しているようだが、なんとか無事みたいだ。
 「ロッカ、リューグ! ……ねえ、村のみんなは?無事に逃げられたんでしょう!?」
 アメルの問いに、二人は黙り込んだ。そして私達も。
 答えはわかっている。ここに来るまでに、かなりの量の死体を見てきたのだ。
 アメルもそれを察して、呆然とする。
 「嘘……でしょう?」
 「あいつら、一人残らず殺しやがった……!」
 リューグが悔しそうに吐き捨てる。

 やりきれなかった。こうなるって知っていたのに。
 ダメだとわかっていても、運命を変えたいと思うのはいけないことなのだろうか。
 そんなことをしたら、この世界が終わってしまうかもしれないのに。

 「ずいぶん手間がかかると思っていたが……冒険者ごときに後れを取っていたとはな」
 横手から聞こえてきた声に、空気が再びぴんと張りつめた。
 ルヴァイド……!
 「てめえっ!」
 矛先を見つけたとばかりにリューグが躍りかかる。
 が、振り下ろされた斧はあっさりはじき飛ばされた。しかも片手で。
 「なんて野郎だ……!」
 フォルテがつぶやく。
 誰もが同じ気持ちだっただろう。素人の私から見てもとんでもない腕前だとわかる。

 「我々を邪魔する者には等しく死の制裁が与えられる。例外は……ない」
 その時私は、初めて本物の殺気というものを感じた。
 触れるだけで切れそうな、そんなオーラ。
 ルヴァイドが、ゆっくりと剣を構える。

 「うおぉぉぉぉっっっ!!!」
 雄叫びに続き、弾丸のようにすっ飛んできた巨体。
 がっきいぃぃぃん、とものすごく大きい音が響く。
 「なにっ!?」
 剣をはじかれたことにか、それとも突然現れた相手に驚いたか。ルヴァイドの顔が歪む。
 その張本人は、悠然とした構えでルヴァイドに向き直る。

 「わしの家族を殺されてなるものか……」
 重々しく言うアグラ爺さん。
 それはまるで、過去の懺悔をしているかのようで。
 思い出しているのだろうか。自分のせいで恩人を死なせてしまったことを。
 「命の重みを知らぬ輩に好きにさせてなるものかあぁぁっっ!!」
 叫ぶなり、斧を振り上げて突進する。
 鬼神のごとく、という表現が似合う戦いぶりだった。ルヴァイドも、防御するのがやっとだった。

 「さあ、今のうちに逃げて下さい! ここは僕とリューグでくい止めます! だから……」
 「嫌です! おじいさん達を置いて逃げるなんて……」
 アメルは激しく首を横に振った。聞き分けのないこと言わないで、とケイナが叱咤する。
 私はアメルの手を掴んだ。
 「大丈夫だよ、アメル。ちょっとお別れするだけだから……」
 「ロッカ……」
 「早く行けえっっ!!」
 私達は一つ頷くと、そこから駆けだした。
 私はアメルの手を離さないようしっかりと握りしめながら、必死で走った。
 アメルが叫んでいたのが聞こえたけど、気にしている余裕もなかった。



 「…………っ!」
 目を開けると、満天の星空が見えた。
 一瞬どうしてと思うが、すぐ野宿していたことを思い出した。
 なんとか逃げ切ったものの、みんなへとへとで。
 見張りを任されたレオルド以外は、みんな寝袋とかにくるまって眠っている。
 「はあ……」
 なんだか怖い夢を見たような気がする……あんな目にあったせいだろうか?

 「眠れないのか?」
 「っ!! ……って、なんだマグナかぁ……」
 「なんだって、なんだよ?」
 少し怒ったように、マグナは言った。
 「ごめんごめん、みんな寝ていると思ったから。……起こしちゃった?」
 「いや、俺もなんか目が覚めちゃって」
 「……そっか」
 しばしの沈黙。

 「……ごめん」
 「え?」
 「しばらく、帰す方法……探せそうにない」
 少し考えて、自分のことだと思い至る。
 でも私は、なんだか逆におかしくて。
 「……?」
 「仕方ないっしょ、こんなことになっちゃ。今帰った方が寝覚め悪いよ」
 「でも……」
 「あーはいはい、だからもう気にしない! 二人して同じこと言わせるんじゃないの!」
 「え?」
 「トリスも言ってたのよ、似たようなこと。だから、ね」
 ホントに兄妹みたいだよね。
 くすくす笑う私を、マグナはしばらく不思議そうに見つめていた。

 「そーいうわけだから。当分迷惑かけると思うけど、よろしく」
 「……こちらこそ」
 「覚悟しててよ、『ご主人様』達?」
 イタズラっぽく言ってやる。
 「なっ……!?」
 あ、顔真っ赤にしてあわててる。
 かわいいかわいい。やっぱりこーでないとね。
 「あははー……じゃ、おやすみーっ!」
 これからも大変だろうけど。いっぱい苦労かけると思うけど。
 でも大丈夫。みんながいるんだから。
 さっきよりは少し幸せな気分で、私は眠りについた。


 「……〜〜〜〜〜っ……」
 一方マグナは、の一言が気になってしばらく眠れなかったとさ……



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第一関門突破……っ!
ほぼゲーム通りでオリ要素ありません。あえてそうしました。
でも実際やってみるときつい……あそこどうだっけ、と記憶だのなんだのひっくり返しました。
次からオリ要素入れる予定。