第4話
第4話 異界人は乾電池の夢を見るか?


 「トリス、起きてよーっ!」
 「ん〜……」
 揺すろうが、大声出そうが起きる気配なし。
 バルレルとレシィも、すでにあきらめの境地でそばにいる。
 あーもう、早くしないとご飯冷めるし、みんな待ってるのに……

 ん、まてよ……
 ふと思いつく。
 「……トリス、早く起きないと課題倍にするぞ(思い切り作り声)」
 「え!?」
 がばっ、とトリスは起きあがった。
 おお、予想以上の効果。

 「あ……あれ?」
 「朝ご飯。みんな待ってるよ」
 そんな私達の後ろでは、レシィは拍手を送り、バルレルは爆笑していたのであった。



 「『早く起きないと課題倍にするぞ』ってな♪」
 「ぶっ……似てる……」
 ここはギブソン・ミモザ邸の大広間。
 やっと全員そろった朝食の席でさっきの起こし方が話題になり、一部にうけていた。
 うーん……そんなに似てたかな? ネスティの真似したら起きるかなー、と思っただけなんだけど。

 「ところで先輩、のことなんですけど……」
 ものまねされたのが嫌なのか、不機嫌そうにこちらを見ながらネスティが言った。
 「ああ、そのことなんだが……」
 「心当たりがなくもないんだけど……帰すのはちょっと無理ね」
 ギブソンとミモザから返ってきたのは予想通りの答え。

 「心当たり……ですか?」
 「服が前に知り合いに見せてもらったのと似ているし、話を聞く限りじゃ同じ世界みたいなんだけど……」
 「召喚術で開かれる四つの世界のどれでもないらしい」
 マグナ達は一様にやっぱり、というような顔をした。
 護衛獣全員いるから、そのあたりは確認済みなのだろう。

 「その知り合いからは話を聞けないんですか?」
 「ちょーっとね……ここからじゃ遠いし。そのコも事故で呼ばれちゃったらしいから、あんまり参考にはならないかもね」
 希望の糸までプッツリ切られ、目に見えて落ち込むマグナとトリス。
 ネスティの方も、なんだか難しい顔をしている。
 ギブソンとミモザに他意はないんだろうけど……あぁ、空気が果てしなく重い。

 「あー……二人とも、気にしなくていいってば! まだ、帰れないって決まった訳じゃないんだし」
 確率めちゃくちゃ低いって、言ってる私が一番わかっているのもなんだけど……
 っていうか、立場が逆なんじゃ……? 私がマグナ達慰めてどーするよ……

 「それより! レルムの村を襲った連中の方が先でしょ? 対策考えた方がいいんじゃない?」
 「……そうだな」
 無理矢理な話題転換だったけど、なんとか話は変わってくれたみたいだった。
 ……朝からハードだ……気分的に。



 あのレルムの村襲撃から二日。私が召喚されてからは四日経っている。
 あーあ……こんなことになるなら、電池いっぱい買っとけばよかったな……
 MDから流れる軽快な音楽。これも遠からず聴けなくなるだろう。
 ファ○タみたく、魔法とかで出せたら便利なんだけど。

 そう思いながら庭でぼーっとしていると、手が何か堅い物に触れた。
 「ん?」
 見ると、それは無色のサモナイト石だった。しかも誓約していない。

 これで出せたりして。
 私はサモナイト石を高く掲げ、言ってみた。
 「いでよ、乾電池!」

 しーん……

 やはり何も起こらない。
 そうだよね、何も出るわけ……

 「……ん?」
 今、サモナイト石が光ったような……
 手を開いてみると、石は消えていた。

 「ま、まさか……」
 なーんか、ヤな予感……
 私は空を見上げ……予感が現実になったことを悟った。
 「うひゃあああっ!!」
 空から電池が降ってくるぅっ!
 しかも一個や二個どころではない。まさに雨あられだ。
 私は必死で頭をかばった。けど。


 ゴンッ!


 「〜〜〜〜〜〜っ!!」
 一個だけでも痛い……もしや単一でも当たった!?
 そして、それが合図だったかのように電池の雨もぱったりやんだ。
 頭をさすりながら見ると……まあ、あるわあるわ。
 単一、単二、単三、単四……種類もアルカリ、マンガン、他にもいろいろある。
 単三電池二本、とか言えばここまでひどくはならなかったのかな……?

 「? 何が起こったんだこれは!?」
 声に振り返ると、驚いた顔のネスティがいた。
 「えー、あーそのー……あはは……」
 言えないです。思いつきでゲームの真似したら、ホントに出てきたなどとは。
 でも、言わなきゃネスティは納得しないだろう。目が「話すんだ」と言っているし。

 「サモナイト石が落ちてたからー、拾って『乾電池出てこい』って言ったら……」
 仕方ないから一部だけ話す。嘘は言ってないからいいよね?
 案の定、ネスティは唖然とし…次の瞬間には怒りだした。
 「君はバカかっ!? なんでそんな危ないこと……」
 「だって、ホントに出てくるとは思わなかったんだもん!! 石持って、言ってみただけだよ?」
 「だからって……」
 以下、長い説教のため割愛。



 「……とにかく、二度と軽い気持ちで試したりするな。いいな?」
 「……はーい」
 とりあえず、素直にうなずく。
 ……うぅぅ、長すぎ……もう聞く気力ないです。

 「それと、後で僕の部屋に来ることだ。ちゃんと制御できるようにした方がいい」
 あー、まだ続くんですか……
 ……あれ? 今何て言いました?
 「制御、って……?」
 「召喚ができるということは、それなりの素質があるということだ。この様子だと、下手なことで暴発する可能性もありそうだからな。だから、しばらく訓練する」

 それって、つまり……
 「召喚術を教えてくれる、ってこと?」
 「そういうことだ。本当は規律違反だが、君をほったらかしにする方が危ない」
 危ないって……私は爆発物ですかー?
 ……まあ、いいか。足手まといのままよりましだし。

 「……わかった。ご指導よろしく、ネス」
 「……え?」
 ん? 何か変なこと言ったっけ?
 …って、しまったー!! つい「ネス」って言っちゃったよ!!

 「あ、ごめん! マグナ達が呼んでたの、うつっちゃったかなー、あははは……」
 めっちゃ苦しい……病気じゃないっつーの、と一人ツッコミできるくらい。
 でもネスティは顔を少し赤くして、
 「……別にかまわないが」

 ……えーと……もしかして照れてる?
 そういえばこの人、実は変なところでかわいかったりするんだよね……
 でも、これで堂々と「ネス呼ばわり」オッケー!
 「じゃ、そう呼ばせてもらうね♪」



 ネスには後で行くから、と約束を取り付けて。
 私は乾電池をまとめていた。
 だって、(一応)私が呼んだみたいだから……
 単三はせっかくだからMDに使いたいし。
 けど、これどこから来たんだろう……もし、電器屋さんや工場とかだったらごめんなさいっ!!

 「、ここにいたんだ」
 不意に扉から出てきたマグナが、こちらに気づいて言った。
 後ろにはトリスもいる。
 「あれ? マグナ、トリス、どーしたの?」
 「うん、の身の回りの物買おうと思って」
 「ついでに、街の案内しようってトリスと話してたんだ。どう?」
 確かに。服とかも一つだけだし、ゲームで知ってても街の地理がわかってるわけじゃない。
 それに、勉強する前にもう少しゆっくりしたかった。
 でも、その前に……

 「いいけど……もうちょっと待ってて。これ片づけるから……」
 半泣きで答える私。
 そして、黙々と乾電池を片づけるところを、マグナ達は「うわぁ……」とか言いながら見ていた。



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ちゃん、受難編(苦笑)
役に立つんだか立たないんだか……な技持ちになりました。
一応断っておきますが、呪文が必要ないわけではありません。
では次回。イオス、出番でーす。