第5話
第5話 Boy meets Stranger


 「だいたい、こんなもんかな?」
 「うん、充分だと思う。ありがとートリス」
 乾電池回収(笑)をなんとかすませた後、真っ先に買い物を終わらせた私達。
 笑いあう私とトリスの後ろでは、マグナがげんなりしてたりする。
 ……まあ、確かに女二人で品物にきゃーきゃー言ったり、あれ見たいこれ何、って引っ張り回したりしたけど……

 「……案内はちょっと休んでからにしようか?」
 さすがにマグナに悪いと思ったので、そう提案してみた。
 「じゃ、まず導きの庭園に行こう? あそこならベンチもあるし」
 「……そうだな」
 トリスの言葉にほっとするマグナ。
 やっぱり疲れてたんだなあ…ごめん。



 「……それでネスに怒られてたんだ?」
 「ついてないわね……よりにもよってネスに見つかるなんて」
 さっきの乾電池事件。
 ベンチに座って話した後の、二人の感想がこれだった。
 しかも、同情されてるし……
 でも、おかげで召喚術教えてもらえるみたいだから、全くのアンラッキーでもないんだけど、ね。

 「で、その……デンチ? それで何しようと思ったの?」
 言われて、私は気づいた。
 この世界って機械が当たり前にあるわけじゃないから、電池だって未知の物体なんだよね……
 とはいえ、どう説明しよう?
 使えるとしたら……
 「あー、それはね……この機械の……」
 言いながら、ポケットからMDを出した。

 と、その時。
 ひゅん、と何かが目の前を横切った。
 見ると、そこには10歳くらいの男の子がいた。
 髪は黒くて、なんか生意気そう。
 その手には金属の箱状のものが……って……
 「あ――――っ!! 私のMD!!」
 思わず叫ぶと、男の子はぎょっとして走り出した。
 冗談じゃない、盗られてたまるもんですか!!

 「ドロボ――――っ!! 待てぇ――――――!!」
 私は男の子を追って駆けだした。
 「あ、おい待てよ!」
 「!?」
 あわてたマグナとトリスの声を後にして。



 「こら待て―――!! かっぱらい、スリ、ドロボ――――――っっ!!」
 叫びながら必死に追うけど、速くてなかなか男の子に追いつかない。
 いつの間にか導きの庭園から離れ、繁華街まで来てしまった。
 いくら私が足速い方じゃないからって、なんで差がほとんど縮まらないの!?
 っていうか、誰か手伝ってよ!!
 こんなに人いるんだから、一人くらい捕まえてくれたっていいじゃない!!

 そうこうしているうちに、男の子が不意に誰かにぶつかった。
 一瞬足を止めるが、すぐに走り出そうとする。
 「その子捕まえて――――っっ!! 泥棒よ――――っっ!!」
 今を逃したらもう捕まえられない気がして、私は叫んだ。
 お願い、助けて……!

 「うわあっ!」
 え……うそ。
 本当に願いが通じたのか。男の子は、ぶつかった相手に腕をひねりあげられていた。
 痛そうに顔をしかめてる……でも、自業自得だからね!

 「すみません、ありがとうござ……!?」
 まず、捕まえてくれた人にお礼を言おうとしたけど。固まってしまった。
 さらさらの金髪に整った顔、そして黒い服。なんかどっかで見たような気がすると思えば……
 「……? どうかしたのか?」
 いや、だってアナタ。
 これから戦う相手が目の前にいたら、びっくりするに決まってるでしょ―――!?
 そりゃ、イオスは乗り込んでくる前に繁華街にいたけどさ。
 こんな間近でご対面しちゃってよろしいのですか?  マジで。

 私の様子を不審に思ったのか、イオスが少し眉をひそめる。
 あ……マズ。これじゃアヤシイ奴だ……
 「あー……その、知り合いに似てて!! ごめんなさい!」
 とりあえず、そうごまかす。

 まあ、今それは置いておこう。それよりも……
 私は男の子の方に向き直った。
 「さて……私から盗ったものを返してくれる?」
 「やだよっ!」
 ムカ。即答するか……
 とはいえ、こんな年下の男の子に無理矢理という手は使いたくない。
 いじめてるみたいになりそうだし……ヘタすれば、逆手に取られそうだ。
 そんな雰囲気が、この子にはあった。
 仕方ない、説得してみるか……

 「……あのね。君にはそれはただの珍しい物かもしれないけど、私には大切な思い出の物なの」
 高校の合格祝いに、父さんに買ってもらったMD。
 そして、帰れるかどうかわからない今となっては、数少ない元の世界の思い出。
 だから、取り戻したかった。
 「……思い出?」
 「そう。いくらお金を出しても、同じ物が手に入ったとしても、絶対代わりにはならないんだよ」
 まして、同じ物が手に入らないこの世界では。
 「君のやったことは、思い出を踏みにじってるのと同じなんだよ?」
 「…………」
 男の子はしょんぼりしている。
 イオスの方も、なんだか神妙な顔で私達のやりとりを聞いていた。
 「返してくれないかな? 怒ったりしないから」
 男の子はしばらくうつむいていたけど、
 「……うん」
 ごそごそと服を探り、MDを取り出して渡してくれた。

 「……もう放してあげて」
 言われて、ようやくイオスは男の子を放した。
 「二度とやっちゃダメだよ?」
 「うん」
 ごめんなさい、と言うと男の子は駆け足で去っていった。

 「ありがとう。おかげで助かったわ」
 男の子を見送ると、私は改めてイオスにお礼を言った。
 「いや、礼には及ばない。それより、大事な物なら盗られないようにしておくことだな」
 「……ご忠告、どーも」
 素っ気ないセリフだけど、なんだか嬉しかった。
 あの子を捕まえてくれたし。……悪い人じゃ、ないんだよねー……
 正直、戦いたくはない。
 でも、私に譲れないものがあるように、彼にも譲れないものがある。だから。

 「……名前、聞いてもいい?」
 イオスは一瞬「え?」というような表情をしたが、少し考えた後答えた。
 「……イオスだ」
 「イオス、だね。私は。このお礼はいつか必ずするから!」
 じゃあね、と私は手を振ってその場を離れた。
 彼が今助けてくれたように、私も彼を助けたい。そう願いながら。


 が去った後も、イオスはしばらくその場に佇んでいた。
 大事なものを必死で取り戻そうとした少女。思い出に代わりはない、と諭していた少女。
 そして……いつか必ず礼をする、と言った少女。
 「不思議だな……」
 また会える、という保証もないのに。本当にそんなことがありそうな気分になる。
 でも、自分はいつか聖王国に攻め入る身だ。
 もしここが戦場になって、彼女がそのことを知ったらどう思うだろうか。
 「イオス隊長!」
 思考は部下の声で打ち切られた。
 「どうした?」
 「はい、例の二人のことですが……」



 繁華街を出ようとしたところで。
 「おお、! ちょうどいいところに!」
 「フォルテ? どうしたの?」
 「お前らを探してたんだ。早く屋敷に戻れ」
 お屋敷に? ……ってことは……
 ロッカとリューグが来てるんだ。
 もうすぐ……イオスと戦うことにもなる。
 「うん、わかった」
 私はギブソン・ミモザ邸に戻ろうとして……足を止めた。
 「どうした、?」
 「あれ? ……なんか忘れてるよーな……」


 その頃、導きの庭園では。
 「いや! あたしも探しに行くの!!」
 「だめだ、トリスはここにいろ。が戻ってくるかもしれないだろ?」
 「じゃあ、あたしが探す! マグナがここにいればいいじゃない!!」
 「だから、そうじゃなくて……」
 を探しに行こうとしたがトリスにだだをこねられ、なかなか説得できずに困り果てているマグナがいた。



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と、いうわけでイオス登場。再登場は1話はさんだ後くらい、の予定。
今回、いつの間にやらマグナ受難に……ごめんよー(汗)
MD絡みのイベントはそのうちまたやります。歌とかね。
次回、双子再登場!です。