第40話
第40話 祭りの夜
いろいろあったけど、やっとここまでやって来ました。
どんなにこの時を待ちわびたことか。
殺伐とした日々も、さっきの疲れもなんのその。
これに比べれば、そんなもの気力でどうにかなる。
そう! サモン2のデートイベントともいえる、豊漁祭!!
これを味あわずして何とする!!
今まで大変だった。そして、多分これからも。
今楽しまなきゃもったいないでしょ?
「お待たせー……って、あれ? なんか人数少なくない?」
私は集合場所に集まったメンバーを見回した。
みんなで行くって聞いていたんだけどな……?
パッフェルはケーキ屋の残業だから除外として。
「フォルテとバルレルはシャムロック引きずってお酒飲みに行って、カザミネさんはケルマが来たから逃げて……あれ? ケイナは?」
「フォルテ達の様子見に行くって」
思い出しながら言うマグナと、それを補足するトリス。
五人もいないのか……
「それじゃ、みんなそろったことだし!」
「しゅっぱーつ!!」
モーリンの言葉に乗っかるトリス。この二人が一番楽しそうに見える。
そんなわけで、一部欠けたメンバーでお祭りへと繰り出した。
「うわー……」
さすがというか、やっぱりというか。街はすごい人でごった返していた。
はぐれないように気をつけるだけでも大変。
モーリンがいてよかったよ……おすすめの店とか教えてくれたから、ただひやかすよりも移動しやすかったし。
たまに、カザミネとケルマの声が聞こえてきたような気もするけど……
……ほっとくことで全員一致した。カイナも怒ってるみたいだし。
それさえ気にしなければ、すごく楽しい。
パレードなんて久しぶりに見たし、屋台物はこういう雰囲気で食べるのが一番おいしいし。
他にもいろいろあった。
例えばくじ引きの屋台。
「あっ、くじ引きだって!」
「あれ、やってみません?」
一つの屋台を指さして、トリスとアメルが言った。
「くじかあ……そうだな」
「私もやる!」
それに乗ったのはマグナとミニス。
「よっ、と……」
「お?」
「はいよ、これはこっちのお姉ちゃん! そっちのお姉ちゃんはこれで、その隣のお嬢ちゃんはこれ。そこのお兄ちゃんがこれだよ!」
やたら陽気な声のおじさんがマグナ達に景品を手渡す。
ちなみに、マグナがファナン名物時計塔の置物(そう、金の派閥のド派手なアレ)、トリスがやけに豪華そうなネックレス、アメルがプニムのぬいぐるみ、ミニスが懐中時計。
困ったような顔をしているマグナの横では、トリスとアメルがお互いの景品を交換していた。ミニスは懐中時計が気に入ったらしく、割と嬉しそうだった。
例えば大道芸の手品。
「おっ、帽子の中からウサギが出てきた」
「あたし、手品見たの初めてです!」
「うまいですねー……」
みんなそれぞれ感心とかをする中、
「すごいなあ……呪文も魔力もなしで召喚しちゃうなんて!」
「…………」
勘違いで感心するルウを、みんなは複雑そうに見つめた。
例えば食べ物の屋台。
「おらおらっ!ここいらで店を出すには俺達の許可がいるんだよっ!!」
そんなことを店のおじさんに怒鳴っていたのは、どう見てもごろつきっぽい連中。
「あれは……」
「どう見ても言いがかり、だな」
「気にくわないねぇ。みんなの楽しみに水を差すなんてさ!」
言うが早いか、すたすたとごろつきに向かって歩いていくモーリン。
みんな一瞬顔を見合わせ。
「ちょっ、モーリン……」
「な、なんだてめ……」
ごろつきの言葉を遮るように、どかばきぐしゃっ!!と音が響いた。
少し遅れてごろつき達の悲鳴。
「あちゃあ……」
「あーあ……」
私達にできたことはといえば、騒ぎで飛んできた兵士が事後処理や取り調べをするのを頭を抱えつつ見ているだけだった。
まあ、それなりに楽しんでいたわけだけど。
「……あれ?」
気がつけば人混みに私一人。マグナやトリス、ネスにアメル……とにかく、見慣れた顔がいない。
これはもしや……はぐれた?
どうしよう……花火見るための集合場所は聞いてたけど、まだ時間あるし。
まだ遠くへ行ってないかもと、一縷の望みをかけて辺りを見回す。
「……?」
ふと、名前を呼ばれた。
聞き覚えはあるんだけど、なじみの薄い……そんな声。
振り返って、ほっとすると同時に驚いた。
「ナツミ……」
ナツミだけじゃない。トウヤにハヤト、アヤもいる。そして、護界召喚師ことセルボルト兄弟の皆様まで……
……誓約者&パートナー全員集合……マジで?
「あ、紹介するね。こっちがハヤトとアヤ。で、そっちにいるのがソルとクラレット。……この子がここで知り合った」
ナツミが順々に紹介する。
「ああ、あなたが街の英雄さんですね」
アヤの何気なさそうな一言に、だけど私は凍った。
街の英雄って……なにそれ!?
「あれからシオンさんに聞いたんだけどね。すごいじゃない、たった三人で海賊をやっつけるなんて!大砲や召喚術まで使ってたんでしょ、そいつら?」
……そういうことか……
カシスの言葉で、私は全てを悟った。
あれだけ騒ぎになったんだ。噂になってたっておかしくない。
ましてたった三人で、大砲や召喚術を使う海賊に勝ったとなればなおさら。
……目立ってどーすんだよ、私……
「……あれ? どうかしました?」
「いや別に何でも……ところで、ナツミ達もお祭り見に来たの?」
これ以上は自己嫌悪に陥りそうなので、なんとか話題を変えようと試みる。
「うん。せっかくだからみんなで見に行こうって」
「君は一人かい?」
「ううん、連れがいたんだけど……はぐれちゃったみたいで」
トウヤの問いに苦笑いしながら答えた。
はー……今頃ネスやリューグ、怒ってるだろうな…
「そうか……それじゃ、連れが見つかるまで俺達と……」
ハヤトがそう言いかけたとき。
「あぁ〜〜ん、お待ちになってぇ〜〜〜〜!!」
「勘弁でござるぅ〜〜〜〜〜〜!!」
ものすごいスピードで、カザミネとケルマが私達の目の前を走り抜けていった。
ぼーぜんとする一同。
「なあ……あれって……」
「……聞かないで」
「逃げてた方、カザ……」
「聞かない方がいいって、絶対……」
必死で遮る私。
私の表情に何かを感じ取ったか、誰もそれ以上何も聞かなかった。
……あの人も街の英雄になるんだよね……一応。
人のこと言えないけど、何か違うような気も…
気を取り直し、マグナ達が見つかるまでということでハヤト達と歩き始めてしばらく後。
「何でしょう、あの人だかりは?」
クラレットの視線を追うと、確かに人だかりが見えた。
大道芸にしては、拍手とか聞こえないけど……
かといって、屋台とかじゃなさそうだし……
「はーっはっはっは!!」
思い切り嫌な予感を感じさせる笑い声が聞こえてきたのはその時だった。
……今の声ってもしかして……
「あっ、ちょっと!?」
制止を振り切って人混みをかき分け、進んで……ようやく抜けたとき、私が見た物は。
「あーっはっはっは!!」
「ちょっと、シャムロックさん……しっかりして!」
「ははっ、あいかわらずだらしねー奴だな」
「あんたが言うんじゃないわよっ!」
「ぐえっ!?」
酔っぱらって大笑いするシャムロックとそれをからかうフォルテ、そしてその二人をなんとか相手するケイナの姿だった。
ちなみにバルレルは、そんな三人お構いなしでお酒をもらっては飲み続けている。
ああ、やっぱり……
「……もしかして、知り合い?」
「うん……今、すっごく認めたくないけど」
ようやく追いついてきたナツミ達に、私は頭を抱えながら答えた。
とはいえほっとくわけにもいかず、私は四人に近づいた。
「ケイナ……何この状態?」
「ああ、……見ての通りよ。シャムロックさんは酔って大笑いするし、フォルテは馬鹿なこと言ってるし……おかげで、注目集めちゃったみたいで……」
ため息をつくケイナ。
注目を集めてるのはケイナの裏拳ツッコミのせいもあると思うけど……言わない方がよさそうだな、これは。
と、シャムロックの馬鹿笑いが突然止まった。
そして、こっちに……
「……って、きゃあっ!?」
倒れてきたシャムロックをあわてて受け止める。
でも、シャムロックの体格を私が支えるには無理がありすぎた。勢い余ってしりもちをつく。
野次馬から起こるどよめき。
「いたたた……」
私は身を起こそうとして……ぎょっとした。
ちょうど私のお腹の所に、シャムロックが抱きついている。
「ちょっ、ちょっとシャムロック!」
あわてて揺するが、反応なし。完全に酔いつぶれている。
どけたいんだけど……お、重い……
「おおっ! 大胆だな、シャムロック!!」
「ヒャハハハッ!おもしれーな、ニンゲン!!」
フォルテとバルレルは完全に面白がってる。……後で覚えてなさいよぉ……
「ケイナぁ、助けてー」
「あ、ええ。わかったわ!」
「あ、俺達も手伝います!」
「なんだ、どけちまうのかよ……つまんねー……」
「だから、あんたは黙ってなさいっ!!」
「げふっ!?」
そして野次馬の笑い声は、私がハヤト達によってシャムロックから解放されるまで続いたのだった……
「すまないっ!本当に、すまないっ!!」
「もういいってば。酔っぱらってたんだし……」
ハヤト達と別れ(だって、さすがに酔っ払いの相手まで付き合わせるわけにいかないし)、シャムロックの酔いもようやく醒めてからはずっとこのやりとりの繰り返しだった。
最初なんてフォルテが変な脚色つけて説明しちゃうもんだから、シャムロックが本気で信じちゃって「死んでお詫びを」とか言いそうな勢いだったんだよね……もちろん、ケイナと二人でフォルテを速攻どついたけど。
「そーそー、若さ故の過ちってやつさ、うんうん」
「あなたが言わないでくださいっ!!」
即座にフォルテに怒鳴り返すシャムロック。
修業時代もこの二人、こんな調子だったのかな…ちょっとシャムロックに同情。
そんなことを話しつつ、歩くこと数分。
「あ、来た来た!」
「おーい、こっちこっち!」
花火のための待ち合わせ場所から、マグナ達が手を振っているのが見えた。
ぐったりしてはいたけど、カザミネの姿もあった。なんとかケルマから逃げて来れたらしい。
そして、私を出迎えたのは案の定。
「全く、急にいなくなるからマグナ達がうるさかったぞ?」
「あれほどはぐれるな、って言っただろうが」
「ごめん、ネス、リューグ」
二人に謝ると、今度はマグナ達が寄ってきた。
「でも、よかった……フォルテ達と一緒だったんだ?」
「だけど……大変だったみたいね?」
「まあね……」
トリスの視線の先には飲み過ぎたせいでまだぐでんぐでんのバルレルと、フォルテに怒鳴りつけているシャムロック。ケイナも一緒になって何か言っている。
結構気が合うかもね…あの二人。
ひゅるるる……どぉぉん……!
「なんだ!? 敵か!?」
きょろきょろとリューグが辺りを見回した。
「違うわよ」
「祭りの締めくくりの花火さ。今年も見事だねぇ」
モーリンが解説する間に、また夜空に大輪の花が咲く。
誰もが空を見上げて、お祭りのフィナーレを楽しんでいた。
迷った末、こういう形になりました。
なんで選択制にしなかったか……それは、誓約者の皆さんを出したかったから(笑)
その分、それぞれのイベントはなるべく出してみました。それでも限定されてますが(汗)
次回で豊漁祭編&第2部は完結です。