第43話
第43話 さしのべられた手は
許せないとイライラする心。
助けたいという思い。
相反するけれど、どっちも私のもの。
そして、『彼女』のもの。
……そうだよね。
あんたも、そう思うんだ。
なんとかしたいよね。
だけど……
(ごめん。私にやらせて)
心の中で、そう呼びかける。
伝わったかどうかはわからない。
でも、私には「わかった」って声が聞こえた気がした。
視界が開ける。
「マグナっ!」
トリスが叫ぶ。
マグナがこっちを向くのと…
「やれっ!!」
カラウスがマグナを指さして命令したのはほぼ同時だった。
ユエルが爪を振り上げる。
「危ないっ!!」
ミニスが叫ぶけど、マグナの反応は速かった。
爪はガントレットで止められ、二人は後ろに飛んで距離を取る。
「どうしよう……召喚師だけをなんとかできればいいんだけど……」
「まず間違いなく、あの子を使うでしょうね。自分を守る盾としても」
トリスの言葉に、パッフェルが冷静に付け足した。
確かに、あいつなら絶対そうする。
下手すると、ユエルまで危なくなる。
でも、要は……
「ユエルをなんとかした上で、あいつをやっつけちゃえばいいんだよね?」
「そういうことになりますけど……」
「できるの、
?」
「うん。あのね……」
マグナは焦っていた。
ユエルの攻撃は激しい。素早いから避けるのも難しい。
さすがはメイトルパの戦闘種族だが、彼女にやられるわけにもいかない。
とはいえ、一人で相手をするのもそろそろ限界だった。
ユエルが再び地を蹴った。
マグナは応戦しようとして……
「はっ!」
突然乱入してきた人物に驚いて、ユエルはまた後ろに飛び退く。
「モーリン!」
「大丈夫かい、マグナ?」
モーリンは微笑むと……小声で何かを告げた。
マグナは少し目を見張って、すぐに小さくうなずいた。
「いくよっ!!」
「ああ!!」
モーリンとマグナがユエルに向かって走り出す。
ユエルはひるむことなく、二人に襲いかかった。
「ふん、一人増えたところで無駄だ。こいつはどんな状況であろうと、獲物は逃がさなかったのだからな」
カラウスも余裕の笑みを浮かべる。
その目の前で、戦いは一つの方向に向かいつつあった。
マグナ達がユエルに押され始める。
「くっ……」
もう何ヶ所かに傷を負っているのがわかった。
息も弾んでいる。
「さて……そろそろ死んでもらおうか」
カラウスの笑みが勝者のそれに変わった、その瞬間。
「させませんっ!!」
だだだだだ、と銃弾が飛んだ。
それらは狙い違わず、カラウスの足下に命中する。
「ちっ、こいつらは囮か!」
かろうじて避けたカラウスは舌打ちすると、今度はパッフェルを指さす。
「先にこいつを殺せ!!」
その命令を受けて、ユエルは方向転換をしてパッフェルへと向かう。
向かおうと……した。
「今よっ! お願い!!」
私の合図と共に、落雷がユエルを打った。
ぱったりと、その場に倒れる。
モーリンがその身体を拾い上げた。
私の側には、さっきこっそり呼んでおいたオニマルが浮いている。
「ごめんねー、難しい注文して。……あと、ありがとう」
私がそう言うと、オニマルはゆっくりと消えていった。
つまり、パッフェルの方も囮。
私達の目的は、ユエルを動けなくすることにあったのだ。
ゲームじゃ暗闇を使ってたんだけど、実際はどうなるかわからない。周りが見えなくても暴れる可能性だってある。
眠らせれば、という案も出たけど……誰もその系統は持ってなかった。
みんなちょっと出かける程度のつもりだったから、ポケットとかに入れっぱなしのしかなかったんだよねー……
結局、使えそうだったのはオニマルだけ。
なので、オニマルに「なるべくユエルを傷つけないで痺れさせる」という指示を出しておいた。
ほとんど賭に近かったけどね。
「くそっ! おい、お前達……」
カラウスの表情が、次の瞬間にはさらに歪む。
「いでよっ!」
トリスの召喚に応じて出てきたブラックラックが、暗殺者達を狙って爆発を起こす。
その隣ではミニスが、シルヴァーナやシャインセイバーを駆使して暗殺者の数を減らしていた。
さすがに不利を悟ったか、カラウスはあわてて呪文を唱えだし……
「させませんって、言ったはずですよ?」
パッフェルが再び銃を撃った。
かろうじて避けながらも、まだ呪文は続き……
「往生際が悪いわよ。……いでよ単一乾電池」
怒りの単一乾電池の雨が、カラウスの頭上に降り注いだ。
「では、この男は私が突き出しておきますので」
気絶したカラウスと暗殺者達を縛り上げてリアカー(どこから持ってきたんだろう……?)に乗せると、パッフェルはにこにこ笑顔で去っていった。
「はーっ……せめてボコボコにしてやりたかったよ」
「まあまあ、今はユエルが先!」
そうだね、と言いながらモーリンはユエルにストラを使う。
さすがに無傷とはいかなかったのだ。
「ウソつきじゃ、なかったね……マグナは、ユエルのこと助けてくれたよね……」
まだ痺れが残っているのか、弱々しい声でユエルが言った。
「ごめんね、こんな方法しかできなくて……」
「ううん、
は悪くないよ。悪いのは……」
言いかけて、ふとユエルが通りの方を向く。
おばちゃん達が呆然と、そこに立っていた。
「おばちゃん……」
ふらりと、ユエルは歩き出そうとした。
それを止めたのは、そのおばちゃんの怯えた顔と言葉。
「寄らないどくれっ!!」
びくんと、目に見えて震えるユエルの身体。
「ば、化け物……っ!!」
誰かが叫ぶ。
それを皮切りに、おばちゃん達はてんでバラバラに逃げ出した。
ユエルを見ることなく。
「あっ……ちょっと!」
ミニスが何か言う前に、その姿は見えなくなった。
後にはやりきれない空気が漂うだけ。
「……いいよ、ユエルが悪いんだから……」
「でも!」
「また、前に戻るだけ……」
ぽつりと出される言葉だから、よけいに苦しさが伝わる。
まして、ここにいるほとんどは一人のつらさを知っているから。
繋いだ手の大きさも。
だから。
「ユエル。俺達と、一緒に行こう」
事情を話すと、みんなわかってくれた。
特にアメルは聞く前になんとなく察したらしくて、何も聞かずに温めたミルクを出してくれた。
こういうところはやっぱりすごいよなあって、素直に感心してしまう。
あと、レナードがユエルの頭をなでていたのが印象的だった。
ホント、お父さんって感じで。
で。
「ごめんね、ごめんねっ……」
「いや、ホントに大丈夫だから……」
ただいま、私はユエルの手当てを受けていたりする。
トリスの召喚術で傷はふさがっていたんだけど、完全に治ったわけじゃない。
だから、アメルかモーリンに頼もうかなーと思ったんだけど……
先にユエルに見つかってしまい、現在に至っている。
その間中、ユエルは謝りっぱなし。
相当気にしてたんだろうけど……さすがにこれじゃ、こっちの方が申し訳ない気分になってくる。
「でも、ユエルが……」
「いいよ、悪いのは操ったあいつなんだから。それに、大したことなかったし」
言いながら、私はふと思い出していた。
あの時、右に避けろって聞こえたけど……
あれ、まるでどこに攻撃されるかわかってるみたいだった。
そうだとしたら、なんでだろう?
「もうそれぐらいで充分だよ。あんまりやりすぎると逆に治りが遅くなっちまうよ?」
困ったようなモーリンの声が聞こえてきて、思考は一旦中断。
ユエルはまだ気が済んでいないようだったけど、仕方なさそうに消毒薬をつける手を止める。
本当なのか、助け船なのかはわからないけど……とりあえず、モーリンに感謝。
見ていて辛いもの、こういうユエル……
「すぐに治るって、こんなの! だから、心配しなくても平気!」
「そーそー、なめときゃ治るぜ!」
フォルテ……どーゆーフォロー入れてんのよ……?
「それはこういう時に女性に言うセリフではありません!」
案の定、シャムロックからツッコミが飛ぶ。
そんな光景をよそに、ユエルは少し考えて。
「あ」
ぺろり。
私の傷口をなめた。
沈黙が少し流れる。
ユエルが顔を歪めた。
「……うぇ〜っ、変な味……」
「当たり前だよ、消毒薬塗ったとこなめるんだもの」
誰からともなく笑い出す。
それはだんだん伝染し…いつしか、みんな笑っていた。
私もユエルも、そのうちつられて。
夕飯食べ終えて部屋に戻ってから、しばらくたった頃。
コンコンとノックの音がした。
「はあい?」
返事をすると、聞き慣れた声が入っていいかと告げる。
食べ終わった後、ここに来るよう呼び出しておいた待ち人が。
いいよと言うと、彼らがドアを開けて入ってきた。
「それで、話って……?」
開口一番、そう切り出される。
決めてはいたけど、一瞬口に出すのをためらってしまった。
実際、何も知らない彼らにはとんでもない提案かもしれない。
それでも、やらなくちゃいけない。
そう自分に言い聞かせて、どうにか口を開いた。
「実は、頼みたいことがあって……」
なんとかユエルイベント終了。
なんか強引かも……でも、ユエルを倒さずにっていったらこれしか思いつかなくて……(汗)
ちなみに管理人はすすオトシ使ってました。緊張感抜けること請け合い(笑)
次はオリ要素入ります。さて、誰に何を頼んだでしょう?