第51話
第51話 青天の霹靂
まあ、そんなこんな(?)で。
戻ってきました、聖王都。
「よく無事で戻ってきたな」
懐かしのお屋敷の玄関で、これまたお久しぶりのギブソンとミモザが出迎えてくれた。
「旦那達も無事で何よりだぜ」
「ゼラムを出るときはすっかりお世話になってしまって……」
「ありがとうございます。おかげでお爺さんとも会えました」
フォルテも言葉を返し、ケイナやアメルも口々にお礼を言う。
「ずいぶんと人数が増えたわねー。中には知った顔もいるけど」
「……悪かったでござるな」
「そんな、つれなくしないでくださいよー」
ミモザの言葉に憮然とするカザミネ、そしていつもの調子のパッフェル。
「私達がここにいることを不思議には思わないのですか?」
「事前に彼らから聞いていたからね」
カイナにギブソンが答えたと同時に機械兵士の足音が近づいてきて。
「やあ、みんなお久しぶり」
「無事ノヨウデナニヨリダ……」
エルジンとエスガルドが奥からひょっこり現れる。
さらに。
「うわー、ホント大所帯だねー」
その後ろから数人……
……………
『あ――――っ!!』
私とミニスの声がぴったり重なった。
「そんなに驚かないでくれ……こっちだってまさかと思ったんだ」
苦笑しながらそう言ったのは……本来ここには出てこないはずのトウヤだった。
他の誓約者&護界召喚師の皆様も驚いたようにこっちを見ている。
……そう、また全員いたのよ、これが。
「……ああ、思い出した! シオンさんの所で会った人達ですよね?」
「あ、豊漁祭で手伝ってくれた!」
ロッカとケイナが声を上げる。
マグナやトリスもそれで思い出したらしく、「あ」と小さく声を漏らす。
ミモザは一部始終を不思議そうに見て。
「なに、知り合い? だったら話は早いわね」
「え?」
「ちゃん、もしかしたら元の世界に帰れるかもしれないわよ?」
…………え?
「おい、そりゃ本当か!?」
私が何か言うより早く、レナードさんが思い切り身を乗り出す。
聞かれたミモザはといえば、ちょっと驚いたらしく少し後ずさった。
「あ、先輩。この人は……」
マグナが説明しようとしたけど。
「まあ、いつまでも立ち話ってのもなんだし。お茶しながら自己紹介といきましょう」
それを遮ってミモザの提案。
アメルがそれじゃお茶を入れますね、と台所に行き、他のみんなもぞろぞろと応接室へと歩き出した。
自己紹介が終わった後。
ギブソン達の調査とエルジン達の調査に接点が見つかって協力体制を取ることになったこと、ハヤト達はハヤト達で別の調査をしていることなどを聞いた。
……もちろん、彼らの正体はしっかり伏せて。ハヤト達はミモザ達がサイジェントで知り合った召喚師ということになっている。
でも、別の調査って何調べてるんだろ?
「ところで、ネスティの姿が見えないが?」
ふと、思い出したようにギブソンが言った。
「シャムロックさんって騎士の方と一緒に先に用事を済ますって言ってました。挨拶をしてからでもいいでしょって言ったんですけど」
トリスが答えた、そのタイミングを狙ったかのように。
コンコンとノックの音がし、失礼しますという言葉と共に応接室のドアが開いた。
「ご挨拶が遅れてすいません」
「はじめまして。トライドラの騎士でシャムロックと申します」
ネスとシャムロックがそれぞれ頭を下げた。
「蒼の派閥の召喚師ギブソン・ジラールです。さあ、奥へどうぞ」
「では、お邪魔させていただきます」
ギブソンの後についてシャムロックが入ってくる。
でも、ネスは入り口に立ったまま。
じーっと見ていると、ネスも私の視線に気づいたようで。
…………気まずい…………
実を言うと、あれから全然ネスと話していない。
なんとなく避けられているような気もするし。
「ネス? どうしたの?」
「何やってんだよ? 俺達も行こう」
そんなネスに首を傾げつつ、問いかけるトリスとマグナ。
「いや……まだ僕には、すませておかなくてはならないことがある」
そしてネスはこちらをちらりと見ると、マグナとトリスに近づいて小声で何事かを告げる。
多分、話があるから導きの庭園に来てくれってあれだろう。
それが終わると、ネスは踵を返してさっさと出ていく。
それを見た何人かが不思議そうにしていたけど、そっちはそっちで話が盛り上がっていたので誰も気にした風ではなかった。
そのうちお茶会も解散になって、私はミモザ達に呼ばれたんだけど。
ちょっと考えたいことがあるとかなんとか言って、逃げてしまった。
屋敷にはいづらいんで、とりあえず街中をぶらぶらしている。
「はあ……」
ため息一つ。
まさか、ここで帰れるかもしれないなんて思ってもみなかった。
私は……帰りたいんだろうか?
少なくとも、今のままでは帰れない。
後味悪いし、イオス達のこともあるし。ネスと気まずいままで別れたくもない。
でも……すべて終わったら?
考えたことなかった。帰れないと思っていたから。
元の世界には家族がいる。
友達もいるし、向こうの生活だってある。
けど。
だからといって、この世界のみんなとあっさり別れられるだろうか?
考えるまでもなく……答えはノーだ。
マグナ達だって大切な仲間なんだから。
どっちかしか選べない。
なら……どっちを選ぶ?
「僕だって、そんなことしたくない!」
……ん?
聞き覚えのある声に足を止めた。
そういえば、ここ導きの庭園だ。
ってことは……
「できないんだよ! できるわけないっ!! そんなことをしたら僕はきっと、自分を許せなくなる……自分で自分を殺さずにいられなくなるに決まってるんだ!!」
マグナとトリスと向かい合って、悲痛な声で叫ぶネスがいる。
もしかして……一番まずい場面に出くわした?
その後は小声になってしまって、あいにくここからでは聞こえない。
でも、事情を知ってようが知らなかろうが、出て行きにくい空気ではあった。
通りすがりの人達が、何だと言いたげな目を彼らに向けながらも足早に去っていく。
やがて話は終わったらしく、二人に背を向けてネスが歩き出す。
こちらに向かってのろのろとした動作で近づいてきて……
「!?」
私に気づくやいなや、ぎょっとした表情を浮かべて。
次の瞬間には、普段のネスからは信じられないくらいすごいスピードで走り去った。
後には今にも泣き出しそうなマグナとトリスだけ。
……どうしよう。ネスの様子も気になるけど、マグナ達もなんかほっとけない……
…………
マグナ達からにするか。
ネスはもうちょっと落ち着いてからの方がいいかもしれないし。
「マグナ、トリス?」
近づいて声をかけると、二人は驚いたように振り向いた。
「……」
トリスの目に涙が浮かんできて…
「あたしっ……あたし達、どうすればいいのっ……!?」
私に抱きついて泣き出した。
マグナは涙こそ浮かべていないけど、どよーんと彼らしからぬ暗いオーラを背負っている。
「ま、まあ落ち着いてよ。ね?」
トリスの頭をできるだけ優しくなでる。
それでもトリスはなかなか泣きやまない。
……どうやらトリスに説明は期待できそうにない。
「ネスと一緒だったみたいだけど……何か言われたの?」
トリスの頭なでなでは続行しつつ、黙ったままのマグナに問いかける。
しばらくの沈黙の後、
「ネスが、アメルとを派閥に引き渡してこの件から手を引こうって……」
……あ、そうか。
私も狙われてるんだよね、そういえば……
「それで、のことは忘れろ、もう近づくなって……」
…………は?
続く言葉に一瞬思考が止まる。
何、それ?
「どうしてもあの森に行くなら、俺達やを殺さなくちゃいけないって……!」
おいこらちょっと待てネス―――っ!!
マグナ達を禁忌の森に関わらせちゃいけない。それはわかる。
薬と引き替えに殺せって命令されてるのも知ってる。
でも、だけど、しかし!!
どうしてそこに私が加わってるんですか――――――っ!?
とはいえ、こんな街中で叫ぶわけにもいかず。
さらに、マグナも口にすることでさらに落ち込んだらしく。トリスは相変わらず泣いていて。
私は自分の怒りをさておいて、しっかりするしかなかった。
深呼吸を繰り返して、どうにか落ち着くことには成功する。
……さっきのネスの態度の謎は解けた。
多分、殺す云々のところを聞かれたと思ったんだ。
あの中に私の名前も入ってたんだし。
様子が変だったのも、そのせいだろう。
「でも、そんなことできないって言ってたんでしょう?」
トリスが弾かれたように顔を上げ、マグナも呆然と私を見る。
実はそこだけ聞いてたの、と付け加えてから。
「それがネスの本音だと思うよ。きっと何か理由があるはずだよ」
半分くらいは自分に言い聞かせる。
「それをふまえた上で。マグナは、トリスはどうしたい?」
考え始めたのか、二人は少し顔をしかめた。
でも、さっきのような重い空気はほとんどなくなっている。
やがて。
「……あたしは……ネスもアメルも助けたい」
「俺も。あんなに苦しんでいるのに、また気づいてやれなかったんだ……」
バカだよな、長いつきあいのはずなのに。
そう苦笑いするマグナには、どこかすがすがしいものが感じられた。
「ありがとう、!」
「俺達、先輩に聞いてみるから」
それじゃ、と少し晴れやかな表情でマグナ達が歩いていく。
やれやれ。
あとは……ネスだね。
でも、結局街中歩き回ってもネスは見つからなかった。
屋敷の中で顔を合わせてもネスの方が避けてしまって。
マグナ達の方も、まだ何も言っていないようだった。
そんな気まずい状況の中。
その日の晩に、事件は起こった。
試行錯誤した結果がこれかい……(汗)
誓約者チームとようやく正式にご対面。彼らは彼らで動きますが。
そして衝撃の告白その一。……この辺に関してはノーコメントで。
さて次回、起こった事件とは?