第55話
第55話 目覚めを待ちながら
なんとか落ち着いて、お墓参りをすませて。
私達は帰途へとついた。
……とはいえ。
マグナもトリスも、道中一言もしゃべらなかった。
無理もないとは思うんだけど。
「ただいまー……」
一応部屋の中に声をかけるけど、返事はない。
そーっとドアを開けると、行く前と変わらない光景。
「まだ寝てるよ、ネス……」
「仕方ないわよ。が起きるまで全然寝てなかったらしいから」
私の後ろでマグナとトリスが言う。
珍しいよな……ネスって寝坊も昼寝もしないから。
けど、いつまで寝てるのよ……?
「こうなったら、起きるまで待ってましょ。三人で」
「え、でも……」
「でももストもなし。逃げまくっていたネスだって悪いんだから、これぐらいいいでしょ」
起き抜けに問いつめたる。
そう決意を固め、私達は待ち伏せ体制に入った。
「でも、さっきはびっくりしたわよ」
「ルヴァイドのこと?」
「それもあるけど、、いきなり泣き出すんだもの」
「ああ、そうだよな」
ただ待ってるのもヒマなので、いつしか雑談が始まり。
話題はさっきのことになった。
「だって……ほっとけないよ。あんな顔されちゃ」
これはタテマエ。
本当は、知っているから。
ルヴァイドもイオスも、本当はこんなこと望んでいないってことを。
でも、嫌だって言えない。
それが国のためだと信じているから。
ルヴァイドの一族の汚名をすすぐことだと信じているから。
泣くことさえ、自分に禁じて。
「優しすぎるよ……は」
マグナがぽつりと言った。
「でも、があいつらを信じる理由……少しだけ、わかった気がする」
「マグナ……」
言いたい。
本当のこと、言いたいよ。
それはできないけど。
でも、マグナ達ならきっとわかってくれる。
「リューグ達には言えそうにないけどね」
「それは言えてる」
「あ、そういえばさ……」
「……で、何をやっているんだ君達は?」
夕方、ようやく目を覚ましたネスの第一声がこれ。
「あー……最初は普通におしゃべりしながらネスが起きるのを待ってたんだけど、お腹すいてきちゃってレシィに頼んだら、ハサハが混ぜてって来ちゃって、そのうちこうなっちゃって」
つまり。
ネスの目の前には、ぼろぼろの部屋の中でハサハやレシィ達と床に座って、ピクニックよろしくサンドイッチを食べている私達というシュールな光景ができあがってるわけで。
「まあ、それはさておき。……ネスもサンドイッチ食べたら?」
にゅ、とネスの目の前にサンドイッチを突き出す。
ネスはしばらく、ぽかんとしてサンドイッチを見つめていたけど。
「ぷっ……あははは……」
出し抜けに笑い出した。
「ちょっと、なんでそこで笑うのよ?」
「バカだな……本当に、君達はバカだ。ははははは……」
「なによそれ……」
「そうだよ、バカはないだろ、バカは……」
全然訳がわからず憮然とする私達をよそに、ネスはただひたすら笑い続けていた。
結局、ネスはマグナ達と連れだって外へ行っちゃったけど。
今度は二人とも大丈夫だろうなって思った。
『あそこまで取り乱したりキレたりしたネスは初めて見たよ』
待ってる間の雑談で、それはマグナが言ったこと。
『ネスだって、本当はと離れたくないんじゃないか?』
……だといいんだけどね。
でも、その考えが二人を支えているみたいだから、あえて何も突っ込まないでおいた。
ネスもひとしきり笑った後は、どことなくすがすがしい顔していたし。
今の彼らなら、あの時よりも落ち着いて話ができるだろう。
これから起こることを考えるとつらいけど。
その時はマグナ達の力になってあげよう。
悪魔の誘惑にのらないように。
「ふーっ、おいしっ♪」
酒を一杯あおると、メイメイは満足そうに言った。
「もう、メイメイ。いくら嬉しいからって、一気に飲まないでよ」
向かい合わせに座っているエクスが呆れた声を出した。
「い〜じゃな〜い、お酒は嬉しさも悲しみも分かち合ってくれる友よぉ〜」
にゃははははっ、と笑い声がしばし響き……
ぴたり、とやんだ。
「で? お酒の差し入れに来たわけじゃないんでしょ?」
「うん……」
エクスは沈痛な表情で少しうつむいた。
メイメイも、表情が真剣なものに変わる。
「報告があったんだ……とうとう行くらしい、って」
「そう……」
しばらく、二人とも無言だった。
もう、動き出してしまった。
誰も逃げることはできない。
それをよくわかっていたから。
「賽は投げられてしまった……吉と出るか、凶と出るか……」
メイメイの声が虚ろに響く。
短い……(汗)
まあ、いつまでもだらだらやるのもどうかと思ったので。
ネスの心境の変化については、次の閑話で。
さあ、いよいよ第一の山場に入ります。