第7話

 さかのぼること半日前……

 「傭兵を集めてる騎士ってのは、あんた?」
 駐屯地で剣の手入れをしていたルヴァイドは、突然かけられた声に顔を上げた。
 相手を見るなり眉をひそめるが、すぐ真顔に戻ってああそうだ、と答える。
 「何の用だ?」
 「こんなトコでそういうこと聞いたら、用件は決まってるだろ? それとも、私が行商人に見えるとでも?」
 「……それもそうだな」

 ルヴァイドは口元に笑みを浮かべ、手入れしていた剣を鞘に収めた。
 ついてこい、と言って踵を返す。
 相手はしばらく無言だった。

 「……聞かないんだね」
 「お前の顔のことか?」
 相手は答えなかった。
 「……言いたくなければ言わなくてもかまわん。聞く理由もないからな」
 しばしの間、沈黙が降りた。
 やがて、相手がぷっと吹きだした。
 「あははははっ! あんたいいねえ……気に入ったよ」
 ルヴァイドは足を止めた。背後にいる相手が足を止めたからである。
 少しの間をおいて、相手は告げた。
 「……あんたのために働かせてもらうよ。よろしく、雇い主殿」



第7話 招かざる客


 「……行くぞ」
 ギブソンの言葉に、私達はうなずいた。
 代表して、ギブソンがドアを開く。
 その向こうには、イオスを囲むようにして「これが傭兵です!」と言わんばかりの団体がいた。

 「この屋敷の者か?」
 イオスが問いかける。
 さっきは普通に会話したから気にしなかったけど、こうして見ると本当に軍人なんだ…
 「そうだが、何の用かな?」
 「とぼけても無駄だよ。あなたがかくまっている者達を引き渡してもらいたい」

 「はいそうですか、と引き渡すようなバカなら最初からかくまったりしないと思うけど?」
 そう言ってやると、イオスはびっくりした顔でこっちを見た。
 「君は……」
 「さっきはどーも♪」
 案の定、他のみんなも驚いている。
 「、知り合い?」
 「さっき会ったばかり」
 トリスにそれだけ答えると、私は再びイオスに向き直った。

 「まさか、こんな形でまた会うとはな……」
 「そうだね。……聞くだけ無駄だろうけど、退いてくれる気ない?」
 「悪いが、こちらも任務だからな」
 「……やっぱりね」
 できれば退いて欲しかったんだけど。
 仕方なく、私は少し下がった。
 他のみんなも武器を構える。


 「総員、行動開始!」
 イオスの声を皮切りに。
 敵味方とも、一斉に動き出した。

 「うおりゃあぁぁっっ!」
 「おりゃっ!」
 リューグとバルレルはどんどん切り込んでいく。
 フォルテもうまいこと相手をさばき、レシイは……
 「うわぁぁぁっ!来ないでくださーいっ!!」
 泣きながら避け、ときには殴りつけていた……

 そして、私達はというと。
 「ねえ……ホントにやるの?」
 「うん。だって、できたら便利だと思うんだけど」
 まだ不安な私をよそに、発案者のトリスはお気楽に言った。
 確かに便利だろうけど……はっきり言って、賭に近い。
 事実、ネスとかは最後まで反対してたのだ。結局言いくるめられたけど。

 「……ダメでも文句言わないでよ?」
 「大丈夫! その時は先輩やネスがなんとかしてくれるから!!」
 「……さりげなく自分を抜かすんじゃない、トリス」
 まあ、できなくてもネスやギブソンの召喚術でフォローできると思ったから最終的には引き受けたんだけど。
 でも、やっぱり……ねえ……

 「不安がってちゃダメだよ」
 言って、トリスは私の手を握った。
 「そういうのって、本当に召喚術に影響するみたいだから。こうすれば、少しは落ち着くでしょ?」
 私、眠れない子どもじゃないんだけどなー……
 だけど、気持ちだけでも嬉しい。
 そう思うと、いくらか気持ちが軽くなった。
 よし……やるぞっ!!


 「いいか、時間がないから簡単に説明するぞ。まず、サモナイト石に意識を集中させるんだ」
 ネスの説明を聞きながら、私はあらかじめ受け取っていたサモナイト石に意識を集中させた。
 「次に、魔力の流れをイメージする」
 イメージ、イメージ……
 私はこれまでにないくらい、頭の中で必死に思い描いた。

 その後も、なんとかネスの言うとおりにし。
 サモナイト石を握っている手が、だんだん温かくなってきた。
 「よし……あとは召喚するだけだ。どこに召喚するか狙いをつけて……」
 狙い……狙って……
 「解き放てっ!」

 「いでよ、単一乾電池――――――っっ!!」

 まばゆい光が走り抜けた後。
 それはイオス達を狙ったかのように(実際狙ったんだけど)降ってきた。


 「うわっ!!」
 「なんだっ!?」
 ある人は頭を抱え、またある人は避けようとして地面に落ちた電池を踏んづけて転ぶ。
 緊張感のあった戦いは、今やアメリカのコメディ映画のようになっていた。

 だが、いくら間抜けな光景とはいえ、待っていてやるほど親切な人間はこの場にいない。
 「ギヤ・ブルース!」
 「エビルスパイク!」
 その隙をついて、こちらの召喚術が炸裂する。
 避けるのに精一杯だった相手側は、面白いほどバタバタ倒れた。
 フォルテ達直接攻撃チームも、乾電池攻撃からは外れてるので余裕で戦う。
 結果、イオス以外はこちらが拍子抜けするくらいあっさり片が付いてしまった。


 「誤算だったな……まさかあんな手を使ってくるとは」
 うまいこと避けきったのか、ほとんど無傷でイオスがつぶやく。
 いや、こっちもまさかうまくいくとは思わなかったんだけど。
 でも、そう言っても信じてもらえないだろうなー……
 「あとはテメエだけだ。覚悟してもらうぜっ!!」
 リューグが叫び、一気にイオスとの間合いを詰めようとした刹那。
 「下がれ!!」
 フォルテの声に、リューグが反応できたのかどうか。


 じゃきぃぃぃん!!


 激しい金属音と共に、何本もの剣がリューグの足下に突き刺さった。
 誰もが呆然と、その場に佇む。
 「召喚術……!?」
 ネスがつぶやく。


 「そのくらいにしてもらえる? 私らが雇い主に怒られちゃうから」
 いつの間にか、イオスの背後に人がいた。
 黒を基調とした服に、カーキのジャケットを羽織っている。
 後ろにまとめてある髪は、黒い。
 声と体格からして……多分、女。
 なぜ多分かというと、鼻から上は白い仮面に覆われていて顔がわからないから。
 その足にまとわりつくように、一匹の狼。

 「お前……何者だ?」
 フォルテが問いかける。
 だが仮面の女はそれには答えず、イオスに近づいて言った。
 「向こうは失敗した。じきに王都の兵士も気づく。引き上げるよ」
 イオスは悔しそうに仮面の女を見ていたが、すぐ踵を返して駆けだした。
 他の兵隊もそれにならう。

 「あっ、待ちやがれ!!」
 あわてて追いかけようとしたリューグだが、

 じゃきぃぃぃん!!


 再び仮面の女のシャインセイバーがリューグを襲った。

 「悪いね、仕事だから。それじゃ」
 それだけ言って、仮面の女も走り出す。
 私達はただ、それを見送るしかなかった。


 あれ……誰?
 あんな人、出てこないはず……
 話が……違う?
 そう考えて、私は背筋が寒くなった。
 そもそもマグナとトリスが同時に存在しているという時点でおかしいのだ。

 何かが狂っている?
 それとも、この世界が私の知っているものとは違う?

 わから、ない……

 (あ……れ……?)
 力が……抜ける……?
 「!」
 誰かが呼んでいる。
 でもその声もむなしく、私の意識は暗闇へと沈んでいった……



←back index next→

ついに出しました、オリキャラ。
彼女は主人公の運命に大きく関わってきます。
名前は再登場時に出します。何てつけようかなー……
さて、次回は双子のケンカ。……どう決着つけようかなー(少しは考えとけ自分)