第8話
第8話 戦うは誰がために


 白い。
 そこは、果てしなく白い世界だった。
 ……なんでこんなところにいるんだっけ?
 とりあえず歩いてみるが、進んでいるのかどうかもわからない。
 気が狂いそうだなー……

 『……助けて……』
 思わず足を止めた。
 声というよりは、頭に響くような感じ。
 「誰?」
 『……を止めて……』
 私の声が聞こえないのか、それは一方的に続く。
 サモン1の第0話? ……って、私もう召喚されてるじゃん……
 それに、何を止めるの? 肝心なところが聞こえない。
 「ねえ、止めろって何を!?」
 『そして……もう一人の……』
 次の言葉が終わるより早く、世界が壊れたテレビのようにちらつき始める。
 『おね……い、……を……』
 謎の声も、もうほとんど聞こえない。
 そして……



 「テメエ……もう一回言ってみろ!」
 「ああ、何度でも言ってやるさ!!」
 うるさい……何なのよぉ……
 瞼を開くと、最近やっと見慣れてきた部屋の天井が見えた。

 えっと……確か、イオスが来て、知らない仮面女が来て……
 ……そうか、気絶しちゃったんだ。
 うー、まだ頭が重い……

 「僕達じゃあいつらに勝てっこない! それがわからないのか!?」
 「それじゃどうしろって言うんだよ!!」
 この会話は……あの兄弟ゲンカか……
 人の安眠妨害するとは、いい度胸じゃないの……
 だるさよりも怒りが勝り、私はふらつきつつも部屋から出た。

 ドアの前に立つと、ケンカの方もピークに達していたようだった。
 「つくづく……テメエって野郎はぁ!!」
 再びの大音響に、私の限界メーターも振り切れた。


 ばあんっっ!!


 思い切りドアを開けてやると、中のみんなは驚いてこちらを見た。
 リューグですら、ロッカに拳を振り上げようとしたポーズで固まっている。
 「!?」
 「もう起きてへい、き……?」
 なぜか口をつぐむマグナ。

 「やかましい……まだ頭痛いっていうのに……」
 「あ、すみません……起こしてしまいました?」
 私の不機嫌を感じ取ったか、ロッカは我に返って謝った。
 あれだけ騒げば嫌でも起きるっつーの。
 「おかげさまで。……何の騒ぎよ?」
 「それは……」

 「このフヌケが泣き寝入りしろ、とかほざいたんだよ!」
 説明しようとしたロッカを遮って、リューグが怒鳴った。
 「お前の言ってる方が無理だろ! そんなのただの無茶……」
 怒鳴り返そうとしたロッカだったが、私の視線に気づいて言葉を飲み込んだ。
 リューグの方はロッカが黙ったことで勢いがついたらしく、さらに追い打ちをかける。
 「だいたい、連中の方が見逃しちゃくれねぇんだよ。だったらまとめてぶちのめすのが一番だろうが!!」
 「それはわかるけど、今突っ込んでいって返り討ちにされたら意味ないでしょーが」
 「うるせぇ!! 敵と馴れ合うような女が知ったような口きくなっ!!」


 ブチィッ!!


 「必殺、ちゃんラリアート―――――――っっ!!」


 ごすっ!!


 私の一撃がクリーンヒットし、リューグは床へと沈んだ。
 「今のは、リューグが悪いよ……」
 そんなマグナのつぶやきが聞こえた。

 「あーんーたーねー!! 戦うなとは言わないけど、一人で無茶するんじゃないわよ! 犬死にしたら、それこそバカじゃないの!!」
 「なんだと! テメエに何がわかるってんだよ!!」
 「そりゃ私に、戦いなんてものはわからないわよ! でもね、あんたに何かあったらアメル達はどうなるのか、そっちこそわかってるの!?」
 私の声が部屋中に響き。
 怒鳴っていたリューグや、止めようとしていたマグナ達も沈黙し、動きを止めた。
 「あんたが死んだりしたら、アメル達はあの時と同じ思いするんだよ? それぐらいわかるでしょう!?」

 「……それじゃ、どうしろって言うんだよ……?」
 うって変わって、弱々しくリューグは言った。
 「冷静に考えなさいって。あんた一人の戦いじゃないんだよ?」
 「……え?」
 「私達も手伝う、って言ってるの。アメル守るのと、あいつら止めるのを」

 再び、沈黙。
 でもさっきと違い、重苦しい空気はない。

 「みんな同じ気持ちだから、ここにいるはずだよ」
 「さん……」
 「…………」

 リューグはしばらく私を見ていたが、やがてベッドにごろりと寝そべった。
 「……わかったよ! ここにいればいいんだろ!! ったく……」
 そのまま「なんで俺が」とかぶつぶつつぶやく。
 その様子を見たアメル達は安堵の息をもらした。

 とりあえず一件落着、っと……
 これでやっと静かに……

 「!?」
 突然ふらついた私を、あわててマグナが支えた。
 しまった、ここに来た理由思い出したら頭の痛みがぶり返した……
 「だから平気か、って言ったのに!」
 「ダメよ、魔力切れで倒れたんだから無理しちゃ!!」
 あ、どうりでいきなり力が抜けたと思った……

 「部屋まで運ぶから、もう少し休んだ方が……」
 「ロッカ、リューグ。さん運んであげて」
 「おいアメル! なんで俺が……」
 「迷惑かけたんだから、当然でしょう?」
 完璧な笑顔だが、逆に怖い。
 恐るべし、聖女様。
 「……ちっ」
 さすがにリューグも折れて、私は双子に運ばれて部屋に戻ることになった。
 ……ロッカはともかく、リューグは「仕方なく」といった感じだったけれど。



 「着いたぞ」
 リューグの声と共に、私はベッドの上にやや乱暴に乗せられた。
 荷物じゃないんだからさあ……
 そう思っても、言う気力がない。
 「今は、ゆっくり休んで下さい」
 「晩飯までには起きろよ」
 「うん……」
 やっとの事で、それだけ言って。
 私は眠気に身を任せた。


 「……ありがとうございます」
 落下していく意識の中で、ロッカがそう言っているのが聞こえた気がした。



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ちゃんラリアート:ブチキレ時にのみ発動する必殺技(違う)
ぶっ倒れたくせに元気ですが、それは怒りのなせるワザ(笑)
謎の夢も出してみましたが、うまくできてるでしょうか?
次回、続けるか寄り道するか……微妙だなあ……