第79話・マグナ

 「マグナ?」
 名前を呼ぶと、彼は小さく笑った。
 「あのさ……少し、いいかな?」





 マグナは部屋に入ると、手に持ったトレイを差し出した。
 その上には、さっきの夕飯のおかずが少しずつ。

 「、さっきあんまり食べてなかっただろ?」
 「え、でも食べたばかりだし……そんなにお腹も空いて」


 きゅるるるる。


 「…………」
 ちょっと気まずい沈黙。
 「空いてる、みたいだね」
 「はい、イタダキマス……」

 私はトレイを受け取ると、おかずをつまみ始めた。
 さっきよりは落ち着いたせいか、今はちゃんと味がわかる。
 そういえば、アメルに悪いことしちゃったなあ……後で謝っておこう。

 「……ごちそうさまでした」
 「少しは落ち着いたかい?」
 「うん」

 マグナがじ、と私を見る。
 ……なんだろ?

 「あのさ……昼間のこと、聞いてもいいかな?」
 どこか言いにくそうに、マグナが尋ねた。
 「あんなことがあった後でつらいだろうし、俺バカだから何の解決にもならないかもしれないけど……」
 言葉を切って、マグナは少し考えるようなしぐさをして。
 真剣に、私の目を見て言った。
 「俺、一人で悩んでいるは見ていたくないんだ」

 ……ずるいよ。
 そんな顔されたら、そんなこと言われたら。
 嫌だ、なんて言えないじゃない。

 「……いいよ」
 自然と、その一言は口から出てきた。





 「そうか……」
 どこか苦い表情で、マグナはつぶやいた。
 無理もないよね。
 信じていた人に、あんな形で裏切られたんだから。

 「レイムさんは、あの力のことを何か知っているみたいだな。だからを……」
 「多分、ね」
 断定を避けたのは、それだけじゃなさそうな気がしたからだ。
 なんとなく、だけど。

 「この際、ばらしちゃうけど。不安だよ、私……」
 「?」
 「がんばるって決めたよ。だけど、レイムが怖いの……逃げ出したくなる。あの目を見ると、逃げられるわけないって言われているみたいで……」

 初めて会ったあの時から、嫌な感じはしていた。
 どこまでも追いかけてきそうな、冷たいものが。
 正体を知っているからこそ、自分がちっぽけな存在に思えて…

 「大丈夫だよ! あいつらに手出しなんかさせない!」
 力強く、マグナの声が響いた。
 「絶対に、にそんな思いさせないようにしてみせるから……!」
 「マグナ……」

 迷いのない、まっすぐな言葉と思い。
 だから……信じられる。
 何の根拠もなく。

 「あのさ、マグナ」
 「ん?」
 「手……握らせて」

 いいよ、とマグナは手を差し出した。
 ぎゅっと、その手を握る。
 あたたかい手。いろいろなものを守ろうと、がんばってきた手。

 「なんか安心するな……マグナの手って」
 「え?」
 「機械遺跡のときもさ、こうやって手をつないだじゃない。私が怖がっていたら」

 あの時も、この手が私を支えてくれた。
 言葉と一緒に、安心させてくれた。

 「嬉しかったよ。ありがとう……」
 「……」
 マグナの手が、私の手を握り返した。



 もう一度。
 私に、勇気をください。
 あなたの手で。




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やってみましたな分岐、マグナ編です。
どうもマグナ相手だと、うちの主人公弱音吐きやすいみたいです…
自覚したら直球なマグナ。恥ずかしいセリフも彼だとしっくりいってたり。
なんか王道くさい展開ですが、気にしない方向で。