第79話・ネスティ

 「ネス?」
 名前を呼ぶと、彼はいつもの仏頂面で応じた。

 「話とやらは終わったのか?」
 「え? あ、うん」
 「なら……話がある」





 ネスは部屋に入ると、椅子を持ってきて腰掛けた。
 ちょうどベッドに座る私と向かい合うように。

 「何を、一人で悩んでいる?」
 「え、それは……」
 「そんなに信用がないのか、僕達は?」

 思わず、私は黙り込んだ。
 ネスはため息をつきながら、続ける。

 「以前君に言われた言葉、そのまま返す。僕だって人のことを言えた義理ではないが、抱え込んでいるのは君だって同じだろう。悩んでいてもほとんど相談しないからな。まさか、あれだけ偉そうに僕に説教しておいて、自分はできないなんて言うんじゃないだろうな?」

 ……返す言葉もありません。
 まあ、昼間のことぐらいなら大丈夫か……

 「……実は……」






 「なるほど、な」
 話し終えると、ネスは納得したようにうなずいた。

 「気になっているんだな? レイムに言われたことが」
 「うん。それにエステル、昔から気にしていたみたいだったから……」
 「だろうな」

 渋い口調の相槌が返ってくる。
 ネスだって、人間とは違う体や力で悩んだことは何回もあっただろう。
 おそらく、今も。

 「君の心配もわかるが、こればかりは本人が折り合いをつけねばならない問題だ。君だってそれはわかっているはずだろう、?」
 「だけど……」
 「かえって下手に気を使うほうが重荷になることだってある。君は普段どおりでいたほうが彼女も落ち着くだろう」

 ネスの口調はやや沈んでいて、彼がどういう思いをしてきたのかなんとなく想像することができた。
 マグナとトリスがいたからこそ、今のネスがいるんだろう。

 「だいたい本人もわからないものを、君がわかるわけないだろうが。君が悩んだところで、どうせろくな答えは出ないんだからな。レポートだって、時間がかかる割には内容が稚拙だしな」
 一転して皮肉になった言葉に、怒りが頭をもたげた。
 こめかみがぴくりと引きつっているのが、自分でもわかる。

 「ていっ」
 私は立ち上がると、ネスの頭にゲンコツを落とした。
 すごくいい音がした。

 「……っ!?」
 どうやらかなり効いたらしい。
 頭を押さえるネスの目には、涙が少しだけにじんでいた。

 「いきなり何をするんだ!?」
 「んなふうにバカにされて、黙っていられるわけないでしょうが。あれでも結構考えて書いてるんだからね」
 それをそんな評価されたら、いくらなんでも頭にくるぞ。

 「それに。わざと怒らせるんなら、それぐらいの覚悟はしてよね」
 そう言うと、ネスは苦笑した。
 気づいていたか、というように。

 「でも、ありがと。少しは気が楽になったかも」
 「なら、今夜はゆっくり休んでおけ。レイムが正体を現した今、いつどんな手を使ってくるかわからないからな。肝心の君が参っていては奴らの思うつぼだ」

 ホントに、素直じゃないよな…
 まあ、そんなところもひっくるめて、ネスなんだから。

 「……うん」
 私は、小さくうなずいた。



 不器用なあなただから。
 たまに見せる優しさが嬉しい。




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やってみましたな分岐、ネスティ編です。
甘さもへったくれもないですが、これが彼なりの気遣いではないかと。
ってか、ゲンコツ落としてますよ…(汗)
次はいい感じになればいいなと思いつつ、次回へ。