第79話・リューグ
「リューグ?」
名前を呼ぶと、彼はちょっと怒ったような顔をこちらに向けた。
「入るぞ」
「話ってのは終わったか?」
「うん、まあ一応……」
あ、あのー……なんか怒ってません?
どこか、口調がいらいらしている気がするんだけど……
何か気に触ること、したっけ?
「なら、聞いてもいいだろ。あの野郎に何言われた?」
「それは……」
「先に言っておくけどな。なんでもない、大丈夫だ、って言うな」
「は?」
突然さえぎるように出てきた言葉に、私はただぽかんとするしかなかった。
何、いきなり?
「そのツラで言われても嫌なだけなんだよ。テメエはまわりに心配かけたくねえんだろう、それはわかる。けどな、テメエが何も言わねえからあいつらが逆に心配してるんだよ。は大丈夫か、無理してないかってな」
「あ……」
「言えないなら言えないってはっきり言え。その方がまだましだ」
確か、前にもリューグに似たようなこと言われたな……
ネスのこと言えないな、私も……
「……わかった」
結局、黙っている理由もないのでうなずいた。
「けっ、連中らしい言い草だな」
聞き終えると、リューグは腹立たしそうに吐き捨てた。
「で、どうするんだ? テメエもアメルと同じように、あいつを信用するのか?」
正体知ってるのに、信用できるわけないでしょ…
これは言えないけどさ。
「……わかんない。なんかレイムって苦手だし……」
少し考えた末、無難な答えを返した。
苦手なのは本当のことだ。
「……」
またそっけない返事が返ってくるかと思いきや、リューグは意外そうな表情を浮かべていた。
「……何、その顔?」
「いや、テメエがそう言うと思わなかったからよ……」
「何、それ……」
その様子じゃ、信じるって言うと思ってたんだろうな……
ルヴァイド達の時だって、一番反対してたのリューグだったし。
「別にいいけどな。テメエがどう思おうと、俺達のやることは決まってんだからな」
「けど……」
「あー、言うな。今更テメエに考えを変えろ、なんて無理だろ」
うんざりとリューグが首を振った。
「だが、連中に負けるわけにはいかねえんだよ。テメエがしょぼくれててみろ、奴らに狙ってくれって言ってるようなもんだぜ」
リューグの性格は、わかってるつもりだったけどさ……
……なんか、ボロクソに言われてる気がする……
「悩んでるなら誰でもいいからぶちまけろ。聞いてくれる奴なら、アメルでも他の連中でもいくらでもいるからな。あいつらに心配かけるくらいなら、そうしろ」
まあ、そうだけど……って。
「じゃ、リューグでもいいの?」
「あのな……俺に何を聞くってんだよ? 相談事なら俺よりバカ兄貴向きだろ」
「誰でもいいからぶちまけろ、って今言ったのはリューグじゃないの」
「う……」
おっ、言葉に詰まってる詰まってる。
アメルぐらいにしかこんな顔見せないからねー……
ちょっと勝った、って気分。
「前言撤回、しないよね?」
とどめを刺すと、リューグは再びぐっと詰まって。
「……チッ、わかったよ。ただし、聞くだけだからな!」
「いいよ、それでも」
言い方きつくても、やり方乱暴でも。
それが彼なりの優しさだから。
「……ありがと」
お礼を言うと、リューグは一瞬ぎょっとした表情を浮かべた。
それからすぐに、うつむき加減になる。
「? どうしたの?」
「べっ、別に何でもねえよっ! 話はそれだけだ、じゃあなっ!!」
やけに慌てたように言うと、さっさとリューグは部屋を出て行った。
乱暴にドアを閉めて。
「……?」
急にどうしたんだろう、リューグ?
やってみましたな分岐、リューグ編です。
あまり解決にはなってないですが、リューグなりに気を使ってるということで。
主人公とだと、なんとなくケンカ友達っぽいです。実際してますけど。
その後リューグがどうなったかはご想像におまかせします(笑)